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トーゴの異世界無双

作者:シャン翠
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第三十一話 平民なんだよなぁこれが

 そう、闘悟はあの瞬間、魔力を足に集中させて、物凄いスピードでリューイの持つ剣の根元に蹴りを入れていた。
 蹴りの威力で、剣は粉砕され刃が地面に落ちた。
 それだけではなく、闘悟はリューイの腹にも一撃を加えていた。
 その時込めた魔力はもちろん一パーセント程度だったが、手加減して蹴った。
 本気で蹴れば剣のようにリューイの体を粉砕してしまう危険があったからだ。
 名付けて『一パーセントキック・弱』ってところだ。
 今は魔力を抑えているので、膨大な魔力量に気づいてはいない。
 だからこそ、どうやって闘悟がこの状況を生んだのか誰も分からなかった。
 クィルやミラニでさえ、唖然としている。
 闘悟の攻撃の速さに、目が追いつけていなかったのだ。


「今の魔法は良い線いってたぜ」
「ぐ……」
「魔力で身体能力を高める方法は誰もがやってるけど、お前みたいに雷の魔法で加速するとは、いや~感心感心」


 痛みのせいで闘悟の言葉になかなか反応できてはいない。


「恐らく、身体能力を高めたというよりは、速さそのものを強化したみてえだな」


 あの時、向かって来ていたリューイがいきなり加速した。
 種明かしは……これだな。
 闘悟は地面に視線を落とす。
 そこには、電気を帯びた細い紐状(ひもじょう)のものが地を這(は)っていた。


「さしずめこれはレールだな」


 その言葉を聞き、リューイは目を大きく見開いた。
 まさか、そんな簡単に見破られるとは思っていなかったのだ。


「レールの終着点まで、レール上を超速で移動できる魔法か?」


 リューイは沈黙を守る。
 痛みで話せないというわけではなさそうだ。
 つまりは、肯定というわけか。
 リューイは最初の攻撃の時、このレールを作っておいたのだ。
 そして上手く闘悟を誘導して、レールの近くに来させる。
 タイミングを見計らって先程の『電雷瞬衝(ボルテスクイック)』を使って、超速で移動して闘悟の背後に回り、剣で一刀両断にしようとした。


「大した魔法の使い方だ。これを仕込んだ手際もなかなかだ。さすがは貴族様ってとこか? だけど、ネタが割れりゃ何てことはねえ」


 闘悟の言葉に悔しそうに顔を歪める。


「さて、降参すっか?」


 闘悟のその言葉に、場が再び熱を込め始めた。
 今度は男達の大きな歓声が飛び交う。


「な、何だか分かんねえけど、トーゴォォォォォ!!!」


 カイバの声も響いている。
 リューイを応援していた女達は、未だに信じられないように時を止めている。


「ふ……ふざけるなぁっっっ!!!」


 怒声と共にリューイの体から凄まじい電撃が飛び散る。
 すかさず闘悟は後ろへ跳ぶ。
 地面を焦がすような電流を生み出しながら、リューイは必死で立ち上がる。


「ま、負けるわけがない……僕は貴族だ……王侯(おうこう)貴族だ……あの三賢人の息子だぞ……っ!」


 ブツブツ言いながら立ち上がる姿は、怖いものを感じる。


「平民如きに……屈する僕ではない!」
「いつまでそんなこと言ってんだ?」
「ああ?」


 殺意を含んだ形相(ぎょうそう)を向けてくる。


「確かにお前の親父は偉いのかもしんねえ」
「かもではない! 偉いのだっ!」
「そうかよ。でもな、その偉さはお前のじゃねえだろが」
「……くっ!」


 図星をつかれたのか言いよどんだ。


「せっかく魔法の才能も人徳もあるんだろ?」


 まあ、ほぼ女性限定みてえだけど。


「だったら、いつまでも勘違いしてねえで、お前自身の力を見つけたらどうだ?」
「僕自身の力だと……?」
「そうしなきゃ、お前はいつまでたっても親父を越えられねえよ」
「ぐっ……だ、黙れっ!!!」


 リューイは両手を胸の前に持ってくる。
 掌を向き合わせる。
 その空間に電撃が集束する。


「蒼紫(そうし)に彩られた敬虔(けいけん)なる力持て、幾重(いくえ)にも魅(み)せる刃(やいば)となり、立ちはだかるものを土(つち)くれとなせ!」


 かなりの魔力が集まっていく。
 全魔力を集中させている。
 周囲から声が聞こえてくる。
 その中の一人が叫んでいる。
 その声を聞く限り、どうやら今から放つ魔法は、彼の最大の魔法で、フービ先輩とやらと戦った時に使用した奥の手らしい。
 だが、闘悟は表情一つ変えない。
 それがまたリューイの逆鱗(げきりん)に触れている。


「上には上がいるってこと、教えてやるよ貴族の坊ちゃん」
「き、き、消えろぉぉぉぉぉっっっ!!! 『雷の枝(スパークトゥイッグ)』ッッッ!!!」


 リューイはその電撃を地面に向けて放つ。
 すると、地面を破壊しながら闘悟に向かって行く。
 闘悟の手前まで来た時、一本の電流が枝分かれして何本もの雷と化す。
 逃げ場がない。
 このまま無防備にくらえば、丸焦げにされてしまうだろう。
 そう思った闘悟は全身に魔力を込める。


 ドゴォッッ!!!


 物凄い衝撃音と煙が舞い上がる。
 リューイは息を激しく乱しながらも、手応えを感じたのか嬉しさに口角が上がる。
 そして、徐々に煙が晴れていく。
 これで勝負が決した。
 その場にいたほとんどの者がそう思っていた。


「ト、トーゴ様ぁっ!!!」


 クィルの悲痛な叫び声が響く。
 そんな掛け声など無駄だと言わんばかりにリューイは視線をクィルに送る。
 だが、次の瞬間彼の表情が歪む。


「だから、黙って見てろって言ったろクィル」


 煙がいきなり晴れる。
 まるで強風が吹いたような感じだ。
 そして、その煙の中からは、不敵に笑う闘悟が現れた。
 しかも、皆が驚くべきことに、無傷でだ。
 驚愕の表情で闘悟を見つめるリューイをよそに、クィルは喜びに顔を緩ませていた。
 ミラニもどうやら、ホッとしたような顔つきをしている。
 何だかんだ言っても、闘悟のことが心配だった。
 他の者も闘悟の生還には驚くが、それ以上に愕然とする事実があった。
 それは、闘悟を包んでいる、恐ろしいほどの魔力量だ。
 無論闘悟は例の如く一パーセント程度しか行使(こうし)していない。
 だがそれだけでも、達人級以上にはなる。
 ただの学生が生み出せる魔力ではない。
 そのことに周囲は異常なものを見る目を闘悟に向けた。
 それはリューイも同じだった。


「……な……何者なんだ……貴様は……っ!?」


 愕然とするリューイをよそに、闘悟は意地悪な表情を彼に向ける。


「知りたいか?」


 すると、リューイの目前から闘悟は消えた。
 気づいた時は、闘悟の拳が腹に突き刺さっていた。


「がはっ!」
「ただの平民だよ」


 前のめりにリューイは倒れていく。


「う……そを……つけ……」


 最後の言葉を放ち、リューイは意識を失いかけた。
 だが、そのまま終わると思ったら、闘悟はいきなりリューイの頭を掴んで地面に叩き下ろした。


「ほれ、もういっちょ~!」


 バキッという音がして、地面が割れる。
 リューイは完全に沈黙した。


「ふぅ、スッキリしたかな」


 実は少しばかりリューイにムカついていた。
 なので、気分晴らしに最後の追い打ちをかけた。
 これでリューイのプライドはズタズタになったはずだ。
 周りからは「容赦ねえ~」という声が聞こえてくる。


 そうそう、オレって容赦ねえんだよ。
 だから喧嘩ふっかけてくんなよな。
 闘悟はニッと笑った。

 
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