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トーゴの異世界無双

作者:シャン翠
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第三十話 おお……痺れたぞ

 開始した瞬間、リューイは腰に下げた剣を抜き向かって来た。
 リューイは魔法騎士タイプ。
 ミラニのスタイルと同じということだ。
 だが、動きはミラニほどではなかった。
 これなら、魔力無しでも余裕で避けられる。
 リューイは間を詰めて、横一文字に斬りかかった。
 闘悟は剣から距離を取るため後ろに跳ぶ。
 よし、避わせた!
 剣の技術もミラニに劣っている。
 次にリューイは突きを出してきた。
 これも紙一重で上体を逸らして避ける。
 リューイから舌打ちが聞こえる。


「ふん、平民が、逃げ回るのだけは得意のようだな」
「まあな。逃げるが勝ちってこともあるからな」
「……なら、次のステージだ」


 いきなりリューイの雰囲気が変わる。
 本腰を入れるってことか。
 今度はどんな攻撃をしてくるのか、闘悟は少し楽しみだった。
 だからしばらくは様子見をして観察しようと思った。


 リューイは地を蹴って向かって来る。
 先程と同じ速さだ。
 そして、同じ横一文字に斬りかかってくる。
 ん? 何も変化無し? 
 不思議に思いながらも、先ほどと同様に、紙一重に避けようと思ったが、瞬間嫌な予感がした。
 だから大きくその場から離れた。
 よし、避わした!
 そう思った瞬間、リューイの顔が楽しそうに歪んだ。


「甘いぞ!」


 すると、切っ先の部分から、何かが迸(ほとばし)る。


「ぐぅっ!?」


 闘悟は体に流れた衝撃で呻(うめ)き声を上げた。


「はははははは!」


 闘悟は立て膝をついて高笑いするリューイを見つめる。


「どうだ? 何が起こったか理解もできないだろ平民?」


 剣は避けたはずだった。
 それも紙一重ではなく、十分に距離を取った。
 それなのに体に痛みが走った。
 闘悟は今起こったことを冷静に分析し始めた。
 剣には当たってはいない、それなのに痛みが走った。
 体に残っている痺れ。
 油断していたとはいえ、視認ができなかった攻撃の速さ。


「……雷か」


 闘悟の呟きにリューイが少しだけ目を開く。


「ほう、よく分かったな」
「初めて会った時、お前の体から放電していたからな」


 そうだ。
 以前リューイは闘悟の言動に怒りを覚え、無意識のうちに身体から魔力を電気に変えて放電させていた。


「なるほど、あの時か」


 得心(とくしん)を得たように頷く。


「だがまあ、分かったところで、この天才的な能力の前には成す術は無いがな」


 おいおい、コイツどこまでナルシストなんだ?
 自分の力に自信を持つのも悪く無えけど、自分で天才とかよく言えるな。


「さあ、次はこんなものではないぞ?」


 リューイは楽しそうにこちらを睨んでくる。
 さて、どうするかな?
 身体に電気を流されたとはいえ、外傷などは無い。
 チラッとクィルの方を見ると、不安そうに眉を寄せている。
 ミラニは怒ったような表情を向けてくる。
 さしずめ、いつまでそんな奴にてこずってるんだって感じかな?
 闘悟は苦笑しながら立ち上がる。


「ん? 立つか。まあいい、そんなに早く終わったら、応援に来てくれた彼女達にも失礼だからな」


 すると、また黄色い歓声が轟(とどろ)く。


「何やってんだよトーゴ! そんな野郎に負けんじゃねえ!」


 黄色い歓声に消されているが、そんなことを叫んでいるのはカイバだった。


「あっれ~? カイバってトーゴくんに早く降参しろとか言ってなかったっけ?」


 メイムがカイバに嫌味のように言う。


「う、うっせえ! あんなふうに女の子達に応援される奴は負けてちょうどいいんだよ! ていうか、勝ったら鼻の穴に『ゴクドングリの実』を詰めてやる!」


 『ゴクドングリの実』とは、成人の頭ほどもある大きな木の実である。
 また、その匂いも強烈であり、とてもではないがまともな神経で吸い続けてはいられない。
 そして、もちろん鼻の中に入れられるわけもない。


「ん~でも、正直なところ、トーゴくんやばそうだよね……」
「大丈夫……だよ」
「え?」


 メイムの言葉を否定したのはヒナだった。


「トーゴ……きっと……勝つ……よ」
「……根拠は?」
「女の……勘?」


 可愛く首を傾げる。


「えと……勘なの?」
「ん……」


 コクコクと頷く。


「うおぉぉぉぉぉっ! トーゴ行けいっ! そんな野郎は踏み殺せぇ! 殺してしまうのだぁっ!」


 それじゃ失格だよと声に出して言おうかと思ったメイムだが、軽く息を吐き闘悟に視線を送る。


「頑張ってトーゴくん」


 メイム達の声援は直接届いてはいないが、闘悟は力強く立っていた。
 リューイは再び詰め寄って来た。
 恐らく雷の力を剣に流して攻撃してる。
 だから少し離れたところで、その雷を放電させて相手に飛ばすことができる。
 外傷を与えるほどの威力は無いが、相手の自由を奪うことが可能。
 さすが、雷の属性を持つ攻撃だ。
 そして、不自由になった相手に剣で貫く。
 怖い攻撃だ。
 ということは、中途半端に避けても無意味だ。
 避けるならもっと距離を取る。
 闘悟は足に力を込めてその場から離れる。
 だが、リューイはまたもニヤッとする。


「僕の力は放電だけではない!」


 すると、目の前にいたリューイがいきなり加速した。


「なっ!?」


 これはミラニの速さを越えている。
 闘悟の背後に回ったリューイは力一杯剣を振る。


「『電雷瞬衡(ボルテスクイック)』……貴様を屠(ほふ)った技だっ!!!」


 本来なら、この状況で立会人が止める。
 しかし、買収されている立会人は動かない。
 命の危険があるこんな状況でも動かない立会人に、周りもギョッとする。
 しかし、刃は容赦無く闘悟に向かって来る。
 このままでは、首が寸断される。


 クィルが叫ぶ。
 ミラニが拳に力を込める。
 カイバが歯を食いしばる。
 メイムが目を見開く。
 ヒナが口を開ける。


 その場にいた誰もが、多かれ少なかれ闘悟の負傷を確信した。
 瞬間、沈黙が辺りを支配する。
 その静けさを破ったのは、刃物が地面に落ちる音だった。
 何が起こったのか、ただ一人を除いて理解できてはいなかった。
 皆が思った。
 皆が動揺した。
 皆が言葉を失くした。
 何故なら、リューイが持っていた剣が、根元から粉砕されていたからだ。
 その刃片が地面に転がっている。


 そして、当のリューイはというと、体を小刻みに震わせていた。
 リューイは自分の中から湧き出てくる熱いものを感じる。
 それが徐々に喉まで競り上がってくる。
 駄目だ、もう我慢できない。


「がはぁっ!」


 その場で嘔吐してしまう。
 その光景を見て平然としているのは、闘悟ただ一人だけだった。
 リューイは腹を押さえながら地面に倒れている。
 その姿を誰もが瞬(まばた)きを忘れて見入っている。


「ぐぅ……が……き……さま……な……にを……」


 もちろんリューイ本人にも何が起こったのか分からない。
 この場の理解者、闘悟を除いては。


「ん? 蹴っただけだけど?」


 
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