| 携帯サイト  | 感想  | レビュー  | 縦書きで読む [PDF/明朝]版 / [PDF/ゴシック]版 | 全話表示 | 挿絵表示しない | 誤字脱字報告する | 誤字脱字報告一覧 | 

連隊の娘

しおりを利用するにはログインしてください。会員登録がまだの場合はこちらから。 ページ下へ移動
 

第一幕その十


第一幕その十

「そんな柄にもないことは」
「いや、マリー」
 しかしその彼女にシェルピスも言ってきた。
「やはりだな。親戚のところにいる方がいい」
「軍曹までそんなことを」
「御前は女の子だ。やはり軍にいるのはどうかとも思う」
 このことは今まで隠していた考えであった。
「だから。もうな」
「この人のところに」
「家名も財産も手に入るのだぞ」
「そんなことには興味がないけれど」
 あくまでそうしたことには何の関心も見せないマリーだった。
「だから別に」
「まあそう言わないでだ」
 シェルピスは優しい声でそんな彼女を説得する。
「親戚の人と共に暮らすことだ」
「そうよ。是非ね」
「御一緒に」
 夫人だけでなくホルテンシウスまで言うのであった。
「暮らしましょう」
「是非共」
「さあ、だからだ」
「軍曹も言ってくれるし」
「何ならわしも一緒にいよう」
 彼はここでこんなことを彼女に言ってきた。
「わしもな。それならいいか」
「軍曹もっていうと」
「マリーの側にいよう。それでいいか」
「軍曹が来てくれるのなら」
 幼い時から一緒にいてくれている。その彼が共なら。ここでマリーも遂に心が動いたのであった。
「わかったわ。じゃあそういうことでね」
「よかったわ」
 それを聞いて心から喜ぶ夫人とホルテンシウスであった。
「それじゃあ今すぐに」
「戻りましょう」
 二人は早速城にマリーを連れて行こうとする。しかしここで、であった。
「やあ只今」
「お待たせしました」
 兵達も戻って来た。トニオも一緒である。彼等の姿を認めてそれまで仕事をしていた村人達も戻って来たのであった。忽ちのうちに皆戻って来た。
「ではまた飲みましょう」
「今度はわし等が」
 村人達がビールを差し出す。皆それを飲みだす。その中で兵達がマリーに対して言うのであった。
「マリー、喜べ」
「いいことがあったぞ」
「いいこと?」
「そうさ、
「実はトニオがだ」
 彼等はトニオをマリーの前に出して言うのであった。
「今我が連隊への参加が正式に認められたんだ」
「もっとも家族へ届出が必要だからそれをしないといけないけれどな」
「そうなんだ」
「それでもだよ」
 だがトニオはそれでも満面の笑顔でマリーに話す。
「僕は今とても幸せなんだ」
「幸せ?」
「友よ、戦友達よ」
 兵士達を見回しての言葉である。
「何と楽しい日なんだ、今日は」
「入隊できたからだな」
「マリーと一緒にいられるから」
「マリーといつも一緒にいられるというだけで」
 まさに天に昇りそうな顔になっているのであった。
「もうそれだけで充分だよ」
「それじゃあ我々も君に協力しよう」
「君は我々の弟だ。つまり」
 兵士達もにこりと笑ってトニオに話す。
「マリーと一緒になれるぞ」
「いつもな」
「そう、いつもだ」
 トニオは彼等の言葉を受けてさらに上機嫌になる。
「いつも一緒なんだ、マリーと」
「あの、トニオ」
 その有頂天になっていると言ってもいいトニオにマリーは申し訳なさそうに言おうとした。
 
ページ上へ戻る
ツイートする
 

全て感想を見る:感想一覧