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久遠の神話

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第四十二話 表と裏その五

 その場を去ろうとした。しかしだった。
 その彼等のところにだ。彼が出て来た。そしてこう言ってきたのだった。
「勿体ないねえ。いつも見ても」
「中田さん」
「よお、久し振り」
 上城に応えてだ。中田は右手を上げて気さくな笑顔で上城と大石に挨拶をした。
「元気そうだな」
「どうしてここに」
「いや、怪物の気配がしてな」
「それでなんですか」
「来てみたけれどな。もう戦いは終わったんだな」
「はい、今」
「残念だね。こりゃな」
 中田はその気さくな笑みで砕けて言う。
「まあ仕方ないけれどな」
「ですか」
「安心しな。その黄金には手は出さないからな」
 中田はこのことは自分から言った。
「俺が貰うのは自分で倒した場合だからな」
「その場合はですか」
「遠慮なく貰うさ」
 そうするというのだ。
「その場合はな」
「あの、それで」
 気さくに言う中田のその屈託のない顔を警戒する顔で見ながらだ。上城は彼に問うた。
「いいですか?」
「いいですか?何だい?」
「今僕達の前にいますけれど」
「ああ、戦いか」
「そうされるんですか?」
「悪くないよな」
 気さくな笑顔のままだった。声の色も。
「それも」
「じゃあやっぱり」
「戦いたいかい?ひょっとして」
「僕は戦いを終わらせたいです」
「私もです」
 上城だけでなく大石も言う。二人は黄金を挟んでその上で中田と対峙していた。そのうえでのやり取りだった。
「こんな下らない戦いは」
「全て終わりにしたいですから」
「そうか。けれどな」
「けれど?」
「けれどといいますと」
「俺にも都合があるんだよ」
 これが中田の返答だった。気さくな感じはそのままだ。
「だから戦いを止めるっていうのはな」
「賛成できない、ですか」
「ああ、絶対にな」
 実際にそうだとだ。中田は上城に言葉を返した。
「そういうのはな」
「じゃあ」
「ああ、今は止めないか?」
 それはだとだ。中田は笑って上城に言葉を返した。
「ここじゃな」
「それはどうしてですか?」
「気分じゃないんだよ」
 だからだというのだ。
「それでだよ。今はな」
「戦うことはされないんですか」
「そうするさ。今はな」
「そうですか」
「ああ、だからな」
 こう言うのだった。
「止めておかないか?」
「中田さんがそう仰るのなら」
「私達はそれでいいです」 
 上城も大石もだ。中田のそうした言葉を受けてだ。 
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