神葬世界×ゴスペル・デイ
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第一物語・後半-日来独立編-
第三十章 辰の地、戦火は走る《1》
前書き
ヒロイン救出劇始まり!
だけどいきなりの……。
とにかくスタート!
黄森、辰ノ大花の戦闘艦は見た。
日来から次々に飛び降りる学勢、社交員の群れを。
高度が下がったとはいえ、まだ身を放り投げるのをためらう程の高さはある。
狙いは考えなくとも解っている。
だから容赦無く落ちる日来の者達に向かって、砲撃を放つ戦闘艦は少なくともあった。
『防御壁で応戦致します。皆様、あまり散らばらないようお願い致します』
空中に幾つもの防御壁が現れ、放たれた砲撃を防ぐ。
散らばらないようにと“日来”が言ったのは、一点にまとめ防御をし易くするためだ。
一点にまとまることはそこを集中的に狙われることだが、狙いが分かっている分、防御をする側とすれば有り難いことだ。
落ちるその身は大気を切り裂き、重力に引っ張られるまま地へ落ちる。
数十秒も掛からず地面に迫り、それと同時に落下地点に緩和系加護を使用する。
辰ノ大花の町中での着地。幾つも緩和系加護と表示された映画面|《モニター》が表示され、それを割るように日来の者達が次々と辰ノ大花の地を踏む。
先に着いた者は周りを確認し、状況を判断する。
ここの町には人気一人も感じられない。戦闘を考慮して、住民は何処かへ避難したのだろう。
そして人気が感じられないということは、ここには黄森と辰ノ大花の学勢、社交員はいないと言うことだ。
それらを確認してから地上に着いた者達は近くにいる、同じ役目を果たす者達と集まる。
まだ上空。上からその様子を落ちながら見る長の元に、映画面が表示された。
映るのは、伊達眼鏡を掛けたレヴァーシンクだ。
『やあ、聞こえるかい』
「バッチリな。ところで宇天長の居場所は分かったのか」
『今さっきね。君達が着地してすぐに見える西貿易区域、そこに神を葬|《はぶ》るための解放場があるんだ。きっと宇天長はそこにいるに違いない。皆には伝文|《メール》を送って伝えてあるから心配しないで』
「オーケー、なら張り切って行きますか。学勢の指揮は任せたぞ」
『価値ある働きを見せてやろう』
「いい返事だ。また連絡があった会おうぜ」
言い、映画面は役目を果たし消えた。
覇王会戦術師のレヴァーシンク、指揮官のアストローゼは役職上、戦闘は担当しないで日来に残っている。
二人の他にも日来に残った学勢はいるが、どちらにしろ日来も戦場となる。
行くも行かないも、結局は戦わなければならない。
少し出遅れて先に辰ノ大花へと着いた者達の後、空から彼らの一番前に着地した。
三年一組は狙ったように長であるセーランを中心とした一列で、仲間達にその存在を知らしめる。
着地し立ち上がり、そして長は発言する。
「各自、自身のやるべきことを果たせ。いいか! これは余興だ、始めは派手に行こうか!」
「「了解――!!」」
長の一声が地上戦開幕の合図となり、日来一同は各個別々の方向へと散らばった。
雄叫びは遠く離れた場所まで届き、その声によって黄森と辰ノ大花も戦闘の布陣を完成させる。
宇天の長を救出し、日来の強さを知らしめる。
日来独立と宇天の長救出を賭けた、戦いの始まりだ。
●
日来の群れは大きく分けて四つに分かれている。
一つは戦闘中心の組。
一つは結界の破壊に向かい、破壊後は遊撃を任せられる組。
一つは地上戦で傷付いた者を癒す、治療を任された組。
最後の一つは長を宇天の長の元へ行かせる、そのための援護をする組だ。
先陣を切る長に釣られ、その長を援護する者達が後に続く。
それを追い抜かす形で、戦闘中心の組が前を行く。
「ちんたら走ってんじゃねえよ。時間掛けたらその分、守りを高められるぞ」
「うっせーよ。お前らみたいに運動系じゃねえんだ」
「言ってろ。俺達、戦闘組は先に行って好き勝手暴れさせてもらうぜ。今までの借りを返さねえとだからな」
同級生の学勢とセーランはしばし会話を交わし、言葉を交わした相手は民家の屋根を強く蹴り飛ばし数十メートル先へと行った。
自身も屋根を走ってはいるが、日頃から走っているわけではないので走りずらい。
地面を走っている者もいるが、屋根を走っている方が周りの状況を確認し易い。
後で屋根走る練習しとかねえとな。
思いながら足を運び、屋根の上を走って行く。
解放場がある西貿易区域との距離はまだまだあるが、まずは結界を壊すために専念する。
だから、セーランは皆に伝える。
「よく聞け、これから結界の破壊に向かった組に合流する。学勢は俺に付いて来い、社交員は社交員の方で任せる」
この言葉に応答するように、横から社交員の一人が来た。
体格の良い、衣服が所々千切れている。筋肉マッチョと呼ぶに相応しいワイルドな大人だ。
「だったら社交員は北側に向かうぜ。遠いから子供|《ガキ》には体力的に無理だろうからな」
「任せたけど、若者ナメんなよ?」
「へっ、良いねえその威勢。さすが覇王会の天辺だ。――じゃあな」
別れ際、ワイルドな社交員に背中を強く叩かれた。
図に乗るな、と意が込められものだが気合いが込められたものでもあった。
彼に釣られ、社交員の者達は次々と離れて行くが一人こちらへ向かって来る者がいた。
「姉上殿」
後方を走っていた美鷺が言うと、その隣には鷹代がいた。
美鷺と同じ長髪を束ねたポニーテールで、鋭い眼差しのまま無音で屋根を行く。
「お前に渡したいものがある」
そう言い、腰に下げている三つの鞘の打ち一つを美鷺に渡す。
「これは?」
「宝具・黒風だ」
言葉短く、その刀の名を言う。
黒風と言うだけあって、鞘も柄も黒い。
形から見るに忍刀だ。確かに忍兼侍の自分にとっては相性の良いものだ、と美鷺は思う。
「これからは何時でも側にいられるとは限らない。自分の身は自分で守れるようにならないといけない」
「拙者、この黒風に誓い強くなるで御座るよ」
「……」
「姉上殿?」
「いや、何でもない。強くなると信じているよ」
何を思ったのか無口になったが、大したことは無さそうだ。
言い残し、鷹代は先に行った社交員の群れを追い掛ける。
姉の後ろ姿を見て、渡されたを黒風を見た。
隅々まで手入れの行き届いた、長年使い込まれたものだとすぐに分かった。
これは姉が使っていたものであり、それを自分に託したのだ。
姉の思いが込もった黒風を強く握り締め、黒風を後ろ腰に納める。
『へえ、宝具なんて珍しいものを持っているんだね』
美鷺の前に、レヴァーシンクが映る映画面|《モニター》が表示された。
声に反応し、言葉を返す。
「宝具とは何で御座るか?」
『君、授業でやったでしょ』
「忘れたで御座る!」
『自信を持って言えたことじゃないんだけど……』
半目のレヴァーシンクを気にせずに、早く説明するように求める。
分かったのか、日来の周りに飛び交う戦闘艦の様子を確認しながらレヴァーシンクは説明する。
『僕達が使う戦闘道具は武具、宝具、神具の三つに分けられる。
武具とは特別な能力を持たないもののことで、刀とか銃とかだね。宝具は人工的に特別な能力を与えたもの、君の黒風はこれに当たるね。神具とは神の力とか、驚異的な力が宿ったものだ。
この三つのうち、一部の宝具と神具は使用者を選び、それ以外の者が触れるとすり抜けるとか、砂になるとか、死ぬとか言われてる』
「つまり、この黒風は何かしらの能力があると言うことで御座るな?」
『そう言うことになるけど、能力を使うために何らかの条件が掛けられている場合もあるからね。鷹代さんもそこを教えなかったのは間違えじゃないかな』
「いや、きっと真に使いこなすには自らの知恵で考え、自らの感覚で感じろとの意味があるので御座ろう。意味の無いことを姉上殿はしない性格で御座るから」
『君が言うんだからそうなのかな』
「てか、そのためだけに話しに来たのかよ」
前を走るセーランはジャンプしながら、美鷺の元へと後退してきた。
着地の際に膝を曲げ、衝撃を殺す。
浅く曲げたために膝にダメージが残るが、気にすることはない。時間が経てば痛みは消える。
利点は、着地した後の動作にすぐに移れることだ。
一旦距離が離れたものの、美鷺が速度を落としたのもあるがセーランはすぐに追い付いた。
「なんか作戦でも追加するのか」
『その通りだよ』
空で攻防を繰り広げる日来にいるであろうレヴァーシンクは頷き、付け加える作戦の内容を説明する。
『なあに、簡単なことさ。宇天長の救出はセーランの最後の告白も含められてるから、解放場に必ずセーランを送り届けないといけない。だけど、長がいる集団は積極的に狙われる。
ここで新たな作戦だ』
はっきりとそう言った。
揺れる船上の上で、彼も揺れながら周囲のことはお構い無しに続ける。
『これから長であるセーランには単独行動を取ってもらう。そうすればセーランを探すために人員を少なからずあっちは割いてくる筈だ。だってこちら側は長が宇天長の元へ行きますよ、て言ってるようなものだからね』
「なら何処へ行けばいい」
『解放場がある西貿易区域はそのまんま辰ノ大花の西側にあり、宇天長がいるであろう委伊達家の屋敷は辰ノ大花の中心にある。屋敷から貿易区域へと繋がる道は頑丈に警備されている筈。これは推測だけど、黄森と辰ノ大花の境目の所は警備が薄いと思うんだ』
「そこを警備しても、こちら側は意味が無いで御座るからな」
『だからセーランは黄森と辰ノ大花の境目近くを通りながら、西貿易区域へ行ってもらうよ』
「了解。西貿易区域近くは警備が固そうだからな、ここら辺で早めに単独といきますか」
『皆には覇王会指揮官のアストローゼが伝えるから』
『ほら、お前ら情報は欲しいか? 欲しいだろお? ならば価値あるものと交換だ。なにい、別れた彼女から貰ったペンダントだと。そんなもの一銭の価値も無いわ!』
『価値あるものはやっぱりお金! はい、マネープリーズ』
映画面越しに指揮官とその補佐が何やらやっているようで、その度に戦術師であるレヴァーシンクの元へ苦情の映画面が表示される。
が、レヴァーシンクは何食わぬ顔で、表示された映画面を割る。
彼らには何も通じないと知り、今度はそれを見ていたセーランの元へ苦情の映画面が来た。
『どーなってんだこの覇王会は!?』
『作戦を知りたければ価値あるもの寄越せとか、金寄越せとか、てめえらそれでも覇王会かよ!』
『セーラン君、社交員にまで被害が広がっているのだが?』
『一回一回の情報料が高過ぎるわ。やるならもっと安く!』
『『そう言う問題じゃねえ!!』』
『え――!? なんで私が怒られるのですか!?』
何やら彼方の方で一人の社交員の女性が自身が発言した言葉により、周りから怒鳴られて涙を浮かべている。
これはこれで面白いと思うが、仲間割れをしている場合ではない。
解決のために長であるセーランは、映画面の向こう側にいる指揮官と補佐に注意の言葉を投げる。
「商売なら後にしてくれ。部下の苦情の後始末は仕切ってる俺の担当なんだからな」
『そうか、これを許してくれたらお前にはこれをやろうと思ったのにな』
そう言い、アストローゼが枠からはみ出ていた腕を映す。
映し出される手に握られていたのは、
「そ、それは“得願流”初回版! あの委伊達をモチーフとしたエロゲじゃねえかあ!」
青色のボックスを見て、セーランの目の色が変わる。
十七歳以下はダメ、絶対。と書かれており、十八禁指定のものだ。
「百合ものとして珍しく登場キャラの行動をボタン形式で操作でき、あまりの内容から辰ノ大花に潰された会社の最後の遺産。発売前から人気が高くて、通常版しか手に入らなかったんだよなあ」
『お前が宇天長のことを好きなことは気付いていた。さあ、どうする。私達を許せばこれはお前のもの、そうでなければ欲しがる者は大勢いるからな。そいつらに高値で買わせればいいだけの話だ』
「よし、その行為許す!」
『『ざけんな!!』』
「うるせーぞ、てめえら。俺の利益の前にお前らなどちっぽけな存在でしかないのだ!」
『『そ――れ――!』』
「どわ――!?」
皆の掛け声の後、突如セーランが後ろから勢いよく押されたように吹き飛んだ。
「セーラン殿――!?」
前方にかなりの距離吹き飛ばされ、それから何回か屋根の上を派手に転げ回った後に地面へと落ちた。
家と家との細道に頭から激突したがまだ発動中だった緩和系加護により無傷で済んだが、派手に回転したために視界がすぐには定まらなかった。
平衡感覚がきちんとしてなかったために、立ち上がるとバランスを崩し、尻餅を着いた。
敵からの攻撃ではない。衝撃はあったものの、威力がなかったからだ。
それに後方には援護の組がいる。敵がいるなら気付かれる筈だ。
屋根の上からひょっこり顔を出す美鷺が、
「大丈夫で御座るか」
言われ、尻餅を着いたまま片手を挙げて言葉を返す。
「おう、平気だ。これはあいつらの仕業か、追及が怖くて映画面消してるし」
「ならば良かった。このまま単独行動へ移るのがよかろう、早くに行った戦闘組が戦いを繰り広げて御座るから敵の注意はセーラン殿に届かない筈」
「そうさせてもらうわ。じゃあな、お前も頑張れよ」
「そちらもで御座る」
屋根にいた美鷺は一礼をしてから前へ進んだ。下からセーランは、呑気に彼女が行くのを見ていた。
それに続くように地面や屋根から、学勢達が後に続きセーランを追い抜いて行く。
最後の音が前へ行き、音の群れは前方へ行き小さくなる。
よし、と声に出して立ち上がる。
制服に付いたほこりを落とし、ゆっくりと歩き出す。
細道から整備された土道に出て、辺りを見回し敵がいないことを用心深く確認する。
「敵の存在無し、よし行くか――」
歩み出そうとした瞬間。セーランの右頬それそれを、高速で通り抜ける何かがあった。
反射で即座に細細道へ戻り、敵の視界から自身を消す。
冷や汗をかきながら音を頼りに敵の存在を確認するが、その存在を捕らえることは出来なかった。
遠くで響く戦闘の音があるからではない、存在自体を感じられなかったのだ。
人が隠れている時に、あそこに誰かいるかも。と感じるようなそれが無かった。
今は、誰かがいたがいなかった、という状況だ。
しかし、幾ら日来の者と言えども実戦の訓練くらいはする。他よりも訓練内容は劣るだろうが、時間の空いている時間に皆とも訓練はした。
訓練の成果が出ていないわけではないが、敵の方がこちらより格段に強いことは理解出来た。
ここは時間を掛けてもこの場を動かず、相手の出方を伺う。
潜むように息を殺し、何時来てもいいように足を肩幅に広げ、重心を爪先に置く。
遠くから聴こえる戦闘の音。
町を流れる風。
ここに来て耳にする音だけが聴こえ、他の呼吸音などは一切無かった。
沈黙の時が過ぎ、とうとう敵側に動きはなかった。
「勇気を出して行ってみるか」
地面を蹴り、細道から出て着地する前から構えを取る。
足が地に着く前に前方を、着いたなら右から後ろを見て、すぐに左を確認する。
この場には既にいなかった。
何をしに来たというのか、疑問に思った。
セーランは自身の頬を通り抜けたものは何かと、自身が先程出て来て立っていた場所の後ろに建つ家の壁を見る。
日来と同じく木製の家の壁に、紙が巻き付けられた矢が刺さっていた。
これだと思い、紙を外しに矢の元へ歩き、丁寧に巻き付けられた紙を取り外す。
広げ、そこに書かれていたものは、
「委伊達家の悲劇。かの村にて待つ」
とだけが書かれていた。
何の意味があるのか。罠にしてはやり方がおかしいし、味方がやる筈もない。
だが、これをセーランは無視出来なかった。
“委伊達家の悲劇”とは、もしやと思った。
「そこに行けば、何か解るんだろ……?」
彼女のことについて、まだ多くのことを知らない。
救いに行くのならば、知らなければならない。
何故、彼女が死を求めるのかを。
かの村とは、辰ノ大花の西貿易区域と黄森との境の中心にある村を差す辰ノ大花特有の言葉であり、そこへ行けばいいと言っている。
まるでこちらに来てほしいかのように。
感じるだけで、自分がそう思っているだけかもしれないが、当たり外れも時の運だ。
「どうせ結界壊れるまでやることもないし、行ってみようじゃないの」
結界を壊す手助けが出来たかもしれないが、それは要らぬ手だろう。
頼れない仲間ではない、頼れる仲間であるから心配は無い。
そこへ行けば何かがあると思い、紙を握り締めセーランは一人走り出した。
後書き
ここで報告します。
いきなりですが、主人公はしばらく退場となります。
後半読んでて、この主人公戦うのか? と思った方々、今は戦わないだけです。
ちゃんと戦いますので心配しないでください。
社交院の方々もこの戦いには参加しているんですが、あいにく社交院の方々の戦闘は書きません。
書かないと社交院が何のために存在しているのかと、読者の皆様が疑問に持つかもしれませんが、作者の泣ける文章力と執筆スピードでは手が回せません。
社交院の方々はまたの議会で登場させようかと考えていますので、その時にでもよろしくお願いします。
今回はここまでとし、また次章で会いましょう。
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