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神葬世界×ゴスペル・デイ

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第一物語・後半-日来独立編-
  第二十九章 開戦

 
前書き
 いよいよヒロイン救出へと動き出します。
 楽しみスタート。 

 
 空間移動を終えた日来。下には海が広がっていた。
 船首が向いているのは辰ノ大花の北側だ。
 高度が高いため地上を見下ろす形で、地上には奥州四圏の五地域がひし形に広がっていた。
 奥州四圏の五地域の内、東の青竜を司る辰ノ大花の上空には幾つもの戦闘艦が飛んでいる。
 その状況を日来総括である“日来”が、アナウンスで皆に伝える。
「現在、辰ノ大花上空には多くの戦闘艦が配備されています。その殆どが黄森の戦闘艦であり、辰ノ大花の戦闘艦は少ないと判断出来ます」
 視界に映る状況を報告しながら、向けた視線の向きを奥州四圏の中心、黄森へと変えるとそこには黄森、辰ノ大花どちらにも属さない艦が一艦いる。
 カラーから判断して、二印加奈利加|《トゥーエン・カナリカ》の戦闘艦だ。
 偵察にでも来たのだろうか。
「黄森の上空に二印加奈利加の戦闘艦を一艦発見。現時点での動きは見られず、偵察に来たのではないのかと判断出来ます。しかし、どのような動きを取るかは分かりませんので警戒の方、宜しくお願い致します」
 “日来”は次に自身の横に表示された映画面|《モニター》に視線を動かし、表示されている文字を読む。
 覇王会から送られて来た、宇天の長救出の大まかな作戦表みたいなものだ。
「これより日来は辰ノ大花へ向かい進行、同時に高度を下げ高等部学勢、社交員の辰ノ大花への着地をサポート致します。飛び降りによる着地になりますので飛び降りる際、緩和系加護をお忘れなく」
 報告は一先ず終わった。
 次にやるべきことは密閉されたこの部屋から外へ出て、敵艦による砲撃を防ぐための視野を広げることだ。
 予想通りならばこの時間に、日来の出現を確し警報が鳴る筈だ。
 すると映画面を通して、辰ノ大花から警報が鳴り響くのを聴き取った。
 順調であることを確認し、“日来”は映画面に背を向けて外へと続く扉へと向かう。
「これから私は外へと向かいます。連絡等ありましたら、映画面を通して行って下さい」
「「了解」」
 機械人形の、感情を持たない返事が返された。
 退出する際に一礼して、扉の向こうへ“日来”は歩いて行った。



 黄森と辰ノ大花の地域の境のところ、上空に赤、白、黒の塗装がなされたドラゴン級戦闘艦が浮いている。
 動く気配は全く無く、ただその場に止まっている。
 そのドラゴン級戦闘艦は二印加奈利加|《トゥーエン・カナリカ》製であり、その名はザ・ウォールと言う防御用戦闘艦だ。
 長方形の形をしたザ・ウォールの甲板上、辰ノ大花の地と空間を割って現れた日来を二人の者が見ていた。
 一人は髭の生やした中年の男性、もう一人は前の彼に比べたら若い男性だ。
 白を基調とした社交院の制服を身にまとい、風を浴びながら会話をしていた。
「神が現実空間を移動する際に使う空間移動ですか。日来はアマテラスの協力を得たことになりますね」
「だが、あんなにも巨大なものを空間移動させたのだ。さすがの神も現実空間の干渉には相当の力が必要だからな、当分は力は貸せまい」
「世界のための情報収集って言う大義名分で来たわけですが、本当はジスアムさんの暇潰しですよね」
「それを言うなライターム、幾ら二印加奈利加の中心に立つ俺でも叱られることがあるのだからな」
「まさか貴方ともあろう御方が叱れるのが恐いとは、なかなか面白い話しですな」
「俺は真面目だからな」
 笑う二人をどうしたのかと護衛の社交員が数名、不思議そうに彼らを見た。
 それに気付いたのか、ジスアムは咳払いをし誤魔化す。
「それはさて置き、いよいよ世界が嫌でも動く時が来たようだ」
「黄金時代が完全にその息の根を止め、暗黒時代へと向かっている世界に、日来と言う各国の省かれ者達が集まる地がこれからすることは何なのか。とても興味深いものですね」
「省かれただけあって考えている事が分からんな。まあ、楽しくなるのであればそれでいいがな」
「叱られますよ」
「しまった、しまった。本音は言うタイミングを間違えると身を傷付けるからな、気を付けねば」
 すると会話の間に警報が辰ノ大花から響き、辰ノ大花の上空にいた戦闘艦は日来が現れた南西の海上に向かって動き出した。
 距離はかなり離れているが、ドレイク級戦闘艦の主砲ならば加護があれば容易に届く距離だ。
 だが砲撃はせず、日来を囲むような動きで戦闘艦の群れは動く。
 円陣による、多方面一斉攻撃を仕掛けるつもりなのか。
 いや、それは無い。
 何故ならばここから見ても日来の巨大さが伝わる程、日来の大きさは驚異的だ。多方面で攻撃を仕掛けるということは、特定の範囲に掛ける攻撃を削ぐ行為だ。
 ラグナロク級戦艦を上回る日来を攻略するには、一点集中による攻撃で地味でも確実に各船を潰す必要がある。
 もしかしたら黄森と辰ノ大花は、日来を潰すことはしないのかもしれない。
 日来は連結式の航空船。各船を繋ぐ渡り道を潰せば、後は離れ離れになった船を制圧すればそれでお仕舞いだ。
 思考を動かすジスアムは、物事を断片的ではなく流れで考える。その方が細かい事に気付き易いからだ。
 そして答えは出た。
「日来を潰す気は無いようだな。各船を繋ぐ渡り道を潰し、個々になった船を制圧する気か。しかし甘いなあ、その考えは。――甘過ぎる」
「黄森も辰ノ大花も実質、若者達が地域を守っていますからね。社交院はそのお供でしかない。
 将来のことを意識し過ぎた結果、多くの権利を持つ社交院であっても物事に関わりにくくなってしまった」
「奥州四圏は代々、地域を治める家系が存在する。その家系が地域を支配していると言っても過言では無い。それはそれで良いのだが、問題は黄森も辰ノ大花も中心に立っている家系に子はいても親がいないということが問題なのだ。まだ若い者が地域を背負うという負荷は、彼らにかなりのストレスを与える。いかに周りの者達がサポートしてやれるかが重要だ」
「一児の親として気になるのですか?」
「気になっているのは物事にだけだ。本人なぞに興味は無いわ」
「冷たいんですね」
「何とでも言え。それにな、どれだけ手を差し伸べようと本人が差し伸べた手を掴もうとしなければ意味が無い。そんな時まずやるべきことは、本人が何故手を掴もうとしないのかを知らなければならない。それをするのは当然、俺達では無い」
 彼らの会話を吹き飛ばすように、日来に向かって砲撃が開始された。
 砲音が鼓膜を打ち、複数の戦闘艦により目苦しいく動き回る。
 ジスアムの予想通り、放たれた砲撃は的確に渡り道を狙っている。
 遠目にそれを見ながら、ライタームは話を変える。
「話しは変わりますが、ところで何故辰ノ大花を治める唯一の委伊達の者を、黄森は解放するのでしょうか」
「理由は分からんが、地域を治める者を無くし、そこへ黄森が入り込み辰ノ大花を支配するためか。それとも竜神の力を狙っているのか、だな。
 黄森は委伊達の者を解放する理由を、地元の者達を多く殺されたため。更には暴走する宿り主がこれ以上暴走したら、さすがの黄森も手に終えないと言う理由からだ」
「黄森の者達が殺されたのは去年の冬頃でしたね。何やら極秘に会議を設けていたという噂を耳にしましたが、何か知ってませんか?」
「その噂は調の艦長直々に聞いたな。どうやらその会議は黄森が辰ノ大花に何らかの協力を仰ぐものだったようだが、詳しくは分かってないらしい。分かっているのは委伊達家が所有する屋敷の一棟で、辰ノ大花の覇王会会長が暴走し、会議に参加していた黄森の者達“だけ”を虐殺した。ということだけだ。
 まあ、これにはさすがに面倒を見てきた黄森からすれば許せない事だろうな」
「そうですね」
「あの艦長の言うことが本当だが知らんが、解放した後に残る神人族と宿り主特有の魂の流魔結晶を国力強化のために使うとか。国際力の弱い神州瑞穂にとって良い選択だとは思うが、二度言うが本当かは知らんぞ。
 だが、独立宣言を出した日来がそれを阻もうとしている。黄森経由の報告によれば、奥州四圏の人形状態からの脱退を意味しているらしいが、問題はその後の動きだ。独立した日来は奥州四圏の協力無くして何をやろうというのか。そして、日来と交換する筈だった貿易艦隊の調はどのような動きをみせるのかだな」
「今現在、調は他勢力群|《イレギュラー》で大人しくしているようですが、結果次第では黄森に手を貸さなくなかもしれませんね。調は他勢力群のなかでもかなり上の勢力ですから、手を借りられなくなれば黄森は痛手を負うことになりましょう」
「ならばどのような結果になるか、ここで見物しようじゃないか。その結果は世界に変化をもたらすものなのか、楽しみでならんなあ」
 二人は巨体な航空船と無数の戦闘艦の様子を、離れた場所から遠目に見詰める。
 戯れ言を交え、二人は世界を語った。
 彼らは世界の中立に存在する国の、中心に立つ者だ。



 現在、日来は黄森と辰ノ大花の戦闘艦により、船と船とを繋ぐ渡り道を攻撃されている状況だ。
 渡り道を狙う理由は三つ。
 まず別船からの増援を防ぐため。もう一つは退路を断ち、制圧し易くするため。そして最後に勢力の分散だ。
 しかし狙いが分かっていれば、そこを重点的に防御すればいいだけのことだ。
 日来の巨大さゆえに撃沈は諦め、この戦術にしたのだろう。
 砲撃を放つ戦闘艦の群れを割り、日来は最大出力で前進しながら高度を下げていく。
 今、日来がするべきことは一刻も早く宇天の長の元へ日来の長を向かわせることだ。
 だから、いちいち戦闘艦に構っている暇は無い。
 その巨大な物体は辰ノ大花の地に巨影を生み出し、下に存在するものを影のなかへと飲み込んでいく。
 砲撃によって揺れる日来の船上、高等部の三年一組の学勢が集まっている。
「おいおい、空間移動終えたらいきなり一時間経ってるんだけど。俺達、そんな長く移動していなかった気がするんだが」
 表示されている映画面|《モニター》が示す時間は午後一時過ぎ。空間移動する前とは明らかに数字が違っていた。
 時間確認のために開いた映画面がそうなって、開いた本人のセーランは驚いた。
 体感時間が狂った覚えも無い。どういう事か。
「空間移動は空間と空間との間を凝縮し、そのなかを通ることを言います。空間が凝縮したなかを通る側としては短期間で移動したと感じられますが、それ以外のものからすれば何時も通りの時間が流れているんですよ」
「ごめん、頭痛くなってきた」
 美兎の説明を理解出来無いテイルが、頭に両の手を置き、頭の痛みを訴える。
 周りも理解しているとは、言い難い状態だ。
 解り易い例えはないものかと、記憶のなかで使えそうなものを探す。
 探していると、は、と思い浮かんだものがあった。
「あ、ほら。狸右衛門て言う盗賊アニメで、狸右衛門が使う道具なかに何処でも扉って言うものがあるじゃないですか。空間移動は何処でも扉みたいにこちら側と向こう側を一瞬で移動出来ますが、時の流れが空間を凝縮している分、早く感じるんですよ」
「え――っと。つまり空間移動は何処でも扉と同じだけど、時間は短時間に感じているだけで、ほんとは違うってことでいいの?」
「そんな風にざっくりと考えた方が良いかと。深く考えると頭がこんがらかってしまいますから」
「説明下手なんじゃない、あんた?」
 するっと灯のストレートな発言に、美兎の心に亀裂が入った。
 何故か硝子にひびが入ったような、そんな音が聞聴こえ、近くに合った木の根本へ美兎はふらふらと歩き。そして体育座りで尻を付く。
「……はあ、だから私って駄目なんですよね。学級委員なのに皆からはそのことを忘れられ、遠足の時なんか一人で張り切って空回り。クラスをまとめようとしても誰も言う事を聞いてくれず、挙げ句の果てに巫女候補としての人気のが後輩全員に抜かれる始末。……ふふ、笑えますよね……」
「や、闇堕ちですわ。どうするんですの、こうなった美兎は当分ダークのままですのよ。ここで闇堕ちは場違いと言うか、ありえないと思いますわよ」
 ――グサッ。
「こうなったら手、付けられないネ。うち、関わりたくないヨ。関わったら最後、その人も終わるからナ。なんでこんなに心、弱いか知りないネ」
 ――パリパリ。
「空子殿は良心で闇堕ちしてしまった美兎殿に関わり、その恐ろしさを身をもって体験してるで御座るからな。いやはや、拙者も勘弁で御座るよ。このような者の世話は面倒なのでな」
 ――パキッ。
「太っている自分はからしてみれば、自覚あるとダメージも相当ですからね。仕方無いと言うか、なんと言うか。まあ、後輩に抜かれたらお仕舞いかと」
 ――パリーン。
「何でこう傷付けるのが好きなのかな」
「さあな。既にこういうパターンが出来ているからではないか」
 自分達は関係無いと、グレイとルヴォルフは互いに笑い合った。
「やみおち、美兎。……おそろしい」
「大丈夫よ、美兎はあんなのに負けはしないわ!」
「「お前が言うな!」」
 自分は美兎の味方だと言わんばかりに、ハッキリと言う灯に対し皆はツッコんだ。
 当の本人は自覚はしてはいないようで、余計にたちが悪い。
「私はーかわいそうなあー、女ーのー子ー。……ふふふ」
「木、木に向かって歌ってますよ。マジ怖いんですけど」
「大丈夫よロロア。近寄らなければ無害だから」
「無害と言われましても、見ているだけで心が参りそうなんですが。恋和も含めて殆どの人、耐性付いてますねえ」
「ならここはセーランの出番じゃなあい?」
「あ、俺?」
 灯に言われて、セーランは自分を指差す。
「なんで俺が、さすがに今の美兎は止められねえぞ。てかまず、この状況下でやることじゃねえ」
 そう、今は日来の周りに無数の戦闘艦が飛び交っている。
 砲撃により会話中もかなり揺れており、前の戦闘により砲撃を受け、当たり所の悪かったところが黒煙をまだ上げている。
 少し経てば突入の時間に入るため、さすがのセーランも覇王会会長の責務は果たさなければならない。
 それなのに周りはどうにかしろと、そういう視線を送ってくる。
「全くしょうがねえなあ、俺を一人にさせないためにお前ら強くなったんだろうに。上手い連中だよ、本当」
「結果、一人にはなってないだろ」
「代わりに美兎が一人だけどな」
 言い返すように言われた飛豊の言葉に言葉を返し、闇堕ちした美兎の元へと歩く。
 ちゃっちゃと終わらせる方が皆のため、美兎のためだろう。
 ここで一つ良いことを教えよう。
 闇堕ちした美兎を戻すにはとにかく褒めること、ただそれだけだ。
 美兎の性格は叱られると落ち込み、褒められると調子に乗る。アップダウンが激しいのが特徴だ。
 まあ、最近は精神が強くなってるからそうとは限んないんだけどな。
 根元に座る美兎に近付き、慰めの開始だ。
「お――い、美兎。しっかりしろ――」
「あ、セーラン君じゃないですか。元気ですか? 私は元気じゃないです。何故かと言うと、生い先長いのにお先が真っ暗なんですよ。暗くて暗ーくて、未来が見えないんですよ」
「く、なんて強力な闇なんだ。だけど頑張るぜ、俺」
 気合いを入れ、
「美兎は可愛いよ」
「可愛い子なんてたくさんいますよ。宇天長もその一人ですよ」
「だよな、お前解ってんじゃん」
 バシバシと背中を叩く。
「だったらさ、それを理解出来てるお前も可愛いよ」
「不倫だ」
 セーランの発言に、レヴァーシンクが反応した。
 この反応は次にアストローゼに伝わる。
「ああ、不倫だな」
「おい、おめえら。人が一生懸命慰めているところでその発言は止めろ、本当に不倫してるような気分になるから」
「でもでも、日来は一夫多妻認められてるから大丈夫。て言っても日来の女性は怖いからねえ、一夫多妻の家庭なんて何処にもないのよねえ。……あれ? これってもしセーランが一夫多妻になったら儲けのチャンスかも」
「人の結婚を商売道具にするな」
 叱られ、ニチアは軽く謝る。
 しかしよく見ると、美兎の様子が前よりも違う。
 なんだか、もじもじと身体を揺らしている。
「そ、それは告白ですか。これから想い人に告白すると言うのに」
 これは以外、手応えあり。
 普通なら褒めなければならないのに、宇天長を出したことが良かったらしい。
 美兎も成長したものだと、内心涙目だ
「そう捉えても構わないぜ。美兎も俺好みだし」
「だ、駄目です。私はセーランの幸せを願うと決めたんですから」
「幸せを願ってくれるのなら、俺と結婚するのも手の内だろ?」
「ば、馬鹿――! 結婚とはそう簡単にするものじゃないんですよ! 結婚とは互いが互いを信頼して、愛の結晶を育む為に結婚と言うものがあるんです。セーラン君みたいに女ったらしとは無理ですっ!」
「闇が消え去ったのはいいが、なんか貶されたんだけど。これ酷いだろ」
「セーランも苦労するナ」
「全くだな、オレはそんなセーランに敬意を払う」
「敬礼ー」
 無事、闇堕ちした美兎の救出に成功した一同は固い拍手を交わした。
 身内の救出が成功した次は、これから本番の宇天の長の救出だ。
 セーランの元へ映画面が表示され、映るのは“日来”だ。
 背景は以前と違い、大気が吹き抜ける外の風景に変わっていた。
『新たな情報を得ましたので報告致します。解放場がある辰ノ大花の西貿易区域に結界系加護が張られています。そのため、真上からの飛び降りは不可能となりました』
「その結界系加護って辰ノ大花のだろ」
『はい、その通りです。結界系加護は辰ノ大花のものなので、発動者は辰ノ大花の誰かとなり、その誰かを倒せば解かれる筈です』
「実力者の誰かだよな、やっぱり」
 素直過ぎる考え方だが、思い付きは案外当たるものだ。
 結界系加護は厄介だ。理由は防御系加護とは違い、結界内に対象の侵入を拒むからだ。
 つまり今回、解放場の周りに張られているため解放場へとは近付けない。
 しかし、手がないわけでもない。
「解放場に入れないんじゃ元も子もないからな、ここは他方向から一気に攻撃を浴びせて無理矢理にでも壊すか」
 そう、幾ら結界と言えども阻むことの出来る限度は決まっている。
 どんなに頑丈な石であっても、威力は弱いがしかし連続で一点に水を当て続ければへこむ事と同じように、どんなに強力な結界も限度以上の阻みを起こさせることで自壊出来る。
 荒っぽい方法だが、案外使える手なのだ。
『これらのことにより西貿易区域近辺からの飛び降りとなりますが、宜しいでしょうか?』
「オーケー、他の連中にも報告頼むわ」
「了解致しました。すぐに飛び降りの時間となりますので、準備を済ませておいて下さい。――失礼致します」
 一礼し、映画面は消える。
 砲撃による爆音が響くなか、セーランは皆を先導するように全員が見える位置へと移動する。
 一息、肺に空気を取り入れる。
「それじゃあミーティングと行こうか。俺達、高等部三年一組は宇天長の救出に尽力を尽くす。無駄な戦闘は避け、まずは結界を解くことを最優先にすること。
 どうしても戦闘を起こしたい場合は覇王会戦術師のレヴァーシンクに、戦闘相手を報告することな」
「僕が学勢達の戦術を立てるから、よろしく頼むよ。社交院との連携で戦術は組まれるから、報告する時はちゃんとしてね」
 皆は頷き、了解の意を示す。
 確認し、セーランは口を動かし、
「結界が解かれたら俺が宇天長の所に行くから、お前達はそのための足掛かりになってもらう。宇天長の所に俺が着いたら、お前達の役目はそれまでだ。後は俺が何とかする」
「闇堕ちした学勢もいたけど、ここで学長のお言葉だ」
 この言葉に美兎の頬は赤くなり、セーランと交代するように先程まで少し離れていた榊が発言する。
 髭をいじりながら、目尻の下がった視線で皆を見る。
「本来なら奥州四圏から独立し、日来を存続させるだけだったけど。宇天長を救うことになって、世界を少しマシにするために行動することになった。他からすれば身勝手な行動だが、君達よりかは長く生きてきた俺からすれば良い選択だと思うよ。
 人生、世の中の出来事に流されていたら得られないものがあり、見付からないものもある。他人がどう思おうとも君達は、君達の意志を貫け」
 一拍置き、
「実戦経験の無い者いるだろうから、ここでアドバイスだ。
 戦場においては何時に生き残るかを考えろ。何時死ぬか分からない戦場で、格好悪くとも生き残る術を見付け出せ。死んで何かのためになろうなんて考えるな、死ぬってことは仲間達を見捨てるってことだ。だから、這ってでも生き残れ。日来の戦力は世界最弱クラスだろうけど、世界を相手にするならそんなのは関係無い。だから負けて、悔しくて、悲しくても」
 そうだとしても、
「――敵わないと思ったなら、生きてここへ戻ってきな。そして強くなるために努力して、勝ちを再び取りに行けばいい」
 重みのある言葉に、誰一人として声を出すことはなかった。
 優しい副担任だった榊は、今や学長の立場として自分達の目の前に立っている。
 彼の強さは表に出るものではない。裏にひっそりと現れ、身に感じる強さ。
 笑みのまま立つ学長に、一歩を踏み出すセーラン。
 セーランの顔もまた笑みのまま、
「必ず戻って来る。どんなに身体がボロボロになろうとも。生き残ることが叶わず、この身朽ち果ててもせてめ魂だけでも。必ず――」
 榊に向かって、今ここに誓いを立てる。

「この日来に戻ってくると、そう誓うよ」

 長の言葉に皆は頷く。力強く、覚悟を込めて。
 それらを受け取り、
「なら行ってきな。戦う者は戦場に、そうじゃない者は自身の役目を果たすためにさ」
 直後、“日来”の声が響き渡る。
『飛び降りの時間となりました。戦いに向かう者達はただちに飛び降りを開始して下さい』
 榊は見た。
 副担任を務め、色々な事を教えた教え子達がそれぞれの方向へと走って行くのを。
 ある者は日来から飛び降り、辰ノ大花へと戦いに向かい。ある者は船上を走り、自身の役目を果たすべく移動する。
 若い頃の自分と同じように、恐怖を感じるもそれを払うように現実を変えようと必死になる彼らの。
 彼らの後ろ姿は勇ましく、力強いもであった。
 それを見て、榊は振り替える。
「黄金時代を生きた世代からすると、これから来る暗黒時代は不安で一杯だ。だけど、君達なら生きて行けると、そう思うよ」
 呟くように言ったその言葉は、辺りに響く砲撃によってかき消された。
 彼らは彼らの役目を果たしに行った。なら教員である自分の役目は、ただ見守ることだけだ。
 一人取り残された榊はこの場から去るように、何処へ行くのかゆっくりと歩き出した。 
 

 
後書き
 皆さん飛び降りダイ――ブ!
 緩和系加護を忘れたら即死ですので、アクティビティとしてはかなり危険です。
 高度は下げてありますが、イメージとすればスカイダイビングみたいな感じです。
 自分はビビって、なかなか飛び降り出来ないと思います……。
 今回はそんな話ではなく、再び新キャラ登場です。
 二印加奈利加|《トゥーエン・カナリカ》の中心に立つ人物二人です。
 ジスアムとライタームの大人男性の登場。
 二人は社交院のトップ1、2であり、かなりの大物です。
 そんな二人は遠くから戦いの様子をのほほんと見るわけですが、彼らも物語に関わってくる予定なので楽しみに待っていてください。
 ところで今更ですが、日来の全長は一七キロとして今は考えています。
 デカ過ぎて話しにならないです。
 後に色々と変わってくると思いますが、こんなにデカイのもたまにはいいんじゃない?
 と、提案してみたり。
 とにかく日来はデッカイので、次回は戦闘へ入ります。

 そしてここで一つお願いがあります。
 この作品を読んでの感想を書いてくださると、誠に嬉しいです。
 何故こんなことをお願いするのか、それは読者の皆さんがこの作品をどのように感じているのか知りたいからです。
 短い感想、とてつもなく長い感想、甘口な感想、辛口な感想なんでもいいです。
 ただ読んでみて感じたことを、そのまま書いくれてもありがたい限りです。
 しかし始まったばかりの物語ですから、感想を書くための材料がないのも事実。
 ですがここは無礼を承知の上で、皆さん感想をどうか送ってきてください! 
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