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問題児たちが異世界から来るそうですよ?~MEMORY~

作者:月見酒
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~2~

 [2]

「―――あ、あり得ないあり得ないのですよ。まさか話を聞いてもらうために小一時間も消費してしまうとは。学級崩壊とはきっとこのような状況を言うに違いないのデス」

「いいからさっさと進めろ」

 半ば本気の涙を瞳に浮かばせながらも、黒ウサギは話を聞いてもらえる状況を作ることに成功した。四人は黒ウサギの前の岸辺に座り込み、彼女の話を『聞くだけ聞こう』という程度には耳を傾けている。

 黒ウサギは気を取り直して咳払いをし、両手を広げて、

「それではいいですか、御四人様。定例文で言いますよ?言いますよ?さあ、言います!ようこそ、“箱庭の世界”へ!我々は御四人様にギフトを与えられた者達だけが参加できる『ギフトゲーム』への参加資格をプレゼントさせていただこうかと召喚いたしました!」

「ギフトゲーム?」

「そうです!既に気づいていらっしゃるでしょうが、皆さんは普通人間ではなくございません!その特異な力は様々な修羅神仏から、悪魔から、精霊から、星から与えられた恩恵でございます。『ギフトゲーム』はその“恩恵”を用いて競いあう為のゲーム。そしてこの箱庭の世界は強大な力を持つギフト保有者がオモシロオカシク生活できる為に造られたステージなのでございますよ!」

 両手を広げてアピールする黒ウサギ。飛鳥は質問するために挙手した。

「まず初歩的な質問からしていい?貴女の言う“我々”とは貴女を含めた誰かなの?」

「YES!異世界から呼び出されたギフト保有者は箱庭で生活するにあたって、数多とある“コミュニティ”に必ず属していただきます♪」

「嫌だね」

「属していただきます!そして『ギフトゲーム』の勝者はゲームの“主催者(ホスト)”が提示した賞品をゲットできるというとってもシンプルな構造となっております」

「・・・・・・“主催者”って誰?」

「様々ですね。修羅神仏が人を試すための試練と称して開催されるゲームもあれば、コミュニティの力を誇示するために独自開催するグループもございます。そして参加するためにチップを用意しなければならない場合がございます。チップには金品・土地・利権・名誉・人間・・・・・・そしてギフトを賭けあうことも可能です。ただし、ギフトを賭けた戦いに負ければ当然―――ご自身の才能も失われるのであしからず」

 黒ウサギは愛嬌たっぷりの笑顔に黒い影を見せる。 挑発ともとれるその笑顔に、同じく挑発的な声音で飛鳥が問う。

「そう。なら最後にもう一つだけ質問させてもらっていいかしら?」

「どうぞどうぞ♪」

「ゲームそのものはどうやったら始められるの?」

「コミュニティ同士のゲームを除けば、それぞれの期日内に登録していただければOK!商店街でも商店が小規模のゲームを開催しているのでよかったら参加していってくださいな」

 飛鳥は黒ウサギの発言に片眉をピクリとあげる。

「・・・・・・つまり『ギフトゲーム』とはこの世界の法そのもの、と考えてもいいのかしら?」

 お?と驚く黒ウサギ。

「ふふん?中々鋭いですね。しかしそれは八割正解の二割間違いです。我々の世界でも強盗や窃盗は禁止ですし、金品による物々交換も存在します。ギフトを用いた犯罪などもってほか!そんな不逞な輩は悉く処罰します!」

 黒ウサギは一通りの説明を終えたのか、一枚の封書を取り出した。

「さて。皆さんの召喚を依頼した黒ウサギには、箱庭の世界における全ての質問に答える義務がございます。が、それら全てを語るには少々お時間がかかるでしょう。新たな同士候補である皆さんを何時までも野外にだしておくのは忍びない。ここから先は我らのコミュニティでお話させていただきたいのですが・・・・・・よろしいです?」

「待てよ。まだ俺が質問をないだろ」

「僕も質問したい事があるよ」

 静聴していた十六夜が威圧的な声を上げて立つ。

 今まで黒ウサギの話に興味を示さなかった(正確には色々な事に興味を向けていて結果的に黒ウサギの話対する興味が薄かった)彼が黒ウサギを見つめる。

「・・・・・・どういった質問です?ルールですか?ゲームそのものですか?」

「そんなのはどうでもいい。俺が聞きたいのは・・・・・・たった一つ、手紙に書いてあったことだけだ」

「そんな物には興味ないよ。まあ僕が聞きたい事は十六夜君の質問と一緒に答えれる事だよ。僕が聞きたいのはつまり・・・・・・」

 十六夜は視線を黒ウサギから外し、周りを見渡す。
 彼は一度ゆっくりと瞬きをする。



「この世界は・・・・・・面白いか?」

「ここのゲームは・・・・・・刺激的?」



「―――」

 他の二人も無言で返事を待つ。

 彼らを呼んだ手紙にはこう書かれていた。

『家族を、友人を、財産を、世界の全てを捨てて箱庭に来い』と

 それに見合うだけの催し物があるのかどうかこそ、三人にとって、そして記憶がない彼にとっては、全てが興味深いこの世界、どんな事が起きるのかが重要だった。

「―――YES。『ギフトゲーム』は人を越えた者たちだけが参加できる神魔の遊戯。箱庭の世界は外界より格段に刺激的で面白いと、黒ウサギは保証いたします♪」





「ジン坊ちゃーン!新しい方を連れて来ましたよー!」

 黒ウサギが箱庭の外壁と内側を繋ぐ階段の前にいる少年に呼びかける。

「お帰り、黒ウサギ。そちらの女性二人が?」

「はいな、こちらの四人様が―――」

 クルリ、と振り返る黒ウサギ。

 カチン、と固まる黒ウサギ。

「・・・・・・え、あれ?もう二人いませんでしたっけ?好奇心を隠しきれない子供の様な方と全身から“俺問題児!”ってオーラを放っている殿方が」

「ああ、十六夜君たちのこと?十六夜君は“ちょっと世界の果てを見てくるぜ!”と言って駆け出して行ったわ。あっちの方に」

 あっち方に。と指を指すのは上空4000mから見えた断崖絶壁。

「そしてもう一人の彼は“この辺りはすごく興味深い”って森の中に歩いて行ったわ」

 街道の真ん中で呆然となった黒ウサギは、ウサ耳を逆立てて二人に問いただす。

「な、なんで止めてくれなかったんですか!」

「“止めてくれるなよ”と言われたもの」

「ならどうして黒ウサギに教えてくれなかったのですか!?」

「“黒ウサギには言わないでください”と言われたから」

「嘘です、絶対嘘です!実は面倒くさかっただけでしょう御二人さん!」

「「うん」」

 ガクリ、と前のめりに倒れる。新たな人材に胸を躍らせていた数時間前の自分が妬ましい。

 まさかこんな問題児ばかり掴まされるなんて嫌がらせにも程がある。

 そんな黒ウサギとは対称的に、ジンは蒼白になって叫んだ。

「た、大変!“世界の果て”にはギフトゲームのために野放しにされている幻獣が」

「幻獣?」

「は、はい。ギフトを持った獣指す言葉で、特に“世界の果て”付近には強力なギフトを持ったものがいます。出くわせば最後、とても人間では太刀打ち出来ません!」

「あら、それは残念。もう十六夜君はゲームオーバー?」

「ゲーム参加前にゲームオーバー?・・・・・・斬新?」

「冗談を言っている場合じゃありません!」

 ジンは必死に事の重大さを訴えるが、二人は叱られても肩を竦めるだけである。

 黒ウサギはため息を吐きつつ立ち上がった。

「はあ・・・・・・ジン坊っちゃん。申し訳ありませんが、御二人様のご案内をお願いしてもよろしいでしょうか?」

「わかった。黒ウサギはどうする?」

「問題児たちを捕まえに参ります。事のついでに―――“箱庭の貴族”と謳われるこのウサギを馬鹿にしたこと、骨の髄まで後悔させてやります」

 悲しみから立ち直った黒ウサギは怒りのオーラを全身から噴出させ、艶のある黒いを淡い緋色に染めていく。外門めがけて空中高く跳び上がった黒ウサギは外門の脇にあった彫像を次々と駆け上がり、外門の柱に張り付くと、

「一刻程で戻ります!皆さんはゆっくりと箱庭ライフを御堪能ございませ!」

 黒ウサギは、淡い緋色の髪を戦慄せ踏み締めた門柱に亀裂を入れる。全力で跳躍した黒ウサギは弾丸のよいに飛び去り、あっという間に三人の視界から消え去った。

「さて、黒ウサギも堪能くださいと言っていたし、御言葉に甘えて先に箱庭に入るとしましょう。エスコートは貴方がしてくださるのかしら?」

「え、あ、はい。コミュニティのリーダーをしているジン=ラッセルです。齢十一になったばかりの若輩ですがよろしくお願いします。二人の名前は?」

「久遠飛鳥よ。そこで猫を抱えているのが」

「春日部耀」

 ジンが礼儀正しく自己紹介する。飛鳥と耀はそれに倣って一礼した。

「さ、それじゃあ箱庭に入りましょう。まずはそうね。軽い食事でもしながら話を聞かせてくれると嬉しいわ」

 飛鳥はジンの手を取ると、胸を躍らせるような笑顔で箱庭の外門をくぐるのだった。 
 

 
後書き
『彼』というのは可能な限り主人公の事を表しています。 
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