ソードアートオンライン 無邪気な暗殺者──Innocent Assassin──
しおりを利用するにはログインしてください。会員登録がまだの場合はこちらから。
ページ下へ移動
ALO
~妖精郷と魔法の歌劇~
会合談義
日本の東京都のとある一角にある、とある裏道にある喫茶室。
普段なら大した客もいないそこには、今は複数の男女の影があった。これを普段の常連が見たら、さぞ驚くであろう。
しかも、それらが身に纏う空気はとてもほのぼのとしたモノとはかけ離れていた。
少し離れたカウンターでは、初老のマスターがひどく緩慢な動作でグラスを磨いている。店内には、誰も知らないようなジャズがゆったりと流れていた。
「これで、現在日本にいる者は全員ッスか」
その中で、軽い口調で男が口を開いた。少しくすんだような色の金髪のツンツン頭の男である。
「ああ、卿はいまだに来日していないがな」
その声に答えたのは、グレーの長髪の男。細身だが、しっかりとした体である。
「しかたないじゃないッスか。卿もお忙しい」
肩をすくめる金髪男。その素振りは、いっちゃあ何だが軽薄そのものだ。だが、纏っている空気は全く違う。《異質》その物を具現化したような、そんなオーラ。
「そう言えば、リョロウ。カガミちゃんはどうしたんスか?」
「レンキが見てるよ。最近やっとこっちにも慣れたとこでね、それを壊したくない」
「はぁ~、やっぱ所帯持ちは違うッスねぇ~。羨ましいッス」
そこで会話に割り込んできたのは、やけに中性的な男。
知らない者が見たら、完全に女性だと誤解しそうな整った顔立ちである。
「そう言うウィルも、充分イケると思うけどなぁ。合コンでもしたら一発だよ」
「セイ、君に言われても嫌味にしか聞こえないッス…………」
そこでリョロウと呼ばれた男は、頭を巡らせて背後を見る。背後の壁に背を預けている茶髪の少女。
「それで《彼》はどうなっているの?ストルちゃん」
ストルと呼ばれた茶髪の少女は、フンッと顔を逸らしながら言った。
「ちゃん付けは止めてよ、リョロウ。…………良くないわ。よくもってあと数週間ね」
「そんなに、か………」
「悪いとは思ってはいたけど、そこまでなのかい?ストル」
セイと呼ばれた中性男子は、いまだに壁に背を押し付けるストルに訊く。
「ええ、そうよ、ヅカ王子。あいつも所詮《人間》よ。限界はあるわ」
「まぁ、もともとあの年齢で二年間も寝たきりでもったのが奇跡みたいなもんッスからね」
「まぁ……そうだね」
リョロウはふっと天井にはめ込まれた天窓に視線を向ける。
「……卿の判断は?」
「変わりはない。基本的に、静観視の体制を崩さないらしいッス」
ぎり、とリョロウは歯を食いしばる。悔しさが苦々しい味となって口の中にじわりと広がる。
「卿は何をお考えなんだ…………!」
ストルが肩をすくめて、さぁ?と言う。
「あの方の頭の中なんて、この中の誰にもわからないわよ。ただし、その考えが間違ったことはないからね」
「そうだよ。卿の考えは絶対に間違わない」
「しかしセイ、このままじゃあ《彼》の体力が………!」
「まぁまぁ、リョロウ。ここは卿のお考えを遵守すべきッスよ」
はぁ、とため息をつく一同。セイは、一人だけやれやれと肩をすくめている。その中で、ウィルがふと思い出したように言う。
「そう言えば、《彼女》の動向も本当に放っとくんスかねぇ」
「しかたないでしょ、卿が言ってんだから」
「結局はそこに行き着くんだよね。静観視っていう、さ」
「ま、現在地球上で唯一爵位を持つその人の言葉だからね。重みも違うさ」
「あれ?二人じゃなかったッスっけ」
「おいおいウィル。あっちの二年の間にもう一人のジーさんがおっ死んじゃったんだよ」
リョロウは軽く首を左右に振った。その隣でセイが思い出したようにウィルに訊く。
「そう言えば、フランス陸軍のほうはどうなんだい?復帰はできそうかい、ウィルヘイム・シュルツ大佐?」
「冗談言わないでくれッス。二年も職務放ったらかしにしといて、復帰も何もないッスよ。マジで上官にぶち殺されます」
一同に朗らかな笑いが広がる。そうでもしないと、眼前の議案にどっかにある重要なネジが飛びそうになるから。
だが、その笑いはすぐに収まった。
後に残ったのは、張り詰めたような空気と一様に厳しい顔。その中で、ウィルが厳かに言った。
その顔は、【神聖爵連盟】序列第二位の顔だった。
「もうすぐ卿は来日される。そうなったら全てが終わるッス。信じよう、我らが主。ヴォルティス=ヴァルナ=イーゼンハイム卿を………」
巨大な剣を背負い、肩にピクシーを乗せたキリトと巨大な黒狼を従えるレンとカグラと連れ立って歩くこと数分、リーファの眼前に、翡翠に輝く優美な塔が現れた。
シルフ領のシンボル、風の塔だ。何度見ても見飽きることのない美しさだ────と思いながら隣に眼を向けると、黒衣のスプリガンは先日自分が張り付いた辺りの壁を嫌そうな顔で眺め、紅衣のケットシーと巫女服のインプはそのことを思い出したのか、大いに笑いを噛み殺しつつ実際にはあんまり殺せてないような顔でいた。リーファはそんな彼らの顔を笑いを噛み殺しながら見回し、キリトの肘を突付いた。
「出発する前に、少しブレーキングの練習しとく?」
「………いいよ。今後は安全運転することにしたから」
「それが絶対に良いと思います」
横合いからなおも笑いを噛み殺しきれていないカグラに言われ、キリトは憮然とした表情で言う。
「それはそうと、何で塔に?用事でもあるのか?」
「キリトにーちゃん。今回みたいに長距離を飛ぶ時は高いとこから出発するんだよ。もし飛べなくなっても、グライダーみたいに滑空できて飛行距離が稼げるからね」
「ははあ、なるほどね」
頷くキリト達の背を押しながら、リーファはふと思いついて背後に従者のごとく付いて来るクーの姿に眼をやった。
「そう言えばレン君、昨日訊くのを忘れてたけどクーってどうするの?当たり前のことだけど、飛べないでしょ」
「そりゃリーファねーちゃん、そのまんまだよ。飛べなかったら地面を走ってくるんだよ。ちなみにクーの最高速度は、リーファねーちゃんが全力で飛んでも楽々追い抜いちゃうくらい速いよー」
「あー………」
まあ、なんとなくわかっていたが。スピード自慢のリーファからすれば、分かってはいたのだが軽くへこんでしまう。
「基本的にテイムされた使い魔が飛べない奴だと、たとえプレイヤーが飛んでても、その座標から離れることはないんだよ。どこまで行っても、どんな速い速度で飛んでも付いて来るんだ」
「へぇー………!」
すらすらとレンの口から出てきた立板に水な説明に、リーファはただただ驚いた。
シルフとケットシーは領主同士が懇意なのもあり、交易は盛んかつ互いに友好的な関係だ。
実際にシルフ領であるここでも、ケットシーを見かけることは決して少なくはない。
しかし、いくらテイミングが得意なケットシーと言えども、クーのような大型の使い魔を従えているのはかなり稀なプレイヤーだ。
その証拠に先ほどから行き交うシルフプレイヤー達の視線の九割がたは、のっしのっし歩くクーに向けられているような気がする。
そのため、必然的にシルフ領にて見かけるケットシーの多くは小型の、愛玩動物のような飛行可能使い魔を付き従えているのだ。
飛行ができない大型使い魔の行動のことなど、全くと言っていいほど知らなかった。
そんな会話をしつつ、ふと思いついて視線を塔の奥へと移す。
そこには、シルフ領主館の壮麗なシルエットが朝焼けに浮かんでいた。
館の主人であるサクヤという名の女性プレイヤーとは旧知の仲なので、しばらく街を離れると挨拶しておこうかと一瞬考えたのだが、建物の中心に屹立する細いポールにはシルフの紋章旗が上がっていない。
滅多にあることではないが、今日は一日領主が不在だというしるしだ。
「どうかした?」
首を傾げるキリト達に、ううん、とリーファは首を振った。
サクヤには後からメールしておこうと考え、気を取り直して風の塔の正面扉をくぐって内部へと進む。
ちなみにここからクーとはお別れらしい。漆黒の巨体を揺すりながら、シルエットが遠ざかっていく。
アレが一匹だけで領内をほっつき歩くと言うのは、それはそれでかなり問題があるような気がするが、それは今は置いとこう。
一回は円形のロビーになっており、周囲をぐるりと色々なショップの類が取り囲んでいる。
ロビーの中央には魔法力で動くと思しきエレベータが二基設置され、定期的にプレイヤーを吸い込んだり吐き出したりしている。
アルヴヘイム時間では夜が明けたばかりだが、現実では夕方に差し掛かっているので、行き交う人の数がそろそろ増え始める頃だ。
三人の腕を苦労して引っ張りながら、ちょうど降りてきた右側のエレベータに駆け込もうとした、その時────
不意に傍らから数人のプレイヤーが現れ、二人の行く手を塞いだ。激突する寸前で、どうにか翅を広げて踏みとどまる。
「ちょっと危ないじゃない!」
反射的に文句を言いながら、眼の前に立ち塞がる長身の男を見上げると、それはリーファのよく知った顔だった。
「…………シグルド」
後書き
なべさん「はい、始まりました!そーどあーとがき☆おんらいん!」
レン「今回はまた………随分とシリアスとコミカルが分かれた話だったね」
なべさん「ふふん、それにフラグもいっぱい立ったしな」
レン「回収できるのか?」
なべさん「それはその時にしかわからない」
レン「不安だ…………」
なべさん「それに今回は、送ってきてもらった自作キャラ達も出せたしねー。個人的には満足」
レン「ここしか出番がないとかって言う事態に陥らないことを切に願うよ」
なべさん「はい、自作キャラ、感想を送ってきてください!」
──To be continued──
ページ上へ戻る