魔法少女リリカルなのは ~優しき仮面をつけし破壊者~
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無印編 破壊者、魔法と出会う
12話:竜巻と赤き鳥と秘めたる思い
フェイトとの偶然の遭遇から数日。あの日はフェイトの元から去ってからすぐクロノから通信が入って、色々うるさかった。何があったのか、なんで通信が通らなかったのか、その他諸々。
ていうか主にうるさかったのは、クロノよりクロノと一緒にいたアースラの通信主任で副艦長をつとめる女性、エイミィ・リミエッタの方だったな。
まぁ結局のところフェイトと会った事は伝えてないし、通信できなかったのもなんとかはぐらかした。
そして今日はアースラ搭乗より十日目。この十日で管理局との共同の捜索により俺達は三つのジュエルシードを確保した。これによりこちら側は計九つ。フェイト側は二つを手に入れ計五つ。合計十六のジュエルシードがそれぞれの手にある。そして残るジュエルシードは六つ。
しかしこの六つ、リンディさん達でも捜索が難航しているらしい。
「ん~…今日も空振りだったね…」
「うん…」
「そうだな」
なのはの言葉に俺とユーノが口を開ける。現在俺達はアースラの食堂でつまみの菓子を食べている。
「もしかしたら、結構長くかかるかも。なのは、士、ごめんね」
「ふぇ?」
「なんだいきなり」
「寂しく、ない?」
なんか心配そうな顔をしていうユーノ。いきなり何をいうかと思えば……
「別にちっとも寂しくないよ。ユーノ君や士君といっひょらひ」
「物をくわえながらしゃべるなよ…」
「あ、ごめんごめん…。でもほんとだよ。今はユーノ君がいて、士君がいて…全然、ちっとも寂しくなんかない…」
そう笑みを見せながらいうなのは。俺はその笑顔を見て、ふと昔を思い出す。
「また、そんな笑顔をしやがって…」
「え?」
「あん時と同じ顔してるぞ、お前」
「あの時って……」
俺に言われて少し考えた末、あぁ、となるなのは。だが、すぐにその顔は申し訳なさそうな顔になる。
「ごめんね。あの頃の事思い出してたらつい…」
「別に謝る事でもないだろ…」
「あ、あの~。ちょっと、いいかな?」
「「ふぇ(ん)?」」
そう会話が進む中、話についていけないユーノが声を上げた。
「二人の言う「あの頃」って……」
「あ、まだユーノ君には話してなかったね」
「おい、いいのか話して?」
「うん。別に隠しておいた方がいいことでもないし…」
そう言って、なのはは表情を少し険しくして話し始めた。
『あの頃』、数年前の出来事について――――
数年前、私と士君がまだ小さかった頃の話なの。だいたい、小学校に行く前だったよね?
その頃ね、家のお父さんが仕事の最中に大怪我しちゃったんだ。しばらくベットから起き上がれないぐらいの、大怪我。
喫茶店も始めたばかりで、今程人気がなかったけど、お母さんとお父さんが二人で始めた事だったから。一人になっちゃったお母さんは、お兄ちゃんと一緒にがんばってた。
お姉ちゃんはずっとお父さんの看病。お父さんが起きるまで、ほんともうつきっきりで……
だから、私よく家で一人にいる事が多かったの。
士君?士君はその頃はもうすごかったよ。大抵は家にいて、家事なんか色々やってたし、時間があるときは喫茶店の方のお手伝いにも行って。私はそんな士君を見てる事しかできなくて……
でもなんか、家の雰囲気はギクシャクしてたの。何かが張りつめているような、そんな感じ。
私は、その頃「いい子でいよう」って思ってたの。いい子で待っていれば、お父さんも戻ってくる。いい子でいれば、またお母さん達がそばにいてくれるって……
そんな状況がしばらく続いた時だった。私は友達と遊んでくると言って、家を出た。でも、それは嘘。ほんとは、一人で公園のベンチで座ってたの。ただずっと、夕ご飯ができるまで。
それで、喫茶店から帰ってきた士君に来てもらって、家に帰る事にした。
その時だった。
『なのは、なんでそんな悲しい顔をするの?』
『え…?』
士君から言われた一言が、とても衝撃的だった。だって、自分では笑顔でいると思ってたんだもん。皆を心配させない為に、私が「いい子」でいられるように。
でも、士君にはっきりと言われてしまった。
『そんなこと…ないよ。私、笑ってるでしょ?』
『確かに笑ってるよ。でも、どこか無理しているような…』
『無理なんかしてないよ、私!無理なんか、してなんか……』
だけど、はっきりと否定できなくなっちゃったの。自分でも、無理してたのがわかってたから。
『…なのは、なんで…なんで泣いてるの?』
『え……?』
気がつくと私の頬に涙が本当に流れてた。すぐに拭うけど、それを上回る程の涙が流れてくる。
『あれ…おかしい、なぁ…なんで…なん……』
その時、私は何かに包まれたの。でも、すぐにそれが何なのかわかった。
『ごめん、なのは。ごめんね…』
『なんで…士くんっ、が…あや、まるの…?』
『だって…なのはがこんなになるまで…気づけなかったんだよ…』
よく聞くと、士君も泣いているようだった。
『でも…私…私……』
『もう、いいんだ。無理しないで…いいんだ…』
士君にそう言われ、もう私は涙を止める事はなかった。そのまま、小さく声を上げながら、私は泣いたの。
しばらくして、私が落ち着き始めた頃を見計らってか、士君は話し始めた。
『ほんとに、ごめんな、なのは』
『ううん、いいの。ありがとう、士君』
『どういたしまして、かな?』
少し抱きしめる力をお互い緩める。それでお互いの顔が目に入る。
『…決めた』
『え?』
『明日から…いや、今からできるだけ、なのはと一緒にいることにする』
『え!?』
士君は突然そう宣言したの。私は驚いて声を上げたの。
『で、でもそれじゃあ喫茶店は…』
『僕がいたって変わらないよ。ちっちゃいし、ちょこちょこ動き回って、逆に邪魔だと思うんだ。だから、今日桃子さんに話してみる』
そう言って士君は抱きしめる腕を放す。士君の温もりが離れていくのを感じ、実は少し残念に思っちゃったりして……
すると離れた士君は右手を差し出してこう言ったの。
『さ、行こ!桃子さんに話さなきゃ』
『…うん!』
私はその手を握って、士君の横に並んで家へ向かった。
「その後、ちゃんとお母さん達に正直な事を話したの。そしたらお母さんには泣いて謝られてたりあって…」
「ちゃんと解決できたんだ」
「うん……」
さて、ここで俺から正直な話をさせてもらおう。
――――めっさ気恥ずかしい!!
ちょ、俺そんな事言ってたっけ!?あの頃の俺は記憶が戻ってすぐだったんだよな。でもそれまでにあった精神に、無理矢理別の別の精神をねじ込んだようなものだから、口調もしっかりしてなかったから…。翠屋にいたり家事をしてたのは、俺も何かやんなきゃって思って…。それでなのはの様子にも気づけず……
とにかく気恥ずかしい!!
「?士君どうしたの?」
「い、いやぁ…なんでも……」
俺の顔を覗き込んでくるなのはに、直視できなくなった俺は目線を外してしまった。いや、マジで気恥ずかしい……
その瞬間、赤い表示が出現すると共にビービーと警戒音がなり始めた。
「なのは、ユーノ!」
「「うん!」」
俺達はすぐにアースラのブリッジへと向かう。
「フェイトちゃん!」
自動ドアが開くと共にそう叫びながら入るなのは。俺もそれと同時に中へ。ユーノもそれに続く。
ブリッジの上部に映る画像には、今まさに暴走するジュエルシードと戦っているフェイトが映っていた。
「あの!私急いで現場に…!」
「その必要はないよ。放っておけばあの子は自滅する」
「「っ!」」
「なんだと…!」
現場へ行く許可をもらおうとリンディさんに叫ぶが、クロノが冷たく言い放つ。その言葉は俺達三人の動きを止めるには強烈すぎるものだった。
「仮に自滅しなかったとしても、力を使い果たしたところで、叩けばいい」
「でも…!」
「今のうちに捕獲の準備を!」
「了解!」
なのはの反論も聞こうともせず、指示を飛ばすクロノ。
「私達は、常に最善の選択をしなければならないわ。残酷に見えるかもしれないけど、これが現実…」
「でも…」
リンディさんもそう言い、なのはは完全に反論しなくなってしまった。
[…ユーノ、ちょっといいか?]
[士?どうしたの、こんな時に?]
そんな中、俺はユーノに念話をつなぐ。急に話しかけられたユーノは驚きながらも返事をする。
[アイツらの結界内へ俺を転送することはできるか?]
[転送?できるけど、リンディさんやクロノはああ言ってるし]
[できるんだな?]
[う、うん……]
[なら頼む]
それだけ言って、俺は踵を返す。後ろにいたユーノは少し難しい顔をしてこちらを見ている。それでも俺はアースラにある転送用の装置へと向かう。
「待ちたまえ!」
するとそこにクロノの声が響き渡る。俺は進める足を止め、振り返る。そこにはデバイスをこちらに構えた、下にいた筈のクロノと、こちらを見るなのはとリンディさんがいた。
「士、君は今何処に行こうとしている?」
「何処って、決まっているだろ。地上に向かう」
「さっきも言ったが、僕達が動く必要はない。彼女はいずれ自滅する」
デバイスを構えたまま言うクロノ。俺とクロノの目線は今、お互いの間でぶつかっている。俺はちゃんとしていなかった体をクロノへ向ける。
「それは…この世界を守る為の選択か?」
「そうだ」
俺の質問にクロノはすんなりと答える。俺は一瞬眉を動かす。俺は一歩一歩クロノの元へ向かいながらクロノに問う。
「ならお前は、何の為に戦う。お前の正義はなんだ?」
「僕は管理局の正義の為に、世界を…世界の人々を守る為に戦っている」
俺に向けていたデバイスを縦にし、こちらを見据える。
「………ふん!」
「がっ…!」
クロノの目の前に着いた俺は、拳を握りクロノの頬を殴る。クロノはそれを避ける事ができず、アースラの床へ倒れる。
「っ、君は…!」
何かしゃべろうとしたクロノに、俺はまたがるように立ち、胸ぐらを掴み少し持ち上げる。
「管理局の正義だぁ?ふざけるな!てめぇはそんな薄っぺらい正義の為に戦ってるっていうのか!?」
「薄っぺらい正義だと…ふざけてるのは君の方じゃないのか!?」
倒れていたクロノは俺の手を弾き立ち上がる。そしてすぐに俺の胸ぐらを掴み返す。
「そうだ。他人から与えられた正義をただ掲げるだけなら、誰だってできる!そんな正義で、世界なんかが救えるものか!」
「なんだと!?管理局は数々の世界を救ってきたんだぞ!」
「ならお前は、アイツのような少女を一人だけ見捨てて、世界を救ったとして……『世界を救った』と、お前は胸を張れるのか!?」
「っ!?」
俺の一言に目を見開くクロノ。だがすぐに表情を戻し、俺を睨んでくる。
「それが世界にとって最善の策なら…」
「それが最善の策だと?ざけんな!その場合、少女も含め全員救ってこそ、最善と言えるんじゃないのか!?」
「なら君ならどうする!?」
そう言いながら振りかぶられるクロノの右拳。それはまっすぐ俺に向かって飛んでくるが、俺は左手で受け止める。
「君がもしそんな状況に立たされたなら、同じようにするんじゃないのか!?」
「少女一人を犠牲に世界を救う?違うな!俺はその少女も世界も、全部きちんと救う!」
掴んだ拳を横にずらしながら叫ぶ。
「そんな都合のいい事があるか!何かを救う為には、何かを犠牲にしなくては行けないときだってある!」
「だが俺は、そんな犠牲を生み出して救った世界で、胸を張って生きてはいられない!もしその子が救える状況があったとしたら、なおさら俺は後悔する!」
そして掴んでいた拳を放し、胸ぐらを掴んでいた手も弾く。
「今アイツは俺達で救える状況にある。だから助けるんだ」
「なら君は、一体何の為に戦う!君の正義は、一体なんだ!?」
再び転送装置へ歩みを進めるが、すぐにクロノの言葉で足が止まる。
「そこまで言うなら、君にだってそれなりの正義がある筈だ!それなりの、戦う理由がある筈だ!答えろ!」
俺はその言葉を聞き、再びクロノに体を向ける。
「先に言っておくが、俺にはお前ら管理局の正義のような、大それた正義は持ち合わせちゃいない」
「何…!?」
俺のセリフに顔をしかめるクロノ。だが、そんなのはどうでもいい。
「俺の戦う理由は、世界を救いたいだの守りたいだの、そんな大きな物じゃない。俺は、この先絶対に後悔しない為に戦う。俺の目の前で、誰かが苦しんで、その人の笑顔が消えるのが嫌なんだ。
だから戦うんだ。この手が届く範囲で、この両手と両腕で抱えられるだけののものを、大切だと本気で思える人達を守る為に!その人達の笑顔を守る為に!」
クロノは俺の言葉を聞いても、一言も言葉をもらさない。俺は三度背をクロノに向ける。
「これが俺の正義、戦う理由だ。それが誰かにきれい事だと言われようとも、お前らの言う「現実」よりかは、かなりマシだ!」
「なら…それを行ったせいで、君が世界から妬まれるとしても…君はそれをできるのか!?」
「世界がなんだ!今の俺には、世界を敵に回してでも、守りたいものがある!それを守ったが為に、世界が俺を『悪』だと言うのなら――――
――――俺は『悪』にだってなってやる!!」
そして足を動かす。途中、ユーノと顔を合わせるが、ユーノは先程とは違った表情をしていた。
[士。君の覚悟、聞かせてもらったよ]
[ふんっ…」
[それじゃあ、転送の準備始めるから、中に入ってて]
[わかった]
念話で話しかけられる。ユーノの言葉をまともに受けるつもりはなく、足を動かす速さをそのままに装置へと向かう。
その途中で装置が光りだした。俺はその中へと入る。するとそこに走ってきたなのはが飛び込んできた。
「なのは、君まで…!」
「ごめんなさい!高町なのは、指示を無視して勝手な行動をとります!」
顔だけこちらに向けたユーノに合図として頷く。すぐにユーノは正面を向き、手で印を刻む。
「あの子の結界内へ、転送!」
その声と共に、俺となのはは光に包まれた。
「守りたいものの為に…か……」
二人が地上へ向かって転送されてから、すぐにリンディはそうつぶやいた。
彼が、士がした叫びは、アースラに乗る者にとってはとても心に響くものだった。リンディにも、勿論クロノにも。
「彼には…何もかも負けているような気がします。実力に至っても、秘めたる思いも…」
「そうね…」
クロノはそう言いながら、転送され下へ落ちていく二人の映像を見る。
そんな中、一人だけ疑問を抱いたものがいた。
「そういえば……士って、空飛べたっけ?」
「「え…?」」
ユーノの呟きを聞いたリンディとクロノは、短く言葉を発した。
白い雲の間を抜けながら、俺達は背中を下にまっすぐ落ちていく。
「これがスカイダイビングする人の感覚かぁ…なんか…いい……」
「つ、士君!そんな事言ってる場合じゃないの!士君、このままじゃ落ちちゃうよ!?」
気持ちよくつぶやく俺に、なのはは慌てた様子で話してくる。
「はぁ?俺が落ちる?もう落ちてるじゃねぇか、俺もお前も」
「そうじゃなくて!士君空飛べないんだから…」
「空を飛べない?何をバカな事を」
「ふぇ!?」
なのはの心配事はそれか。まぁ、今まで空を飛んでいるところを見せた事がないから仕様がないか。
「まぁ、俺の事はいいから。まずは自分の心配をしろ」
「で、でも…!」
「いいから。ディケイドの可能性、見くびっては困る!トリス、セットアップ!」
〈 All right. Set up 〉
手首にあったトリスは光を放ちながら俺の腰の当たりにやってくる。そして光が消えたとき、そこにはいつものディケイドライバーがあった。
「さぁ、行くぜ。変身!」
〈 KAMEN RIDE・DECADE 〉
そしてカードを挿入し、バックルを回す。いつも音声と共に、俺の姿はディケイドへと変わる。
「風は空に、星は天に。輝く光はこの腕に。不屈の心はこの胸に!レイジングハート、セーットアーップ!」
〈 Stand by. Ready 〉
なのはもレイジングハートを起動させ、バリアジャケットを展開する。
「さて、空を飛ぶなら、お気に入りのこいつで!」
〈 KAMEN RIDE・OOO! 〉
〈タカ、トラ、バッタ!タ・ト・バ!タトバタ・ト・バ!!〉
ディケイドライバーの音声と共に、俺の前に複数のメダル型のホログラムが回転しながら現れる。そして不思議な歌と共に上から赤、黄色、緑のメダルが俺の目の前で止まる。それらが一つになり、俺の胸へ当たる。それにより俺の体は次第に変わり始め、三色に体の色が分かれ、緑の複眼を持つ『仮面ライダーオーズ』へと変身する。
「また別の姿!?今の歌は何!?」
「あ、歌は気にするなよ。だがまだ行くぜ!今解放する、鳥の力!」
〈 FORM RIDE・OOO TAJADOL! 〉
〈タカ、クジャク、コンドル!タ〜ジャ〜ドルゥ〜〜!〉
再びカードを発動。すると先程のメダル型のホログラムが回転し始め、今度は三つとも赤のメダルで止まる。そして一つとなり、俺の胸に当たると、俺の体は赤一色に統一され、所々に鳥をモチーフにしたデザインが入った姿、『オーズ・タジャドルコンボ』へと変身する。
「今度は赤くなった!?」
「行くぞなのは!クジャクウィング、展開!」
俺は背中にある三対の翼、『クジャクウィング』を展開し、地上へ向け飛行を始める。
後書き
色々とコメントが来ていて、自分としてはうれしいかぎりです。
皆様の意見や考えを取り入れながら、少しずつ修正していいものにしていきます。
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