久遠の神話
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第四十二話 表と裏その一
久遠の神話
第四十二話 表と裏
この日上城は大石と共にいた。その彼とだ。
共に巨大な怪物と戦っていた。怪物は海の中から出て来ていた。
巨大な鯨だった。二人は神戸の海の上を剣の力の一部を使って飛びながらそのうえで鯨と戦っていた。鯨はマッコウクジラに似ている。色は漆黒だ。
海から出て来るその怪物を見つつだ。大石はこう上城に言った。
「この鯨ですが」
「ギリシア神話で出てきてました?」
「はい、ペルセウスが石にした鯨ですね」
「あっ、あのアンドロメダを襲っていた」
「はい、あの王女を食べようとしていた鯨です」
「あの鯨だったんですか」
「怪物は陸や空に出るだけではありませんので」
大石はこのことも言った。二人は今海の上を鳥の様に飛びその手に持っている剣から力を放って爆撃の様に攻めている。そうしながらの言葉だった。
「ですから」
「こうした怪物と戦うこともですか」
「有り得ることです。ただ」
「ただ?」
「海での戦い、水全体がそうですが」
海から巨体を躍らせて襲い掛かる怪物を飛んで避けながらの言葉だった。
「水の中に入って戦うことは」
「危険ですか」
「鮫は何故恐ろしいのか」
海の恐怖の象徴であるこの魚の話にもなる。
「それは彼等の領域の中にいるからです」
「海にですか」
「海は鮫の世界です。敵の世界に入ってしまえば」
「劣勢になることも当然ですか」
「鮫は海で戦ってはなりません」
これが大石の言いたいことの一部だった。
「そしてです」
「そうしてですか」
「鯨も同じです」
彼等が今戦っているこの怪物も然りだというのだ。
「こうして空から攻めることです」
「決して海には入らずですね」
「そう言うことです。今鯨は下から上に飛び上がり」
実際にそうしてきている。そしてその巨大な口で二人を飲み込むか巨体で体当たりをして倒さんとしている。だが、だった。
二人は空を舞いそのうえでかわす。その中で今度は上城が言った。
「剣の力を引き出せばですね」
「こうして飛ぶこともできるのですね」
「ですね。これもまた剣の力ですか」
「これはさながらです」
一旦上に上がりそこから急降下攻撃を仕掛けてきた鯨の巨体を右に横一直線に飛びかわしてからの言葉である。
「ペルセウスのサンダルですね」
「ペルセウスですか」
「はい、ギリシア神話の英雄の」
二人が今戦う鯨をメデューサの首で石にしたその英雄だ。
「彼の様ですね」
「ううん、じゃあ僕達は」
「今はペルセウスになっています」
それが今の彼等だというのだ。一旦海に戻った鯨と怪物が起こす巨大な水飛沫、青い海に起こったそれも見て言う。
「ただしです」
「メデューサの首はなくともですね」
「あの首は私達には不要です」
そうだというのだ。
「何故なら剣がありますので」
「それ故にですね」
「はい、そうです」
まさにその通りだというのだ。
「剣士はこの剣の力で戦うからこそ」
「あの首は不要ですね」
「鯨はかなりの強さがあります」
それは間違いないということもだ。大石は二人で鯨の上を飛びながら言う。鯨は今は海面の中に身を隠している。
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