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万華鏡

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第二十四話 難波その十三

「若しなくても」
「そうなのね」
「それがいい場所とは限らないかも知れないけれど」
「あっ、それって」
「いい場所と悪い場所があるでしょ」
「いい人も悪い人も」
「この難波なんて特にね」
 この街の話も出る。大阪の中でもとりわけ雑多で猥雑なこの街の。
「ちょっと隅に行くと」
「いかがわしいっていうかね」
「そういう人がいたりして」
「場所があって」
「居場所っていっても色々だから」
 それでだというのだ。
「おかしな場所に落ち着いたら」
「おかしくなるわよね」
「そうした場所を探すのも人間みたいだから」
 景子はこうも言う。
「じっくりと。居場所は見ないといけないかもね」
「私結構考えなしに八条学園を受けたけど」
 琴乃は話してくれた景子のその顔を見ながら言った。
「それで軽音楽部に入ったのもね」
「あまり考えてなかったのね」
「特にね」
 そうだった、実際に。
「というかあまり深く考えてなかったけれど」
「それでも悪い場所には思わなかったわよね」
「特にね」 
 そうだったというのだ。
「学校も受験の時に事前見学したし」
「広くて設備もよくて綺麗でね」
「雰囲気もよかったから」 
 そうしたものは見た、それで琴乃も決めたのだ。
「それでだけれど」
「じゃあそれでよかったのよ」
「いい居場所ってことをその時で」
「琴乃ちゃんもわかったのよ」
「そうなの」
「そう、何となくだったかも知れないけれど」
 景子は琴乃に善哉を食べながら穏やかな顔で話していく。
「それでもね」
「ううん、そうなのね」
「そう。それで」
「部活もなのね」
「悪い部活も雰囲気でわかったでしょ」
「多分。その場ではわからなくても」
 琴乃はきょとんとしながらも少し考える感じで述べていく。
「少しずつね」
「わかるものよね」
「おかしな先生とか先輩とかね。同級生とかいたわ」
「わかるからね」
「そうしたところって幾らいいスポーツなり芸術とかをしていても」
「部活も人が作るからね」
「よくない場所になるから」
「悪い居場所なら去らないと」
「自分にとってよくないわよね」
「中学校の時に聞いたことだけれど」
 ここで景子の顔が曇った、そのうえでの言葉だった。
「剣道部があってその顧問がとんでもない暴力教師で」
「ああ、そんな先生のところにいたらよね」
「剣道を大好きな人が剣道を止めたらしいのよ」
「暴力に耐えられなくてもね」
「その人道場で続けるつもりだったけれど親が無理に部活を続けさせようとしてね」
 よくある話であろうか。日本の教育は日教組という組織により腐敗しそれでこうした暴力教師も残っているのだ。
 そしてその暴力教師によってだというのだ。
「もう剣道自体を続けられなくなるまで精神的に追い詰められて」
「剣道辞めたの」
「そうなったらしいのよ」
「悪い居場所よね、それって」
「その例よね」
「ええ、そうよ」
 まさにそれだというのだ。
「本当にそういう居場所はね」
「いたら駄目だよな」
 美優は曇った顔で言った。
「若しもいたらな」
「嫌な思いもするし」
 それにだった。
「いい結果にならないわ」
「だよな、やっぱりいい場所にいないとな」
 美優は難しい顔のまま景子に応えた。 
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