なりたくないけどチートな勇者
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31*謎の増援
昨日のパーティーで、なにやらお偉いさんをぶちのめした直後、自分は泥のようにめくるめく夢の世界へと旅立っていった。
その時、きっちりと黒ゴス少女はお家へ強制転移させ、鍵もしっかりと閉めておいたので安心して睡眠を貪ることができたのだ。
そして安心しきった自分は、いつも通りの遅起きを決めこみ、起きた直後で動く気になれず目を閉じたままぼーっとしていた。
そして、段々頭が覚醒してきた事でようやく異変に気付くのである。
………なんか、右腕が動かない。
ついでに、お腹あたりになにかが乗っている。
なんとなーく予想は出来てたのだが、おそおそる右を見てみると
「おはようございます先生。もぅ、お寝坊さんですね」
自分の目の前10センチの所に、ヤンデレ吸血娘ことシルバちゃんが寝転がっていた。
彼女は自分の頬をツンツンしながら、なおも自分に近付こうとさらにきつく抱き着いてくる。
「なぜ君がここにいる!?」
事の異常さ加減にやっとこさ気付いた自分は、跳びはねるようにシルバちゃんから距離をとった。
「照れなくても大丈夫ですよ。それに、愛の前に不可能はないんです」
いやいやいや、確か自分はしっかりと鍵を閉めたよ?
案外頑丈な作りで、ちょっとやそっとじゃ壊れないように加工したんだからこの娘にそれをこじる開けなんて……
「天井かぁ……」
自分の視界の隅に写ったもの、それは穴が空いた天井である。
……本気でこの娘は何なんだろうか。
将来が限りなく心配である。
そして、自分の命も。
「せーんせ!えい!!」
「の!?」
自分がこの娘の未来を悲観している隙に、彼女はいきなり自分に飛び乗ってきた。
そしてすりすりしながら
「えへへ、おめでとうございます!」
とか言ってきた。
なにが?
「実は昨日、先生はサザールス家の不正を暴いたり決闘で圧勝したりして、いきなり候爵まで爵位が上がったんですよ」
……は?
「……それってどんくらい偉いん?」
「魔王様の次に公爵があって、その次に偉い爵位です!!」
……………まぢで?
「ちょま!なんの冗談!?」
「冗談じゃないですよ。ぜーんぶ本当です」
「え~……」
なにがしたいのこの国は。
自分みたいなニート予備軍のお兄さん、略しておNEETAん(おにーたん)な人間をそんな重要ポストに配置するとか、頭おかしいんでないか?
そうやって頭を抱えながらシルバちゃんを抱えていると、不意にドアから
「ナルミ!起きてる……む、鍵が……おいナルミ!開けろ!朗報があるぞ!!」
ドンドンドンとエリザさんが乱暴に扉を叩く音がしてきた。
つか、こいつの朗報が本当に朗報である確率は限りなく低いと思う。
そう思い、奴が諦めてその場所を去る事を期待しながら黙って静かに息を潜めていた。
だが直後、自分はこの行動を後悔する事になった。
「むー……しかたない」
そう言ってエリザが扉から少し離れる気配を感じ、安心した時それは起こった。
「私のこの手が真っ赤に燃える!勝利を掴めと轟き叫ぶ!!」
!!?
「いくぞ!ばぁぁぁくねつ!ごっどふぃんがー!!」
ドゴォォン!!
轟音と爆風と共に飛んでくる元扉とその周囲にあった壁だったものをなんとか防ぎつつ、その爆発源を覗くと、そこには右拳を突き出したエリザがいた。
「おお!やはりできたか!おいナルミ!どうだ!!」
彼女は自分を確認すると、パタパタとこちらに駆け寄ってきた。
「……どうやった?自分、教えた覚えないんだが」
「グラビデで炎魔法を一気に凝縮させ、拳に乗せて爆発させたのだ!!」
そう自慢げに言いながら胸を張るエリザ。
……改めて、魔法スゲー。
「……で、朗報とは?チャッチャと用件を言え。こんな事しでかすくらいなんだからよほどいいことなんだろうな」
ほら、扉があった所を見てごらんなさい。
なんかいっぱい、40人ちかいやじ馬が来てしまっちゃったでしょうが。
周りの迷惑考えて行動しなさい。
……あれ?
なんでやじ馬みんなフツーに女の子もいるの?
ここ男性用宿舎よ?襲われるよ?
そしてみんななんで鎧でなくてフツーに服着てるの?
ここ兵士用宿舎よ?みんなしてサボり?
…………あっれー?
「む、そうだ。ナルミが私を無視せずに素直に扉を開ければ………すまん、そういう事だったか。無粋な真似をしてすまなかった」
最初は威勢よく話していたエリザだが、なぜかだんだんおとなしく、本気ですまないと感じている風にしおらしく謝って来た。
「何がだ」
「いや……まさか昼間っから……なぁ」
そう言いながら、エリザはだんだん視線を下に移動させていく。
そしてその先には
「昼間だろうが夜だろうが、私は先生とつねに共にいるのですよ、姫様」
まぁ、お約束のシルバちゃんである。
うん、客観的にみたらこれはあれだ、ゴニョゴニョしたりチョメチョメをやったりしてるように見えなくもない。
てゆーかやじ馬、何がキャーだ。
特にうるさいのは女の子だが、早く仕事に戻れバーロー。
「まぁ……邪魔して悪かった」
「限りなく勘違いだから、なにアホなコト考えてんだバカヤロー。用件話せ用件。そしてシルバちゃんも調子乗らない、離れなさい」
そう言いながらシルバちゃんを自分から引き離し、エリザに向き直る。
それと同時に、離れた途端に膨らんだ彼女の頬っぺたを突いて中の空気を放出させる。
よし、やはり近所の子供と同じようになんか機嫌が良くなった。
これで自分の寿命が延びた。
「とりあえず、なんか自分がいきなし候爵とか言うのになっちゃったってのは聞いたけど、それだけ?」
自分的にはそれだけでも十分お腹いっぱいだから、それ以上いらないんだが。
「あ、あぁ。それは聞いたのか。もちろんそれだけではないぞ」
「え~、マジで~」
「まじだ、ちゃんと聞け。実はおまえが候爵になった事で、近衛隊においとく事が出来なくなってな」
重々しく彼女が言ったその言葉に一番反応したのは、シルバちゃんであった。
「ちょっと待って下さい!じゃあ、先生は先生じゃなくなってしまうんですか!?」
「落ち着けシルバ。そこでだ、父様に進言してナルミを私専属の物理学講師として雇う事にしたのだ。それによりナルミの知識や技術は王族のお墨付きとしてさらに箔が付き、ナルミ自身の格も上がるというモノだ。さらに言うと、物理学の現在唯一の専門家にして創始者であるナルミを王族のお抱えにする事で王族の威厳もさらに強くなるという事だ」
……ナニソレ?
「……つまり、どゆこと?」
「つまり、おまえは正式に物理学の教授として国に認められたのだ」
「ざけんな、なんだそれ。自身にもそんな専門家とか先生とかじゃないから教授とか……何言ってんだ自分!落ち着け!!」
「そしてさらに、もう一つ」
「まだあんの!?マジ勘弁、もう無理!」
これ以上はストレスで胃に穴が空くよ!
もう自分を追い詰めるのはやめて下さい!!
そんな感じに若干錯乱気味の自分を見て、カラカラ笑いながらエリザは
「そう言うな、彼らがかわいそうではないか」
そう言いながら後ろにいたやじ馬達に、手で合図して全員を部屋に招き入れる。
すると入った途端に、全員揃って膝をつきはじめた。
………なになぜほわい、わっつはぷん。
「彼らはサザールス家にいた奴隷だった者達だ。昨日ナルミが倒した奴らを調べた所、『服従の首輪』がついていてな。それを証拠にサザールス家の家宅捜査をした結果、なんと合わせて38名もの奴隷がいてな、それが彼らなのだ」
「フムフム、で?」
彼らが何者かはわかったが、彼らがなぜここにいるかはわからない。
「保護したはいいが、彼らについている首輪がどーにも相当強力な遺産《ロスト》らしくてなかなか外せないのだ。だが、そこでおまえの登場だ」
そう言いながら、ビシッと自分を指差すエリザ。
意味がわからない。
「昨日のナルミが放ったげっこーちょーが、ナルミが倒したデリとチーという奴隷の首輪を砂にしたのだ。つまり、おまえに彼らを開放してやって欲しいという事だ」
ああ、なーる。
そーゆー事っすか。
「ん、わかった。じゃあやりますか」
「私達は離れてたほうがいかったりするか?」
「んにゃ、問題ない」
そう言いながら、月光蝶を発動させてそれを試しに一番近くにいた少女にあててやる。
すると、当たった所から首輪が砂に……
「中止ー!!」
「な!どうしたナルミ!?」
いきなりの自分の叫びに驚くエリザと、それを聞き裏切られたかのような絶望の表情をする皆様方々。
だが、しかたないじゃないか。
だって……
「とりあえず、エリザ……」
「な、なんだナルミ。何か問題でもあったのか?」
「ああ、無視出来ない問題が発覚した。………だから」
だって……
「………全員分の服を用意してくれ」
首輪と一緒に服まで砂にしちゃうんだもん。
***********~☆
それから即座に着替えを用意して問題は解決した、が。
「……なんであんたらまでいるん」
「悪いか?……痛っ、エリザこら!蹴るな!」
「なんで!兄様まで!ここに!きますか!」
「エリザ、狙うならふくらはぎでなく臑を狙いなさい」
服とともにイノムさんと馬鹿バリスまで一緒にきやがったのだ。
ちなみにイノムさんはきっちりショートボブになっている。
とりあえずシルバちゃんも含め彼らを廊下に締めだして全員を開放した所、みんな涙を流して喜びはじめた。
うん、なんかうれしいね、こう喜ばれると。
だがシルバさんよ、そんな警戒しないでも自分はここにいる女の子達を襲わないし、彼女らも自分なぞにそんな感情を持つハズがないから。
だからそんな絶対離さないオーラを出して抱き着かないで。
腕に血が行き届かない。
……しかし
「なあエリザ、これのどこらへんが朗報なんだ?」
ぶっちゃけ、もったいつけながら言われていたのに、言っちゃ悪いがこれは自分にメリットがない。
いや、なんかご褒美ちょーだいとか言いたい訳ではないが。
そんな自分の質問に、いまだにゲシゲシバリスを蹴っているエリザのかわりに、その泣いて喜んでいた人達の中にいた、まだ13歳くらいの子供が答えてくれた。
「その質問にはボクが答えさせていただきます、ご主人様。奥様もお聞き下さい」
ん?
なにか今とんでもない単語が二つ程聞こえた気がするのはきのせいかな?
「ボク達は様々な理由から売られたり捕らえられたりして奴隷となった者達です。自由も帰る場所もないボク達はまいままでサザールスの家で虐げられながら、これが運命なのだと諦め、絶望し、いつ殺されるかという恐怖と戦いながら生きていました。ですが、あなたはそんなボク達を救い、開放してくださいました!!」
そう言いながら、グッと小さく拳を握るその子の後ろには、いつのまにか他の人達が自分にまたもや膝をつき、ひざまづいている。
そして、その子もみんなと同じように膝をついて、ゆっくりと話しはじめた。
「そして、ボク達は先程申しましたように帰る場所がございませんし、いつ死んでいたかもわからない失ったはずの命です!ならば!ボク等全員、ハセガワ・ナルミ候爵様に真の忠誠を誓い、あなたのために働きとう存じます!そのために時にはこの身を剣として仇なす敵を打ち倒し、時にははこの命を盾として迫り来る厄災からあなたを護る絶対の忠誠を全能神『ネクロ』の名のもとに誓います!!」
「まて、話せばわかる。ひとまず落ち着けおまいら」
なにがなんだかわからない。
エ?ナニコレツマリドーユーコト?
「つまりあれか、君らは自分のために死ぬ覚悟だと言いたい訳かい?」
頭が痛くなってきた自分は、こめかみらへんを押さえながら確認をとる。
すると
「はい!死んでいたはずのこの命!惜しくなどございません!!」
即座にそう言ってひざまづいたまままっすぐ自分を見つめるその子の眼は、決心とかなんかそんな強いモノが宿っていた。
他の人達も全員おんなじである。
そしてそんな強い心を持った集団の代表として目の前にいるその子に、自分は
「なん!でやねん!!」
パッシーン!
「ふぺ!?」
パジャマのポケットから取り出したハリセンを顔面目掛けて振り落とした。
なんかクリーンヒットしたらしく、その子は鼻を押さえながら悶えている。
他の人達に至っては、目を真ん丸くして驚いている。
そんな彼らに向かい、ハリセンを肩に担ぎながら自分は言う。
「べっつにそんな恩返し期待してた訳でもないし、せっかく自由になったんだから好きに生きなさい。そもそもわざわざ自分のために助かった命投げ出すとか、意味ないから。むしろ助けたのに自分のために死なれたら、自分がイヤ。わざわざ自分なんぞに恩を感じても非生産的過ぎるから、自由を楽しみながら気ままに生なさい」
ちなみにこの言葉のオブラートを剥がして周りについてた糖衣を溶かしてわかりやすく訳すると、『いや、マジそーゆーのいらない。きみらで勝手に自由に生きて』となる。
そして、自分のそんな優しさというオブラートでソフトに包んだ言葉は、きっちり皆様の心に届いたようで……
「………ふぁ…」
ふぁ?
「うぁーーーん!」
「グズッ……ヒック……」
「……スンスン………」
「せ、せん、せぇ……ふぇぇ……」
なぜかみんなして泣き出しはじめました。
なぜだ?
特にシルバちゃんが一緒に泣いている理由がわからん。
「……ナルミ」
限りない困惑と戯れている自分の肩に手をあて、声をかけてきたのはバリスであった。
「……なに?」
「おまえ、男の中の男だわ。もしかして心が愛と優しさで出来ているとか言わないよな?」
「はぁ?」
なにこいつ、いきなり。
「おまえなにがいーたいの?」
「いや……わからないか?」
わからんから聞いとんじゃワレ。
そんな自分の反応に、困惑したようすのバリス様。
そしてその彼に近付く姉妹の姿が
「バリス、こいつは絶対わかっていない」
「ですね。さすがはナルミと言った所ですか」
おまえらそれは侮辱ととらえてよろしいでしょーか?
「だから、何が言いたい」
「……つまりこいつらは、おまえのあまりに寛大で慈悲深い言葉に感動したって事だ」
「ついでに言うと、彼らのために本気で怒った事も原因の一つだな」
は?
「……わぁー、おもしろーい。こんなおもしろいじょーだんはじめてだぁ。あはははは」
「冗談じゃなく、真面目にそうなんだが……」
真面目って、あんな遠回しに迷惑だと言った言葉の何に感動する要因があったんだ?
「這い這い、ワロスワロス。で、マジな話しなんなん?」
「いや……マジもなにも……もういい」
「……エリザも苦労するね」
?
なんなんだ?
よくわからない王族3兄妹との会話をして、正直反応に困っていると、自分の腕が誰かに引かれた。
まぁ、犯人はもちろんシルバちゃんであるが。
「せ、せんせぇ……ヒクッ……」
彼女はうるうるしながら、縋り付くように腕を引っ張り自分を見上げている。
……かわい。
とかマヌケな事を考えていると、シルバちゃんが爆弾を投下した。
「……この子達を……雇いましょう!」
「はい?」
「……先生は今は候爵です。そして新しくお家が高民区にできるじゃないですか。だから先生が彼らを雇って、お家に住まわせて、もちろんお給料も払います。今彼らに財産はありませんが、やりたい事を見つけてそれのためにお金を稼ぐ場所を与えればいいのです!貴族の、しかも候爵なら従者が40名いようが50名いようが問題はありません!!」
ああそうか!
てバカヤロウ!
「ちょいまち!いくらなんでも40人を養うほどの財力なんて持ち合わせていないし、これからもそこまで儲ける事が出来る自信が「それなら問題ないぞ?」問題大有りじゃ、アホですかイノムさん!」
人の話しの腰をへし折りやがって。
くだらないこと言い出したら、あんたの妹が毎日大量の宿題に涙することになるぞ。
「む、アホとはなんだアホとは。と、そんな事より、金の事なら問題ないぞ。今回ナルミのおかげで、サザールスからはじまりいろんな不正を働いていた貴族が摘発されてな。奴らから罰として財産の一部を没収したのだが、そこから一割程度をナルミの財産として与える事になっている」
あ、そーなの。
あれか、芋づる式か。
でもねぇ……
「いや、でも一割でしょ?それじゃあたかがしれてるべ。それだけでこの40人を養っていったら、絶対一ヶ月で底をつくっての」
「……ふっ」
あ、笑われた。
「なんですかその意味深な笑みは」
「いや、おまえは他人の事ならこんなに真剣になるのに、自分の事となるとスッポリ忘れてるのだな、と思ってな」
いや、他人の事なんか考えとらんよ。
自分、現在進行形で自分の事しか考えとらんよ。
そしてなんかバカにされた気がしてムッとなる。
「……じゃあ何を忘れてるんすか」
「おまえが西の地に領地を持っているという事だ」
………ああ。
でも、やっぱりこの子達はそんな半強制労働的に働かせるのは、ねぇ。
見た感じ、8歳くらいの子供もいるし。
「そーいやそーやね………でも……」
「やっと思い出したか!なら早速手続きをしよう!」
「いやちょっと……」
「まって下さい姉様」
自分がイノムさんの勢いに押され、困りあぐねているとエリザが彼女を止めてくださった。
珍しく訳に立つじゃねーか。
「彼らの他に、あともう一名、ナルミのたーんえっくすで半殺しにされて治癒室で治療をうけている者もいますので彼も一緒にお願いします」
そっちか!!
「わかった、そちらも伺おう。ではいくぞ、ついてこい」
そう言いながら、彼らをひきつれてどこかに行こうするイノムさん。
そんな彼女に着いて行こうとする彼らに最後の希望をかけて、呼び止める。
「ちょっとまって!」
するとみんな揃って息もピッタリにこっちを振り向いてきた。
軽くホラーだね、戦慄できる。
「君らは本当にそれでいいのかい?変に義理とか恩とか感じなくてもいいんだよ?」
「はい!最初ボク達はご主人様がボク達を助けてくれた理由を考えていませんでした!ですが、ご主人様のお言葉で、本当にご主人様がボク達に求めている事を痛感いたしました!そして、ご主人様は自由に生きろとおっしゃいました。なら、自由に奥様の言うとおり、ハセガワ家の従者として全力で働かせていただきます!!」
まっすぐだ。
彼らの眼は自分みたいに捻れて拗れて捻くれていない。
そして、このキラキラしたモノはなんだ?
「……あ、いや……うん…よろしく…」
つい勢いに押されて頷いてしまうではないか。
そしてそれを見た彼らは、バァッと明るい笑顔を見せ
「「「よろしくお願いします!!ご主人様!!奥様!!」」」
声を揃えこう言った。
………意志の弱い自分を括りたい。
「……おくさま……これからがんばりましょうあなた!!」
「なん!でやねん!!」
パッシーン!
「きゃう!」
そしてこの妄想少女を誰かどうにかしてほしい。
とりあえず手にしていたハリセンで頭を叩いておいたが、これでどうにかなるとは考えない方がいいだろう。
その証拠にほら、頭を抱えながらもなぜか顔を赤らめている彼女が……
ん?赤らめている?
「うぅ~……痛くです、照れないで下さいよ。……でも、先生の愛のムチはなんか痛気持ちいいような……」
「ムチでなくハリセンだよ。そして君はそっちの属性かい」
……マジでこの娘は将来どうなるんだろう。
そんな感じに猫みたいにゴロゴロ言ってるシルバちゃんの将来を案じていると、後ろからバリスに声をかけられた。
「ナルミ、いや不死身の闘神。折り入って話しがある」
はいまた名前が増えてるー。
「……なんね」
「俺と闘え!!」
「だが断る!!」
こいつはワンパターンすぐる。
いい加減あきた。
だが、ここでそのパターンに変化が起こった。
「なら、俺に闘いと言うものを教えてくれ!!」
「は!?」
自分がバリスの言った事をよく理解できないでいると、エリザがバリスの膝の裏を
「えいっ!!」
「のっ!?」
所詮膝カックンである。
「兄様、ナルミは今私専属物理学講師です。勝手にそういう事を申し込むのはやめていただきたい。まぁ勝手でなくても兄様ならお断りですが、べーっだ」
なんか、エリザのバリスに対する扱いが酷いな。
この二人喧嘩しとんのか?
「クッ……いや、そこをなんとか」
「ナルミ自身が断ったのですから、あきらめてください。ほら、帰った帰った」
しっしと虫を追い払うように手をはらうエリザ。
それに悔しそう見るバリス。
しかしバリスは次の瞬間、悪い事を思い付いたような笑顔を見せ、こう言ってきた。
「そうか、ならナルミは俺に負けるのが怖くて勝負を逃げたという事でいいんだな」
あ、別に自分はそれで……
「いくら王子様でもそれは聞き捨てなりません!」
「ああ、これは兄様から私達への侮辱と見なして問題あるまい」
「ナルミ!!」
「先生!!」
あ、激しく嫌な予感。
「「この挑戦、絶対勝って下さい(くれ)!!」」
まっすぐにこっちを向く二人の娘。
なんか変な空気が流れてくる。
ぶっちゃけ堪えられん。
従って、この状況から解放されるとっさの方法をとるのは人間として仕方がないといわざるおえない。
そして自分もそんな人間、自分の本能に従い、
「……しばらく自分は消えますので……皆様サヨウナラ!!またいずれー!!」
キレてる二人を残して、全力ダッシュで廊下に逃げだしたのである。
チキン?
そうだけどそれがなにか?
~シルバ&エリザサイド~
「……それではしばらく自分は消えますので……皆様サヨウナラ!!またいずれー!!」
そう言って、目にも留まらぬ速さで部屋から脱走するナルミ。
まさかの逃亡に、そこにいた三人は反応出来ずにその場に間抜けな顔をしながら突っ立っていた。
そして最初に覚醒したのはバリスであった。
「……逃げ、た…のか?」
そしてそれをきっかけに、残り二人も復活を遂げる。
「……はっ!ナルミ!なぜ逃げる!!」
「……先生…」
そしてしばらくの沈黙の後、シルバがなにかに気が付いたようにはっと顔をあげる。
そして一言。
「わかりました!これは先生からの試練です!!」
「どいいう事だシルバ?」
「先生はしばらく消える、と言いました。つまり、これは先生が私達に課した潜入者捜索のための試練です」
俗にこれを勘違いといふ。
「確かに、ナルミは過去に単独で潜入任務をこなし、成功させた実績がある。……ふっ、相手として不足はない!!」
「ですが兄様、これは流石に兄様だけでは無理です。この巨大な城に隠れているナルミを単独で見つけるのは、無謀としか言えません」
「あ、ならいっその事、全兵士の今日の訓練をこれにしてみてはいかがでしょうか?」
「でもシルバ、城にいる数だけで足りと思うか?」
「無理ですね。なんたって相手は私の先生ですよ?そう簡単には捕まるはずがないですが、いい訓練にはなるはずですよ?」
こうして、ナルミの知らない所で城をあげた鬼ごっこが企画実行されるのであった。
本人からしたら不幸というかはた迷惑な話である。
「あ、ならいっその事ナルミを最初に捕まえた者はナルミの弟子になれるというのはどうだ?」
「それはいいですね。そうすればみんな本気で訓練にのぞむでしょう。兄様もたまにはいいこと言いますね」
「……先生は賞品じゃないんですよ?大丈夫だとは思いますが、それで先生に変な危害を与える輩がいたら、私はそいつをどんな手を使ってでも虐殺しますからね」
……とりあえず、ナルミからしたらこのヤンデレ少女に異常なまでに依存されている事が今一番不幸だと答えるだろう。
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