なりたくないけどチートな勇者
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30*子供の喧嘩に親が出る
さぁ、ここは中庭らしい所。
そこの回りを、一部を除きいろんなお方々が所せましととり囲んでいる。
ちなみに一部とは、ヘッドフォン完備のエリザが権力を使ってテーブルに椅子、そしてデザートらしきフルーツ完備の完全無欠のリラックスゾーンである。
正直、見てていらつく。
そして肝心の自分はと言うとだ。
「さぁ黒兵士、はじめようか」
その中央にて、キザ男達と対峙しております。
まぁ、望んでやってきたようなものなのでしっかりキザ男は処刑しますよ?
今日の全てのイライラ成分を全部あ奴にぶつけてあげます。
………が、あくまで自分が対峙しているのはキザ男達なのだ。
そう、キザ男“達”。
もそっと詳しく言うと、なんかマッスルな青い鎧と子供みたいな白マント、そして剣を持つキザ男。
最初の二人に至っては兜やフードで顔が見えない。
………たーしか、これ自分の記憶によれば自分とキザ男の決闘だったよね?
まだアルツハイマーにはなってないから、ボケた訳でもないし、間違えようがない。
「………その二人は誰?」
多分きっとおそらくこいつらは審判とかだろう、うん。
さすがのキザ男もここで他人の力を借りる程落ちぶれては……
「あ?こいつらは僕の手下だ。もちろん決闘に参加するぞ?」
あ、駄目だこいつ。
しかしこれはルール的にアリか?
アリだとしたらこの世界は相当ダメダメだ。
とりあえず気になるので、自分の後ろで他の貴族に混ざって待機しているシルバちゃんに聞いてみる。
「………シルバちゃん、手下が出るってマジ?」
「は、はい!決闘は配下の者が参加者の武器として参加する事があります。でも決闘のるー……るーる的には可能ですが…えと……まぢでやる方ははじめて見ました」
ふむ、困った時のシルバちゃん。
だが使い慣れない言葉を無理して使わんでもいいぞ?
聞きにくいだけだし。
まぁ、とりあえずわかった事は……
「あー、とりあえずあの触覚が一人で自分に挑む勇気がなかったっつー事ね。ワリィキザ男、さっき褒めたの撤回するわ。かわりにキングオブチキンの称号をやる」
「なんですか?きんごぉぶてきんって」
「キングオブチキンね。直訳すると……ビビリ王とか腰抜け王とか。チキンが弱虫とかで、キングが王様って意味。つまり弱虫界の王様」
ふぅむ……
今日は舌が絶好調だ。
「あ、ぴったりですね。決闘を申し込んでおいて手下を引き連れてくるあたり、腰抜けの極みですもの」
シルバちゃんももはや闇一歩手前である。
したがって、彼女も饒舌にキザ男の悪口を機関銃よろしくな感じに大量射出している。
いろいろと危ない自分に半闇のシルバちゃん。
もはや誰にも止められない最悪コンビ(多分)がここに誕生した。
周りの貴族やらは頷いたり共感しながら自分らのマシンガン侮辱をきいている。
シルバちゃんの隣にいるリリスさんは、のほほんとしながらも焦っているような器用な表情をしながら困っている。
ただエリザはヘッドフォンをしているからかただ眺めているだけである。
さてさて、では肝心のキザ男はと言うとだ。
「き、貴様!!どこまで僕を侮辱するか!?」
真っ赤なお顔でマジギレしている。
実に滑稽。
だが、今宵の絶好調な舌はとどまる所を知らない。
「あーどこまでだ?まだ終わりが見えない。もうちょっと待っててくれ、全部言い切るから」
「先生、ちょっとじゃ無理ですよ。少なくとも三日はもらわないと、多過ぎます」
「ああそっか、これはうっかりしていた」
「もう、うっかりさんですね」
「あははははははははははは」
「うふふふふふふふふふふふ」
………後からリリスさんに聞いたが、この時の自分達はものすごい不気味で恐ろしかったらしく、周りの貴様はみんな震え上がっていたらしい。
しかし、キザ男だけは違う反応を示した。
よするに、馬鹿にされ過ぎて頭に血が上ったらしい。
「き、きさまらぁ!!もう許さん!!デリ!チー!行け!!」
そうキザ男が言うと、青鎧がでっかい斧を持って自由に向かって走りだし、白マントはどこから出したのか杖らしいモノを掲げながらなにかぶつぶつ唱えはじめた。
ここで自ら来ないあたりがキザ男である所以か。
もはや救いようが無い。
いや、救う気なんて砂カケラの一粒分も無いけどね。
つうわけで、いろいろとからかいながら戦いましょう。
さて、何がいいかなぁっと。
そうやって余裕をぶっこいていると、鎧さんはいつのまにやら目の前に。
かなり力を入れながら、自分に切り掛かろうとしている。
…………よし。
これはあれだな。
「うるぇぁぁ!!」
そんな奇声とともに、自分の首をぶった切ろうと斧をフルスイングする鎧君。
だが甘い。
「バラバラ緊急脱出!!」
「!!?」
切る前から突然首が飛んだ自分を見て、驚く鎧。
しかし、これだけで終わらす自分ではない。
まぁ、ここまでやったらこれをやらねば。
なにせこいつ青いし、斧だし。
ねぇ。
つうわけで、鎧を引っつかみ、上半身を切り離してそのまま上空へ。
そしてさらに手首だけになりじたばたする鎧をひっくり返す。
「落ちて脳天カチ割れろォ!!」
そして頭から勢いよく
「空中錐揉み大サーカス!!」
錐揉みさせながらたたき落とす。
………いゃぁ、実際やってみると爽快だねこりゃ。
首だけふわふわしてる感覚はどうにも落ち着かないが、なんか気持ちいい。
そんなよくわかんない気持ちをふわふわしながら味わってると、今まで頭が埋まってぴくぴくしてた鎧さんが、這い出してきた。
「……グッ……ガハッ…!!」
そしてふらふらしながら兜を取り、血を吐いた。
なかなか渋い金髪碧眼のゴリマッチョである。
「げっ、効いてねェ」
いや効いてるけどね?
血吐いてるし、ふらふらだし。
けどもこの場合はこれを言わなきゃならない気がした。
しかし……普通はここまでやられたら斧とか捨てて降参しない?
なぜにまだやる気でそんなの握ってんのさ。
眼の焦点合ってないのに、ご苦労様だね。
さて、どうやって意識を刈ろうか。
「ストゥール!!」
自分がゴリマッチョをどう料理するか考えてると、後ろからイミフな叫びが聞こえた。
多分声からしたら声変わり前の男の子っぽい。
「ん?」
そしてその声に反応して後ろを向く自分。
そこには、白マントの子供が杖を掲げてる姿と、自分に向かってくる三つの直径1メートルくらいの水の塊が。
……あ、当たる。
「おおぅ!」
ドバッシャァァン!
自分を中心に盛大な水しぶきが上がり、辺りが霧に包まれる。
そしてそれを見たキザ男は
「……ふ、フハハハハハ!どうだ!これが僕の力だ!!僕に歯向かった事を死んで後悔するんだな!!」
と、高らかに勝利宣言。
つかお前の力って、どこらへん?
そしてさぁ、勝手に人を殺すなよ。
「フハハハハハハハハ………は?」
「チャオ♪」
霧が晴れたら目が合ったので、とりあえず手を振って挨拶しといた。
したらよほど嬉しかったらしく、口をおもいっきりあんぐりさせながら見入ってくれた。
うん、実に愉快。
サイマグネットはこの世界なら万能かも知れないな。
そしてそいつはふるえながら、自分を指指してもつれた舌でこういいはじめた。
「な、なななな、なんで生きてる!?あ、あああれはチーの全魔力を注がせた最上級魔法だぞ!?」
ん?
全魔力?
よく見ると、キザ男の横には倒れて虫の息になった白マントが。
……ほぉう。
「つまりあれか。貴様はその子が倒れる程の魔力を使うように命令して、やらせたんだな?」
「な、何が悪い!デ、デデ、デリ!さっさとこいつを殺せ!!」
そうキザ男が言うと、後ろでふらふらしていたゴリマッチョが、再び自分に切り掛かってくる。
頑張ってるようだが、バラバラの能力の前にはぶっちゃけなんの意味もない。
なのでそんなのは無視して話を続けようとする。
「じゃあなんのけ……」
ズバッ!!
続けようとしたが、上顎と下顎で見事に分けて切られたので続ける事が出来なかった。
……こいつ、邪魔。
とりあえず顔は元に戻して、それ以外のぶつ切りになった自分を一旦いろんなところに散らばせた後、鎧の周りにそいつらを集結させる。
そして
「このターンXですべてを破壊して、新しい時代を始めるのだ!!」
ガガガガガガガガガガ!!
そのセリフと共に自分の肉片から数々のビームを乱射させる。
そしてトドメに
「できるわきゃねーーーだろぉーー!!」
ドガァァン!!
ゴリマッチョを中心に大爆発を起こしながら、それを背にしてバラバラになった体を元に戻す自分。
被爆したゴリマッチョがゆっくりと、スローモーションで倒れていくのが気配でわかる。
……別に自分は凄くないし∀のお兄さんじゃないから、何も言わないよ?
久しぶりに五体満足になった気がするので、首をコキコキさせながらぶざまに尻餅をついているキザ男を見る。
するとそいつは、まるで闇のデュエルに負けたみたいに怯えて、叫んだ。
「ひぃ!!ば、化け物!!」
「……失礼な」
そう言いながら自分が一歩近付くと、そいつはわしゃわしゃとスリッパで二回程叩かれたGみたくはいつくばって自分から逃げようとした。
しかし、なかなかうまく行かないようでただじたばたと悶えながら転がってるようにしか見えない。
「なんというかこれは………」
「憐れですね」
いつの間にやら自分に近付き、左腕にぶら下がるように抱き着いているシルバちゃんが全ての足をもぎ取られたザトウグモを見るような目でキザ男を見下し、自分の気持ちを代弁してくれた。
しかし……これは………
この肘あたりの柔らかな感触は……
「………シルバさん?なにか当たってるんですが、すこし離れてくれません?」
「イヤですか?」
「いや、イヤっていうか……そーでもないけど……困るっていうか……」
うん、返答に困る。
イヤではないが……うん、なんといえばいいのだ。
ボキャブラリーの足らない自分が憎い。
……ヤメテ!そんなジャンガリアンハムスターみたいなウルウルした目で見ないで!
「つっ~~……わかったよ、好きにして」
「はい!……へへへ、お母様の言ったとおりだ」
渋々承諾する自分と、それを聞きさらにギュっとしてくるシルバちゃん。
それにより、さらに小さすぎず大きすぎない二つの柔らかなモノに挟まれる自分の腕。
……正直、たまりません!!
……にしてもシルバさん、小声でも聞こえてるよ?
そしてリリスさん、怨みますからね。
「これはこれはハセガワ子爵。なかなか見せ付けて下さるな」
困っている自分に声をかけてきたのは、いかにも神経質な印象の触覚がついた茶髪の男だ。
彼の黄色い眼には。なんかいろいろと気持ち悪い感情が渦巻いている気がする。
「……あなたは誰?」
一暴れしたおかげで、ムリヌ成分は大分飛んだらしくわりかし丁寧な発言ができた。
ただ、シルバちゃんからは警戒オーラがビシビシ来ている。
「私の名前はガーリクル・サザールス。先程は息子が世話になったようで挨拶に来たと言う訳だ」
……ガーリクル……ガーリっクル……ガーリック……。
「ぶっ!!」
思わず吹き出した。
だって名前が、自分の耳にはもうニンニクという意味にしか聞こえないんだもん。
「……なにがおかしい」
自分の行動にいたく不快感を感じたガーリクルさんは、それを隠そうともせずに自分に聞いてきた。
自分が正直に答えようかどうか迷っていると、自分の左側から声がしてきた。
「先生はあなたがあの憐れで愚かでかわいそうな方の親だって言うのがわかって笑ったんですよ。なにせ、きんぐほぷちきんの親ですから。さすがサザールスですね」
……敵意丸出しですな、シルバちゃん。
そしてキングオブだ、ホプじゃない。
「ふん!相変わらずランドルフの家は子供の躾がなってないな」
「あら。少なくともさっきのあなたの息子よりはマトモに育っている自信はありますよ?」
そのシルバちゃんの発言に、こめかみあたりに青筋をみせるガーリクル。
そして、急に怒鳴りだす。
「お前は誰に向かってそんな口をきいているかわかっているのか!!私はガーリクル・サザールス公爵だぞ!!」
「私の父はガルク・ランドルフ公爵ですが何か?」
へぇ……ガルクさんって公爵なのか。
どんくらい偉いかは自分にはわからんが。
てゆーかシルバちゃんよ、そんな風に啖呵を切るんなら自分の後ろに隠れるなよ。
それはそれでかわいいけど、しまりがないぞ。
「くっ……まぁいい、貴様の私に対する無礼は後にしよう。それよりハセガワ子爵」
「あん?」
なぜにここで自分?
いまの話に関係なくね?
「私の息子が貴様にひどくいたぶられたと聞いたのだが……それが本当だとしたら私も黙ってはいられなくてね」
……子供のケンカに親が出て来るっておい。
あれか、これが噂のモンスターペアレントか。
「あれはあっちから挑んできた決闘です。それに先生が勝っただけで、何も文句を言われる筋合いはありません」
「違うな、彼は我がサザールス家の誇りに傷を付けた。従ってそれなりの謝罪をしてもらわねばならない」
「なぜですか!?決闘を申し込んだのはそっちなのに、なんで先生が!」
「彼が子爵で私が公爵だからだ。下の者が上の者に従う、当然だろう」
……ああ、こいつはあのキザ男の親だ。
いたく実感できる。
そしてシルバちゃんが嫌う理由もわかる。
「決闘は正式なものです!それをなんと言う暴論!恥を知りなさい!!」
「まぁまぁシルバちゃん、落ち着いて」
しかし、オトナな自分は熱くなるシルバちゃんをなだめ、落ち着かせる。
そして、きっちりと
「とりあえず、あんたが公爵とかどーでもいいけど、自分は悪くないから謝る気はないんで。つー訳で、視界から消えてくださいな」
ムカツクオッサンを馬鹿にしておく。
だって、こいつ腹立つもん。
こーゆー唯我独尊な奴、死ねばいいのに。
……まだ少しキノコ成分残ってるなぁ。
「な!き、貴様は立場をわかっているのか!!公爵の私からしたら子爵の貴様などどうにでも……」
「すればいいじゃん、できるもんなら」
だって、自分貴族とか興味ないもん。
むしろいらねーから、願ったり叶ったりだ。
「……だめです、先生。先生が貴族でなくなったら、結婚できないじゃないですか」
「君の頭の中ではどこまで話しが進んでいるんだい?」
この娘は妄想癖があるんでないか?
「とにかく、ダメです。というかサザールスなんかに言われっぱなしはイヤです」
「つってもねぇ……」
ぶっちゃけ、どーでもよくなってきた。
てゆーかあきた。
そんな感じにやる気なく頭を掻いてると、シルバちゃんがとんでもない事を宣いはじめた。
「……なら、決闘して下さい!」
「はい!?」
自分とシルバちゃんが?
なぜに?
「あのサザールスの現当主を、ここで打ち倒して下さい!!」
あ、そっち。
「え~、めんど」
本心から思う、これ以上関わりたくない。
だが、自分のそんな願いははかなくも散る事になる。
というかだ
「私は別に構わんぞ、貴様の魔法のカラクリも見破っている。もはやただのひょろ長い若造に私が負ける道理など無い。なんならランドルフの娘、貴様も共にかかってくるか?私からしたら物の数にもならないが」
そう言いながら、奴は近くに落ちてた石ころを自分に投げてきた。
自分はそれを見事にキャッチして、そいつに向かい投げ返した。
「……よしそこのクズ、いますぐ処刑してやろう」
そう、何があったかと言うと自分の蝉の命より短く短気な心が、久々に聞いたプッツンワードによりブチ切れたのである。
まぁそれだけでなく、このニンニクの態度とか発言とかがムカつきまくったのも原因だと思うが。
「五体満足でいられるとオモウナヨ?」
ああ、だめだ口の筋肉が痙攣してうまく喋れない。
とりあえず、ここらへんから自分はあんまり記憶が無い。
~ガーリクルサイド~
「五体満足でいられるとオモウナヨ?」
ナルミが歪んだ笑顔を見せながらそう呟くと、周りの温度が一気に下がった。
そんなナルミに恐怖感を覚える貴族達を尻目に、ナルミはシルバを体から離し、後ろに下げた。
「少し、離れててくれない?巻き込みたくないからね」
その言葉に従い、シルバはトタトタと自らの母の元へと行き、心配そうにナルミを見つめ、呟いた。
「先生、大丈夫かな……」
「シルバ、旦那様を信じてあげるのが奥さんの仕事よ。きっと大丈夫だから、信じてあげなさい」
そう言って娘の頭を撫でるリリス。
彼女の言葉を聞いて安心したシルバは、今度はしっかりとナルミを見つめる。
こうやってシルバの妄想癖は、母の教育により強化されていくのである。
「では、はじめようか」
ガーリクルはそう言うと、静かに、だけどしっかりとした口調で呪文を唱えはじめた。
そして、奴がそれをはじめた時から異変はおこった。
「これは……周りの魔力が無くなって……」
最初にそれに気付いたのは、リリスだった。
普段魔法を使う者は、体内で自己生産される魔力を使い魔法を使う。
しかし、魔力とは体内だけでなく自然の中にも大量にある物なのだ。
それを完璧に扱う事が出来れば、体内にある有限の魔力を使うよりもより強大な魔法を連発出来るのである。
ただ、不純物が多く不安定で扱いずらいため、一部の者か、特殊な道具を使うしかそれを扱う事が出来ない。
そして、ガーリクルはナルミがその自然の魔力を扱っていると考えたのである。
そしてそれを遮断するため、自らの得意な結界術を最大まで生かしたこの魔法を使えばナルミの力を封じこめるという結論にいたったのである。
「……封魔結界“アラトス”!!」
彼がそう言い終わると、二人を囲むように円筒状の巨大な光の筒が完成した。
そしてそれが出来た事により、勝利を確信したガーリクル。
「ふ、はははははは!自然魔力がなければ貴様なぞ、ただの若造に過ぎん!なぶり殺してくれるわ!!」
そう言って彼は一瞬にして無詠唱で18体もの小型ゴーレムを地面から造り出した。
この、結界術と土ゴーレムの能力があったからこそ、彼は今の地位にいると言っても過言ではない。
だからこその自らの勝利を疑いもしていなかった。
この時までは
「あ、終わり?つかゴーレムって、どこのギーシュって話ですよ」
普通、ゴーレムには打撃はきかない。
すなわち魔法で対抗するしか手段は無いのだが、この青年は魔力を封じられているにもかかわらず明らかな余裕の表情を見せていた。
ガーリクルの脳裏に不安がよぎる。
だが、それを即座に否定して彼はナルミをしっかりと見据えながら口を開く
「ふん!強がっても無駄だ!魔法を封じられた貴様が私に勝つ事など出来ん!!」
「魔法、ねぇ……」
ナルミはそう言いながら、地面を蹴り飛んだ。
そして
「な!?」
「自分がいつ、魔法を使った?」
翼も無いその青年は、そのまま静かに宙に浮きはじめたのである。
魔力が封じられた空間で、魔法が使えない者がそんな事を出来る。
つまりこの青年は、魔法以外の何か、別の能力を使っているのである。
今まで優位に立っていると思っていた彼にとって、これは恐怖以外の何物でもなかった。
「土下座して泣いて謝るんなら許してやるよ」
明らかな挑発。
そして完全に見下した眼で見られたガーリクルは、恐怖にふるえながらも自らのプライドを優先させて虚勢を張る。
「だ、誰が!私の勝利は揺るぎ無い!謝るのは貴様の方だ!!」
そう言って彼は、全てのゴーレムを一斉に襲いかからせる。
なんの動きも無いナルミを見て、再び勝ったと思ったが、それは即座に裏切られる結果におわる。
「絶好調である!!」
そうナルミが叫ぶと、彼の背中から美しい巨大な蝶の羽のようなモノがあふれ出した。
襲いかかっていったゴーレム達は、それに触れると全て跡形も無く砂になり、消えて行った。
それを見た時、ガーリクルは悟った。
自分がここで負けるのだ、と。
だが、彼にそれを素直に認める事が出来無かった。
彼は異常なプライドを持ち、それを誇示するためにはなんだろうとするような者である。
そのために裏でいろいろと手を回し、対立するランドルフ家の失脚や王家の乗っ取り等をたくらんでいたのだ。
そんな彼がこんな若造一人に負けるなど、認めるはずも無い。
「どうだい負け犬、泣いて許しを求めるなら許してやんよ」
自らの力が及ばない恐怖と、負けを認めれないプライドとで葛藤をしていた彼にナルミが放った言葉は、あまりに彼を馬鹿にしていた。
そしてそれを聞いた彼は、自らの首を締める決断を下してしまった。
「だれが貴様なぞに!!行け!我が最大の下僕“ルーガ”!!」
彼はありったけの魔力を注ぎ、今自らが出せる最強のゴーレムを造りだしたのだ。
しかし、彼は視界の端に捕らえたナルミのいびつな笑顔を見て、今までで一番の恐怖を感じた。
そして、自らの下した愚かな決断を心の底から悔やむハメにるのである。
~ナルミサイド~
あまりに凶暴で、愚かで脆い。
そんないい歳のムカツクオッサンが目の前で震えているのを見るのは、なかなかおもしろい。
特にこいつは自分をひょろ長いと表現した奴だ、なおさら気持ちがいい。
「どうだい負け犬、泣いて許しを求めるなら許してやんよ」
そしてナチュラルハイのように絶好調な自分は、こうやって考えるより先に口が挑発の言葉を繋ぐのである。
これで負けを認めるならよし、認めないなら……そん時考えよ
「だれが貴様なぞに!!行け!我が最大の下僕“ルーガ”!!」
そんな自分の馬鹿にした態度にプッツンしたのか、ニンニクは6メートルはあろうかというゴーレムさんを出現さした。
大分前に見た隊長のよりも、かなり頑丈そうな巨大ゴーレムである。
というかロボだね、これ。
「いけ!奴を捻り潰せ!!」
そうニンニクが叫ぶと、ゴーレムは思いの外素早い動きで自分に近付いてきた。
……これはある意味チャンスではないだろうか。
とりあえず、一旦後ろに下がりゴーレムの拳を優雅に避ける。
そして、右手を固く握りしめ
「自分のこの手が真っ赤に燃える!勝利を掴めと轟き叫ぶ!!」
なにか熱い力を込める。
そして
「いくぞ!」
ゴーレムを一気に粉砕する!
「ばぁぁぁぁくねつ!ゴッドフィンガー!!」
ドゴォォォン!!
バラバラと砕け散る元ゴーレム。
その先には、腰を抜かしたニンニクの姿が。
だけど、ここまで来たら最後までやりたいよね。
という訳で、地を蹴り体を超回転させて
「超級 覇王 電影弾!!」
ニンニクに向かい一気に突っ込む。
「ま、まて!ギャァァァァ!!」
ドガガガァァァン!!
強烈な爆発と共に断末魔をあげて散るニンニク。
………ああ、気持ちいい。
しかし………冷静になって気付く。
周りの目が痛い。
リリスさんでさえ目を真ん丸くして自分を見ているんだ、他の方々がどんな反応をしているかなんて、言わなくてもわかるよね?
そうやって、ぼーっと周りを見回していると後ろから強烈な衝撃が
「おりゃぁー!!」
「グフッ!!」
「先生!!」
どこぞの世界を大いに盛り上げる団長もびっくりの華麗なる跳び蹴りが自分の延髄あたりにヒットした。
俗にこれをクリティカルといふ。
「姫様!先生に何するんですか!!」
「許せシルバ、これは必要な事なのだ」
倒れた自分に駆け寄りながら抗議するシルバちゃんに、さも当然のように言い切るエリザ。
「何が必要だボケ!!一瞬意識か、飛んだぞ!」
自分は蹴られたヵ所を摩りながら、暴力姫君エリザを睨みつける。
だが、いかんせんタレ眼なため迫力とか眼力とかは全く出ない。
母よ、なぜこんな眼をチョイスして自分を産んだのだ。
「で、ナルミ。やはりお前はどこぞの王族だったのだな!?」
自分が異界の母に心で呪詛を唱えていると、エリザが何かのたまった。
王族って、なぜに?
「なにを根拠にそんなこと……」
「自ら言ったではないか!覇王だと」
「……いつ?」
心あたり0なんですが。
「さっき、サザールスの者にとどめを刺す時に叫んでいたではないか!ちょーきー覇王でんえいだーって。あれはニホンでのお前の名前なのか!?」
そこかよ!
なにありえないミラクル勘違いしちゃってんのよ!!
「いやいやいや!違う間違いありえない!何が悲しくて自分が王族なんぞになってんのさ!!」
「違うんですか?」
シルバちゃんまで!
「ち、が、う!自分が王族ならこんな遠く離れた異国の地にいれるはずないべ!冷静に考えてみなさい!」
自分がそう言うと、シルバちゃんが顔を一瞬で顔を青くしだした。
……なんか悪い事したか自分?
「ひ、姫様!先生の過去はそんなに詮索しない方が……」
そんな大層な過去なんかないけどなぁ。
でも助かるから黙っとく。
「む、でも気にな「いいから!」…はい」
……恐い、いま一瞬だけ般若が舞い降りた。
「し、しかし、まぁあれだな。今日はやたらと調子がよかったみたいだな」
「あぁ、そうですね。先生の絶好調は……凄かったですよね」
うむ、エリザが無理矢理話を逸らそうとしているのがよくわかる。
だが、けして絶好調な訳ではないぞ。
「君達は勘違いをしている。あれは“絶好調”ではなく“月光蝶”といったのだ」
まぁ、気持ちはわかるがね。
ニコ動でもよくやっているし、天からお塩と同じくらいの知名度がある聞き間違いでないかな?
「なんですかそのげっこーちょーって?」
む?
月光蝶とはなにか、とな?
月光蝶……月光蝶……
「……あの光に当たったモノを砂にする兵器って覚えておけばいい」
まぁ、人体とかに影響はないよう設定してるからさほど問題は無いがね。
ぶっちゃけ、最初から教えるのは途方もない時間がかかるから、これくらいのはしょりは問題ないべ。
だがそのはしょりをへんに解釈した二人は、神妙な面持ちでこういってきた。
「……わかりました、これ以上げっこーちょーについて詮索はしません」
「私も、もう聞かない。王家の名にかけて誓う」
………王家の名とか、いらないから。
「んな大層な……まぁいいや、それより疲れた、自分は部屋に戻って寝る」
そう言って自分はふらふらと出口へと向かう。
その道すがら、黒ゴス娘がついてくるのを無視しながら自分は今日あった事を思いおこしてみる。
……なーんか忘れてる気がするんだよねぇ。
「先生!」
ぼけーっとしながら廊下を曲がった途端、後ろにいたシルバちゃんが自分の腕に抱き着いてきた。
「今夜は優しくして下さいね!!」
……とりあえず、リリスさんに抗議をするのは忘れないようにしよう。
~エリザサイド~
ナルミとシルバが去った後、エリザはリリスの所へとトコトコ向かっていった。
「あら、姫様。いかがなさいました?」
「……ナルミの事について、話がありまして」
いつもとは違う、真剣な顔でリリスを見るエリザと、何がいいたいかわかっているようなリリス。
「ナルミさんが、なにか?」
「ええ、いろいろと問題が」
周りにいた貴族達も皆、ナルミが去った後各々で再び会場に戻ったり家に帰ったりしているので誰もいない。
ただ、いまだに伸びてるガーリクルがそのまま放置されてる所を見ると、彼に味方はいなかったようである。
そして、その誰もいない広場で意を決したようにエリザが言い放つ。
「サザールス公爵家の奴隷保有の証明、癒着や賄賂の摘発、さらには本人との直接的な決闘での勝利。これらを踏まえてナルミは……現在の地位からどれくらい上がると予想しますか?」
「少なくとも、入れ代わるまではいかないけど候爵までは上がると思いますわ。でもそこまでいくとさすがに姫様の近衛隊に置いておくのは難しいかもですね」
ガーン!!
そんな音が聞こえる程にショックを受けるエリザ。
「や、やっぱりか……」
普通近衛隊と言うのは、王族の事を命を張って護る者である。
下級貴族ならともかく、その命を張る者が国にとって重要な上級貴族などありえないのだ。
したがって、ナルミがこのまま上級貴族の仲間入りをするとエリザの近衛隊として置いておく事ができないのである。
それを知って限りなく落ち込むエリザに、リリスは優しく手を差し延べす。
「姫様、大丈夫ですよ。私にいい考えがあります」
「……考え?」
「ええ、今のナルミさんの立場を利用した、それでいてナルミさんの爵位の上昇も阻害しない、むしろ彼の立場をさらによくする名案が」
……こうして、ナルミ本人のあずかり知らない所で着々と彼の地位は向上していくのであった。
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