自由気ままにリリカル記
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妄想と戯言
妄想
前書き
私の妄想力が高まったら更新する方針です。
完結を連載中に変えるつもりはありません。
これは、近未来の話。
女性にしか反応しない世界最強の兵器「インフィニット・ストラトス」、通称「IS」
二千のミサイルを一機のISのみで撃墜したことで、明確に男女の社会的パワーバランスは変貌。
女尊男卑が当たり前の時代へとなった。
その男にとって過酷な時代を生きる一人の少年、織斑一夏。
彼は現在誘拐されていた。
少年の姉であり、世界最強のIS操縦者、織斑千冬は第二回IS世界大会(モンド・グロッソ)出場中の時を狙われたのだ。
「むー! むー! っむぐ!?」
「うるせえガキ! 静かにしやがれ!!」
黒スーツの男達は猿轡越しの喚き続ける一夏を殴り付け黙らせようとする。
涙目になりながらも決して涙だけは流さない一夏を見たひとりの男が、殴った男に何か告げ口をして、男共の顔から怒りの感情が消えた。
「いいか。お前にいいことを教えてやろう」
「……?」
ただ、その代わりにニヤニヤと下卑た笑みが貼り付けられていたが一夏は気づかない。
「今俺の仲間から連絡が入った。お前の姉さんはお前の救出よりもモンド・グロッソ出場を選んだそうだ。っひひひ! とんだお笑い草だな。唯一の身内からも見捨てられるなんてな!」
そしてとうとう堪え切れなくなったのか、周囲から笑い声が響く。
「そんな……」
「というわけで、織斑千冬を引きずり出せなかった時点でお前は用済みだ。死ね」
黒スーツの内の一人が一夏の脳天に片手銃を突きつけるが、一夏は反応を示さない。
最早周りの音など入ってこず、視神経は何も脳に視覚情報を送ってこない。
もうどうなってもいい。そう一夏が呆然と思った時のことだった。
「…………え?」
目の前の男の腕が何かで斬り落とされたのは。
「ぎゃああああああああああ!!」
「っな、なんだっ!! 一体何がっぐああああ!?」
目の前の男の腕がどこかに吹っ飛んだ痛みで叫んだのを拍子にこの場にいる黒スーツの男達が次々に血塗れになっていく。
だが、その事象を起こした人物は見えない。
かろうじて相手を襲う瞬間に影らしきものが見えるものの、それ以外の時には全くと言っていい程、姿形が消え失せている。
一夏がその人物を目にすることが出来たのは誘拐犯が命の灯を全て消された後のことだった。
「……大丈夫か、少年」
現れたのは腰まで華奢な体をして届く黒髪を一つに纏めて下ろしているため男か女なのかいまいち判別しづらかったが一夏は暴走して今にも溢れ出して壊れそうな心を落ち着かせるような心地よい低さの声から男だと判断した。
「あ……はい」
男は一夏の顔を覗き込んで安心したような表情をして言った。
「そりゃよかった」
「……よかった? よくないよ……」
「……どうした?」
「俺なんか死んでしまえばよかったんだよ! 家族に見捨てられた俺なんてっ!! っ!」
「あー……そりゃどうしてなんだ? よかったら俺に話してくれ」
そう言って男は一夏の右側に立っていたのにわざわざ左側に移動してから一夏の側に座った。
ふと、疑問に思った一夏は男を見ると男の左側の異常に気付いた。
「っあ……。お兄さん、腕が……」
左腕が肩から下まで根こそぎ消えているのだ。もし、先程の事で受けてしまった怪我ならば命にもかかわることは一夏の目からでも明らかだった。
俺のせいでこの人が死んでしまう……。そんな自己嫌悪からまた心の中がぐちゃぐちゃになる一夏だったが、男の苦笑染みた笑い声で我にかえった。
「腕……? ああ、これのことね。左腕は大分前の怪我だから心配しなくていい。それに俺がこの程度の奴らに負けること自体が有り得ない」
「よかった……」
「クク……優しいねえ。まあ、そんなことよりも話してみな。一体少年に何があったのか」
そして、何も疑うこともせずに一夏は事の顛末を話した。
世界最強の証である戦女神【ブリュンヒルデ】の称号を持つ織斑千冬の弟であること。姉がIS世界大会に出場する時に誘拐されてしまったこと。唯一の身内だからきっと助けにきてくれると思ったのに姉は構わず出場したということ。それが原因で先程殺されそうになっていたこと。
一夏は全てを話した。話していく内に自らを世界最強の弟だとしか見てくれないことに対する鬱憤すら、見ず知らずの他人に話していた。
男は話を聞いていく内に顔が険しくなっていったが、唐突に何かに気付いた様子を見せると険しい表情はなりを潜め、口元は微かに笑みを形作っていた。
「そうだったのか。……それで、少年は姉をどうしたいんだ?」
「姉……? 確かに姉さんはいつも忙しそうだったよ……。それでもきっと唯一の弟を見捨てることだけはしないと思ってたのに。俺が誘拐された時もきっと見捨てることはないと思っていたのに……。もう姉さん……いや、織斑千冬は……」
ボゴン
虚ろな目で話す一夏はその先の言葉を放つことが出来なかった。
唐突にされた男のデコピンにより頭が大きく仰け反ったからだ。
デコピンの癖にやたらと強い、額がへこんでしまったのではないかと思うほどの痛みに言葉もなく悶絶していると、ずっと聞き手にまわっていた男が口を開いた。
「少年。お前は少し考えが足りないみたいだ」
「考えが足りない?」
「これは俺の推論になるから必ずしも正しいと断言することは出来ないが、こう見ることも出来るぞ? お前の姉はお前の話から考えれば世界に大きな影響を与える程有名な人物。恐らく国はどんな方法を使ってでも欲しがるだろうな。だが、織斑千冬はミサイル二千発を一人で全て撃墜出来る程の持ち主。武力行使で奪うことは出来ないだろう」
「……うん。ISに乗ってなくても強いから」
一夏とこの男はただ強いだろうという結論に達し、具体的な内容に関しては知らない。
織斑千冬は木刀で斬鉄が出来る程の腕前を持つため強いどころの騒ぎではないことを二人は知らない。
「だろう? そこで、ある人はこう思いついた。織斑千冬の唯一のウィークポイントであるその弟を誰かに誘拐させて、それを自分たちが颯爽と救い出すことで恩を売り、自国に持っていこうとしよう、とね」
「っな……」
「しかし、下手に誘拐をしたら逆に織斑千冬に感づかれる。そこで動くことが出来ないモンドグロッソの時を狙おうと考えたわけだ。その時にお前を誘拐させて、敢えて織斑千冬に情報を渡さずに自分だけで助けに行こうとする。こんな感じの計画だったんじゃないのか? かなり飛躍のある考えだが、身内を助けに来ないってのを頭に入れとくとこう考えることも出来たんでな」
「まさか……それじゃあ姉さんは俺が誘拐されたのに来ないのは、助けに来ないんじゃなくて助けに来れないだけ……?」
一夏がそう呟いた瞬間に閉ざされた扉が勢いよく破壊された。
「一夏!! どこだ! どこにいるんだ!!」
「っ! 姉さん!」
ISに乗った状態で織斑千冬は一夏の名前を叫びながら周囲を探し始めたのを見て、一夏は表情を明るくさせて声を上げる。
そして、一夏の方を向いた織斑千冬は一夏の無事な姿を見て安堵の表情を見せて、
「お前が……」
「…………ん?」
男の方を見た瞬間に顔を俯かせてブツブツと呟き始め、
「お前が……私の弟を誘拐したのか……」
「ひっ!」
顔を上げた時には修羅の顔をしており、背後には何か凶悪なオーラが立ち上っていて気のせいか本当に阿修羅が背後にスタンドとしているように二人には見えた。
その顔を見て思わず悲鳴を上げた一夏と表情を引き締めて織斑千冬を観察する男。
「一夏から離れろおおおおおおおおおおおおおおおおおおおお!!!!」
そして世界最強は一夏の命の恩人を無力化……いや、殺しにかかってきた。
その時二人は思った。
やばい。と
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