東方守勢録
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第六話
「そんな……ここにきて……」
鋼鉄のような壁は出口をぴったりと塞いでしまっていた。なんどかたたいてみるが、まったく動く気配はない。
「由莉香、ここ以外に出口は?」
「あるけど……今の警報だと、もしかしたら全部……」
「じゃあ……私達は閉じ込められたってこと!?」
「……はい」
最悪の状況だった。
革命軍は捕虜が万が一逃げ出したときのことを考え、わざとこのようなシステムを作っていたのだ。由莉香自身はこの機能を知らなかったわけではないが、この建物自体に使われているかは知っていなかった。
出口をふさがれてしまった以上、脱出する方法はない。一同の顔にはあせりの色が浮かんでいた。
「くっ……こんな壁、弾幕を使えば何とかなるはず!」
藍はおもむろに弾幕を出すと、一気に鋼鉄のような壁にぶつけていく。
だが壁は傷ひとつすらつかず、それどころか、触れた弾幕はなぜか力を失ったかのように消滅していった。
「なっ……弾幕が消えた……?」
「この壁は……おそらく試作段階の防御壁だと思います。ここの人たちが作りだした弾幕を分解する働きがあります」
「そんな……」
弾幕による攻撃はまったく通さない。それに壁としての強度を考えると、全員の力を合わせてもどけそうにない。
完全に詰みになっていた。
「せっかくここまできたのに……」
「いたぞ!!」
なにもできずに立ち往生する一同を追いかけてきた兵士達は、すぐそこまで迫っていた。すぐさま配置についた兵士達は、考える暇を与えることなく発砲を始める。早苗はすぐさま俊司達を囲むくらいの結界を作り出して防御を始めるが、それ以外なにもすることができなかった。
状況は俊司が始めて妖怪の山で戦ったときとほとんど同じ。負けが見えたままの耐久戦。もはや、絶望の一言しか残されていなかった。
唯一の救いは、向こう側の攻撃が前回よりも弱いということ。前回は幽々子の弾幕で余計に力を消費していた。今回はそれがないため、力はある程度温存できる。だが、永遠にというわけではなく、ただの時間稼ぎにしかすぎなかった。
「くっ……量が多すぎる……」
「ああもう! どうしたらいいの!」
「藍しゃま……」
「心配するな橙。私から離れるんじゃないぞ」
思考が定まらず、あせり始める咲夜達。何もできずにここで終わる。そんなことが頭の中に浮かび上がり始めていた。
一人を除いて。
「由莉香、ほんとにこいつの弱点はないのか?」
「えっ……」
「なんでもいい…… 実験中におきたこと、噂で聞いたことなんでもいいから」
「なんでも……えっと……」
由莉香は言われたとおり自分の記憶を探りはじめる。
由莉香は軍内の人間と多くのかかわりを持っていた。それゆえに、耳にする話も多い。必死に防御壁に関する話を思い出そうとしていく。
そして、なにか思いついたのか、おもむろに話を始めた。
「確か……実験段階では実弾による爆発によわいって言ってたかも……!」
「ほんとか!?」
「うん。でも……爆発物なんてもってないよ……」
由莉香の手持ちは、最低限自分の身を守れるものしかない。俊司達にいたってはもっているわけがない。せっかく有力な情報が現れたというのに、なにもすることができなかった。
だが、そんな中で少年だけが笑みを浮かべていた。
「それで十分だよ」
「えっ……でも……」
「持ってないなら代役を使えばいいさ」
そう言って俊司が取り出したのは、一枚のスペルカードだった。
「だめだよ俊司君! この世界の弾はすべて吸収されちゃうんだよ!? スペルカードで爆発物を作り出しても破壊はできな……」
「ごめん由莉香、俺は弾幕作れないんだよね」
俊司は少し笑いながらそう言った。
「え……じゃあどうやって……?」
「弾幕は作れないけど……俺にはこいつがあるから」
そう言って俊司が彼女に見せたのは、普段使っているハンドガンだった。
ハンドガンが出す弾は通常の弾以外にも、麻酔タイプのものがある。しかし、爆発する弾を発射するとは聞いたことがなかった。由莉香は訳が分からずに首をかしげる。俊司はそれをみると、いそぎ口調でしゃべり始めた。
「スペルカードは弾幕だけじゃないってこと。これでわかるか?」
「え……」
「……まあ、実践してみるから見ててよ」
そう言って俊司は防御壁と向かいあった。
「早苗さん。もう少しだけ耐えてください」
「はい……もう少しなら全然大丈夫です」
「ありがとうございます。あと、みなさんすいませんが……少し距離をとっておいてください」
「わかったわ……」
咲夜達は言われた通り俊司から距離をとる。それを確認した俊司は、心を一旦落ち着かせてから、カードに念を込めていった。
(確実に成功するとは言い切れない……でも、やるしかない)
覚悟を決めた俊司は、ゆっくりとカードを発動させた。
変換『科学で証明されし弾薬』
カードの効果が発動した瞬間、俊司が握っていたハンドガンが、一瞬閃光手榴弾の光くらいまぶしく光り始った。
だが、それ以降はなにもなく、爆発のひとつもおこっていなかった。
「……なにも……起きてないわよ?」
「はい。まだ何もしてないんで」
「?」
俊司はそれだけ言うと、大きく深呼吸してハンドガンを構えた。
(弾丸に爆発のイメージをのせて……威力は最初は少なめ。爆風も最小限に抑えて、周りに被害をださないようにする……想像を……弾丸に……)
俊司は頭の中でイメージを膨らませていく。周囲のことも考えながら、出来あがった想像を体を通してハンドガンに伝えていく。
そしてすべて想像し終えた瞬間、俊司はなにも迷うことなく引き金をひいた。
ここまでの流れは、いつも俊司が戦う時とほとんど同じ。だが、由莉香達に聞こえてきたのはいつもの発砲音ではなく、何かを放出したかのような大きな発砲音と、襲撃をだしながら鳴り響く爆発音だった。
ハンドガンから発射されたのは、弾丸ではなくグレネード弾だったのだ。
「……よし!」
「えっ……今の……」
「な? 言ったろ?」
俊司はそう言って軽い笑みを浮かべていた。
「しっかし……こいつだいぶ強度があるな」
爆発によって防御壁はダメージをうけていたが、破壊するとまではいかなかった。だが、表面にはかるい亀裂が入っており、爆発に弱いのはまだ改善されていないようだった。
俊司達に希望の兆しが見え始めていた。
(次はもっと強くして……)
俊司は再びイメージを膨らませていく。さっきより大きな爆発・威力を想像し、再びハンドガンへと伝えていく。そして、すぐさま引き金をひいた。
「うわっ!?」
イメージが強すぎたのか、爆風によってよろける俊司。だが、それだけ威力が上がっているということ。
爆風がやみ煙が去った後、一同の目の前には希望が広がっていた。
「開いた!」
俊司は喜びのあまりそう叫んだ。
「すごいよ俊司君!」
「はあ……よかった」
「これで外に出られるわね!」
「さすがだな。俊司君」
「そんなことないですよ。さ、急ぎましょう!」
防御壁が壊れてしまった今、俊司達を止める物などなにもない。一同はすぐさま基地から脱出するのであった。
数分後
「はあ……はあ…ここまでくれば……」
「追ってもこないわ」
「……成功ですね!」
基地からかなり離れた森の中で、一同の歓喜の声が上がった。
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