Fate/stay night 戦いのはてに残るもの
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託される物
前書き
運命の夜、少年二人は決意する。
「また何処に行くのか切嗣?」
暇だったので切嗣の部屋に行ってみると、切嗣が鞄に衣服を積めていた。
「うん、また冒険に行こうと思ってね」
切嗣は笑顔で俺を見ながら、衣服を鞄に積める。何年か前に、いきなり冒険に行くと言われた時は驚いたもんだ。
切嗣は時々いきなり、色々な所に冒険をしに行く! と言って家を留守にすることがある。ちなみに俺達は、毎回苦笑いで見送っている。
これは俺の予想だが、切嗣は恐らく冒険が目的で家を留守にするのではなく、別の目的で何処かに行っていると思う。
切嗣は毎回、笑顔で旅立ち笑顔で帰宅するのだが何故だろうか、俺には無理をしているように見えている。
最初に行った時からそうだが、切嗣は表情こそ笑ってはいるが、心の中では恐らく笑っていないだろう。
それどころか恐らく切嗣は、行く度に心を痛め続け帰る度に、無力感か何かで一杯になって帰って来ている気がする。
「なぁ切嗣」
「何だい彩雅?」
そんな切嗣を見てられなくなり、俺は切嗣に思っていたことを伝えた。
「何をしに何処に行ってるかは知らない、でももう止めたほうがいいと思う」
「……何を言ってるんだい彩雅?」
先程の笑顔から俺を無表情で見る切嗣、そんな顔をしても怖くも何ともないけど。
「別に、俺には何か切嗣が無理してるように思えるから。違うんならいいけど」
そう言って俺は、切嗣の部屋を後にする。恐らく切嗣は、俺が言ったぐらいじゃ行くことは止めないだろう。
次の日、切嗣は何時も通り笑顔で『冒険に行ってくる!』と言って家を後にした。
「爺さん、何か最近元気ないよな。冒険から帰った後も、顔は笑ってるけど部屋に戻ると、溜め息ばっかり吐いてるし」
士郎も、切嗣の元気のないことに気付いていたようだな。士郎や俺にも分かるぐらい、今自分は元気がないと気付いてほしいもんだ。
「まぁ、切嗣にも色々あるんだよ。そら、鍛錬始めるぞ士郎」
「爺さん、あのままで大丈夫かな?」
「それは分からん、でもきっと大丈夫だろ。ほら行くぞ」
俺はそう答えると、士郎と一緒に玄関を後にし俺と士郎は、魔術の鍛錬場に使っている土蔵に向かった。
土蔵内で試しに、士郎とどちらが強化と解析が上か勝負してみたら、解析では細かい部分まで解析出来る士郎の勝ち、強化では身体と物を強化出来る俺の勝ちとなった。
「何で俺は、彩雅より強化が成功しないんだろう」
解析は問題なく、隅々まで情報を読み取れる士郎だが、何故か強化はほとんどやってみると失敗している。
……やっぱり回路の起動を、切り替えたほうがいいと教えるべきなのだろうか? 恐らくON OFFが出来れば成功確率が上がる気がするし。
「なぁ士郎、俺達まだ魔術を教えてもらって数ヶ月ぐらいしか経ってないよな?」
「そうだけど、いきなりどうしたんだよ?」
俺はその後、士郎に現在の自分の回路の起動方法を教えた。毎回全部開くんじゃなく、切り替えて起動していると。
「じゃあ、爺さんの言ってたやり方は間違ってるのか?」
「分からない、でももしそうだとしても何か理由があると思う。……切り替えのことは、切嗣には内緒にしとけ。これからの鍛錬に、何か言ってくるかもしれないからな」
「分かった、けど回路のON OFFか。どうやってやればいいんだ?」
「回路を開いた後は、俺は頭の中でスイッチを押すイメージをしてOFFにしてる。開く時も同様にスイッチを押すイメージをしてONにしてる。暫くは士郎は、切り替えを重点において鍛錬だな」
「イメージか、先ずは全部の回路を開いて…………」
士郎は回路切り替えの鍛錬をし始め、俺は俺で何時も通りの強化の鍛錬を開始した。
「何処まで強化出来るか」
手に持った包丁を強化し、試しに持ってきた木片を斬ろうとしたが途中で引っかかり失敗。
「ただ強化するだけでは、無理なのか?」
包丁を木片から引き抜き、再度強化を掛けてもう一度斬ろうとするが、やはり途中で引っかかって失敗。
ただ単に強化を掛けるだけでは、今の俺では木片を斬るまでには、強化が出来ないのだろうか?
「何かが足りない。後何かをすれば、木片を斬れるぐらい強化出来ると思うんだが」
当分の課題はその何かだな。それを考えながら、強化の鍛錬は引き続き続けて行くことにしよう。
その何かが分かれば、格段に強化のレベルが上がって色々なことに役立つだろう。主に人助けとか何かなら尚更。
それからまた数週間、俺は強化と解析 士郎は回路の切り替えに成功し、俺と同じく強化と解析の鍛錬をひたすら続けた。
回路の切り替えが出来るようになった士郎は、失敗することが多かった強化を、普通に成功させるぐらいに成長したみたいだ。
鍛錬をしていたある日、切嗣が数週間ぶりに何時も通りの笑顔で家に帰って来た。
「「おかえり切嗣(爺さん)」」
「ただいま。二人共、僕の留守中何か変わったことはあったかい?」
俺と士郎の頭を優しく撫でる切嗣だが、何故だろうか? 腕にあまり力が入っていないような感じがする。
いや違うな、力が入ってない感じがするんじゃない。切嗣の腕の力が弱くなっている気がする。
日に日に切嗣の腕の力は、僅かにだが弱くなっていた感じがしていたのだが、これは確信の可能性が高い。
数週間ぶりに会った切嗣の腕の力は、数週間前より確実に弱くなっている。何が理由なのかは分からないけど。
「特に何もないよな彩雅?」
「ないな」
「なら安心だ。久しぶりに士郎のご飯が食べたいな」
ずっと切嗣は笑っている。士郎も笑顔で切嗣を見ているが、俺は一人複雑な表情で切嗣を見ていた。
その日を境に、切嗣は冒険に行くことを止め家にいるようになった。理由を聞いても事実は話さず、士郎と俺の顔が見られないのが寂しいと言っていた。
腕の力のほうも、日に日に少しずつ落ちているようで、切嗣の顔にも若干衰弱ししているあとが見られる。
切嗣には何度も確認したのだが、最近あまり調子がよくないの一点張りで、身体のことは何も教えてはくれない。
切嗣の身体のことを心配しながら、自分の魔術の鍛錬も続けていき、また数年の時が流れた。
「爺さん、そんな所で寝てたら風邪引くぞ」
あの地獄から生還し、早くも五年の月日が流れた。俺も士郎も、家事と魔術の鍛錬を続けていき特に何もなく、楽しい日々が続いていた。
そんなある日、切嗣が月の綺麗な夜に一人で縁側に座っていた。顔は前より衰弱の様子が見え、切嗣自身の存在も弱々しく感じる。
「…………」
「切嗣、風邪引くと俺と士郎に迷惑だから起きてくれ」
士郎の声に反応しなかったので、切嗣に俺からも声を掛けると切嗣は目を開け俺達を見た。
「……? ああ、ごめんね。彩雅に士郎」
「びびらせんなよ、反応しないから死んだかと思っただろ」
「いや、それは流石に言い過ぎだろ彩雅?」
俺と士郎も切嗣の横に腰を下ろし、月を見上げてみる。うん、綺麗な満月だ。
「まだ彩雅と士郎には言ってなかったね」
切嗣が月を見ながら口を開く、声も前より弱々しく感じる。本当に切嗣は大丈夫なのだろうか?
「子供の頃僕はね、正義の味方になりたかったんだ」
切嗣は笑いながら語り出した。昔正義の味方を目指していたと。正義の味方、多くの子供が夢見るヒーロー。子供なら一度は将来なりたいと思うだろう。
「なりたかったんだって、爺さんはその夢を諦めたのかよ?」
「うん、子供の頃は簡単になれると思っていたけど、大人になるとなるのは凄く難しくなってしまっね」
大人になれば、子供のように単純に考えて未来に進むことは、やはり出来なくなるのだろうか?
切嗣はきっと大人になっても、正義の味方を目指そうとしたけれど、色々な壁にぶつかりその夢を断念したのだろう。
「切嗣、正義の味方ってそもそも何なの?」
士郎が切嗣に何か言う前に、俺が切嗣に質問をする。正義の味方、切嗣の言う正義の味方はどんな感じなんだろう?
「難しい質問だね。……そうだな、僕の中の正義の味方はどんな人間でも救える者かな」
切嗣は笑顔で言った。どんな人間も救える人間、それが正義の味方だと。……でもそれは。
「切嗣が、正義の味方を目指して諦めた理由が分かったよ」
全てを救える正義の味方などには、恐らくなることは出来ない。切嗣もそれに気付いてなるのを諦めたのかもしれない。
「でもね、僕は二人にそんな正義の味方を目指してほしいとは思わないんだ」
「じゃあ、どんな正義の味方を目指せばいいんだ爺さん?」
切嗣の発言の直ぐ後に、士郎が質問をすると切嗣は俺と士郎の頭を優しく撫でながら答えた。
「大切な人を守れる正義の味方さ」
「「大切な人を守れる正義の味方?」」
士郎と声がハモりながら、俺と士郎は顔を見合わせる。大切な人を守る正義の味方? それって正義の味方と言うのだろうか?
「僕はね、昔正義の味方を目指していたのに、大切な人を守れなかったんだ。助けられず、僕は今でも思い出しただけで凄く辛いんだ」
切嗣は目を瞑り月を見る。表情は穏やかそうに見えるが、内心では後悔で一杯になっているのかもしれない。
「……二人共、だから何があっても大切な人は犠牲にしてはいけない」
目を開け俺と士郎を見る切嗣の目は、かなり真剣なものだ。
「分かった切嗣、俺は大切な人を守れる正義の味方になるよ」
「仕方ないから俺もなってやるよ、大切な人を守れる正義の味方って奴に」
俺と士郎も、切嗣の目を真っ直ぐ見て答える。きっとなってみせると再度心の中で呟きながら。
「そうか、……なら安心だ。二人共ありがとう、本当にありがとう……」
切嗣は俺達の答えを聞くと、優しく微笑み再度目を瞑り出す。だから布団で寝ろって言ってんだろ。
「切嗣、布団で寝ろって何度言わせ……!」
俺は、切嗣の身体に手を触れた瞬間驚愕した。……何だよ? どういうことだよ!?
「どうしたんだ彩雅?」
「切嗣の身体凄く冷たい。おい切嗣!」
身体を揺すっても切嗣は起きない、それどころかそのまま切嗣は倒れてしまった。
「嘘だろ? 切嗣、ふざけてんだろ? なぁ起きてくれよ!」
「爺さん! おい爺さん! 何時ものお遊び何だろ? 本当は起きてるんだろ!」
俺と士郎がいくら叫んでも、切嗣は一行に目を開けない。……切嗣そんなに身体が……。
「爺さん……俺なってみせるからよ。大切な人を守れる正義の味方に」
士郎はその言葉を言った後涙を流した。何故だろうか? 俺の目が霞んでいる。泣いているのだろうか?
よく分からないまま、俺は虎に連絡をした後部屋に戻った。虎も最初は笑っていたが家に来た瞬間唖然とし泣いていた。
後のことを全て士郎と虎に任せて、部屋に戻ってみると。
「何だこれ?」
自分の机の上に小さな袋と、白い封筒が置いてあった。朝にはこんな物なかった筈だが?
袋を無視して封筒を開けてみると、中には手紙が入っていた。
『やあ、彩雅。多分彩雅がこれを読んでいる時には、僕はもうこの世にはいないだろうね。折り入って彩雅に頼みがあって、この手紙を最後に残した。実は…………』
内容を確認してみると、……色々と驚きの事実が書かれている。だから切嗣は…………それにそういうことだったのか。
手紙の内容と袋の中の物を確認した後、袋と手紙をしまい俺は布団に入り目を閉じ眠りについた。
「やってくれたね、衛宮切嗣」
管理者は水晶玉を睨みながら、椅子に座っている。何事も特におきないだろうと思っていた結果、予想外のことがおきたからだろう。
本来、あの場面で切嗣はあんなことを言わず、衛宮士郎はただ正義の味方を目指す男になっていた筈だった。
「衛宮彩雅、あの男の出現で既に話が少し変わるとはね」
本来はいない彩雅の出現により、早くもストーリーに若干の変更がかかった。下手をすると原作通りに行かない可能性も出てくる。
「衛宮士郎のサバイバーズ・ギルトは、そう簡単には消えない。結局衛宮切嗣の言葉があろうと、彼は原作のような馬鹿な動きはするだろう」
士郎の性格を知っている管理者は、再度士郎のことを考えると笑いながら水晶玉を見る。
「君は結局、変われるかな衛宮士郎? そして衛宮彩雅、これからどうなるか楽しみだハハハハハハ!」
管理者は椅子から立ち上がり、水晶玉を手に持つと煙のようにその場から姿を消し、周りの空間には彼の笑い声が響き渡った。
後書き
早いですが、少年時代はこれで終わりです。
次回から聖杯戦争に入ります。
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