戦国異伝
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第百二十一話 四人の想いその六
「申し訳ありません」
「いや、それはいいでござる」
慶次も礼儀正しく返す、傾奇者ではあるが礼節もしようとすれば出来るのだ。
その彼がこう言うのだ。
「ただ。茶室の中に入っていいのですか」
「はい、そうです」
その通りだというのだ。
「お客人は多い方がいいので」
「そうですか、それでは」
「それでなのですが」
今度は幸村が利休に問う。これが二人の初対面だった。
「そのお客人とは」
「それは入ってからということで」
今の時点では言わないというのだ。
「それで宜しいでしょうか」
「わかりました。それでは」
幸村も利休の言葉をよしとした、そしてだった。
慶次と利休は二人で茶室に入った、すると中にいたのは。
「あら、また会ったわね」
「御主であったか」
阿国がいた、そこにはあの艶やかな女がにこりと笑って座っていた。
幸村はその彼女にこう言うのだった。
「まさかまた会うとはな」
「意外だね。けれどこれもだね」
「縁であるな」
「そうだね。じゃあ一緒に飲むかい
「茶をな」
阿国とはこれで無事に話が収まった、そしてもう一人は。
黒い服に精悍な顔立ちだった、その黒い服で全てわかることだった。
「御主があの直江兼続か」
「そうだ」
兼続は胸を張って応じる。
「既に一度会っておったな」
「すれ違ったのう」
「そのことはよく覚えておる」
慶次自身もだというのだ。
「緊張したわ」
「左様か。しかしここで五人になった」
「いえ、四人でございます」
利休が言ってきた。
「私はこれでお暇しますので」
「利休殿は」
「はい、四人でお話下さい」
こう言うのである。
「是非共」
「かたじけない、それでは」
兼続は利休の好意を受けた、他の三人もだ。
利休が去り四人になったところでだ、まずは阿国が言った。
「茶を飲みながらになるけれどね」
「話をするか」
「こんな顔触れが揃うのも縁だよ」
まさにそれだというのだ。
「昨日真田の旦那と会ったのも縁だけれどね」
「この度もだな」
「そう、縁だよ」
「こうして四人が共に茶を飲むのも」
「いい縁だね、ただ」
「ただ。何じゃ」
「茶は誰が入れるのかね」
阿国がここで言うのはこのことだった。
「それでね」
「わしでよいか」
慶次が名乗り出た。
「これでも茶は好きでな」
「そうそう、前田の旦那は茶も好きだったね」
「うむ、茶もまた傾きじゃからな」
それでだというのだ。
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