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戦国異伝

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第百二十一話 四人の想いその五

「御主達が真田十勇士か」
「むっ、我等のことをご存知ですか」
「知っておられましたか」
「名は聞いておる。真田幸村の忠臣にして無双の忍達じゃな」
 個々の術と武勇ではまさに天下屈指の者達sだというのだ。
「御主達の顔は知られておらずとも名は知られておるわ」
「左様でしたか、我等の名は」
「そこまで」
「うむ、それで御主達もどうじゃ」
「いえ」
 十勇士のまとめ役の海野が慶次の今の申し出にこう答えた。
「折角の申し出でありますが」
「よいというのか」
「はい、前田殿は殿とお話をされたいのですね」
「うむ、そうじゃ」
 まさにそうだというのだ。
「利休殿のところでな。丁度都に来ておられるのじゃ」
「あの茶の方もですか」
「この都に」
「利休殿の茶室、広いところで共にと思っておったが」
 だがそれはだった。
「御主達がよいというのならのな」
「我等は下がらせて頂きます。ただ」
 ここで海野の目が光った、他の面々の目も。
「殿に何かあればその時は」
「すぐに来るというのじゃな」
「我等は皆一里先の針が落ちる音も聞きます」
 彼等の忍としての腕がここで早速言われる。
「そして一度動けば風よりも速く動きますので」
「それでじゃな」
「殿には指一本触れさせませぬ」
 まさにそうするというだ。十人共同じ目で慶次を見据えそのうえでの言葉だった。
「そのことはご承知下さい」
「ははは、わしとて勝負は然るべき場所で挑む」
 慶次もその彼等に笑って返す。
「そうしたことは一切せぬ」
「左様ですか」
『決してですか」
「うむ、何があろうともな」
 傾奇者としてそれはしない、慶次の誇りだ。
 誇りを知る者は誇りにそぐわないことはしない、そういうことだった。
「だから安心せよ」
「そうだな。貴殿はそうした者ではない」
 幸村は慶次の目を見ていた。そのうえでの言葉だった。
「卑怯未練の男ではない」
「わしを信じてくれるか」
「信じるに足る者じゃ」
 まさにそうだというのだ。
「だからこそじゃ」
「では共に茶を飲むか」
「そうさせてもらおう」
 幸村は確かな笑みで慶次に応えた、そしてだった。
 二人で慶次が案内する茶室に入った、だがここでだった。
 入り口に利休のものの他に二つの草履を見た、その中の一つは女のものだった。
 その二つの草履を見てこう言う慶次だった。
「はて。利休殿のお客人か」
「そうであろうな。では誰か」
「わからぬな。一つはおなごのものにしても」
「先客か。では別の場所に行くか」
「そうするか」
 そうした話になろうとしていた。だが。
 ここで茶室の入り口から利休が顔を出してきた、そのうえで二人に対してこう言ってきたのだ。
「お待ち下さい、帰るには及びませぬ」
「むっ、これは利休殿」
 慶次は利休の顔を見て応えた。
「聞こえていたか」
「はい、聞くつもりはありませんでしたが」
 こう言ってそのことは謝る。 
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