形而下の神々
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過去と異世界
赤髪の銃
「もしかして……お二人は仲良しなの?」
何だか言い合いのしかたがとっても親密な感じがするのだ。
しかしグランシェは否定した。
「違う……知り合いだけど奴とは特に中は良くない。ヤツはサディストなんだ。趣味が人殺しだから傭兵になったんだとさ」
こ、恐えぇ……サディストとか初めて見たよ。というか見た目は眺めれば麗しい程の美しさを持っているというのに。
振り向いた彼女は目鼻立ちもハッキリと美しく、真っ赤な髪と相成ってとても気の強そうな印象を持たせるもまさしく女戦士といった凛々しさのある素敵な感じがガンガン伝わってきた。
が、そんな分析をしているとトゥーハンドとやらがコチラに銃を向ける。
「まぁどうでも良いや。ウチは今はスティグマとかの頭領をしててね。グリーンバレットみたいな大物傭兵と殺り合えるなんて……生きてて良かったよ」
タァン……!!
唐突に鳴る銃声。ほぼ同時に反応した俺の身体は盾を構えて念じていた。
グランシェを守れっ!!
するとオルガフはまるで液体の様にスルリとその形を変え、グランシェと銃弾の間に割って入る。そして液体の様な柔軟さを持ったままであるにもかかわらず見事に銃弾を防ぎ元の盾の形へと戻った。
「おいおい、そちらの弱そうなのも神器使いかよ……しかも厄介な感じの神器だなぁ」
一瞬、少し面倒くさそうな顔をしたかと思うと。
タタン!!タタン!!タタン!!タタン!!
と、快活な音を放ちながらリズム良く引き金を引くトゥーハンドは俺を狙いながら、同時に後ろへ回り込もうと凄い速度で走る。どうやら背後から俺を先に討とうと考えているらしい。
しかも相当な速度で走ってるのにも関わらず、全ての弾丸が俺の急所へとその鼻先を向けていた。
「逃げらんねぇぜ~」
そんな事を言いながら二丁銃の赤髪は弾丸を放ち続ける。180度、完全に俺の背後へと回り込み、恐ろしい速度で様々な角度から捩込まれた弾丸だがやはり神器オルガフが全て形を変えて防いだ。
ちなみにオルガフがなかったら俺の身体は蜂の巣どころか、ザルみたいになってただろう。
「チッ、当たらねぇとつまんねぇなあ」
トゥーハンドは本当に詰まらなさそうにそう言いながら腰に掛けた袋に手を突っ込んだ。
それを見たグランシェが大声で叫ぶ。
「タイチ下がれ!! 俺が叩くから援護するんだ!!」
「お、おう!!」
俺もちょうど身の危険を感じていた所なので、素早く退避をしようとしたが……。
「だから逃がさねぇってば」
そう呟いた彼女の手には2つのボールがあり、既にその二つの玉がそれぞれ俺の頭上と足元まで飛んできていた。
「そぉら!!」
ババンッ!!
頭上の玉に弾丸が当たり、恐ろしい量の煙を上げる。
「グッ、煙幕……」
かなりの煙が頭上を覆い、一瞬怯んだ後に目を開けるが何も見えない。
どうやら下の玉は的が外れたらしく、不発なまま俺の足元に転がって来た。
「終わりだッ!!」
赤髪の声と共に激しく響くけたたましい銃撃の音。しかし俺は無傷だしオルガフも動かない。弾丸は全て外したのか?いや、射撃の名手が見えないとはいえ全く動かなかった的を仕留め損なう訳がない。
では弾丸はどこに?
「グランシェッ!?」
俺はハッとして煙の中に叫ぶが返事はなかった。
オルガフを使って気付いたのだが、コイツは使用者の身体は使用者が認識していない外敵からも身を守ってくれてるみたいだが、それ以外の人間を守るときは使用者自身が意識して盾の形を変えなきゃならないのだ。
「グランシェ!? おい、グランシェ!!」
「……ここだよ」
ポンと肩を叩かれた。
「声を出すなよ?ヤツはこの硝煙の中で獲物の声を頼りに銃を当てる」
煙幕のせいで顔もハッキリ見えないが、すぐそこに顔が有るはずなのに聞こえにくいくらいの小声。
俺は意識しなくてもオルガフが有るから良いが素人の俺ではグランシェの援護もままならないのだろうか、グランシェは自分は自分で身を守るつもりらしい。
「すまん、グランシェ。俺ではこの神器を使いこなす事すらできん」
「気にするな、タイチは素人だしな。比べてトゥーハンドは超一流の殺人鬼だし神器も持っている。太刀打ちしろって方が野暮な話だよ」
それからグランシェは何処かへ消えた。一流の傭兵たちがお互いに音も立てず、沈黙の中で硝煙が明けるのを待っているのだ。俺には何がどうなっているのか分からないが、それでは俺も援護は完全に出来ない。
援護は要らないから己の身だけを守ってろってか。まぁ、俺にはそれで精一杯だけどね。
と、その時、ヒュンヒュンと風を切る音が聞こえ微かに硝煙に動きが見えた。
グランシェが投石紐を回しているんだ。しかしあれでは音が……。
案の定どこからともなく銃声が響き、投石紐の音も止んだ。2人の元傭兵は一体この煙の中でなにをしてるのか。
俺みたいな素人には何も分からないのだが、決着はつくのだろうか。
と、その時、銃声がした方向からとてつもない熱風と爆音が体に降りかかり、硝煙が大きく揺れた。
「な、なんだぁ!?」
ついつい叫んでしまう。と、その声を頼りにしたのか再び肩が叩かれた。
「俺だタイチ、急いで煙から出るぞ」
グランシェは小声でそういうと、俺の背中をガッと掴み煙の外へと引っぱった。
もう何が何だか分からないが、邪魔に成らないためにもここはされるがままでいよう。
と、ズリズリと引かれて煙から脱出し、やっとの事でグランシェの顔が見えた。そして先程の爆音の方角を見ればそこには片膝をついているトゥーハンドの姿。
「グリーンバレット……!! てめぇ……」
「え、グランシェ何したの?」
ホントに訳が分からんので小声で聞いた。
すると、もう小声で話す必要は無いのに何故か小声で、しかもドヤ顔で彼は返してくる。
「ノイズキルって言うんだがな、音だけで敵を倒す技、実は俺も出来るんだよ」
まぁトゥーハンド程じゃないがな。と、グランシェは少し残念そうに付け加えた。
そしてグランシェは苦しそうにする赤髪の女性を見やると、勝ち誇った笑みを作る。
「早まったなトゥーハンド」
「うっせぇカス!!」
対する彼女の方は既に両手共から銃を手放しているが、まだまだ戦意はあるみたい。俺ならもう降参してるけど、傭兵ってのはこんな物なんだろうか?
「で、結局グランシェはトゥーハンドに何をしたんだ? 俺にはさっぱりだったんだけど」
聞くとグランシェは満面の笑みを作って説明を始める。
「さっき、ヤツがタイチに向かってボールを2つ投げただろ?」
俺は赤髪が投げてきた2つの手榴弾みたいなものを思い出した。片一方は煙玉で、もう片一方は不発のまま俺の足元に転がったんだ。
「あぁ、なんか投げて来てたな。1つは不発だったけど」
「それ、不発じゃないんだ。俺を始末したあと、オルガフに邪魔されずにタイチを殺すための爆弾だったんだよ」
「えっ、マヂかよ」
グランシェの話によると、直接の弾丸は俺の神器が弾くから、あらかじめ爆弾を俺の足元に投げておいて、グランシェを倒した後にその爆弾を打ち抜いて俺を爆死させるつもりだったらしい。
不発だと思って完全に安心してたよ……。あぶなかった。
「で、それを拾って投げ、逆にヤツを爆死させるつもりだったんだ」
最期に感じた熱風と爆音はそれだったのか。
「って、投石紐で投げたのか?」
というか投石紐は盛大な風切音がするってのに、良く使ったなコイツ。
「いや、あれはフイェクで実際はこうしたんだ」
そう言ってグランシェは右手で石を拾い構え、左手に投石紐だけをを持つ。そして、左手を身体から放して、身体から遠い場所でヒュンヒュンと投石紐を振ってみせた。
「こうすりゃ、ヤツは心臓か脚を狙うから俺には弾は当たらない」
確かに投石紐はグランシェの身体から随分離れた位置で鳴っているから、音の出所を正確に捉えて発砲すれば弾丸は空を切る事になるだろう。
彼は楽しそうに続けた。
「で、トゥーハンドが発砲した音を頼りに今度はこっちが攻撃を仕掛けたんだ」
そう言ってグランシェは右手に持った石を遠くへ投げ、今度はトゥーハンドの方に向き直って眉をひそめる。
「しかし正確に狙ったと思ってたのに吹っ飛んでないとは、俺のノイズキルも大したことないな」
残念そうにグランシェが言うと、トゥーハンドはニヤリと笑って返してきた。
「ウチならその作戦で確実に敵を仕留めてたぜ?」
言ってヨロヨロと立ち上がるトゥーハンド。
「グリーンバレット、本名はグランシェって言うのか。ウチの本名はエリザ=ランカン。てめぇには完敗だ。この通り肩が抜けて銃も撃てねぇ」
言った通り、何とか立ち上がった彼女の両腕は痛々しいまでにだらんと垂れていた。かつてそこに収まっていた自慢の鉄砲は、さっきの爆発でどこかへ飛んでしまっているようだ。
と、勝利が確定したからか、突然グランシェが話題を変えて赤髪のエリザを詰問し始める。
「エリザ、お前はどうしてここに居るんだ?」
俺も気になっていたのだがグランシェの知り合いだということはやはり、エリザは俺たちと同じようにココの住人ではないらしい。
が、彼女の答えはあまり参考にはならなかった。
「ウチにも分かんない」
それがトゥーハンド、いや、エリザの答えだったのだ。
分からないとはどう言う事だ?と聞こうとしたが、それより早くエリザが口を開いた。
「まぁ、気付いたらここに居たんだ。最初は神器やら公式やらに怯えながら暮らしてたんだがな、いろんな銃の神器を見付けてな、今じゃあスティグマのボスだ」
そこまで言って、エリザは両手を垂らしたままくるりと背を向けた。
「まぁ、それもここまで。スティグマの奴ら、ウチが傷付いていると知れば間違いなく殺しに来やがる。なんせ武力で奴らを征圧してたからな」
……おいおいマジかよ。ザッと見た感じ、スティグマの戦力は30人ちょっと。全員が戦闘用ではないにしろ何らかの公式を使えるハズなのに、それを武力で抑えていたと。
エリザって、もしかして凄いヤツなんじゃ……?
と、グランシェが何故かエリザに近付いて行く。今更だがトドメを刺すのだろうか?
が、そうではない様でグランシェはエリザの肩にそっと手を触れた。
「イッてぇ!!」
ゴリッとなまなましい音が聞こえ、エリザの肩が動くようになっている。どうやらグランシェは彼女の肩を直したらしい。
「右肩は治したぞ。左は自分でなんとかしろ。流石のトゥーハンドでも両腕が使えないのではすぐに死ぬだろ」
「おいおい、ウチは敵だぞ?」
エリザは目を丸くしている。まぁ俺も正直ビックリだけど。
「同じ境遇のよしみだ、お前さんの銃はあそこだろ?」
グランシェが指差した先には一丁の拳銃がころがっていた。
「見たことないリボルバーだな、コッチの世界の物か?」
「あぁ、アレが神器だ。誰がふざけて造ったのか知らんが、ありゃウチ等の世界にも存在する。貴重な限定物の銃と同じ形なんだ」
グランシェはエリザの銃に興味津々だが、俺は彼女が今言った不可解な言動の方が気になる。
ウチらの世界にも存在する。だと?
だがグランシェの興味はそこではないらしい。流石は傭兵と言うべきか、完全に銃の事しか頭に無いようで。
「同じ形?俺も知らないヤツだぞ」
グランシェが眉間にシワを寄せると、エリザはどことなくグランシェに似たドヤ顔を披露して言う。
「知らなくて当然だ。かなりディープなガンマニアしか知らないような、使い勝手の悪い5つ穴のリボルバーだからな」
「弾が5発しか入らないのか?」
グランシェはかなりビックリしてるみたいだけど、俺には何のことやら。
「あぁ。性能よりデザインに凝った、ある貴族がオーダーメードで7丁だけ作らせたもんだ。……って、いう伝説がある。ウチも実際写真しか見たこと無いが、あの綺麗なフォルムは忘れないさ」
確かに、彼女の言う通り何となく綺麗な形をしている拳銃だ。
と、そんな事を思っていると、いつの間にかもう片方の方も直したエリザが銃を拾っていた。たまらず俺はオルガフを構える。
「おいおい、そっちの弱い方はまだ戦うつもりらしいぞグランシェ」
「タイチ、もう良い。戦闘は終わった」
グランシェがたしなめるように俺に言う。が、いやいや、傭兵のルールなんて知ないし。
「スティグマは引かせるよ。まぁ、ウチはもうスティグマのボスはしない。一人でその辺をふらふらするつもりだから、もしかしたらまた襲って来るかも知れんがそのへんは知らねぇから」
と、エリザはそう言ってまさに赤い風の様に去って行った。
「おう、感謝する」
グランシェは笑顔で彼女の背中に言う。何だか俺には立ち入れないような絆的なモノを二人の間に感じるんだけど……。
やっぱりエリザとグランシェは仲良しじゃないのか?
「グランシェ、お前エリザになんか優しくない?」
「あぁ、まぁ色々あるんだよ」
グランシェは少し寂しそうに、俺から目をそらしてそう言った。
後書き
お疲れ様です。今回は長めに書きましたが、読み疲れませんでしたか? 僕は1話を一気に丸々読んでも疲れないくらいの量を心がけていますが、お話のキリ的にココまで一気に更新しちゃいました。
さて、戦闘描写ですがやはり非常に難しいですね(汗)
しかも目線が何も分からない人目線なので余計に大変で、読んでいて解り難かったかも知れません。
しかし説明過多になっても回りくどくてややこしいので、中々悩みました。
これからも日々精進ですね、頑張ります。
──2013年05月06日、記。
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