Dies irae~Apocalypsis serpens~(旧:影は黄金の腹心で水銀の親友)
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第三十三話 唯一無二の決着
前書き
二話連続投稿です。ご注意を。
総ての決着は同時に、そしてそれらの逆転劇もまた同時に起こった。
「―――なッ!?」
振り下ろそうとした剣をもってカリグラは驚愕を顕にする。
「馬鹿、な―――!?」
届かぬ部下の剣を、叫びを前にしてエレオノーレは覆された奇跡に目を見張る。
「―――テメェッ!!」
確信した勝利を悉く覆され、ヴィルヘルムは激動する。
「何―――?」
「それが貴方の選んだ道なのね」
そして世界の停止に拳が効果を発揮せずマキナは喫驚し、パシアスは自分が勝者に選ばれなかったことに慟哭した。
『わたしがみんなを抱きしめるから』
世界は止まり、時は開闢し、それは流れ溢れ出す。包み込むその世界にて、蓮の味方以外にそれに逆らえたのは僅か三者。
同一存在であると認知しているマキナ、意識の裏側に受け入れるよう誤認させたパシアス、そして単純に同格以上であったラインハルトの三名である。
******
「何故、だ?どうやってあの一撃を・・・」
全身を腐毒に、闇に、そして血に染め上げていた彼は今、櫻井螢の剣によって貫かれ、その身を赤く、いや朱く燃え上がらせていた。ひび割れたもうすでに力の残っていない剣、緋々色金を見ながら疑問を口にする。
不思議とカリグラを先程まで燃え上がらせていた激情は既に消えていた。だがそれは元々彼、カリグラが激動に駆られていた理由を考えればそれも当然の既決と言える。
彼は怯えていただけ、恐れていただけなのだ。自分よりも圧倒的強者であった彼らを前に自らの無力を嘆くほど幼いわけでも、かといって受け入れる程に達観しているわけでもない。そんな時に知ってしまった力と自身の限界。それに彼は突き動かされ、故に彼はそれに溺れたのだ。
奪い取った他者の渇望を失えば、この場に置いて怯えとなるものはなくなる。
そう、彼がその手に握り締めていた剣の所有権をカリグラはこの時をもって失っていた。
「私一人じゃ勝てなかった。兄さんがいて、ベアトリスがいて、藤井君や皆がいてくれたからこそです。一人で怯えていたあなたの負けだ」
その言葉に納得する自分がいることに気が付く。一人でいることを苦痛に思っていながら孤高―――否、孤独を求める人間が仲間を信頼する人間に敗することは必然だったのだと。
ベアトリス・キルヒアイゼンの剣が鞘の内に眠る業物でなく本当に取り込まれていたなら、彼女が目覚めることなどなく、彼は勝てたはずだった。
櫻井戒の意志をないものと見ていたなら彼はこの剣の所有権を奪われることなどなく、螢を切り裂いたはずだった。
時が止まることなどなければ、彼は剣を持ち、立っていたのだろう。
「―――ああ、酷く億劫だが、同時にどうしようも無く楽な気分だ。まるで枷から、重荷から解放されたかのようだ」
本来の剣の持ち主が櫻井の血筋である以上、彼女が、そしてその兄であろう人物が、その所有権を求めれば当然剣は彼女を選ぶ。ましてやそれを切り殺そうとした仮初の持ち手が逆に反撃を受けるのは当然といえた。結局自分は舞台の上で踊らされていただけなのだ。
「道化だな……俺は…」
初めからこの結末は決まっていたとしか言いようがなかった。総てが櫻井螢が勝つかのように仕組まれた道筋があるかのように。だからこそカリグラは気付いたのだ。これはどうしようもない酷く歪な物語なのだと。
「結局、これもあいつの筋書き通りってわけか……」
「それは、どういう―――」
櫻井がその言葉に疑問を言い切る前にカリグラは櫻井を吹き飛ばす。それと同時に力を失った緋々色金は砕け散る。
「なっッ―――!?」
吹き飛ばされた櫻井がまだ戦いが続くのかと失いそうになる魂を堪え必死に構えたその先には……
「うそ、でしょ……何で?」
カリグラに殺された筈のナウヨックスが、いやそれに似た形のナニかがカリグラを潰し、崩し、抉り、削り、砕き、壊し、そして蠢いていた。カリグラは苦痛に顔を歪めながらも自らが庇い、死を免れた櫻井に忠告した。
「アアァ―――いいか、櫻井……お前らが敵にしてるのは、どうしようもなく異常な奴らだ。神様なんてクソみたいな立場にいるやつ、それを内側から喰い殺せる獣、足元から這いずり回る悪魔――――――今いるこいつですら残骸と言えるかわいいもんだよ。だからな、お前等がもし本気で、そいつら斃すってんならテメエの血筋の剣を返してやる。手くらいなら貸してやる。気休めぐらいにはなるだろうよ……」
先ほどまで敵であったことなど関係ないとばかりに忠告をするカリグラ。事実そんなことは関係ない。どうせ自分は端役に過ぎない。もはや何も叶えることなどできない。それならば自分をいや総てを玩び、狂わせた悪魔どもにせめて言ってやるのだ。
お前等が何もできないと踏んだ俺はせめて最高の置き土産を置いてやると。
「いいか、あいつらは互いが互いに弱点でもあるんだ。身を喰らいあわせりゃテメエ等にも勝機があんだ。自滅させてやれ。目にもの見せてやれ。あいつ等の舞台を滅茶苦茶にしてやれ!!」
自分でも何を言っているのか理解できない。ただ、自分を喰らい殺そうとしているナニかがそういうものだと彼に教える。支離滅裂な感情と言葉を櫻井螢に伝えた彼は最後に櫻井螢を持っていた剣ごと、海へと突き飛ばし、ドイツ語で呟くように言った。
「Gewinnen Sie.」
お前たちは勝て、たった一言、その言葉を残して彼は消えることを選択した。何、とうにこの身は朽ち果てる運命。それが早まった程度のことに何を恐れる。
「よう。首が痛むのか、敵対者?」
無理矢理、体を引きちぎり、闇から逃れたカリグラは影に向かってそう尋ねる。いつかの病院での戦いによってつけられたギロチンの呪いに首を裂かれた神の僕は痛みからか、それともカリグラに逃げられたことからか叫びをあげる。
「ナウヨックス、テメエの残滓みたいなもので動いてるみたいだな。それだけは助かったというべきかもな」
そういってカリグラは武器すらないその身で自らのかつての主に本当の意味で牙を向けた。たとえその結果は敗北が必然であろうとも。
そして、彼は喰い殺され、影もまた身の内に迫る死滅の崩壊に耐え切れず、霧散した。結果、初めから何もなかったように影の残滓もカリグラも死して消えた。
******
「――――――ッ」
「な――――――」
戦火に燃える砲の内で彼女達は共に驚愕の表情を露わにしていた。方や自身の実力に、魂の密度に、絶対を確信していたが故に、方やこの身は届くことなく彼女の炎に溶かしつくされると思っていたが故に。
だが、その結果は覆された。焔の一撃が届く寸前、両者の時間に確かな差が生まれた。刹那の差に過ぎないがそれは両者にとって致命的な隙を見せることとなる。
「なぜ、今頃になって―――」
首筋から血がこぼれる。単純に隙を見せるだけなら問題はなかった。いや、精神的なものは甚く傷つくことになっただろうが、身体的には届いた軍刀によって傷つけられることなどなかっただろう。だが、結果は違った。
病院で受けた呪い、ギロチンの首切りがこのタイミングで再び発露したのだ。確かに完治したはずの傷が再び現れる。普段の状態であれば余裕をもって傷を庇うことも出来たであろう。しかし、刹那の時間の停滞が命運を分けた。
「どうやら、若い子たちに助けられたようですね」
実際、ベアトリス一人では何もできず、どのように足掻こうとも敗北していただろう。だからこそ、これを己の勝利とは思わない。
「あなたに勝てたとは思いません。だけど、私はこの結果を誇ります。戒がいて、螢がいて、そしてあの子がいてくれて……彼の友達までもがこんな私を助けてくれた。それだけで私は間違ってなかったんだと思えるから。
少佐、あなたは幸せですか?あなたに、危機を救ってくれる同胞はいるのですか?」
泣きそうな声でそう言いながら彼女はザミエルに顔を向ける。まるで幼子が嬉しさと寂しさと悲しみを混ぜ合わせて隠したがるような表情で彼女を見つめた。そんなどこまでも自分の今の感情がわからないといって風な顔を見て、エレオノーレは溜息をつきながら言葉を放った。
「まったく、この馬鹿娘。貴様は愚かで青臭く、だが気高い騎士だキルヒアイゼン。礼をもって送るしかあるまい。今は自分の勝利を誇れ。貴様は私に勝ったのだ」
それを勝利だと認めてやることこそが上官の務めだと言わんばかりに褒め称える。
「だが私は―――」
ムスペルヘイムが歪んでいく。砲身そのものを創造することによって飛び火を防いでいた獄炎が、遊園地という戦場に溢れ出し、燃やし尽くす。
「そんなものなど求めん!私が望むのは、ただ一つのみ!
ハイドリヒ卿の駒であること―――それのみが私の総てだ!救いなど求めん!助けなど求めん!彼のそばに侍る以上、脆弱さなど許されん!」
ハイドリヒ卿の爪牙として、赤騎士として、その大望に欠かせぬ英雄の一角であることこそが自分の望みであると。そう彼女は豪語する。
「なぜなら私は、彼と永劫、共に行きたい。彼と一つになる怒りの日こそ私のヴァルハラ……ッ!!」
それは彼女にとっては恋などという惰弱なものとは違うと、私の忠義はそんなものではないのだと言い聞かせるかのような部分も持ちながら断言する。女である自分は認めないと、そういいながらその言葉は逆に女であることを認めていた。
「故にだ、キルヒアイゼン。私は何度でも蘇るぞ。続きは次に会った時だ。貴様は逃がさん。共に来い!!」
「ええ、お付き合いいたしますから」
そう言うと同時にエレオノーレの首が軍刀によって刎ねられる。
「勝利万歳。御身に勝利を、ハイドリヒ卿」
「Auh Wiederseh'n Obersturmführer.」
今はもうここにいない“中尉”に向けて、ベアトリスは敬礼した。そして、
「ごめんなさい……私は昔から、無力だから。でも、頑張ったよ。許してくれるかな、戒」
粉雪が崩れるように彼女の魂が消え始める。限界など当の昔に超えている。もはや数分も持たずに消える運命だろう。
「少佐はあんな人だから、私はやっぱりついていくよ。だからごめんね、許してね。あなたたちは大好きだけど、もっと一緒にいたいけど、私は元々この時代の人間じゃない。還るところは、やっぱりあの日の祖国なの。
悔いがないといえば嘘になるけど……ほんとはもう、お婆ちゃんなのに。恥ずかしいな、馬鹿みたい」
消え入りそうになる体を顔すらあげることのできない状況で、一人消え入りそうになったとき、
「ベアトリス!!」
びしょ濡れで普段なら切らせない息を切らせながら、それでも懸命に声を張り上げて彼女は叫んだ。
「……螢!?」
「行かないでよ!逃げないでよ!、またあの時みたいに置いていかないで!!兄さんだって、きっと―――」
声を張り上げながら叫ぶ螢。片手に彼女に合ったサイズになった黒円卓の聖槍を持ちながらベアトリスに近寄る。
「でも、私はもう、無理なの」
「逃げないでっていってるじゃない!向き合ってよ!十一年間いなかった罰よ!そのくらい一緒にいよう。私達は家族でしょ……」
ベアトリスもそこまで言われてようやく気が付いた。螢の体もすでに限界を迎えていることに。息切れも肉体がとうに限度を超えているから。今尚生きているのとて、カリグラが置き土産だと言って渡した剣があるから。それとてすでに限界であった。腐蝕無しに生きていられるのはあとわずか。殆どベアトリスと変わらない。
「最後まで、何もしてあげれないお義姉ちゃんでごめんね」
「ばか――――――そんなことないよ。ベアトリスは私にとって最高の義姉さんだよ」
抱きしめる。互いに死の先に向かう処は違うかもしれない。それでも最後くらいはともいたかったのだ。だからこそ、奇跡ともいえる出来事はここで起きる。
「ベアトリスは綺麗だよ、今だって螢はかわいい」
「―――戒」「―――兄さん」
「昔から、変わらないと言ったろう。ああ、やっぱり僕を生意気だと思うかい?」
言葉が詰まる。視界が揺らぐ。涙がとめどなく溢れ出していた。
「二人とも、こんな不意打ちってないよ……ずっと言いたかったの。愛してる」
「―――大好き」
その声は幻想だったのかもしれないし、カリグラの能力の残滓が無意識に剣に宿っていたのかもしれない。だが、どんな理由にせよそれは三人にとっては幸福だったのだろう。
******
「アアァアァァアアッ――――――――――――――――――!!??まだ終わってねえぞ、クソがァ!!」
僅かに足りなかったその差は時間の停滞によって完全に覆された。同時に既知が先ほどなどよりもはっきりと鮮明に消えたことも認識したが、それは今気にすべきことではないだろう。結果的にヴィルヘルムは弾丸を喰らい、逆にヴィルヘルムの一撃は完全に躱された。
それでも尚、立ち続け、構え、勢いを劣らせぬのは吸血鬼故の気概か、意地か。彼は自らの周りへと煩雑に、そして狂気的に杭を放ち続ける。
「死ねよ!テメエ等、ぜってえ許さねえ!この俺を、舐めてんじゃねえぞォォォ―――!!」
振るわれる猛攻、まずは埋め尽くすかのように全域を攻撃し、その上で絞り込んで刺し殺す。そう本能的に行動しようとしたヴィルヘルム。だが、その攻撃は当たる様子を見せなかった。そして、
「テメエがそうするだろうってこと位、とっくに予想ついてんだ!何回戦ったと思ってやがる。テメエはもう、俺に知り抜かれてんだよッ!」
ヴィルヘルムの頭上から響く声。そして、それは明らかに勝利を確信したものの声だった。
「あん時の狂犬野郎は失敗してたが、テメエを守る盾はもうねえよなッ!」
「そこかァ!!」
塗り向き、頭上に杭を撃つ。幾つかの杭は直撃するものの、それは彼を止めるには至らなかった。故に、この攻撃で仕留められなかったヴィルヘルムの敗北は決定した。
「俺の、勝ちだアァァァ――――――!!」
「がァアアァァァッ―――!!??」
司狼がヴィルヘルムを貫いたのは十字架だった。教会に取り付けられたそれは確かに前回シュライバーがヴィルヘルムを殺そうとして失敗したものだ。だが、それは形をのこして存在していた。ティトゥスが彼らとの攻防の最中に残したある種の遺品の一つである。そして、それは見事にヴィルヘルムを地面に貼り付けにし、抉り抜いた。
「糞が、俺の、負けかよ…だが、次に会ったら……今度こそテメエ等を、ぶち殺してやる。覚悟、しやがれ……」
「ざけんな。もうテメエとなんか会わねえよ。ヴァンピー」
「クク、クハハハハ、ハハ――――――そう思うんなら……そうしな。勝利万歳!!」
結局、最後まで彼にとっては満足のいくものだったのだろう。たとえ敗北であってもそれは彼の糧になりえたのだから。
「痛ッ!あーこりゃもう無理だな」
「だね、あたしら無理しすぎだね、ちょっと」
仰向けに倒れこむ二人。肉体的な限界は当の昔に過ぎており、最後の杭の数撃は彼らを死に迎えるには十分なものだった。
「賭けはテメエの勝ちでいいよ、蓮。だから死ぬんじゃねーぞ」
「こういう場合は、勝ち逃げっていうより、負け逃げなんだろうね」
「うわ、何だよそれ。めっちゃいやな響きだな。あークソ、ぜってえ勝てよ」
「こっちきても、叩きかえすからね」
そういって大の字になりながら共に倒れている二人の声は最後まで明るかった。最後まで軽いノリであいつも流してくれればと、そう思いながら彼らは眠るように何気なく目を閉じた。
******
「俺が、俺たちがラインハルトを斃して見せる。だから俺に力を貸してくれ、アンナ!ミハエル!あいつ等を一緒にぶっ斃すぞオォォォッ――――――!!」
およそ過程というものを飛ばしてでも叫び出たその言葉は彼らにとってその絶対性を揺るがすものだった。ロートス・ライヒハートという個人の記憶を呼び覚まし、ミハエルとアンナのことすら思い出す。それは欠けていたマキナにとっても失われていたルサルカにとっても喜び憂うことだった。
「ロートス!!」
「忘れていたその名を、呼んでくれるか、戦友!」
パシアスの内に眠っていたアンナはその眼を覚まし、自らの死を思ったマキナは戦友の呼び声に手を貸すことを良しとする。だが、それらの過程で得るはずだったものが失うこととなる。よくある話だ。そしてよくある話だからこそ総てが救われることなどありえない。故にこの戦いの敗者はただ一人、パシアスのみであったと言える。
そして世界が彼を中心に回り続ける。ああ、まるでよくある喜劇のように私は奪われる。やっと、ようやく私はその身に望んだ栄光を得るはずだった。誰にも邪魔されない、奪われることのないたったひとつの愛の揺り籠。それが失われていく、消えてしまう?
嫌だ、厭だ、イヤだ、イヤダ、イヤダ、イヤダイヤダイヤダイヤダイヤダイヤダイヤダイヤダ否だイヤダイヤダイヤダイヤダイヤダイヤダイヤダイヤダイヤダイヤダイヤダ嫌だイヤダイヤダイヤダイヤダイヤダイヤダイヤダイヤダイヤダイヤダイヤダいやだイヤダイヤダイヤダイヤダイヤダイヤダイヤダイヤダ―――――――――――――。
もう飽いていたくない、餓えていたくもない。私はあんな日々に戻りたくない。愛を求める道化でいたいのよ!そんな日常私はもう要らない。
パシアスにとってその恋は、愛は特別だ。それらを失うことはどうしようもなく恐怖すべきことであり、唾棄すべきことである。
自らの肉体が失われていく感覚に恐怖する。ルサルカ、いやアンナという彼にとっての仲間が肉体から失われることで彼女は無意識に語り掛けることができなくなっていた。所詮、無意識というものはずらす、あるいはそらす程度のことしかできないのだ。にも拘わらす彼に語り掛けれてたのはアンナという特別な存在がいたからなのだ。その特別というメリットを失えば維持すことなど当然できない。
「ふざ、けるな――――――」
まだ終わっていない。まだ、彼が残っている。アルフレートを喰らった力がまだ自分には残っているのだと。愛すべき人の助力は失われていないと自らを鼓舞する。そして、
「かわいそうな私、もう神になるしかないのね (Tut mir leid für,Ich würde Gott sein)」
許される限りの己の死力を尽くすだろう。だが結局は届かない。理解している。もはや格が違うのだ。彼女が行えるのはよくて創造位階であり、この世界はすでに流出位階の世界であるがゆえに。止まることを抑えることなどできはしない。
「それでも、私は彼のことを愛しているのよ!私の彼への愛があなたなんかに劣っている筈がない!」
紡がれる刃はすでにその勢いを失いつつある。速さなど、最早この世界では意味を成しえない。
「俺たちは今に生きている。お前たちみたいに過去にすがり続ける人間に負けない」
決着は一瞬だった。横薙ぎに振るわれた刃は蓮に掠ることすらなく逆に放たれたギロチンを前にパシアスは首を絶たれるだけであった。
「ich liebe dich.」
そうして、彼女は消えた。何も果たせず、何もできない自分を呪いながら、最後までその愛を忘れることが出来ないままに。
《故に俺も君のことが愛おしかったよ。俺の大切なお人形》
後書き
ich liebe dich. 訳:私はあなたを愛してる。
割とメジャーなドイツ語。英語でいうところの愛loveゆ~。
Gewinnen Sie. 訳:あなたは勝て。
命令形だから注意してね。ちなみにドイツ語は基本的に主語と動詞の位置を倒置させれば命令形になります。
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