ヱヴァンゲリヲン I can redo.
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第四話 Euro of Coup and She Also
第三新東京市で、第四の使徒が殲滅された時、ヨーロッパではまた別の戦闘が行われていた。
EU大統領府占領事件。この日EU軍部はクーデターを決行、大統領府を占領し軍部政権を樹立していた。それに大きく貢献したのは、EU軍がNERV EURO支部よりパイロットごと強制接収した、エヴァンゲリオン2号機であった。
無論、パイロットは彼女であった。
『式波・アスカ・ラングレー』第二の少女である。
彼女は大統領府を奪回しようとした旧政府軍を蹴散らした後、一路東へと侵攻し、EURO/ロシア国境線まで敵軍を押しやった。今は休息を与えられ、仮設のシャワールームで、体に纏わりついたL.C.Lを落としていた。
断言してしまうと、彼女もまたあの少年と同じく、あのときから転生した一人だった。
だが彼とは違い、彼女は大分過去に転生していた。自らがエヴァと関わり始めた日、つまり第二の少女として選出された日からである。
誰もいないシャワールームで、彼女の口を突いて本心が出る。
「この世界…既にレールを外れてるわよね…」
狂い始めたのは、二、三年前からだろうか──。
「七、八号機の建造!?」
「そうだ、たった今本部から命令が下ったらしい」
彼女のお気に入りの場所である加持リョウジの執務室で、彼女はその知らせを聞いた。
「適格者は誰なの!?」
「それはまだ未定だ。しかし、何でそんなに食いついてくるんだ? いつもはクールなくせに」
加持はそう言ってはにかむ。いつもならデレッとするところだったが、今回はそんな事せずに本部の狙いを考える。何せ、あんな未来を二度も体験するのは御免だから。
──まず、本当に本部の指示なのか。本部の指示じゃないとしたら何処が裏で糸を引いている。適格者は誰だ……
疑問は次々に浮かんで消えない。しかしただ一つ確かな事があった。七、八号機が作られるという事は、既に第十二番目の使徒、エヴァンゲリオンMark.6の建造も計画されているという事だ。
「建造はプラハに新しいベースを作って行うらしいぞ。おっと、これ以上言ったら俺の首が飛んじまうな…」
加持のこぼしたセリフも、アスカにとっては大きな手掛かりだった。
彼女はその日、基地のある都市の郊外に位置する自宅へと急いで帰った。そこには彼女の母が残した、スーパーコンピュータ『EDEN』が設置してある。
『MAGI』に劣らない性能を持つ『EDEN』、彼女はこれを使いこなして、度々オリジナル版より性能の劣るEURO支部のMAGIにハッキングをかけ、情報を閲覧していた。
秘密裏に作ってもらった地下室のサーバールームの入り口の、鍵穴の付いた電源ボタンを一回押し、鍵穴に鍵を差し込み、もう一度押す。すると扉の向こうのサーバールームに、所狭しと詰め込まれたEDENが起動する。アスカはそれを確認すると、二階のモニタールームに移った。
モニタールームは八畳ほど正方形で、正面、左右、そして上に計七枚のモニターが設置されている。普通のパソコンの様にOSの画面が開きデスクトップにはアイコンが並ぶが、そこにあるほとんどのソフトウェアが、母親が作ったか彼女自身が自作した特殊なソフトウェアだ。そしてその全てのソフトの目的は、一瞬で、そして気付かれずにEURO支部のMAGIをハッキングする事だ。
彼女はそのうちの一つを起動させた。起動してパスワードを入力すると、作業状況の進捗状況、という小さなタブが出てくる。作業が指し示す行為は言うまでもないだろう。
タブにあるグラフは、ものの十秒で左端に到達する。そして画面が切り替わり、大量の項目の並ぶ図へと成る。上部にある検索語句入力部分に『エヴァンゲリオン 建造 八号機』と入力すると、EDENがMAGIから読み取った情報が絞り込まれ、数百件にまで減る。後はこれを一つ一つ確認していくだけだ。
徹夜の作業になりそうだったが、アスカは学校の宿題をやるようにその作業を行い始めた。
時間軸は現在に戻る──
シャワーを済ませ、腰まである長い髪を丁寧に拭きながら、アスカはその時知った情報を思い出しながら今回の事柄について考え始めた。
なぜNERVはその存在意義ともいえるエヴァの接収に応じたのか。何故だ──。
今回の接収には、七号機と八号機も含まれている。何が狙いだ──。
EURO軍はエヴァを使って何をする気だ──。
再びプラグスーツに身を包んだ彼女は待機任務へと就く。雪に覆われた白い地面の中、カモフラージュの為臨時で白色に塗装された見慣れないエヴァ2号機が、膝をついてしゃがんでいる。
計画中の七号機・八号機は未竣工の為、今は彼女の2号機一機だけで戦線を維持していた。彼女の面前にそびえるウラル山脈の向こうには、ロシア軍の支援を受けた大統領親衛隊がいるという不穏な噂が流れている。
「ロシア軍がこのエヴァ2号機に盾突いてくるとは思えないけど…」
冷静な見立てを口にする彼女だが、内心不安もあった。ここのところ、EUROとロシアは関係が良くなかった。もし最新鋭の通常兵器を備えるロシア軍が本気で侵攻してくれば…。
「まぁ、何とかなるでしょ…」
シンクロスタート前の、暗いプラグ内を口から気泡がいくつか昇って行った。
前世と同じようにミサトの家に居候する事になったシンジだったが、ミサトは緊急招集がかかって、彼を家に案内する間もなく本部の会議室へと向かった。
シンジは取りあえず、1日だけNERV職員用宿舎の一室を貸してもらう事になった。ホテルの様な広々とした、設備も整っている広い部屋の中、彼は一人で転校用の書類などを書いている。
「これでラスト…か…」
そう思ったとたん、彼の脳裏に鈴原トウジの顔が浮かんだ。
「また殴られるのかな…?」
今回の戦闘、前よりも街を労わったつもりだったがどうだっただろう。また彼女のマンションを壊していないかがとても気がかりだった。
「言い返そうかな…」
そんな考えも浮かぶ。シェルターに避難していなかった彼女の妹、そしてその保護者のトウジにも責任はある。しかし言ってしまえば、学校生活は破滅を歩む。
でも彼には、現世で学校の事を気にしようと思った事はなかった。いろいろと大変だったから。あんなつらい思い、できればしたくない。
「逃げてるな…」
逃げないと誓ったはずだった。その事を思い出し、結局彼は言い返すのを止めた。
──それにしても、ミサトさんの緊急招集、何があったんだろう…?
彼がそう思ったころ、ミサトは会議室で驚きの事実を聞かされていた。
「その話…本当ですか?」
作戦部には普段顔を出さないゲンドウと冬月からその事実を伝えられたミサトは、愕然とする他なかった。会議にいる他の人間も同じ表情を浮かべる。
「NERV EURO支部は自動的に消滅、指揮系統はEURO軍に完全に掌握されました。そしてフランクフルト第一基地とワルシャワ第二基地、プラハベースは占領されています」
「EUROに設置してあったMAGIも同様です。また、訓練中のエヴァンゲリオン2号機とそのパイロットも接収されました」
「ただいま2号機はウラル山脈西側にて、政府の親衛隊及びそれを支援するロシア陸空軍とにらみ合いを続けています。損害は今のところないようです」
「大損失だな…」
冬月が溜息混じりにそう言った。それに対し、ゲンドウは表情一つ変えなかった。
「2号機は強制的にクーデターに参加させられてるみたいね…」
「奪還作戦を実行しようにも、EURO軍は世界最強とも謳われる軍隊ですからねぇ。どうします?」
「国連軍は動いてないわけ?」ミサトは額に手を当てながら訊く。
「いいえ。それどころか今回のクーデターを『EUROの腐敗した政権を取り戻すための名誉ある行動』と支持しています」
「つまり、奪還作戦をEURO軍相手に行えば、国連軍も敵に回す事になるってことね」
「それでは勝ち目はないな…」
ゲンドウは静かに呟く。
「葛城作戦部長。少々席を外す。話し合いを続けてくれたまえ」
ゲンドウと冬月は会議室を後にした。そして二人が向かうのは、あの部屋だった。
「今すぐにEURO軍に、2号機とNERV EURO支部の返還を行うように命じてください」
彼の周りを取り囲む7枚のモノリス。ゲンドウはそれに話しかけた。
04が答える。
「それを行う必要はあるのかね? 所属が変わったところで、後ほどEURO軍よりまた本部が2号機を接収すれば良いではないのかね?」
「EURO軍がそう簡単に2号機を手放すでしょうか。世界最強の軍と呼ばれるEUROがエヴァを所有すれば、世界を意のままに操ることも可能となります。人類補完計画の頓挫は目に見えております」
「そこまで警戒しなくてもよい。もし手放さないという事が起これば、我らが確実にEUROをつぶしに行く。君は計画遂行の為、今まで通りに業務を行ってくれさえいれば問題ない」
ゲンドウは「っ…」と少し喉の奥で声を発したものの、平静を装って最後の台詞を口にする。
「…分かりました。全てはSEELEのシナリオ通りに…」
モノリスが消え、部屋が明転する。一面のグリーンの中で、冬月が耳元で囁いた。
「SEELEも既に気づいて手を打ってきたのだろう。NERV、その中でも俺たちの究極の目標を止めるために」
ゲンドウはサングラス越しに、先ほどまで00のモノリスがいたところを見つめていた。
「そうと考えた方が自然だ。SEELEは人類補完計画の遂行業務を、ここNERV本部からNERV EURO支部とEUROに任せたのだよ」
むなしい感じのする声色だった。
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