ヱヴァンゲリヲン I can redo.
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第参話 I am a Pilot
──二十分後
彼はエントリープラグ内の、インテリアに腰かけてその時を待っていた。
慣れきったL.C.Lの匂いは、この間の記憶を鮮明に蘇らせた。目を瞑ると今現実に起こっているかのように思えるほどに。
彼の乗るエヴァ初号機は既に射出口に移動され、あとは彼の父親の命令を待つばかりだ。しかしその命令もすぐに出されるであろう。
シンジはその理由を知っている。自分の父親は、碇ゲンドウはパイロットを道具としてしか見ていないという事だった。
「構いませんね?」
「勿論だ。使徒を倒さぬ限り、われわれに未来はない」
「碇、本当にこれでいいんだな」
ゲンドウは口角を吊りあげた。
「発進!!!」
強烈なGがシンジの体にかかる。しかしそれは慣れきった感覚だった。
地上に射出された初号機の正面には、あの使徒がいた。いきなり現れた自分と同じぐらいの巨人に驚いたのか、顔をこちらに向けて様子をうかがっている。
「最終安全装置、解除!!」
肩のロックが外れる。支えを失った初号機は、肩を丸めた体勢になった。
「シンジ君、今は歩くことだけを考えて」
スピーカーから聞こえたリツコの声に、シンジは答えを返さなかった。
初号機は肩のウェポンラックを開放し、収納されていたプログナイフを装備する。
「シンジ君!? 何やってるの!? 今は歩くことだけを考えるのよ」
ミサトの悲鳴にも似た声が聞こえた。しかし彼は無視する。それを両手でしっかり握り、使徒を睨みつけた。
「シンクロ率上昇!! 80%、90%…。シンクロ率、100%前後で推移! あり得ません!!」
「初号機は強力なA.T.フィールドを展開。使徒の展開するフィールドを侵食していきます」
姿勢を低くし、使徒に真っすぐ視線を向け、獣の様な唸り声を上げる初号機は悪魔《ビースト》に違いなかった。
「止めなさいシンジ君! 命令を聞いて!!」
ミサトの制止を振り切って、初号機は、いやシンジは使徒に飛びかかった。
使徒のフィールドを一瞬で砕き、プログナイフをコアに突き立てる。コアには一瞬でひびが入る。使徒は初号機に掴みかかった。
しかし初号機はその腕を掴んで、握力だけで腕の骨を粉砕した。使徒の腕はダランと垂れ下がり、光の槍も使えない。
使徒の首を左手で締めつけながら、右手でコアにプログナイフを突き立てる初号機、その戦闘は素人のものでは全くない。
「勝ったな…」
冬月のつぶやきを横で聞くゲンドウの表情は、無表情のままだった。
前世では自爆して殲滅された第四の使徒、今回は自爆しようにも押さえつけられてそれができない。遂にコアにナイフが刺さり形象崩壊を起こした。
第三新東京市の中心部に巨大な赤の十字架がそびえる。暗い夜空に虹が架かった。
「目標の殲滅及び形象崩壊を確認」
「初号機は健在。第6ケージへの回収を開始します」
十字架の根元部分に仁王立ちする、血まみれの初号機の姿とその戦闘がNERV職員に恐怖を植え付けたのは、紛れもない事実であった。
「これが…エヴァの力なの…?」
ミサトはそう絶句した。
戦闘を終えたシンジはシャワールームへと向かった。体中に纏わりつくL.C.Lの匂い、つまり血の匂い。それが彼にとっては最も忌むものだった。
無人のシャワールームには、シンジの浴びるシャワーの水音だけが響く。それが孤独を強く実感させた。前世の時と同じような。
「やっぱり取れないんだよな、この匂い」
いくら熱湯を浴びても取れないこの匂いに、彼は眉をひそめた。
彼は蛇口をひねって水を止め、用意されていた服に着替えてロッカールームへと向かった。途中の道で待ち受けていたのは、不安な表情を浮かべたミサトだった。
「どうしました、葛城さん?」
「どうしましたじゃないわよ…。あんな無茶苦茶な戦闘、素人のあなたにできるはずがないわ。あのとき、何が起こっていたのか訊かせてもらえる?」
シンジは目を細めた。もしこの世界が前世と同じレールを走るとしたら…ミサトさんはまた…。
「僕も良く分からないんです…。いきなり意識が薄くなって…気づいたら目の前に赤い十字架が」
シンジは虚偽の返答をした。本当のところは、あの戦いはすべて自分の意思によるものだった。しかしそれを言えばミサトさんに怪しまれる。それはしてはいけない事だと、彼には直感的に分かっていた。
「そう…」
幸い、あのとき原因は分からないが全てのメーターとモニタが振りきられ、意味をなしていなかったらしい。ミサトは怪しもうとしなかった。
「葛城さん?」
「何? シンジ君」
「僕の家なんですが…どうすればいいんですかね…?」
シンジは懸案を切りだした。
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