戦国異伝
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第百二十話 出雲の阿国その八
「まさに」
「そうなるな」
「はい、その爺様も上田の城下町に呼んで下さいましたな」
「大助殿も御主と離れては辛いであろう」
これは幸村の気遣いだ、彼は猿飛が彼に仕える際に彼の祖父にこれまで通り彼と共に暮らすことを勧めたのだ。
それでその言葉を受けてだったのだ。
「爺様も来て下さいましたし」
「猿達もじゃったな」
「家は山のすぐ傍にありますし」
上田城の周りは山が多い、信濃は山国なのでそうなのだ。
それでそこにいてなのだ。
「猿達はそこにいます」
「棲み処が見付かってよかったのう」
「全くです。その殿のお気遣い」
猿飛は幸村に対して言う。
「まことに有り難く思っています」
「そうか」
「わしもです」
霧隠もここで幸村に言う。
「わしは朝倉家に仕えていましたがそれまでは」
「流れておったか」
「はい、出自のわからぬ者は忍といえどと言われ」
そしてだったのだ。
「どの家にも仕えられませんでした」
「忍の世界もきついのう」
「伊賀、甲賀、風魔と一族がありまして」
こうした一族、衆の生まれでないと忍も生きられないのだ。霧隠も十勇士の他の面々もそうした衆にはいなかった、それでだったのだ。
「我等は流れに流れ」
「まともに相手をされなかったか」
「宗滴殿はそのわしの力と心を見て雇ってくれました」
そうしたというのだ。
「それで暫くは生きていましたが」
「宗滴殿に言われました、よりよき主に仕えよと言われまして」
「それがわしか」
「はい、宗滴殿が殿のことを仰り」
それに従ってだったのだ。
「わしは信濃に来て殿に家臣にして頂きました」
「そうした事情じゃったな」
「殿は衆にこだわりませぬな」
「わしは御主達の心を見たのじゃ」
幸村は衆にこだわらない、彼自身己の出自が然程よくはないと思っているからだ、それでだったのである。
「その後で資質を見てな」
「そのうえで我等を家臣にして頂きましたな」
「こうして常に傍に置いても下さいますし」
「わしは御主達だからこそ共にいるのじゃ」
家臣だがそれ以上のものだとも言うのだった。
「これからもな」
「そう仰って頂く方は他にはおりませぬ」
海野の口調はしみじみとしたものになっていた。
「いや、わしも水を使う力が妖術とまで言われ」
「妖術使いと思われておったな」
「何時何をするかわからぬと言われ」
彼もまた同じだったのだ。
「雇ってもらうことはなかったです」
「御主を誰も見ておらんかったのじゃな」
「わしの心をですか」
「うむ、そう思う」
幸村は純粋にそう思っていて言ったのである。
「心が腐っていては何の意味もない」
「そうしたお言葉がなかったのです」
「他の人物には」
「そうだったのか」
「織田信長は違う様ですが」
由利はここで信長の名前を出した。
「あの御仁は」
「誰であれよき者を用いるそうじゃな」
「はい、それは殿と同じですな」
「その様じゃな、だから瞬く間に天下一の勢力を築けたのであろう」
幸村は信長を認めていた、最初からうつけとも思っておらずそれどころかその巨大な資質も見抜いていたのだ。
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