戦国異伝
しおりを利用するにはログインしてください。会員登録がまだの場合はこちらから。
ページ下へ移動
第百二十話 出雲の阿国その七
「今はその誘いを受けぬ」
「そういうことだね」
「そうだ、気持ちだけを受け取っておく」
「残念だね。あんたが好きになったけれどね」
「惚れたというのか」
「その心にね」
そうなったというのだ。
「このままいけば本当に天下一の武士になれるよ」
「その言葉励みにさせてもらう」
「そうして貰えると有り難いよ。じゃあまたね」
「機会があればまた会おう」
「その時は褥を用意していようかね」
「ははは、その時はな」
最後にこうしたやり取りもして幸村は阿国と別れ茶屋を後にした、そのうえで十勇士達のところに戻りそのうえで彼等とも飲んだ。
そうしながら彼はこうも言った。
「あのおなご面白いわ」
「阿国殿はですか」
「面白い方ですか」
「才蔵の言う通りじゃ」
こう霧隠を見て話す。
「会ってよかった」
「それは何よりです」
霧隠も幸村のその言葉に笑顔になる。
「お勧めしたこと嬉しく思います」
「有り難いぞ。しかし道か」
「はい、道です」
まさにそれだというのだ。
「殿の天下は道だと思っていますので」
「天下を治められる方はお一人しか相応しくないわ」
幸村は迷いのない笑みで言い切る。
「御館様しかおられぬ」
「はい、天下となりますと」
「やはり御館様ですな」
このことは十勇士達も確信している、彼等が仕える幸村は武田家に仕えている。だから彼等も武田家の家臣となるのだ。
それで彼等も言うのだ。
「あの方こそが天下を治められる方です」
「この天下はそうですな」
「うむ、わしはその御館様にお仕えし」
そしてだった。
「忠義を尽くすことが望みじゃ」
「そしてですな」
三好清海はその幸村に言う。
「その忠義こそが」
「わしの道じゃな」
「殿は義の方、忠義もまた」
「うむ、義じゃ」
忠義という言葉に義がある、それ故にだった。
「仁義、信義、そして忠義じゃ」
「まさに義ですな」
「仁義礼信智忠悌孝とあるがな」
「その中でも義ですか」
「そうじゃ。あらゆることに増して義は大きいと思っておる」
こう考えているのが幸村だ、とかく彼は義を第一にしているのだ。
それ故に忠義もだった。
「わしはそれを最後の最後、あの世まで持っていきたいのじゃ」
「その殿だからこそです」
「御主達も共にいてくれるか」
「わし等は所詮はぐれ者です」
三好清海は笑って自分達の身の上も話す。
「忍の世界でも何処にも誰にも相手にされぬ中で殿に出会いました」
「わしなんかあれですぞ」
猿飛も笑って言う。
「山の中で爺様と共に猿と一緒に暮らしていた小僧でした」
「そうじゃったな」
「はい、所詮はそうした者でした」
まともな忍ですらなかったのだ、猿飛は生まれてから長い間ただ一人の身寄りである祖父と共に生きてきたのだ。
「爺様がたまたま殿と出会い」
「そしてじゃったな」
「わしに仕える様に言い」
「うむ、偶然会った様に思うが」
「運命だったのでしょうな」
猿飛は酒を飲みながら笑って言う。
ページ上へ戻る