メリー=ウイドゥ
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第二幕その七
第二幕その七
「おかげで私の悩みが一つ消えました」
「それは最初からなかったのでは?」
「ははは、確かに」
別の、本当の悩みが当たっているのはこの際気付いていないからどうでもよかった。
「そうですな。それでは」
「はい、それでは」
「何もなかったということで。閣下もそれで宜しいですな」
「まあね」
不機嫌な顔で男爵に応える。
「じゃあそういうことね」
「はい、それで」
「あなた」
ここで平気な顔をして男爵夫人がやって来た。
「どうなさったのですか、このような場所で」
「いや、何もないよ」
しかし男爵は呑気な顔で妻にこう応えた。
「何もね」
「左様ですか。だったら宜しいのですが」
「そう、何もなかった」
ダニロはハンナをじっと見ながら言った。目はかなり剣呑になっている。
「何もね」
「随分棘のある物言いですこと」
「そうでしょうか。私は普通ですが」
「隠してもわかります」
ハンナも負けじと言い返す。
「本当のことなぞ思いもしないで」
「本当のこと!?」
「ええ、そうですわ」
ここで彼女は賭けに出た。その賭けとは。
「実はですね」
男爵夫人に対して言ってきた。
「はい」
「何もなかったというわけではないのです」
「ちょっと奥様」
男爵夫人はその言葉に慌ててハンナに囁いてきた。実は男爵夫人の身代わりにハンナが忍び込んでいたのである。夫人は部屋の窓から逃げ去ってここまで来ていたのである。
「それは言わない約束の筈」
「御安心下さい、貴女のことではありません」
「本当ですか!?」
「ええ」
にこりと笑ってそう返す。
「ですから。御任せ下さい」
「わかりました。それでは」
「はい。皆さん」
一同に対して宣言してきた。
「お話することがあります」
「何だ!?」
「何事!?」
それを聞いてあの四人もやって来た。酒と美女に酔い痴れてかなり恥ずかしい顔になっているがそこままやって来たのであった。
「全く以って」
「何と言うべきか」
男爵と秘書は彼等の姿を見て囁き合う。
「意外と彼等もその祖国も籠絡させ易そうだな」
「日本はあれですけれどね」
ここで秘書は言ってきた。
「忠実な友人だと言っておけばそれだけで見返りが凄かったですが」
「後の三国も思ったより簡単そうだな」
「全くです。ロシアは頭を下げて友好的にしていればいいですが」
「アメリカと中国は適度にあしらうことも接近することも可能だな」
「ええ。まあ小国のやり方を」
「していくとしよう」
そんな話をしていた。ダニロはその横でじっとハンナを見ている。
「それで一体」
「私、決めました」
高らかにこう言うのだった。
「婚約者を発表します。密会の場を見つかってはもう隠しようがありません」
「密会相手というと」
「まさか!?」
カミーユと男爵夫人はその言葉を聞いてお互いの顔を見合う。
「僕のことかな」
「まさか」
「私の婚約者とは」
ハンナは彼等をよそに言う。それは。
「この方です」
「えっ!?」
「何と!」
それは何とカミーユであった。一番驚いたのは彼であった。
「僕が!?何時の間に」
「既に決まっていたではありませんか」
「そうですの!?」
「いや、全然」
唖然とした顔で夫人に応える。
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