とある六位の火竜<サラマンダー>
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銀行強盗
「まったくもうお姉さまったら・・・。ゲームとか立ち読みではなくお花とかお琴のようなご自分にあったふさわしい趣味をお持ちになれませんの?」
「うっさいわね。だいたいその2つのどこが私らしいのよ。」
ゲーセンに向かう途中、前を歩く常盤台の2人の会話を聞きながら柵川中学の3人は顔を見合わせる。
「なんかさ、ぜんぜんお嬢様じゃなくなくない?」
「上から目線でもないですね。」
「変な人でもなかったな。逃げる準備までしてたのバカみたいじゃん。」
「いや、その前にあたしたち置いて逃げようとしないでよ・・・。初春、なにそれ?」
口々に感想を言いながら後ろを着いていく。すると初春がいつのまにか通りにいた宣伝担当のような人から広告の紙をうけとっていた。蓮の薄情さに呆れていた佐天が内容を訊く。
「新しいクレープ屋さんみたいですね。」
「クレープ!!??」
クレープの単語が聞こえた瞬間に蓮の目が輝く。お嬢様の単語に反応する初春並みの輝きだ。
「あ~神谷って甘いもの好きだもんね。」
「前に寮にはチョコレートは常備してあるって言ってましたよ。」
目をきらきらさせて、後で食べに行こうとか呟いている蓮を見ながら苦笑する2人。
「あっ、それにほら先着100名様にゲコ太マスコットプレゼントって。」
「どれどれ・・・。うわっ、なにこの安っぽいキャラ・・・」
「うん、クレープは食べたいけどこれはいらない。」
初春が指差した広告の箇所にはカエルのキャラクターが載っていた。それを見て、これはいらないと即座に判断する佐天と蓮。
「だよね。だいたい今時こんなキャラに食いつく人なんて・・・うわっ!!」
佐天がそんなことを言って歩いていると、急に立ち止まっていた御坂に気づかずにぶつかってしまう。
「す、すみませ・・・ん?」
「御坂さん?」
「どうなさいましたの?」
慌てて佐天が謝るが御坂は反応しない。不思議に思った初春が呼びかけるがそれも無視。その視線はさきほど初春がもらったのと同じ広告に注がれている。不思議に思った白井が声をかけその広告を見てにやにやしだす。
「あら~?クレープ屋さんにご興味が?それとも、もれなくもらえるプレゼントのほうですの?」
「「「え・・・?」」」
「な、なに言ってんのよ!!」
白井の言葉に驚く蓮たちを相手に御坂は顔を赤くして否定しだす。
「わ、私は別にゲコ太なんか・・・。だ、だってカエルよ?両生類よ?どこの世界にこんなものもらって喜ぶ女の子が・・・」
「・・・御坂さん。」
あることに気づいてしまった蓮が、慌てて勝手に言い訳を始めた御坂をとめる。
「なに?」
「・・・・・・」
無言で御坂の鞄を指差す蓮。さすがに口にだす勇気はなかった。その指の指す先には、ゆらゆら揺れるゲコ太ストラップ。
「あっ・・・」
「ププッ・・・」
「「「あ、あはははは・・・」」」
それに気づいた御坂は顔を真っ赤にし、白井はふきだす。柵川中学の3人は苦笑い。とりあえず行き先は広告のクレープ屋さんに決定した。
「うわぁ・・・すっごい人・・・」
「なんでこんなに・・・」
クレープ屋さんのある公園に行くと、小さい子供とその保護者らしき人であふれかえっていた。旗をもったツアーガイドらしき人がいるのを見ると、おそらく今度学園都市の学校に入学する子供たちの見学ツアーのようなものだろう。
「タイミングが悪かったみたいですね・・・」
「先にベンチを確保してきますわ。」
「佐天さん、私たちのクレープお願いしますね。」
そう言って白井と初春がベンチ確保に。さらに蓮も
「げっ、そういや昨日外食したから金がない・・・」
「貸そうか?」
「いや、そこに銀行あるし生活費もついでにおろしてくる。」
そう言って銀行に向かってしまう。こうして残された佐天が後ろを見ると待ちきれないといった御坂の姿。
「・・・え?なに?」
「いえ・・・順番かわります・・・?」
「いいの!?・・・じゃなくて、別に順番なんて・・・私はクレープさえ買えたら別にそれでいいんだし・・・」
一瞬明るくなってしまった表情を隠して強がろうとする御坂だが、ゲコ太を手にはしゃぐ子供をうらやましそうに見ているためにまったく隠せていない。そんな様子をみて佐天はこっそりため息をつく。そして佐天の順番がくる。
「お待たせしました。はい、どうぞ。最後の1個ですよ。」
「どうも。ってえっ?最後?」
クレープを受け取り、まったくと言っていいほど欲しくないストラップを受け取ろうとしたとき、店員のまさかの言葉に聞き返してしまう。その瞬間後ろから発せられる負のオーラ。
「ううぅぅぅ・・・・・・」
御坂が地面にひれ伏して悲しんでいた。
「え、え~とあのぉ・・・」
「・・・うぅ、なに?」
佐天が呼びかけるとゆっくりふり返る御坂。その御坂にゲコ太を差し出す。
「よかったらこれ・・・」
「えっ、いいの!?ほんとにいいの!?」
「え、えぇ・・・」
佐天の手を、正確にはゲコ太を握りしめながら訊いてくる御坂にちょっと押されながらも頷く。佐天としてはいらなかったものだから惜しくもなんともない。
「ありがと~!!!!」
「い、いえ・・・」
こうしてゲコ太を手に入れてご機嫌な御坂はクレープを手に白井と初春のところに向かう間、鼻歌まじりにスキップしていた。
「よかったですね。」
「え?」
クレープを食べながら、生クリームに納豆のトッピングのクレープを食べさせようとする白井と食べたくない御坂の攻防を眺めていると初春がそんなことを言い出す。
「御坂さん、お嬢様のイメージとはちょっと違ったけど、思ってたよりずっと親しみやすい人で。」
「どうなんだかねぇ・・・」
もはや周りに子供が集まりだしている御坂たちを見て佐天がそう言うと、その視線を勘違いしたのかなにか思いついたように御坂がこちらにやってくる。
「はいっ。」
「はい?」
差し出されたクレープの意味が分からず聞き返してしまう佐天。
「味見でしょ?さっきのお礼。一口どうぞ。」
「お姉さま!!お姉さまは私というものがありながら佐天さんとの間接的な・・・」
「あんたの友達にはついていけないかも・・・」
「あはははは・・・」
御坂の言葉にいち早く反応した白井を見て、佐天は初春に告げる。初春も苦笑い。とそこで御坂がなにかに気づいたようにあたりを見回す。
「あれ?そういえば神谷くんは?」
「神谷ならさっき銀行に・・・ってあれ?」
「どうしたんですか?」
佐天がなにかに気をとられ、黙ってしまったのを見て初春が声をかける。
「いやなんかあの銀行、防犯シャッターが閉まって・・・」
そこまで佐天が言った瞬間、轟音とともに中からの爆発でシャッターが吹き飛ばされる。
「な、なに!?」
「初春!!警備員<アンチスキル>への連絡と怪我人の有無の確認!!」
「はいっ!」
驚く佐天をよそに、一口でクレープを食べ終えた白井は初春に指示をだして走りだす。
「黒子!!」
「いけませんわ、お姉さま。」
手伝おうと声をかけた御坂を白井は止める。
「学園都市の治安維持は風紀委員<ジャッジメント>のお仕事。今度こそお行儀よくしていてくださいな。」
風紀委員<ジャッジメント>の腕章をつけながら言った白井に、分かったと言うように御坂は笑う。白井はそれを確認して銀行強盗の拘束に向かった。
(どうしてこうなった・・・)
目の前の光景を見ながら蓮は心の中でため息をつく。その視線の先では3人の銀行強盗が銀行員にお金をつめさせている。状況を説明すると、先ほど蓮がお金をおろして出て行こうとしたとき、
「全員動くな!!」
と言う声。そちらを見ると手に炎を出している男とデブとガリガリの男の3人組。
「俺はレベル3の発火能力者<パイロキネシスト>だ。黒こげになりたくなかったらいうことを聞け!!」
で、現在にいたる。逃げようにも防犯シャッターが閉まっているので簡単には出れない。正直蓮が手を出せば一瞬で終わるのだが面倒なことに首はつっこみたくない。
(外には白井たちもいるし大丈夫だろ。早く終わんないかなぁ)
「はぁ・・・」
そんな蓮の様子に気づき、デブが近づいてくる。
「ため息なんて余裕だな?この状況分かってんのか?」
「めんどくさいな・・・」
どうやら2回目のため息は口に出してしまっていたらしい。露骨にめんどくさそうな様子の蓮にデブはイラついたのか殴りかかってくる。
「てめぇ・・・!!なめてんじゃねぐはっ!!!!」
「うわっ!なんだ!?」
「てめぇ!よくも!!」
面倒ごとにはかかわりたくないが自己防衛には仕方ない。デブを炎のブースターで威力を上げた拳で殴り飛ばす。壁に激突しデブは気絶するが、それにより残りの2人にも気づかれる。そこで蓮は炎のブースターを足の裏から噴射。一瞬で2人の目の前まで移動する。
「「なっ・・・!?」」
「とりあえず吹っ飛べ!!」
そして2人もデブと同じように吹っ飛ばす。
「ぐっ・・・!!!」
「ちくしょう・・・!!」
「うわっ、あれで立つか・・・」
しかしデブと違い2人は何とか立ち上がる。そして逃げるために出入り口に向かいだした。
「逃がすかよ!!!ってうわっ!!」
追いかけようとした蓮だが防犯シャッターを男が能力で壊したときの爆風と煙に邪魔される。その間に男たちは外に逃げていってしまう。
「ちっ・・・逃がしたか・・・。まぁいいや。すみません、ロープかなんかありませんか?」
あっさりと諦めた蓮は銀行員に尋ねる。最後まで追いかけなかった理由。それは
「お待ちなさい!風紀委員<ジャッジメント>ですの!!」
という白井の声が聞こえてきたからだった。
後書き
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