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難攻不落

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第四章

「けれど多分そうだな」
「お姉ちゃん近くにいるんだ」
「だから安心しろ。お姉さんにすぐに会えるからな」
「じゃあまずはおもちゃ屋さんまで行くんだ」
「この商店街のおもちゃ屋さんなら俺も知ってるさ」
 実際にそうだった。龍輝にとってこの商店街は子供の頃からの遊び場だ、おもちゃ屋と聞けばそれで察しがつく、それでだ。
 彼は男の子に確信している笑顔でこう言えたのだ。
「じゃあ行こうか」
「うん、お兄ちゃんお願いね」
 男の子も頷きそのうえでだった。
 龍輝は男の子の手を引いてそのうえで商店街のおもちゃ屋の前まで行った。そこに行っておもちゃ屋のおじさん、小柄でオールバックのかつてポマードと仇名された首相に似ているその人にに対してこう言った。
「あの、おじさん」
「ああ、どうしたんだい?」
「迷子なんだけれどさ」
 こうおじさんに対して言ったのである。
「この子だけれど」
「あっ、その子さっき女の子と一緒にいたんだよ」
 おじさんは男の子を見てすぐにこう言ってきた。
「やけに奇麗な娘にね」
「そうなんだ。で、その美人さんは?」
「今さっきそっちに行ったよ」
 おじさんは商店街の向こう側を指差して龍輝に答えた。
「そっちにね」
「そうなんだ。じゃあそっちに行くか」
「赤いセーターにベージュのズボンだったね」
 おじさんはその女の子の服のことも話した。
「目立つ娘だったね、奇麗だったから」
「おじさん、ひょっとして」
 ここで龍輝はおじさんをじっと見て言った。
「その娘に」
「いやいや、わしは女房一筋だからさ」
「だといいけれど浮気したら後が大変だぜ」
「わかってるさ。うちの弟は浮気がばれてかみさんに三十針縫うだけやられたからな」
「ってそりゃ熊だろ」
「怒った女房は呂布か項羽になるからな」
 そこまで強いというのだ。
「あんたも気をつけなよ」
「だよな。岩瀬だってな」
 龍輝は意中の相手についても思った。
「怒ると怖いからな」
「気をつけないと本当に怖いからな」
「三十針なあ」
 龍輝にとっては忘れられない話だった。そうした話をしていると。
 その向こう側から赤いセーターにベージュのズボンの娘が来た、見ればそれは。
 佳奈だった。佳奈は龍輝が今も手を引いている男の子を見るとダッシュで来て必死の顔でこう言った。
「もう福何処にいたのよ」
「お姉ちゃんがいなくなったから」
「私のこと探してたの?」
「そうしてたの」
「私ちょっとおトイレ行くって言ったのに」
 佳奈はやれやれといった顔で男の子に答えた。
「全く。少しだけの間だったのに」
「御免なさい」
「謝らなくていいわ。手を離した私が悪いんだし」
 男の子は悪くないというのだ。
「見付かって何よりよ。そういえば」
「あのさ」
 佳奈が男の子の手を引いている龍輝に気付いたのと龍輝が声をあげたのは同時だった。二人はここで顔を見合わせた。
「この子岩瀬の弟さんだったんだ」
「大塚じゃない。福を見つけてくれたの」
「見つけたっていうか一人泣いてるのを見つけてさ」
 それでだと、龍輝は正直に話した。
「それでなんだけれど」
「福保護してくれたの」
「そうさ」
「有り難う。お陰で助かったわ」
「お兄ちゃん僕をおもちゃ屋さんまで連れて行ってくれたんだ」
 男の子が笑顔で佳奈に話す。
「それでお姉ちゃんに会えたんだよ」
「そうなのね」
「うん、お兄ちゃんのお陰だよ」
「有り難う。じゃあお礼しないとね」
 佳奈は優しい、学園内ではあまり誰にも見せない笑顔を龍輝に見せて言った。
「ここの商店街の甘味処だけれど」
「ああ、あそこの白玉あんみつ美味いよな」
「それでいい?」 
 それをお礼にしたいというのだ。 
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