DQ4TS 導く光の物語(旧題:混沌に導かれし者たち) 五章
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五章 混沌に導かれし者たち
5-07心機一転
宿の中では、宿の主人と兵士の男が言葉を交わしていた。
「エンドールの兵士じゃねえな」
「どうして、わかるの?」
「鎧の紋章が違うんだよ。あれは、どこのもんだ?」
「サントハイムだね」
「サントハイム。武術大会で優勝した、アリーナ王子様の、国、ね。デスピサロに、勝った、人」
「ん?いや、奴は途中で消えて、不戦勝だって聞いたぜ」
「そう、なの」
話が聞こえていたのか、兵士がこちらを向き、声をかけてくる。
「デスピサロを、知っているのか?」
「あー、知ってるっつうかな。聞いただけだ。有名だろ、奴も。」
「そうか……。」
「デスピサロが、どうかしたのですか?」
「うむ。我が国、サントハイムの、城の者が消えたことは、知っておろう?」
「ええ」
「我がアリーナ王子様が、デスピサロが怪しいと仰っていたのだ。何か知っているなら、と思ったのだが。知らないならいいのだ。すまなかったな。」
「いえ」
「では、私はこれで。」
兵士は、立ち去った。
「ここでも、奴か」
「そうだね」
「デスピサロ……」
「おっと。まずは、メシにしようぜ。あとのことは、それからだ」
夕食を取りながら、今後の予定を話す。
「明日からのことだけど。もうエンドールに用はないし、ここの旅の扉は使えないから。東に行って、砂漠を越えようと思う」
「ブランカの、さらに東にあるって砂漠か。砂漠の南には、港町があるっていうしな。うまくすりゃ船も手に入るっつうし、いいんじゃねえか」
「東に行くの?西にきちゃって、よかったの?」
「問題ねえ」
「兄さんが、ルーラを使えますから。エンドールには、すぐ戻れますよ」
「そうなの。すごいね。でも、旅に出る前に、魔力が減っても、大丈夫?」
「兄さんは、派手好きで、気が向けば魔物を吹き飛ばしてますが。魔力が切れたところは、見たことがないですね」
「そうなの。ほんとにすごいのね、マーニャは。」
「そうなんですよね……。これでもっと、やる気さえあれば……」
「なんだ、人をやる気がねえみてえに。オレが全部吹っ飛ばしてたら、お前が強くならねえだろ」
「……意外と、考えてたんだね」
「意外とってなんだよ」
「心当たりが、ないとでも」
「……まあ、そんなわけだから。明日からは、嬢ちゃんにも戦ってもらうからな。強くなりてえんだろ?」
「誤魔化したね……」
「うん。頑張る」
「あんま気張んなよ。焦っても、いいこたねえからな。いざってときには助けてやるから、気楽にいけ」
「うん」
「怪我も体力も、私が回復できますから。あまり細かいことは考えず、まずは目の前のことに専念していきましょう」
「うん」
祠の宿で一夜を明かし、一日休んで気力の充実した少女は、日課をこなすため早朝に起き出す。
青い海に目を楽しませながら海岸を走り込み、新調したばかりの剣を振って、感覚を掴む。
武器が良いせいか、いつもより、動きが鋭いように感じる。
日課を終えて部屋に戻るところで、ミネアに会った。
「おはよう、ユウ。早いですね」
「おはよう。昨日は寝坊しちゃったけど、いつもはこれくらいなの」
「そうですか。本当に頑張り屋さんですね、ユウは。」
「だって、強くなりたいから。必要なことだもの」
喜んでくれるみんなは、もう、いなくても。
かつて、確かにいた、みんなのために。
頑張りたい気持ちは、変わらない。
ミネアが、少女の頭を撫でる。
「ユウは、偉いですね。必要だからといって、誰もがそれを、きちんとできるわけではありません。頑張ることは、とても良いことですが。あまり、思い詰めないでくださいね。私も、兄さんも。あなたに強くなってほしいと思う以上に、今はあなたが心配です。無理していないなら、いいのですが。できることを、ゆっくり、やっていきましょうね。」
(ミネアは。マーニャも。強くなれるはずのわたしを、探してた。なのに、それよりも。心配、してる。)
それは、かつてシンシアに言われ、そしてよくわからなかったこと。
強くなってほしくないわけではない、ただ、心配している。
どうして心配されているのか、まだ、よくわからないけれど。
(こういう、こと、だったのかな)
はっきりと、自分に強さを求めていたはずの人に、言われたことで。
かつてよりは、少し、わかった気がした。
少女が身支度を整えている間に、ミネアがマーニャを起こし、朝食を摂って、宿を出る。
マーニャの魔法で、エンドールに飛ぶ。
「これが、ルーラ。すごいね。旅が、しやすくなるね」
「まだ、無理そうだが。嬢ちゃんも、そのうち使えるようになりそうだな」
「わかるの?」
「大体な」
「どうして、わかるの?」
「なんとなくだ」
「なんとなく……?」
「ユウ。はずれたことはないから、大丈夫ですよ」
「そうなの……?」
「ええ。たぶん、魔力を感知してるんだと思いますが。兄さんは、大体、勘で生きてるので。理屈は、よくわかりません」
「そうなの。わかった」
「嬢ちゃんは、メラとホイミは、習ったのか?」
「うん。でも、使えない」
「使えそうだから、あとで試してみろ」
「……使えないのに?」
「訓練を積んでいた者が、旅に出て、魔物を倒し、経験を積むことで、急激に魔力や能力が上がることがあるそうです。失敗してもいいから、試してみましょう」
「……うん。わかった」
「しかし、メラとホイミの適性を持ってるなんてことが、あるのかな。いくら兄さんの言うことでも」
「老師も、素質はあるって言ってた」
それは、勇者だから。
思い当たった理由は、口に出さずにミネアは返す。
「そうですか。なら、きっと、大丈夫ですね」
東に向けて歩き出し、しばらく進んだところで、五体の魔物の群れに遭う。
「オレとミネアは、寄ってくる奴らを適当にあしらうから。嬢ちゃんはこっちのことは気にしねえで、好きにやれ」
「うん。わかった」
マーニャが毒蛾のナイフを、ミネアがモーニングスターを構え、魔物の意識を引き付けて、群れを分散させる。
少女は目の前の魔物に集中し、鋼の剣を一閃させる。
ひとりで旅していたときは、二回は攻撃しなければ倒せなかった魔物が、一撃の下、倒れる。
(武器を、変えたからかな。いい武器って、すごい)
考えながらも、次の魔物に対応するため、体を動かす。
(ほんとに、使えるかな)
目の前の魔物から倒したことで、次の魔物には少し距離がある。
発動したことは無かったが、何度も練習した通りに手をかざし、唱える。
「……メラ」
かざした手に魔力が集まり、熱くなる。
炎の熱さではない、魔法が発動する感覚。
感じたと思った刹那、火球が飛び出し、狙った魔物に炸裂する。
断末魔と煙を上げて、魔物が倒れる。
「……できた。次」
三体目の魔物に向かうが、相手の行動が早い。
かわし切れないとみた少女は、無理に避けようとせず、受け身を取り、攻撃直後の隙を狙って、鋼の剣で反撃し、倒す。
「……次」
周りを見回すが、残り二体の魔物は、兄弟があしらううちに倒れていた。
「……思った以上に、危なげねえな。魔物が弱いってもよ」
「真面目に訓練を積んでるだけあるね。これなら、よほどのことがない限り、大丈夫かな」
「殴りなら、オレより威力が出てるかもな」
「武器が、いいから。前は、もっと大変だった」
「それも、あるとは思いますが。メラも使えたし、能力も上がってるかもしれませんね」
「そうかな。そうだと、いいな」
「攻撃食らってたろ?ホイミも使ってみろよ」
「うん。……ホイミ」
攻撃を受けた場所にかざした手が淡く光り、体力が回復する。
「ほんとに、できた」
「良かったな」
「うん」
「おめでとう」
「ありがとう。魔法はずっと、できないような気がしてたから。うれしい」
その後も遭遇する魔物を、少女が中心になって倒しつつ、まずはブランカを目指し、通路の洞窟を抜け、まだ日が高いうちに、ブランカの城下町に着く。
「ここが、ブランカか。つまんねえとこだな。酒場もねえみてえだしよ」
「兄さん。着くなり、なんてことを」
「いつものことだろ」
「ユウがいるんだよ」
「……あー。不味かったか?」
「不味いだろう、普通に。仮にも祖国なんだし」
「あー、嬢ちゃん。悪かったな」
「なにが?」
「……大丈夫みてえだな」
「それでも、気を付けてくれよ。今わからなくても、覚えてることだってあるんだから」
「わかったよ。悪かった。で、これからどうする?ここで休むか、このまま進むか」
「焦ることもない。今日はここで休んで、明日出よう。少し、話も聞いていきたいし」
「だな。んじゃ、ひとまず別行動にすっか。宿を取るにも、早えだろ」
「そうだね。酒場がないから、それで大丈夫だろう」
「酒場があると、だめなの?」
「兄さんは、お酒が好きだから。酒場のある町で放っておくと、危険なんですよ」
「おい」
「お酒に酔った人には、近付いたらだめってきいた。マーニャにも、近付いたらだめなの?」
「酔っているときは、やめておいたほうがいいですね」
「おいこら。オレは酒癖は悪かねえだろ」
「量を過ごせば、同じだよ」
「けんか、してるの?」
言い合いを始めた兄弟に、少女が心配そうに問う。
ミネアがはっとして答える。
「いえ、そういうわけでは。」
「わたしが、きいたから?」
「違いますよ。兄弟というのは、こういうものなんです。お互いに遠慮がないから、ときには言い合いになってしまうだけです」
「そうなの。わかった。仲がいいからなのね。」
安心したように言う少女に、罰が悪そうにする兄弟。
「……本当に、賢いですね」
「……さっさと、行くぞ」
「わたしは、エンドールに行く前に、ブランカでお話を聞いていったんだけど。また、お話を聞くの?」
「そうですか。それなら、ユウは……本を読んでいたらどうですか?せっかく買ったのに、まだ読んでいないでしょう?」
「うん。……あ。」
何かを思い出した少女に、ミネアが問う。
「どうしました?」
「あの、皮の鎧。村から出てすぐに、北の森の、木こりのおじさんにもらったの。普通の服だったから、そんなんじゃ旅はできないって。もう使わないなら、返しに行った方がいいのかな」
「あの鎧は、そういう品だったんですね」
「一回やったもんを、まさか返せとは言わねえだろ」
「でも、わたしのこと、嫌いって言ってたから」
「はあ?心配して物くれたおっさんが?嬢ちゃんをか?」
「うん。陰気くさい子供は、大嫌いって。さっさと、山を下りて、南の城に行けって」
「ずいぶんとまた、ひねくれたおっさんだな」
「よく、わからない」
「ま、気にすんな。返そうとしても、怒られるだけだからよ」
「……わかった」
(嫌いって、言ってたから。やっぱり、会いに行かないほうが、いいかな)
話がまとまり、三人はそれぞれに行動を開始する。
「ミネア。ちっと、北の森に行ってくっから。町の情報のほうは、頼むわ」
「いいけど。ひとりで、大丈夫?」
「いざってこともねえだろうし。ルーラがありゃ、いつでも逃げ帰ってこれっからな」
「わかった。一応、気を付けて」
「おう」
少女は読書ができる場所を探して歩き、開放されている城の庭園の、芝生に腰を下ろす。
しばらく読書に耽っていると、不意に影が差した。
見上げると、老人が立っている。
「読書かの。感心じゃの。」
(この人は、おじいさん。どう見ても、おじいさん。)
「こんにちは、おじいさん」
「うむ。こんにちは、お嬢ちゃん。」
「なにか、用、ですか?」
「ふむ。なに。お嬢ちゃんを見ておったら、なにやら昔を思い出しての。昔話は、お好きかの?」
「お話、してくれるの?」
「うむ。その昔、北の森の中に、木こりの親子が住んでおった。」
「木こりの。親子?」
「うむ。木こりの息子は、森の中で美しい娘と出会って、結婚までしたのじゃが……。木こりの息子は、ある日、雷に撃たれて死んでしまったのじゃ。」
「死んじゃった、の」
「うむ。息子は死んだが、親父のほうは、今もひとりで木こりをしておるそうじゃ。」
「今は、ひとり、で。……それは、おとぎ話?」
「いいや。本当にあった話じゃよ。」
「そう。どうして、わたしに?」
「なぜじゃろうの。なぜか、思い出したんじゃ。」
「そう。お話ししてくれて、ありがとう」
「なんの。聞いてくれて、ありがとうの。」
老人は、ゆっくりと歩き去った。
(木こりと天女のお話に、似てる。
でも、あれは、おとぎ話。
これは、本当のお話。
木こりのおじさんの、むすこ?子供?は、死んじゃった?
結婚してからだから、大人になってから、死んじゃった?
結婚して、子供は、生まれたのかな?
おじさんは、ひとりだったから。いない、かな。
おじさんは、ひとり。
わたしも、ひとり、だった。
ひとりは、寂しい。
おじさんは、寂しくないの、かな)
少女はしばし考え込み、そして読書を再開した。
「ここが、ひねたおっさんの小屋か。こういうど田舎は、趣味じゃねえんだが。まあ、いい。ごめんよー、邪魔するぜー」
行く手を遮る魔物は吹き飛ばし、そうでないものは無視して走り抜け、マーニャは早々に木こりの家に着き、上がり込んだ。
「なんだ、おめえ!旅のもんか?道にでも、迷いやがったか!」
「旅の、は、そうだがな。道に迷ったってわけじゃねえ。おっさんに会いにな」
「な、なんだと?なに、言ってやがる!」
「うちの嬢ちゃんが、世話になったってんでな。覚えてんだろ?おっさんが皮の鎧をやった、緑の髪の、ちっこいのだ」
「……あの、嬢ちゃんが。そうか、無事に着いたか……そっ!それが、どうした!」
「素直な嬢ちゃんでな。おっさんがひねた口きいて、親切にしときながら嫌いとか言いやがったから、落ち込んでんだよ」
「だっ!誰が、親切だ!やめてくんな、ケツが、かゆくならあ!」
「おーおー、赤くなっちまって。おっさんが照れても、可愛かねえぜ」
「だっ!誰が、照れて」
「まあ、おっさんのケツはどうでもいい。要は、嬢ちゃんが落ち込んでるってこった」
「……落ち込んでる、のか。」
「で、嬢ちゃんを連れてきたいんだが。構わねえな」
「か、勝手に、しやがれ!なんなら、泊まって、いきやがれ!」
「おし。嬢ちゃん込みで、三人で来るからな。じゃ、後でな」
ミネアは町と城で、情報を集める。
「そうですか。トルネコさんは、砂漠を越えて。そして、砂漠越えには、馬車が必要……。ところで、少し、お顔が暗いようですが。なにか、お悩みでも?」
「うむ、わかるのか。」
「私は、占いを生業にしておりますので。」
「占い?も、もしや、エンドールで有名だった、旅の占い師殿か?」
「有名かどうかは、知りませんが。エンドールには、長くおりました」
「で、では、ぜひ!俺も、占ってはもらえないか!」
「一回、十ゴールドになりますが」
「頼む!」
「あら、占い?それなら、私もお願いしたいわ。」
「では、順番に」
読書を続ける少女の元に、マーニャが戻ってくる。
「よ。嬢ちゃん」
「マーニャ。お話は、もういいの?」
「ああ。ミネアを見てねえか?」
「見てない」
少女と話すマーニャを、庭園にいた若い女性が目敏く見付け、声を上げる。
「あ!あなたは!」
後書き
世界を満たす、戦い以外のもの。
少女の世界は、さらに広がる。
次回、『5-08広がる世界』。
6/19(水)午前5:00更新。
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