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なりたくないけどチートな勇者

作者:南師
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23*ご招待されちゃいました

「ここが俺の、ランドルフ家の屋敷だ。」

そうゼノアが指差す先にあるのは、一言で言うと豪邸だった。
別にキンピカリンな感じでは無いが、かなりでかい。
自分家(25坪くらい)が百は軽く収まる。

てゆーか目の前の門だけで横にしたら自分の部屋より広い。

「でっけーなおい。」

誰に言うでも無し、独り言のように自分は言った。

「そうか?むしろ家は他の貴族よりも質素に造られているぞ。」

これで質素か、世界中の庶民に謝れ。

そう自分がゼノアに言おうとしたところで、いきなり門が開いた。

「おかえりなさいませ、ゼノア様。ようこそいらっしゃいました、ナルミ様。」

そこにいたのは、いかにも執事な恰好をして角が生えたダンディズムオーラむんむんのおじ様。
そして二十人程の大量のメイドさん。

「ただいまセブル。」

そうゼノアはダンディー執事に言いながら、着ていた上着を脱いで彼にわたした。

「お嬢様もすでにご帰宅なさっております。」

それを受け取りながらそう報告するセブルさん。
多分お嬢様とはシルバちゃんの事だろう。

しかしこれは端から見ると、ドラキュラ伯爵と使い魔の悪魔だ。
この二人、しっくりしすぎている。

「ではナルミ、いこうか。」

くだらない事考えてた自分にそう言ってずかずかと屋敷に入るゼノア。
そしてそれに慌てついて行く自分。

とりあえず着いて行くと、やはり貴族って具合に屋敷は広く、絵やら甲冑やらが飾ってあった。
多分これ、こわくて絶対自分は触れない。
下手に壊して弁償出来る自信が無いもん。

と、いろいろと屋敷を観察していると、不意にゼノアがある扉の前で止まり、自分に話しかけた。

「とりあえず、この部屋で待っててくれ。俺は父上に報告しにいってくる。すぐに戻るが、何かあったら近くの使用人に言ってくれ。」

そう言ってゼノアはさらに廊下の奥へと歩いて行った。
そして彼の表情がかなり硬くなってたのは気のせいでは無いだろう。

実の息子でさえこんなに緊張するって… 逃げ出したくなってきた…

そして部屋に待機しているメイドさんよ。
自分と二人だけになったからってそこまで顔を青くして絶望の表情をしてくれるな。

「……そんなに怖がんないでも。」

「い、いえ!あの!怖がってなど…あ、あの…も、申し訳ありませんでした!!」

そう言って全力で謝るメイドさん。
涙を目に溜め、顔は真っ青に恐怖で身体は震えている。
もはや扱いが恐怖の大王だよ。

まぁ……彼女のけしからん二つの巨大なスイカの谷間が見えるのはうれしいが。

そして、彼女の叫びを聞き付けてなんかいかにも“メイド長”っていうおばちゃんがやってきて

「申し訳ありませんナルミ様!この娘が不手際を…」

「いや違うって。」

だめだこりゃ。


**********☆


「ナルミ様、お食事のご用意ができました。」

そう言って登場したのはセブルさん。
準備ができたらしく、もうみんな揃っているから迎えにきたとか。
ただ、なんか雰囲気が怖い。

そして彼に部屋まで案内されている途中に、お礼の言葉をのべた。

「ありがとうございます。」

「…………いえ、仕事ですので。」

自分がお礼をセブルさんに言うと、彼は一瞬の間を開けて返事をした。
あれか、平民にも気を使う貴族ってイメージか。
なんとテンプレートな。

そう自分が思いながら部屋に案内されてると、彼は目に見えて警戒しながら自分に言った。

「なるほど、まずは私達使用人から好感を得てランドルフ家に近付こうと言う気ですね。うまくいけばこの家の内情も聞けますからね。」

………はい?

「…どんな考えですか。」

「こんな考えです。」

……なんか、怖いこの人。
めっちゃ敵対心剥き出しなんですが。

「………なんか自分、怒らせる事しました?」

勇気を振り絞り、思い切って聞いてみた。
すると、セブルさんは静かに

「…私はお嬢様を、シルバお嬢様が小さな頃から私がお世話をして、手塩にかけて育ててきました。それを……」

そう言って彼は自分に向き合い、話しだした。

なんか展開が読める気がする。

「ぽっと出の若造なんぞに盗られる事が私は許せ無いのです。いくら人間で英雄だとしても、私はお嬢様が不幸になるような相手に嫁ぐのは我慢なりません。まだあなたがどんな方かは噂しか知りませんので、これからしっかりお嬢様に見合う者かを私が責任を持って見極めさせていただきます。」

そう一気に言い放ち、それから一瞬の間の後はっとした表情になった。
そして、彼は影をみせながら呟くように再び話しはじめた。

「……お嬢様があそこまで嬉しそうに語る姿から察するに、あなたは事実素晴らしいお方なのでしょう。しかし正直、会った事も無い者に長年育ててきたお嬢様が心を奪われると思うと、何かやり切れ無い感情が込み上げてくるのです。それでつい、その気持ちをナルミ様にぶつけてしまい……不快な思いをさせてしまい、申し訳ございませんでした。」

そう言って深々と頭を下げるセブルさん。

……親だ。
ここに娘を思う父親がいる。

「……頭をあげて下さい。別に不快には感じていないです。」

とりあえず、セブルさんのシルバちゃんに対する愛情の深さはわかった。
痛いほどに。

ただ、シルバちゃんが自分をそーゆー対象に見てるとゆー勘違いはどうなんだろ。

嫌われど、好かれる要素が自分には全く無い。

「ありがとうございます。」

そう言ってセブルさんは頭をあげた。
さっそく自分が彼の勘違いを訂正しようと口を開けかけた、その時

「とりあえず、お嬢様が不幸になるようなら貴方が人間だろうが英雄だろうがなんだろうが私が本気で消しにかかりますので、その事は心にとめて置いてください。」

そうセブルさんは言い放ち、くるりと正面に向き直り、再び歩き出した。
口を半開きにしている自分を置いて。

「どうしましたか?食堂はすぐそこですよ。」

そして何もなかったかのように、自分に向かい言い放った。

………父親、強し。


***********☆


「失礼します、ナルミ様をお連れいたしました。」

そう言ってセブルさんが扉を開き、それに続いて自分も中に入った。

中には、正装に着替えたゼノアと、厳つい顔の歴戦の戦士な雰囲気のマッスルなオッサン。
さらには優雅な奥様と、綺麗なドレスに身を包み真っ赤になっているシルバちゃん。

なぜに真っ赤かは謎ではあるが。

「ご苦労。」

風格のある声で厳ついオッサンがセブルさんにねぎらい(?)の言葉をかける。
それに彼はペコリと一礼した後に、こちらですと自分を席に案内した。

そして席に座ると、その厳ついオッサンが自分に話しかけた。

「ようこそいらっしゃったナルミ君。急な誘いで悪かった。私は現ランドルフ家の当主、ガルク・ランドルフだ。」

堂々とした、いかにも厳しそうな声である。
なんか怖い。

「こちらこそ、自分のような者をお招きいただき、ありがとうございます。」

とりあえず挨拶。
するとガルクさんは満足そうな表情をした。

なんだ、思ったよか普通の人じゃん。

顔は怖いが。

「こちらは私の妻、リリスだ。」

「はじめまして、気軽に“お義母さん”と呼んでいただいて結構よ。」

ぶっ!

「ちょっ!お母様!」

慌てるシルバちゃんにのほほんとしたリリスさん。
リリスさん、完全に遊んでいるな。

まぁ、空気がなんか和やかになったからよしとしよう。
後ろから殺気は感じるが。

「息子達はもう紹介の必要は無いな。いつも世話になっているようで、感謝している。」

とりあえずガルクさんは二人を無視する方向にしたようだ。
実に賢明である。

「いえ、こちらこそいつもお二人にはご迷惑をかけっぱなしで、むしろ自分が助けて貰っている立場です。」

実際自分よりいろいろできるからね、あの二人は。
何たってエリートだし。

他にも二三言の言葉を交わしているうちに、食事が運ばれてきた。
なんか上品な、おフランスのオードブル的な料理が自分の前に鎮座している。

……これは、このお料理様が自分の庶民的な口に入るのを拒否してもなんら不思議では無いくらいに上品だ。
自分はこのお料理様を食べるにあたいする人間だろうか。

ぱっと見はホタテの貝柱にソースとか色々付いてるだけだが、なんか高級なオーラが出てる。
多分、皿と芸術的なソースのせいだろう。

しばし自分はみんなにそれが配られているのを見ながら私案していると、後ろから

「ムリヌとポピーヌのカムシルでございます。」

と、運んできたメイドさんが料理名をいってきた。

ごめん、何いってるか全くわかんない。

ムリヌとかポピーヌって何?
それでカムシルって料理をつくったのはわかるが、そのカムシルすら自分にはわからない。
見た目はでかめのホタテの貝柱だから、さらに謎は深まるばかりである。

「………いただきます。」

とりあえず、食べてみる。
ナイフとフォークは普通にあるからそこは安心だが、何せ相手はカムシルだ。
ぶっちゃけ謎の料理に挑むのはかなりの勇気が必要である。

そしてホタテにナイフを入れると、中から緑の汁がでてきた。

………

はっ!
一瞬思考が停止していた!

周りを見ると、ゼノア達も皆美味しく汁ごといただいているごようす。
とりあえず、食べれるっぽいので意を決して一口パクリ。

………

「………旨い。」

なんか、トマトにホワイトソースかけたような味がする。
普通に旨い。

ただ見た目と食感がホタテなのはいかがなものか。

「気に入っていただけたかな?」

自分が軽く感動していると、ガルクさんが話しかけてきた。

「はい、自分の国には無い料理ですが、とても美味しいです。」

それに素直に答える自分。
すると嬉しそうに顔を綻ばせるガルクさん。

「それはよかった。家の調理師達も喜ぶだろう。」

やっぱりいい人じゃん、この人。
ゼノアは何を緊張してたんだ?

そしてしばらく、他愛も無い話しをしながらタヌイのガーガルとかリュハとブセムのユユユとかの変な名前の料理を美味しく頂いた。
名前(見た目も多少)は変だが、どれも美味しい料理だった。

そして、ゼノアやシルバちゃんについての話しをしながら、ギムシのアウリとか言う真っ白いガンモドキみたいなのを食べていた。
実はガルクさんも結構な親バカだというのが判明した。

そして話しに一段落ついたところで、ガルクさんがこう自分に聞いてきた。

「ところでナルミ君は、現在の魔王様の様子をみてどう思いますかな?」

ん?
あぁ、あの人。

「優しいのはいいですが、甘いところがありますね。」

「ほう…どんなところが?」

「なんと言うか…全体的に。それを王妃様がなんとか補っているというか、主導権は王妃様にありますね。てか押しに弱いです。」

「なんとも…よく見てますな。」

「多分王妃様がいなければ、大変な事になりますよ。」

「…どんな風に?」

「まず自由にやらせすぎなんです。多分王様の性格なら厳しい罰とかはできないと思いますから、自由な上に罰も無いならそりゃあ勝手気ままに動き回りますよ。」

「………」

真剣に自分の話しを聞くガルクさん。
そしてやけに熱く語る自分。

「それに対して王妃様はきちんと分別していますね。悪いなら悪い、いいならいいとはっきり言う事ができますし、実質彼女が抑止力ですから、疎まれるならまずは王妃様でしょうね。」

熱くかたっていると、ガルクさんが重々しく口を開いた。

「…そう、か。」

いつの間にか食堂の空気も重くなってる。
少し考える風にして、ガルクさんは再び続ける。

「君から見たら、この国はそんなに駄目に見えるのか…」

はい、ここで自分は気が付きました。
自分が勘違いから、とんでもないことをのたまっていた事を。

まず自分は、ゼノアとシルバちゃんの話しの延長として、王様のエリザ達に対する接しかたとか育てかたの話しかと思っていた。
対するガルクさんは、王様の今の政治についての事を質問したのである。

そして、子育てについて熱く語っていた自分ば、結果的にこの国を酷評したのだ。

やっべ!
これは怒られりなんてレベルじゃねぇ!
処刑街道まっしぐらじゃん!

「では、どのようにしたら国は君から見てまともになるのかな?」

はっ!
これは最後のチャンスではないか!?
ここで選択肢をミスったら、処刑ENDに直行だ!

えーと、なんか……なんか…
そだ!

「……しばらく、いまより自由にさせれば良いかと。」

自分の発言に目を丸くするガルクさん。

「それは、なぜだ!?そしたらさらに内部が腐敗した国になるぞ!」

こわっ!
やはりあの二人の恐怖の鬼面はこの人からの遺伝なのか!

「…そしたらどこが腐敗しているか、一目でわかるじゃないですか。あとは油断しきったそいつらをさっくりと…さらにそいつらから罰金として奴らが横領した分以上の財産を押収すれば国の資金としても使えます。」

そう自分が言うと、彼はしばしほうけた顔をした後に、考えこむような顔をした。
そして

「君は、いったい何者だ?軍事だけでなく、政治分野まで精通するとは…」

いや、ただの思い付きでんがな。

「そんな大層な者では…それにこれには財産を持ったまま亡命されれば大損ですので短期間で決めなければいけません。さらにどれだけいるかもわかりませんし、危険も大きいです。」

「いや、それでもやる価値はある。少なくとも、サザールス家の傘下の者はこれで駆逐できるだろう。」

いや、サザールスって誰よ。

「…とりあえず、これは王様や信用できる方々としっかり話し合って決めて下さい。」

自分はにげた。
ぶっちゃけ全部ガルクさんに丸投げな発言でしめた。

「ああ、貴重な意見をありがとう!感謝する!」

そう言って興奮しながら満面の笑顔を見せるガルクさん。
やはり、あの二人の親だけある。
百面相が半端ない。

「…いえ、それほどでも。」

そしてその笑顔が自分に罪悪感をなげかける。

だって、子育ての話しから派生したでっちあげだもん。

と、自分が一通り罪悪感に虐められていると、ガルクさんは近くのメイドさんに果実酒を要求した。
そして運ばれてきたグラスにはいったそれを軽く煽った。
もはや雰囲気が、ただの夕食になっている気がする。

そしてそれに便乗ってか、メイドさんがみんなに同じものを配ったので、他の人もみんなそれを飲む。

その時自分はなぜかゼノアとシルバちゃんから悲しい目で見られていた。
理由はまったくわからない。

ちなみに自分はもちろん酒は断った。
国の決まりで二十にならない限り酒は飲めないと言って下げてもらった。
だってあんな苦いもの、飲めるはず無いじゃん。

そして、グラスを空にしたガルクさんが自分にこう聞いた。

「そういえば、ナルミ君は単独で魔獣を倒せる程の猛者だという話しだが…」

…まぁ、倒せますがね。
裏技使って。

てかこれは対決フラグでね?
早急に折らねば。

「…対魔獣でなら力を発揮できるだけです。」

つまり人相手には使えないと暗に言う、しかし

「しかも魔獣を倒した後に5000の軍勢を相手に無傷で勝利した程の力を持っているとも聞く。是非手合わせを願いたい。」

クソッ!
ばれてたか!

仕方が無い、ここは武器を持っていないのを理由に…

「ここにくる途中に伝説の武器を手に入れたともゼノアが言っていたので、それの使い心地を試すためとでも思ってお願いできないか?」

……ゼノアァァァ!

キッとゼノアを自分が睨むと、ゼノアはすまんと目で合図を送ってきた。
多分反応から察するに、睨まれたより見られたという認識しかしてないだろう。

これだからタレ目は嫌なんだ。

「…わかりました、ただあれは魔物を狩るのに使う物ですので別の武器を使用いたします。」

嘘も方便。
あながち間違っちゃいないが、そもそも狩猟笛を対人でつかって勝てるはず無い。

演奏してる間に殺られるのがオチだ。



かくして、自分対ガルクさんの対決が早急に決まった。

あの時のゼノアとシルバちゃんの視線の理由はこれだったのか。

そして、この時自分は誓った。


もう自分の勘は疑わないと。
 
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