なりたくないけどチートな勇者
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22*吹いた所でですが
自分が王様に休暇を求めた次の日、自分は遅めの朝食を食べるために食堂へと向かった。
だんだん皆さんからの道端で車に轢かれ潰れている、正にヒキガエルになったカエルを見るような蔑んだ視線にも慣れてきた。
しかしそれを真っ正面から受けるだけの度胸と根性と心の強さは持ち合わせていない自分は視線を避けながら、なるたけ隅っこで食事をすることにした。
そして、自分が最後のシメのデザートとして出されているよくわからない黄色く固い実を食べるか食べまいか迷っていると、食堂の入り口にゼノアがやってきた。
しばらくゼノアはキョロキョロしながら誰かを捜している風だったが、目的の人物はなかなか見付からないようだ。
自分は石みたいに固い実を食べるのをあきらめ、食器を片すべくその場を立ち上がった。
そして、食器を持ち指定の位地にそれらをほうり込む。
最後に、自分が余った実を捨てようとそれを掴んだところでゼノアがいきなり叫び出した。
「いた!ナルミ!街に遊びに行くぞ!!今日はろべっ!!」
とりあえず、手にしていた実をゼノアに投げた。
そうして無理矢理にでもこいつの発言を止めなければ、自分は今日一日、厄介事もとい面倒臭い事に巻き込まれそうだからだ。
うん、カッとなってやったが、後悔はしていない。
寧ろ正しい選択をしたと思う。
「い、痛い……ナルミ、痛いじゃないか!」
チッ、復活早いな。
「いや、その実がゼノアに一目惚れして飛んでったんだよ。」
とりあえずふざける。
するとゼノアどころか食堂のおばちゃんさえ怪訝な顔をした。
センス無くて悪ぅござんしたね。
「じゃ、自分はこれで。」
とりあえず逃げよ。
「待ってくれナルミ!今日は露店でセタが使った武器が売られているらしいんだ!!本物かどうか一緒に来て確かめてくれ!!」
しかしまわりこまれてしまった。
だが……それくらいなら、良いかな?
やはり自分の勘は当てにならんな。
別にそれ以外はフツーに遊べそうだし。
「わかった、行くか。」
とりあえず、一旦着替えてから行くとゼノアには伝えた。
**********ア☆
さてさて、自分は決してオシャレさんではないが、だからと言ってそこまでダサい人間では無い。
オタクではあるが、やはり今をときめく現代っ子な自分は、シャツをズボンに突っ込んで頭にバンダナを巻いて『萌え~』とか公道のど真ん中で叫ぶほど落ちぶれちゃいないのだ。
まあ、そーゆー人がいくよーなとこには何回も行った事はあるが。
それは置いといて、つまり自分はごくごく一般的なファッションセンスを持っている訳ですよ。
今回の着こなしだってほら、下はジーパンに黒いベルト、上は青っぽい生地に円形に英語でなんか書かれてて真ん中にはよくわかんない記号が描かれている半袖の下に長袖を着てるように見えるあのタイプ(呼び方忘れた)のシャツと、左手に無骨ながら渋い腕時計。
その上に黒いフード付きの秋物ジャンバーを羽織ればもはや完璧。
どこに出しても恥ずかしく無い現代の若者の完成さ。
まぁ、つまり何がいーたいかと言うとだな……
「…………ナルミ。」
「…………何?」
「やはりお前の格好は目立ち過ぎるな。」
現代っ子ファッションは異世界では通用しねーって事ですよ。
道行く人達はみんなしてこっちみてはあからさまに避けて通る。
自分達には今、モーゼも真っ青な人の海を割る力を手に入れた!
全く嬉しくないが。
「…まぁ、黒髪黒眼なだけでも十分目立つ上に、今のナルミの立場からいえば当然といえば当然だが。」
そうおっしゃるのは自分の横にいるザ・ドラキュラな格好をしたゼノア閣下。
一体何人の生娘を毒牙にかけたのだかっていうくらいドラキュラな彼は、道行く乙女達に振り向かれたり顔を紅くされたりでモテ男街道まっしぐらである。
ぶっちゃけ、刺されればいいのにって少し思ってしまった自分がいるのは秘密だ。
しかし、彼の言葉に一つ気になるところがある。
そう、『自分の立場』の部分である。
「…なぁ、自分の立場って…」
やはり、自分は何か知らぬ間に問題を起こしていたのだろうか…
「ん?気付いてない訳ではないだろう。」
やはりそうか…
それなら今までの城の人達の反応も説明が付く。
「今のナルミの立場は…」
やはり、自分は皆に嫌われてるんだな。
「国を救った英雄だからな。みんなナルミを畏れているのさ。」
そして最後は不敬罪で処……へ?
「まてまてまて、英雄ってなんだ英雄って。英雄か?自分は鳴海だぞ。」
「いや、ヒデオが誰かは知らんが、ナルミは国を救った英雄だ。虚無の黒騎士についての話しはもはや国中に轟いているぞ。」
うそーん。
何、自分全く気付いてなかったんすが。
「もはや劇場でナルミを題材とした劇が上演されているくらいだ。」
そう言うと、なんかでっかい建物の前には黒い服と黒いかつらに身を包み、客寄せをしている二枚目の姿が。
他にもエリザやらなんやらの格好をした人物が多数見受けられます。
ちなみに、近衛隊は全員集合です。
「観ていくか?」
「……いや、いい。」
とりあえず、なんか畏怖の対象になっちゃった件はどうにかしよう。
自分、そんな大層な生き物でないもん。
「ちなみに、エリザ達が使った大魔法と魔術符を発明した事から、一部では“漆黒の賢者”とも“闇夜の破壊神”とも呼ばれているぞ。ちなみに人間と言うのももう周知だ。」
ほんま、いーかげんにしてな。
そしてなんでお前らそんなに黒の所強調すんのさ。
てか自分、そんな黒いイメージしか無いか?
***********ジ☆
「ごめんなさい!」
今自分の目の前には、土下座で謝るゴブリンのオッサンがいる。
そして右手にはボロい片刃の剣が
事の顛末はこうだ
『どうだ!これがかのセタ・ソウジロウが使ったカタナだ!』
『いや、ただの片手剣でしょ。』
『何をでたらめを……あ…あなたは…もしや黒騎士…』
そしてこれである。
彼いわく、刀が片刃の剣と聞いたのでつい出来心でやってしまったとか。
そして、正直に話すから挽き肉にだけはしないでくれ、出来れば生かして下さいと。
人間を侮辱した事は全力で謝るから命だけは助けて下さい、と。
自分、どんだけ鬼畜やねん。
ゼノアはゼノアで、自分が目で『どうする?』って聞いても『処刑。』的な厳しい視線を返してくる。
ぶっちゃけ半分阿修羅になりかけている。
多分、偽物だって事で腹をたてているのだろう。
さすが歴オタ、自分にはわからん事で怒りよる。
しかし困った。
自分は怒りをミジンコの脳みそ程も感じて無いので、罰するも何も気乗りしない。
とりあえず、このチンチクリンのオッサンが大声で謝るから野次馬だけは寄ってくる。
正直勘弁して欲しい。
とりあえず自分はキョロキョロして回りを見回すと、土下座しながらふるえているオッサンの後ろに商品と混ざってある物が。
「………ブッ!」
「ヒィ!!」
思わず吹き出した。
それに伴い、オッサンもビビりまくる。
「なぁオッサン、あれいくら?」
そう言って自分はソレを指差す。
「あ、あれでございますか?あれはただのガラクタで…」
いまだにびくびくしているオッサンの話しを要約するとだ。
これは大分前に仲間から賭にかって貰った物だが、旅の商人をやる彼にとってはかさばるわ重いわ売れないわ、さらには使い道がわからないわで、何回捨てようと考えたかわからないと。
しかし、何故か捨てる気にならずに今に至る。
ちなみに前の持ち主も同じ心境だったとか。
「で、値段は?」
「あ、あの…50リーグです…」
ちなみに、一人の一日の食費がだいたい3000リーグだとか。
林檎的な果物は一個20リーグだったから、だいたい林檎2.5個分。
ま、それならいっか。
「じゃ、あれくれたら許したげる。」
「へ!?あんなガラクタでいいんですか!?」
「ん、ダメ?」
「と、とんでもない!どうぞ持ってってください!!」
そう言ってソレを渡すオッサン。
周りは『なぜあんな物を。』とかなんとかいいながらざわめいている。
「な、ナルミ!そんなのでいいのか!?そんな訳わかんないもので!」
ゼノアもゼノアでなんかうろたえてる。
まぁ、彼ら何たってこれが何かわからないからな。
自分も本当は何かわからないが。
「いーのいーの。」
だが自分はこれと同じような物を知っている。
何たって、これは
「まっさか現実にナルガ武器が存在すっとは思わなかったけどね。」
左右にある黒い翼を模した飾りに、巨大な本体。
そう、まさかのこれはナルガ武器。しかも狩猟笛の夜笛【逢魔】ときたもんだ。
手に入れるしかあるまい。
「な…なる、が?」
「そうナルガ。名前は夜笛【逢魔】。夜陰に紛れる黒の狩猟笛。裏の世界の住人はこれを使い合図を送るのに使ったとか。他にも大剣とかがある。」
うろ覚えの説明をゼノアにすると、目を白黒させてこちらをみる。
おもしろいから、もちっと混乱さしてやろう。
と言う訳で、狩りにて使った場合の効力についても話してみる。
「さらにこれは演奏によって体力増強、持久力増強、攻撃力増加、風圧無効等の効果が仲間も含めもたらされる。しかもこれ自体攻撃力が高いときたもんだ。」
あんぐりしてるゼノア、ついでにオッサン。
なんか他の野次馬もみんな目を点にしている。
うーむ、やり過ぎたか?
「まぁまさか本当にあるとは思わなかったんだけどねぇ。」
とりあえず、『本当かどうかはまでは自分、知らないよ』アピールをしといた。
多分、これで皆これが眉唾だとわかってくれるだろう。
しかし、これが裏目に出た。
「……つ、つまりそれは人間の間でも言い伝えとされる伝説の武器なのか!?」
自分が言い終わると、一瞬の間の後にゼノアが叫んだのだ。
伝説って何よ伝説って。
自分の頭が追い付かずにしばらく黙っていると、それを無言の肯定とみなしたゼノアは深く頷いた。
それに気が付いた自分は慌て訂正しようとしたが、すでに遅かった。
「いや、伝説とかそんなけったいな代物では無くてだな…」
「ならナルミの一族に伝わる裏の武器か!?」
「ちがぁーう!」
いくら言っても理解しないゼノアに、しばらく説明しようとしたが結局人間に伝わる伝説の武器にされてしまった。
露店の連なる通りの真ん中で、皆に注目されながらの説明はさすがに疲れた。
しかも皆して伝説の武器って認識しちゃってるし。
と、かなり疲れた自分に後ろから近付く小さな影が二つ。
「わぁー、これがニンゲンのデンセツのブキなんだ。」
「しゅごーい!くろーい!」
あらかわいい、尻尾が生えた髪が青い姉妹がそこにいた。
5歳と3歳くらいの小さな姉妹だ。
………和む。
と、自分が彼女達がぺたぺたと逢魔をいじっているのを見て癒されていると。
「ミミ!ナナ!」
青い髪の尻尾が生えた若めの女性が凄い形相で駆け付けてきた。
そして、二人を引っつかむと彼女は
「申し訳ありません!!」
自分に土下座した。
なんだ、一体何がおこった。
「娘がとんだご無礼を!お願いです!この子達は見逃して下さい!罰なら私が!どんな罰でも受けます故!」
ええ~。
「お願いします!この子達だけは見逃してください!お願いします!」
……どこの悪代官さ、自分。
てかこの人スゲーな、必死に子供を守ろうとしている。
「……いや、怒る理由が無いし。子供のやった事ですし、とりあえず頭をあげて下さい。」
「…許して、いただけますか?」
「いや、あんくらいで怒ってたら自分の人間性が疑われますし、そもそも怒る要素が無いですし。子供は元気なのが一番ですよ。」
そう言うと、彼女はボロボロ涙を流しながら『ありがとうございます。』と連呼した。
だからなんやねん、これ。
自分が今の自分の立場についてもっとよく考えようとしていると、後ろからゼノアが
「ナルミ、人間性とはなんだ?」
とぞのたまいける。
人間がいないから人間性って言葉もなかったのかな?
「人間としての品格とか品位とかそんなん。」
とりあえず多分正解だろうと思う事を言ってみる。
詳しくはしらんからね。
「そうか……なら、我ら魔族の場合“魔族性”か?」
「いやしらんがな。」
ほんと、こいつはなんなんだか。
**********ー☆
「ごちそうさまでした。」
「でした!」
「でちた!」
さぁ、ここは現在とある宿のレストラン。
自分はここで今、食事をし終えたのであります。
ちなみにメンバーは自分とゼノア、そしてさっきの子供の計四人である。
「あ、あの…お口に合いましたでしょうか…」
そう言いながらでて来るのは、さっきのお母さん。
なぜかと言うと、ここは彼女達家族の経営する宿だからだ。
ちなみに、この二人は自分と食べると駄々をこねるので一緒に食べていた。
そん時のお母さんの顔の青さは忘れらんないな。
「おにーちゃん、おいしかった?」
一息ついてると、姉妹のおっきい方、ナナちゃんが椅子からおりて自分の近くによってきた。
「ん、おいしかったよ。」
「だっておかあさんのりょうりだもん!」
そう言いながら胸を張る五歳児。
一緒に三歳の妹、ミミちゃんも胸を張る。
…………あぁ、和む。
ここ最近、癒しが風呂しか無かった自分にとってはこの姉妹は最高の癒しだ。
近所の子猫をふかふかするくらい癒される。
そして、しばらく二人を見ながら自分が癒されていると、ゼノアが
「………ナルミ、もしかしてそういう趣味か?」
は?
どういう趣味?
ただ自分はこの子供を見て癒されてただけだが?
しかし、ゼノアの視線は何か複雑というか困惑した視線をしている。
お母さんにいたっては、絶望の表情だ。
…………よぉし、理解した。
「よし、ゼノア。今から貴様の頭蓋を国外へシュートしてやっから表でろや。」
そう言ってゼノアに近寄る自分。
「ま、待て!しゅうとが何かは知らないが止めてくれ!雰囲気的に首が飛ばされそうだ!!」
対して、全力で焦るゼノア。
「誰にでも趣味の違いはある!だから落ち着け!!」
「自分はロリコンじゃねぇ!!」
まだ言っているこの馬鹿に制裁を!!
パチーン
「うお!」
ドガッ!
ガスッ!
ん?
何があったかわからない?
簡単にいうとゼノアの座る椅子を彼の頭上にアポーツしました。
つまりゼノアは転び、頭の上から椅子が降ってきたのです。
「っ………!」
ゼノアは頭を抱えながら悶絶している。
いったそー。
「君達はあんな風にぶざまに育っちゃダメだよ。お母さんの言う事をよく聞いて、いい子になるんだよ。」
「はーい。」
「あーい。」
うむ、いい返事だ。
「で、ぶざまなゼノアよ、これからどうする?」
「ぶざまー。」
「まー。」
この姉妹、いいわ。
将来大物になるな。
「……それを定着させるな。」
うんざりするゼノア。
ざまぁみろ、人をロリコン扱いした罰だ。
「まぁそれはともかく、ナルミにはこの後俺の家に夕食を食べに来て貰いたい。」
そう言いながら、椅子をなおして座るゼノア。
「ほー、そっかぁ。何、お前料理できんの?」
なんかこいつにそんなイメージねぇなぁ。
部屋いっぱいに古文書とか歴史の本とかが散乱してそうだ。
「いや、俺は作らないぞ。そもそも目的がお前を紹介する事だからな。」
ん?
「まて、誰に?」
「…父上と母上にだ。」
「拒否権は?」
「してもいいが、父上…現魔王の右腕と言われる男に目を付けられるぞ。」
そう言ってため息を付くゼノア。
……なーんかやな予感。
そんな偉いオッサンが自分を誘うあたりが特に。
「…実はな……平たく言うとお前と政治的な繋がりが父上は欲しいらしくてな……覚悟しといてくれ。」
嗚呼、やっぱり。
やっぱ自分の勘は馬鹿にできないね。
着いてくるんじゃ無かった。
「………さらに言うと、父上が一度ナルミと手合わせしたいと言っていてな………すまん。」
………もう、どうでもいいです。
ちなみにそのあと、ゼノアの家に向かう途中にあった楽器屋にて。
「さぁさあ、これが人間に伝わる伝説の笛、オウマと同じ形の笛だ!大きいのは3000リーグ、一番小さいのは500リーグだ!」
「おじさん、小さいの一個!」
「私はそこの中くらいのを!」
「あー、残念中くらいのはもう売切れです、これは見本です。」
「ただいま技術者総出で製作に取り掛かってますので明日には出来ているかと……」
等のやり取りがゆうに四十人はある人だかりで行われておりました。
………ただいまグラディシアには、笛ブームが到来しております。
そして技術者のみなさん、がんばり過ぎです。
あれからまだ5時間経ってないのに、製作スピード早過ぎです。
…………収拾つかないな、これ
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