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真・恋姫無双 矛盾の真実 最強の矛と無敵の盾

作者:遊佐
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立志の章
  第6話 「逃げても殺す」

 
前書き
これをアップしたら俺は眠るんだ……死亡フラグ?

 

 




  ―― 盾二 side 北平近郊 ――




 白蓮が檄を飛ばし、出陣を号令する。
 意気揚々と城門を出て出発する軍勢。その数、六千五百。
 俺たちは、左翼二千を率いることになっている。

「二千か……」

 正直、自分が率いたことがあるのはさっきの五百人が最高だったりする。
 桃香や愛紗、鈴々と分担するにしても、俺たちが二千の命を預かっているのだ。
 緊張――しているのだろうか、俺は。

「どうしました、ご主人様?」
「愛紗……だから、そのご主人様ってのは」
「慣れてください」
「………………」

 自分でも自分が、苦虫を噛み潰したような顔になっているのがわかる。
 しかし、そんな俺の表情にしれっとした態度で愛紗は隣に付いた。

「それよりどうされました? 少し緊張気味のようですが」
「……いや、緊張している、のかな? 正直、二千なんて大軍を率いたことはないんだ。自分が率いた部隊は百人単位だったし、ゲリラを集めて武装蜂起の手伝いしたとき、俺はまだ餓鬼だったしな……」
「それにしては、先程の五百人を指揮していたときは見事なものでしたが」
「百の単位に分割して、伝達役を一人ずつ決めてやればいい。だけど千ともなると命令が徹底する自信がない……部隊の細分化と運用効率の追求は訓練しておかなきゃ無理だ。今回みたいな兵をもらって動かす、じゃうまく運用できるかどうか……」
「それは……しかし」
「わかってる。事ここにいたればやるしかないのもね。ただ、俺たちは命を預かっているんだ。素人を動員して指揮がうまくいかずに殺されました、じゃ死んでいく兵が浮かばれない」
「ご主人様……」
「わかってるさ。時間がないんだ……やるしかない。だから、覚悟はしてる。けど……いや、未練だな」

 俺は頭を振って自分の弱気を追い出す。
 そうだ、やるしかないんだ。

「ご主人様は本当にお優しいのですね……」
「優しいってわけじゃないさ……臆病なだけかもしれない。自分が傷つくほうが何倍もマシだよ」
「だからお優しいのですよ」

 そういって笑う愛紗。

「……」
「どうしました?」

 呆然とした俺に訝しげな顔をしてくる。

「いや……その……」

 言えるかよ。

(……笑顔が可愛すぎて見惚れた、なんて)

「と、ともかく! 俺だけじゃ、きっとうまくはいかない。でも、愛紗も桃香も鈴々もいる。なんとかなるさ!」
「はい、お任せください!」

 愛紗は自身の持つ青龍偃月刀を掲げ、力強く頷いた。

「ご主人様! 愛紗ちゃん! 伝令さんがきたよ!」

 前方で桃香が呼んでいる。どうやら賊を見つけたようだった。




  ―― 劉備 side ――




 前方、六里(三km)にある邑が現在襲われている、と伝令さんから伝えられた私達。
 急いで向かうと邑で略奪を終え、すでに終結している賊の姿がありました。

「おのれ……」

 誰かの怨嗟の声が聞こえました。
 炎と煙、焼け焦げた人と家の匂いが周辺に充満しています。
 その光景に私はぎゅっ、と胸の痛みをこらえ唇を噛みました。

「数はおよそ五千……公孫賛様は攻撃を開始するそうです」
「わかりました。私たちも追随します!」
「はっ、では!」

 伝令さんは急いで戻っていきました。

「ご主人様!」
「ご主人様!」
「お兄ちゃん!」

 私たちが盾二さんを振り返る。
 そこには――怒りに目を燃やす盾二さんの姿があった。

「今回は討伐だ……俺が軍を率いても攻勢じゃたかが知れている。軍は愛紗と鈴々が隊を二つに分けて率いてくれ」
「え……? ご主人様は?」
「俺か? 俺は……そういや、まだ君たちに俺の力をちゃんと見せてなかったよな」

 力……あの炎の業のこと?

「俺の力の本分は……パワー!」

 バキッ!

「きゃっ!」
「なっ!?」
「わわっ!」

 盾二さんが叫んだ瞬間、その身体が一回り大きくなった感じがしました。
 筋肉が盛り上がり、異様な雰囲気があふれ出します。

「わわわ、こ、こないだと同じなのだ!」
「なんという氣……これが盾二殿の本来の力か」

 鈴々ちゃんの声が震え、愛紗ちゃんが呻く。
 私には氣とかわかんないけど……なにか怖いのがわかる。

「この世界で俺を傷つけられるのはそうはいない……だから、いってくる」

 え?

「ご、ご主人様?」
「お兄ちゃん、どこ行くのだ?」
「決まってるだろ……」

 盾二さんはそう呟き――

「オオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオッ!」

 まるで地獄の泰山府君(えんま)の怒号のような咆哮が、辺り一帯に響き渡る。
 その咆哮が収まる間もなく、盾二さんの姿がふっと掻き消えた。

「え、どこ?」
「早いっ!」
「あそこなのだ!」

 私が盾二さんを見失うも、愛紗ちゃんと鈴々ちゃんには見えたみたい。
 そこに馬よりも早く走る盾二さんの姿があった。

「はっ、と、桃香様! 私たちも続きましょう! ご主人様をお守りするんです!」
「あ、そう、そうだね! 皆さん、突撃です! 愛紗ちゃん、鈴々ちゃん、お願い!」
「まかせろなのだ! みんな、部隊を半分に分け、片方は鈴々に続くのだ! 愛紗、鈴々は側面から行くのだ! お兄ちゃんは愛紗が助けるのだ!」
「わかった! 片方は私に続け! ご主人様をお守りする! 突撃ーっ!」 

 愛紗ちゃんが突撃し、鈴々ちゃんは側面から敵を叩こうとしている。
 でも私は、そう指示しながら――盾二さんしか見ていなかった。
 



  ―― 白蓮 side ――





「あの獣どもを生かして返すな!」

 私の怒号に兵が動く。
 賊も、こちらに気づいて統制が取れないまでも一丸となって向かってくるようだ。
 だがこちらは曲がりなりにも正規兵。ただの野盗ごときに後れを取るわけはない。

「我が名は『白馬長史』公孫賛! 我が騎馬の冴えを見るがいい!」

 私の号令と共に、騎馬隊五百が賊の本隊の一部を強襲する。
 だが敵は槍を並べ、進行方向に矢を放ち、こちらの騎馬隊の機動力を封じようとしてくる。

「ええい、なにをやってるんだ!」

 と、私が苛立った声を上げたが。

「伝令! 右翼の趙雲様から足止めされていた敵を排除したとのこと!」
「よし、このまま星に側面を……」
「こ、公孫賛様! 左翼から――」
「なにいっ!?」

 見ると左翼の敵の一部が、こちらの側面に向かって突進してこようとする。

「くっ、桃香たちはなにを――」

 私がそう叫ぼうとしたとき、伝令が声を上げた。

「い、いえ、違います! 左翼の敵はこちらに攻撃をしてきたわけじゃありません!」
「なに?」
「相手は……逃げてきているんです!」
「なんだってぇ!?」

 私が素っ頓狂な声を上げた、まさにその時。
 こちらに向かってきていた左翼の敵陣に、突如現れた爆発的な竜巻が砂塵を巻き起こした。

「な、んんだー!?」

 私は危うく落馬しそうになりながら、その爆風に耐える。

「こ、公孫賛様! あ、あれを!」
「なにが……!?」

 風が収まり、伝令の指差す先に視線を向ける。そこには――
 一人の黒い『魔人』が立っていた。




  ―― other side ――




(信じられねぇ、信じられるわけがねぇ!)

 男はこの一帯を束ねる賊の頭領だった。
 男の率いる数は五千を越え、周辺に並ぶものなしといわれるほどに成長している。

(このまま街の一つでも占拠して、太守にでも成り上がってやる――)

 男のひそかな野望がもうすぐ結実すると思っていた。今日までは。

(例のやつらからの接触もあった。うまくすりゃこの地方を俺の思うが侭にすることも夢じゃねぇはずだった……)

 公孫賛とかいう都の太守。噂じゃ趙だかいう武将さえ気を付けりゃ問題ない、と聞いていた。
 だから一部隊でその武将だけを切り離して、その間に直衛のやつらによる側面からの攻撃で太守を殺し、囲んで武将も殺すはずだった。

(足止めも成功してうまくいくはずだった……そう、うまくいくはずだったんだ!)

 男は歯軋りをしながらその光景を見る。

(だけど、あんな……あんな……)

 そこには自分の配下、その中から集めた直衛である二千人。
 それが――

「あんな化け物がいるなんて、きいてねぇえええええええっ!」

 たった一人の男によって打ち倒されていた。




  ―― 盾二 side ――




 突進した俺は、AMスーツの力を全開にして突っ込む。
 賊は牽制に矢を放ってくるが、そんなものがAMスーツに効くわけがない。
 何しろこのスーツは、防刃・防弾で戦車砲でもなけりゃその衝撃さえ吸収してしまう。
 精神感応金属オリハルコンは、AMスーツ内部に衝撃と加重を受け止めるパワーフィールドを形成している。
 それは装着者のパワーで振り回される肉体をも保護する機能がある。
 だから常人の三十倍以上のパワーを出したとしても、肉体のダメージはほとんどない。
 ただし体重が変わるわけではないから、パワーに振り回されるとバランスを崩しやすい。
 ゆえに中国拳法の技法を使い、足を踏ん張りつつ、大地で反動を受け止める。
 そうしないと反力で、自分の身体が吹き飛ばされるからだ。
 その為、攻撃もジャブや弱いボディブロー並の力しか入れていない。
 しかし、それを『AMスーツの力』が三十倍まで高めてくれるのだ。
 ヘビィボクサーの渾身のストレートがジャブのスピードで飛んでくる――そんな風になる。

「本来は死にたくなければ動くな、というんだがな……お前らには言わんよ」

 ただし、それも殺さない程度に力を弱めた状態であれば、だ。
 目の前にある賊の顔。
 そこに軽く一発殴ると頭蓋が割れ、目玉が飛び出る。
 ジャブも少し力を増せば、簡単に人を殺せる殺人パンチになる。

「悪いがお前らを生かしておく気はない! ここは向こう(元の世界)とは違う! 司法の裁きなどはない! ゆえに傭兵のやり方で始末させてもらう!」

 アーカムは基本不殺(ふさつ)だが、俺は十二まで傭兵部隊で生きてきた。どこぞの殺戮兵器(キリングマシーン)といわれた先輩と違い、自分の意思で、だ。
 だから殺すべきものを殺すのに躊躇はない。

(それでもお前なら、きっと殺さずにすむようにするのかもな……一刀)

 賊の首を、腰から抜いたオリハルコンのナイフで切り裂きながら、そう思い耽る。
 俺よりも脆くも優しい兄――一刀ならば、きっとそうしそうな気がする。

「ヤロウ!」

 賊が五人がかりで斬り付けてくる。
 頭部への一撃を左腕で防ぎつつ、他のは防御すらせずに右腕と両足で同時に三人を始末する。

「は、刃が!?」

 賊の一人が自分の剣を見て驚愕する。
 だが、一瞬で身体を回転させた俺の回し蹴りを首に喰らい、折れた首が千切れて飛んだ。

「なっ!?」

 残った一人が言葉を発する間もなく、右手に持ったナイフで首を刈った。
 その間、5秒。
 だが、そんなことはどうでもいい。敵はまだまだ有象無象にいる。

「安心しな……一人ずつしっかり殺してやる……毎日フルマラソンして鍛え上げた俺のスタミナをなめんなよ?」

 そう言ってどれくらい殺しただろうか。
 殴る。蹴る。首を折る。
 切り裂く。腕を切る。足を切る。首を刈る。
 急所を穿ち、股間を潰し、頭部を砕く。

 殺戮という殺戮を繰り返した挙句、周囲の賊は一人、また一人と逃げ出した。

「た、助けてくれー!!」
「ば、化け物だ、魔人だ!」
「お、おれはしにたくねぇぇぇっ!」

 だがそんな賊を俺が許すはずもない。殺された無力な民の恨みはまだ晴れていない。

「逃がすと思うかっ! オオオオオオオオオオオオオオオッ!」

 オリハルコンの精神感応を全開にして、力のイメージを送る。
 白い蒸気のようなものが俺の身体を包み、風が生まれ、次第に暴風となる。
 暴風は爆風に変わり、周囲の賊が吹き飛ばされた。

「くらえぇぇ、マグナ・エアバースト!」

 自身の右足が周囲の風を巻き込んで、旋風脚のように回転する。
 その巻き込まれた風が指向性となって、竜巻を前方へと押し出した。
 逃げようとしていた賊たちはその竜巻にまきこまれ、はるか上空に吹き飛ばされ――墜落死した。
 その数、およそ数百人。
 俺は、風が収まると周囲で呆然とする賊どもに、笑みを浮かべてこういった。

「逃げても殺す」

 ……その一言が衝撃だったのだろう。
 足を振るえて失禁する者。
 墜落死して、臓物をぶちまけた死体に気絶する者。
 発狂して周囲に剣を振り回して仲間を傷つける者。
 もはやこれまで、と自分の剣で首を裂き、自殺する者。
 賊は完全に壊滅状態になった。

「さて、再開しよう」

 俺はナイフを掲げてそう呟いた。
 だが――

「もういいよっ!」

 その声が、戦場に響き渡る。





  ―― 劉備 side ――




「もういいよっ!」

 私はそう叫んだ。

「これ以上はやっちゃダメだよ! もう、みんな戦う意志なんてないよ! これ以上、やる必要なんてないよっ!」

 私の叫びに、盾二さんがゆっくりとこちらを振り返る。
 その目は――

「……っ!」

 瞳孔が開いた何も感じていない目。
 いつもの盾二さんの目じゃなかった。穏やかで優しさを湛え、甘えるとちょっと困ったように目を白黒させた、人間の目。
 それが、今はまるで……死人の目だ。

「……っ、もう、もうやめよ? 終わりにしよ? みんなもう……」

 私がフラフラ、と盾二さんに近寄る。
 すると、盾二さんの姿がふっと掻き消え――

「え……?」

 私の前で鮮血が飛んだ。

「桃香様!」
 
 

 
後書き
ちなみに盾二の士気のあたりは……察してください。 
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