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DQ4TS 導く光の物語(旧題:混沌に導かれし者たち) 一~四章

作者:あさつき
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二章 やんちゃ王子の観光
  2-22邪悪な毛玉

 サイモンは眩暈(めまい)がするのか、しきりに頭を振っている。

 時間を置かず、再び間を詰める。
 サイモンは剣を振り下ろしてくるが、眩暈で狙いが定まっていない。
 身体をずらし、剣の軌道から逃れる。

 懐に潜り込まれるのを警戒してか、身体の前にしっかりと構えられた盾を、踏み付け宙に跳び上がる。

 サイモンの頭に手を付き、付いた手を軸に回転し、サイモンの背後に着地する。
 背後から首筋に鉄の爪を押し当てる。

 サイモンが息を詰め、吐き出し、言葉を乗せる。

「……参った。」


 しばしの沈黙。


「……勝者!アリーナ王子!」

 割れるような歓声。

「きゃー!アリーナ様ー!すごい!かっこいいー!」
「あの戦士も、やるな!」
「初めて試合らしい試合だった!」

 少し、聞きたくない言葉が聞こえたような。
 きっと気のせいだ。

 サイモンが振り返り、握手を求めて来る。

「お見事でした。このサイモン、殿下と手合わせたことを誇りましょう。ご武運を。」

 兜の下は、(いか)めしく不敵な顔つきの、戦士らしい戦士だった。
 どこまでもまともだ。

 差し出された手を握り、応える。

「ありがとう。サイモン殿も、良い腕だ。良い試合だった。」

 兜を拾い、礼を取って立ち去るサイモンを見送る。

「アリーナ王子様、四人勝ち抜き!薬草を、使いますか?」

「使っておこう」

 薬草を飲み下し、体力を回復する。

「では、次!これに勝てば、決勝戦じゃ!アリーナ王子の五人目の相手!ベロリンマンよ、これへ!」


 次に連れて来られたのは、全身を長い毛で覆われ、長い舌を垂らした、魔物だった。
 二足歩行の大きな毛玉に、舌を付けた、というか。
 名前通りの容姿ではある。

 これは、自分で名乗ったのか。
 誰かが適当につけたのではないか。

 観客も困惑している。

「ま、魔物だ」
「やだ、魔物よ」
「あ、アリーナ様ー!早く、早く退治しちゃってー!」

 退治って、殺して良いものなのか。
 こいつは、一体何なんだ。

 毛玉が(うな)る。
 言葉は、話さないらしい。

「では、試合開始じゃ!」

 合図と同時に放たれた毛玉が、邪悪な気配を解放する。
 良い魔物であるとか、うまい話は無いようだ。

 さらに毛玉が魔力を放ち、姿がぶれる。
 と、毛玉が四体に増えた、ように見えた。
 幻惑の魔法のようなものか。
 だが、気配でわかる。

 にやける毛玉の本体を、鉄の爪で切り裂く。
 毛玉が悲鳴を上げる。

 毛玉は長い舌を鞭のように振るい、叩きつけてくる。
 鉄の爪で受け、巻きつけ絡め捕り、引く。
 爪の刃が、舌に食い込む。

 毛玉は痛がり、振りほどこうとする。
 さらに巻きつけ、阻む。
 さらに引く。千切れる。
 毛玉が絶叫する。 
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