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クラディールに憑依しました

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お友達が居ました

 朝から気が重い。みんなにはお休みが欲しいからと言って、はじまりの街に居る友達に会いに行く事にした。


「サチーこっちだよー」


 はじまりの街の転移門に到着すると、別のギルドに居る友達が大きく手を振って私を出迎えてくれた。
 名前はミカ、カフェテリアで紅茶を飲んでいたら話しかけてくれた数少ない女性プレイヤーの一人。
 私がカフェテリアでお茶してると女性プレイヤーに声を掛けられやすいのは外見のせいだろうか?


「久しぶり、もう一ヶ月ぐらいになるかな? 元気にしてた?」
「うん、最近忙しくて…………遊びに来れなくてごめんね」
「そんな事無いよー、サチが私の事覚えてくれてただけで嬉しいよ」
「大げさだよ、こんなに早く忘れちゃう訳無いよ」

「あはは、嘘、冗談冗談――――――で、後ろの人はどちら様?」
「え?」


 私が振り向くと白の重金属装備に赤いラインが入った長身の男の人が立っていた。


「よう、サチ」
「クラディールさん!? どうしてはじまりの街に!?」
「ちょっと倉庫に用があってな、知り合いの名前を呼ぶ声とサチに良く似た子が居たから寄って見たんだ」

「そうなんですか、あ、こっちはミカ、私の友達です」
「はじめまして、クラディールと言います、サチさんとは偶に狩りに出る程度ですがヨロシク」
「そんな事無いですよ!? 大変お世話になってますから!?」
「あはは、ヨロシクです。サチがこんなに取り乱すなんて――――本当はどんな関係なんですか?」

「貢ぐ男とアゴで使う女の関係です」
「――――止めて下さい!? 違うんだよミカ、この人は攻略組で血盟騎士団の副団長アスナの護衛で――」
「ええっ!? ――――――サチ、冗談上手くなったね?」

「違うよ、本当なんだよ!?」
「まぁまぁ、二人の関係はカフェでゆっくり聞かせてもらおうじゃないの、もちろんクラディールさんのオゴリで、ね?」
「ふむ、時間も少しはある事だし、両手に花と言うのも悪く無いな、立ち話もなんだし早速行こうか」
「よっしゃ決まりー、スペシャルメニューがあるお店知ってるんだー、そこにしよ」

「ちょっとミカ!? ……あの、大丈夫ですか? この子失礼な事ばっかりで」
「花が咲いた様に綺麗で美しく、愛らしい女性じゃないか、是非お近づきになりたいね」
「おぉ!? 中々の好感触!! これはひょっとしてひょっとしちゃいますかー?」


 クラディールさんの腕にミカが抱きついて、二人は私を置いて人ごみの中へ入って行った。


「あ!? 待って、置いてかないでよ」




 とあるカフェテリアにて。


「それで、二人はどんな関係なんですかー?」
「ウチのギルドにも女性プレイヤーが居てね、その友好関係で一緒に狩をする程度だよ」
「そう、そうなんだよ、そのとおりだから、ミカが考えてる様な関係なんかじゃ全然無いから」
「そんなに焦る事無いのに、んー、そっか、それなら私にもチャンスはあるのか」
「どんなチャンスなのか、この後二人っきりで話をしようか、そう、誰にも邪魔されない所で」


 クラディールさんがミカの頬に手を伸ばして見つめ合い…………!?


「クラディールさん!?」
「ん? どうかしたかサチ?」
「うっわー、危なかったわ、いま滅茶苦茶――――落ちる寸前だったわ」
「ミカは彼氏さんがちゃんと居ます、手を出しちゃ駄目です!」
「…………そうか、残念だ――――失礼をしたお詫びにこれをやろう」


 クラディールさんがメニューを操作して取り出したのは黒いジャケットとスカートにブーツだった。


「気休め程度だが第三階層までの敵なら、これ一式で充分戦える様になる、貰ってくれ」
「え? これって防御力高いのに私でも装備できるってどういう事?」
「女性専用のレア装備でな、髪飾りとグローブが手に入らなくて中途半端なんだよ、
 売りに出すにも微妙な値段しかつかないだろうし、処分に困ってたんだ」

「へー、不良在庫って奴だ、本当に貰っちゃって良いんですか?」
「あぁ、サチが今装備している一式も似た様なもんだ、遠慮なく持っていってくれ」
「ふむふむ、さっき言ってた攻略組ってのは」

「まぁ、本当の話しだな《閃光のアスナ》って名前ぐらいは知ってるよな? ウチの上司でサチとも仲が良いんだ」
「ふーん、へー、ほー、最近連絡くれないなーと思ったら、そんな凄い人とお友達になってたのかー
 そりゃあー、私なんかじゃ見劣りするよねー、ふーん」

「ち、違うよ、本当に忙しかったんだよ」
「それでも連絡の一つくらいは欲しいもんよねー、女の友情って儚いものよねー」
「まあまあ、積もる話もあるだろうが俺が居ちゃ話し辛いだろう、そろそろ最前線に戻らなきゃいかんし、俺は此処で席を外そう」

「えー? もう行っちゃうんですかー?」
「何か手伝える事があったらサチ経由で連絡してくれ――――それとも、フレンド登録しておくか?」
「あ、是非お願いします。中々面白かったので」
「ご期待に副えた様で何より――――フレンド登録完了、それじゃ、勘定貰ってくから、ゆっくりして行ってくれ」

「ご馳走様でした、今度はじまりの街に来たら声を掛けてくださいねー」
「あぁ、必ず声を掛けるよ、サチもまたな」
「あ、はい、ご馳走様でした」


 クラディールさんは会計を済ませて街中に消えて行きました。


「面白い人だったねー、今レベルいくつぐらいなんだろ?」
「…………たぶん五十前後だと思う」
「五十!? 嘘!? もっと高いメニュー頼んどくんだった!? …………ねぇ? この装備いくらくらいで売れるかな?」
「やめときなよ、折角貰ったんだから」

「えー? でもなー? お金にしたら半年ぐらいの宿代にはなりそうじゃない?」
「…………別に、貰ったのはミカだから、どうするかはミカの勝手だけどさ」
「もー、冗談だよ、そんなに拗ねなさんな、色々あったんでしょ? 今日はたっぷり聞かせてよ」
「うん…………」


 色んな事が沢山あって、伝えたい事も沢山あって、
 その日は一生分お話をしたんじゃないかって言うくらいおしゃべりをして
 …………けどそれが、ミカと話す事が出来た最後の日だった。


 数日後、黒鉄宮にて。

 私はミカが死んだ事をまだ信じられなかった。
 《生命の碑》の前にミカのギルドの人達が大勢居る…………まだだよ、名前を見て無いから。

 見覚えのある白い鎧に赤いラインの入った長身の男の人が居た。


「クラディールさん?」
「………………来たのかサチ」
「…………――――ミカは何処ですか?」

「…………自分の目で確かめろ」


 ――――嫌だ。

 それでも《生命の碑》を確認してしまう、嘘であって欲しい。
 ……………………そこには、ミカの名前を削り取った様に、存在を許さない様に、
 死亡を示す二本の線が引かれていた。


「渡したレア装備はジャケットだけ装備して、残りはギルドメンバーに譲っていたそうだ。
 安全な狩場だったが、一人になった所をモンスターのリポップに巻き込まれてタゲを集中させちまったんだと。
 周りのプレイヤーも直ぐに気づいて助け様としてたらしいんだけどな」


 …………誰かに何か言われてる気がする。

 何処をどうやって帰ったのか、気が付けば私は宿屋の部屋で立ち尽くしていた。 
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