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とあるβテスター、奮闘する

作者:らん
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投刃と少女
  とあるβテスター、投擲する

迂闊だった。
下からすくい上げるような斬撃で空中に浮かされ、今まさに凶刃によって屠られんとしている騎士ディアベルの脳裏に最初に浮かんだのは、その簡潔すぎる一言だった。

ここまでの流れは完璧だったはずだ。攻略レイドパーティを組み、ボスの攻撃パターンを知り尽くしている自分が自ら先頭に立って指揮を執る。
呼びかけに応じて集まったプレイヤーの数は46人と、フルレイドである48人には後二人ばかり足りなかった。しかし自身の知る限り、第1層のボスである亜人の王を倒すには十分すぎる程の戦力だ。
攻略意欲のある精鋭を掻き集め、この一ヵ月間誰もが突破できなかった第1層を突破すれば、それは未だはじまりの街に留まっているプレイヤー達にとっての希望となるだろう。
第1層を突破できたとなれば───ほんの僅かでも『このゲームはクリアできる』という可能性を示すことができれば。絶望ばかりが取り巻くSAOの現状を、少しでも前向きにすることが出来るはずだ。
騎士《ナイト》を自称するディアベルにとって、その集団の先頭に立つことは自身に与えられた使命のように思えた。

しかし。そうして挑んだはずのボス戦の、それも正念場ともいえる段階にまできて。
『ボスの使用するスキルがベータとは違う』という───恐らく茅場明彦による、こちらの考えを見越した上での罠───に、リーダーである自分がまんまと嵌まってしまった。

───まったく、迂闊だったな。

民《一般プレイヤー》を守るのが騎士《攻略組》である自身の役目と思い、勇み足で先陣を切った結果がこれだ。
あのフードの二人組の片割れである少女───確かシェイリとか言ったか。彼女の一見空気を読めてない……しかし的を得ている発言を受け、その可能性を考慮はしていた。していたはずだった。
だが。実際に戦ってみて、以前と変わった様子のないボスの姿を見て。これなら問題ないと気が緩んでいたのは否定できない。
その結果、湾刀だと思っていたボスの武器から繰り出されたのは、ベータテスト出身者であるディアベルですらも覚えがないスキルだった。
恐らくは、自身が到達できなかった第9~10層、その何れかに出現する敵が使用するスキルなのだろう。その証拠に、元ベータテスターである灰色コートの剣士───キリトが何かを懸命に叫んでいる姿が視界の端に映った。

───これは、罰なのかもな。

自身がベータ上がりであることを隠し続け、あまつさえ同じ元テスターである彼の妨害まで行った。
そんな騎士にあるまじき行為を働き続けた自身への、当然の報い。

キリト。
かつてディアベル自身も参加していた『ソードアート・オンライン・クローズドベータテスト』において、ボスのHPがゼロになろうとする瞬間に最高威力のソードスキルを叩き込み、LAボーナスを獲得することを得意としていたプレイヤー。
このデスゲームが開始されてから二週間ほど経ったある日、ディアベルは偶々キリトの姿を見かけ、当時の記憶を思い起こすと同時に彼を恐れた。ディアベルのシナリオでは、ボスのLAを獲得するのは攻略部隊の指導者たる自分でなければならなかったからだ。
LAボーナスを得ることによって与えられる、世界に二つとないユニークアイテム。これを自ら入手し、大幅に戦闘力《生存力》を上げることに成功すれば。先頭に立つ者がより強い力を持つことにより、ボス攻略における部隊の士気は格段に向上する。
そんな彼のシナリオを壊しかねない人物の姿を見た時から、ディアベルは密かに決意する。例えどんな手段を使ってでも、ボスのLAを譲るわけにはいかないと。

元ベータテスターに対して異様なまでの憎しみを見せるキバオウに交換条件を求め、キリトの持つ『アニールブレード+6』の買い取り依頼をさせる代わりに、公的な場で鬱憤を晴らす機会を与えた。
先の攻略会議で、キバオウがベータテスターを炙り出そうとした一幕。あれは彼への報酬代わりだったのだが、エギルというプレイヤーの理論立った割り込みによって失敗してしまった。
故にディアベルは、この戦いが終わった後、反省会と称して同じ話題を議論するつもりでいた。
そして、叶う事ならば。新規参加者も元テスターも関係なく、皆で協力して攻略へ臨む体制を築きたかった。

───後は頼む、キリトさん。ボスを、

倒してくれ、と、声に出さずに呟く。
彼に対して裏で妨害工作まで仕組んだ自分がこんなことを言っても、今更虫が良すぎると思われるかもしれない。
だが、それでも。死の間際、ディアベルは彼に縋らずにはいられなかった。

───頼む、キリトさん。ボスを、倒してくれ。みんなのために───


その時、一筋の光が彼の視界へと飛び込んだ。


────────────


「間に、合えぇぇぇッ!!」

自身が《投刃》と呼ばれていたオレンジ《犯罪者》プレイヤーであることの証───腰のホルスターから投擲用ナイフを“四本同時に”抜き放ち、ユノはあらん限りの声で叫んだ。
初手はあえてソードスキルを発動させず、システムのモーション・アシストに頼らない四本同時の一投。
それが敵に向かうのを確認するよりも早く、すかさずマントの下に両の手を潜らせ、左右に四本ずつ───計八本のナイフを構える。

投剣 ニ連続投擲技《ダブルニードル》

両の手でそれぞれ一本ずつ、二本の投擲用武器を連続で投げるというごくシンプルな技だ。
投剣スキルの中では《シングルシュート》の次に習得できるこの技は、投剣スキルを多少上げている者にとっては別段珍しいものではない。
……が、ユノの場合に限っては他プレイヤーのそれとは違う。

SAOにおけるソードスキル発動条件は、端的に言えば三つの要素によって成り立っている。
『使用する技の初動《ファーストモーション》を起こすこと』『使用するソードスキルに対し、同種の武器スキルをセットしていること』『それに見合った武器を手に持っていること』。
以上の条件を満たした際、システムによるモーション・アシストが入り、自動でソードスキルを放つ。武器を装備して初動だけ自分で行えば、後はシステムが勝手に身体を動かしてくれるといった具合だ。

ここで鍵となるのは、三つ目の要素───使用するソードスキルに見合った武器を手に持っている、という条件。
通常のMMOでは『装備していない物』を武器として扱うことはできないが、SAOではそのあたりの条件は意外と緩かったりする。
例えば、『食事用のナイフで細剣スキルを発動する』『フィールドに落ちていた小石で投剣スキルを放つ』といったように。
オブジェクトとして存在する『発動条件に見合った武器』として認識されるものであれば、例え装備している物でなくともソードスキルを発動させることができるのだ。
ユノはその仕組みを利用し、指の間にそれぞれ挟んだ四本のナイフを“ひとつの武器”としてシステムに認識させることにより、投剣の威力を底上げしている。

「ふッ!!」
短い気合と共に最初に利き手、一拍遅れて残るもう片方の手を振るう。
左右でそれぞれ一本ずつを投擲する通常の《ダブルニードル》とは違い、ユノが使用するナイフの数は一投で四本───計八本の同時投擲。
鮮やかなライトエフェクトを纏いながら投擲された八本のナイフは、初手と同じ軌道を描きながら一直線に敵へと───青髪の騎士に止めを刺すべく身体を浮かせた敵の、無防備な腹部へと向かう。
システムのアシストと、ユノ自身の動作による運動命令。更に敏捷値補正によってブーストされた、尋常ならざる速度を以って投擲された刃がコボルド王の腹部に突き立った。

「ガアアアアッ!!」
12本のナイフが無防備な横腹に連続で着弾し、コボルド王が苦しげな雄叫びを上げた。
青髪の騎士に止めを刺すべく発動させようとしていたソードスキルが中断され、その原因を作った乱入者へと視線を移す。
布製の衣服の上に皮の胸当てを装備し、上からフード付きのマントを羽織った軽装備の人間。投擲に使うためか、腰のホルスターには幾本ものナイフが吊り下げられている。

「グルゥ……!」
亜人の王はそんなユノの姿を確認すると、犬にも似た大口を広げてニヤリと笑う。
SAOの敵AIに感情があるのかどうかは定かではないが、仮にあるとすればこう思っていることだろう。
『そんな軽装で自分の前に出るなど、無謀以外の何ものでもない』、と。

「グルアアアア───ッ!!」
青髪の騎士から無謀な乱入者へと標的を移し、一撃必殺を狙うべく手にした湾刀───否、野太刀に力を集約させる。
対するユノは投剣スキルの術後硬直を受けているのか、一歩たりとも退く気配を見せない。そんな乱入者の姿が、コボルド王に勝利を確信させる。
頑強な金属鎧で身を固めていたあの騎士ですら、たったニ発の攻撃で死の寸前まで追い込まれた。ましてこの軽装な人間が相手であれば、ただ一度攻撃を当てただけでも屠るには十二分だろう。
先の不意打ちには虚を突かれたが、二度とあんな間違いは起こるまい。そう思いながら、刀身に真紅のライトエフェクトを纏わせていく。

カタナ 重単発居合技《迅雷》

野太刀を腰だめに構え、重心を下に落とす。ひとたび発動すれば雷の如き速度を以って敵を斬り裂く、一撃必殺の奥義。
受けられるものなら受けてみろ、と獰猛な笑みを浮かべ、亜人の王は野太刀を一閃させ───

「───」
「──ッ!?」

ようとした、その瞬間。
フードで顔をすっぽり覆い隠しているはずの乱入者が、ニヤリと笑い返してきた気がした。

「そぉー、れっ!」
「グ、ガアアッ!?」
刹那。側面からの強烈な衝撃がコボルド王を襲い、その巨体が数メートルも吹き飛んだ。
苦悶の表情を浮かべながら自身がいた場所に目を向けると、そこには武骨な両手斧を振り切った姿勢のまま、ふにゃりとした笑顔を浮かべる少女の姿。

「えへへ。やっぱりユノくんは投げナイフのほうが似合ってるよー」
「そりゃどう……もッ!!」
「ガァッ!?」
そして。
中性的な声と共に再び投擲されたナイフが、起き上がりかけたコボルド王の顔面───その爛々と輝く隻眼へと、正確無比に突き刺さる。

「グルラアアアアッ!!」
「まあ、当然こっちに来るよね……シェイリ!」
「まかせてー!」
視界を潰されながらも何とか立ち上がり、邪魔なことこの上ない投剣の使い手を潰そうとする。
しかしそちらに気を取られた瞬間、術後硬直から立ち直った両手斧使いの少女が背後から強烈な一撃を叩き込む。
ならばと先に目の前の敵を叩き斬ろうとすれば、横合いから飛来したナイフによって野太刀を振り上げた腕を抉られ、攻撃が中断される。

決して自身は前に出ず、四本同時の投剣による、敵の行動妨害を主とした後方支援。
それこそが、かつて《仲間殺し》と呼ばれたプレイヤー───《投刃のユノ》の真骨頂だ。

「ソードスキルは、使わせない!!」
「ユノくんユノくん!ボスってすっごく斬り応えあるね~!」
投剣を潰そうとすれば斧が、斧を潰そうとすれば投剣が。
絶妙なタイミングでお互いをカバーし合う連携攻撃によって、まともに身動きを取ることすらもままならない。

カタナスキルによって意表を突き、戦いを優位に進めていたはずの亜人の王は、たった二人を相手に手も足も出ずにいた。


……しかし。当然ながら、そんな一方的な攻防が永遠に続くはずもない。
いくらユノの真骨頂が味方との連携にあるとはいえ、その戦闘スタイルを維持するためにはいくつかの条件があり、逆に欠点も存在する。

───このペースじゃ、そう長くは持たない……!

その一つが、投擲武器であるが故の弾数制限。
一度の投擲で使うナイフの本数が四本ということは、単純計算でも通常の四倍の速さで弾数を消費するということだ。
ユノの投剣は通常では出せない威力を誇っているが、逆にいえば、その分限界が訪れるのは早くなる。
まして相手がボスモンスターともなれば、行動を阻害するために必要な手数も通常の敵より多くなるため、このペースをいつまで維持できるかわからない。

───キリト……!

ナイフの残量を表す数値が見る間に減っていくのを感じながら、ユノは心の中で叫ぶ。
視界の端では彼が青髪の騎士を助け起こし、回復ポーションを飲ませている姿が見えた。


────────────


「すまない、キリトさん。本当に……」
「いや……」
しきりに謝罪の言葉を口にするディアベルに、キリトは何と言葉をかければいいのかわからなかった。

二人がボスを引き付けている間、倒れ伏した騎士の元へと駆け寄り、かろうじて死を免れた彼に回復ポーションを飲ませた。
あと一瞬、遅れていれば。コボルド王が発動させようとしていたスキル───確か《緋扇》という名の三連撃によって、彼のHPは瞬く間にゼロにされていたことだろう。
ユノの咄嗟の判断がなければ、リーダーを失った攻略部隊がどうなっていたかわからない。
危険域の一歩手前まで減少していたディアベルのHPが回復していくのを見ながら、キリトは安堵の溜息をつく。
ギリギリだったとはいえ、何とか助けることができた。取り返しのつかない事態になることだけは避けられた。

……と、そこまではよかったのだが。
目を覚ましたディアベルは、キリトの顔を見るなり何度も謝罪を重ねてきたのだ。

───参ったな……。

ディアベルが謝っているのは恐らく、この局面で油断したことに対してだけではないだろう。
先のキバオウの言葉で、キリト自身も気が付いている。彼に対する妨害工作を仕組んだ張本人が、この青髪の騎士だということに。

───とは言っても、なぁ……。

自分がベータテスト出身であることを隠していたのはお互い様だし、そのことに関して彼を責めるつもりはない。
何より、初めて至近距離で彼の目を見た瞬間、キリトは気付いてしまった。
自分はこのプレイヤーを知っている。顔も名前も違うけれど、あの頃───ベータテスト当時、確かにこのプレイヤーと顔を合わせたことがある、と。
そして、ディアベルが自分に対して妨害工作を仕組んだのは、他のプレイヤー達のことを考えての行動だったということに。

───あんたは立派だよ、ディアベル。俺なんかよりずっと……。

故に、キリトは彼を責めることができない。
このデスゲームが始まったあの日、初めての友人を───クラインを見捨てた自分には、彼の行動を批判する資格はないのだから。

「ディアベル、もう謝らなくていい。今はそんなことより、ボスを倒すことが最優先だ……そうだろ?」
「……、ああ、そうだな……」
居た堪れなくなったキリトは、話題の矛先を目の前のボスに向けることにより、これ以上気まずい空気になることを回避した。
ディアベルも彼の心情を察したのか、それ以上何も言わずにボスへと───ボスと戦う二人へと、視線を向ける。

「《投刃》か……。相変わらず、凄まじいな」
「……ああ」
ディアベルがポツリと漏らした呟きに、キリトも同意する。
四本同時投擲によって威力を底上げしているとはいえ、ユノの攻撃には突出した破壊力があるわけでも、何らかの特殊効果があるわけでもない。
にも関わらず、的確かつ絶妙なタイミングで敵の弱点部位へと投刃を突き立て、例え相手がボスであっても手玉に取る程の精密な援護射撃。
その独特の戦闘スタイル故にいくらか欠点はあるものの、彼がいるのといないのとでは、前衛にとって戦いやすさに雲泥の差があるといっていいだろう。

しかし、それでも。
お互いに《投刃のユノ》を知る元ベータテスターであるからこそ、それに限りがあることもまた分かっている。

「だけど、いつまでもこのまま行けるってわけじゃない。ユノの武器が投剣である以上、数には限りがあるはずだ。だから───」
「私たちで援護しないとね」
「そう、俺達で援護……って、アスナ!?」
いつの間にか傍にきていたらしいアスナに二の句を奪われ、キリトは一拍遅れて驚きを表した。
ディアベルのHPが回復したのを見届け次第、彼女には『後方に留まり、前線が決壊したら即座に離脱しろ』と指示するつもりでいたからだ。
いかに神速の《リニアー》を得意技とするアスナでも、ボスとの戦いとなれば話は別だ。死の危険性だって雑魚モンスターの比にならない。
アスナの剣の才能に魅せられたキリトとしては、こんなところで彼女ほどの逸材を失ってしまいたくはなかった。

「アスナ、君は───」
「私も行く。パーティメンバーだから」
君は安全なところに行ってくれ、とキリトが言葉にする前に。
アスナはフードつきのケープを身体から引き剥がし、愛剣であるレイピアを構えてきっぱりと言い放つ。

「………」
「何?」
「あ、ああいや、何でもない!」
「……?まあいいわ」
今までフードで隠れされていた栗色のロングヘアが露になり、その端正な顔立ちも相まって、キリトは説得することも忘れて思わず見惚れてしまった。
このレイピア使いが女性だということは分かっていたが、まさかここまでの美人とは思いもしなかった。
そんなキリトの様子に怪訝そうに眉をひそめ、しかしそれ以上何も言わず、アスナはボスの姿を見据える。

───言ってる場合じゃない、か……!

その瞳に込められた確固たる意思を感じ取り、キリトは説得することを諦めた。
きっとこの少女は、いくら止められようと自分も戦うことを選ぶだろう。

「ディアベル。あんたは回復が済み次第、部隊の体勢を立て直してくれ」
「あ、ああ、わかった」
「俺達は……ボスを、倒す!」

アスナの姿を見て呆気に取られていたディアベルに指示を出し、自身も剣を握り締めた。
次いで、視線をボスの更に向こう側───リーダーが負傷したことにより、半ば混乱状態にある攻略部隊へと向ける。
どうやら仕様変更はボスのカタナスキルだけには留まらなかったらしく、本来であれば現れるはずのないセンチネルが五体ほど追加で湧いていた。
いくら人数がいるとはいえ、冷静な思考を欠いたままの部隊では、取り巻きの相手をすることすらも危ういだろう。
そんな戦況を立て直せるのは、この集団の先頭に立つ人物───騎士ディアベルを置いて、他にいない。

「アスナ、行くぞ!!」
「わかった!」
部隊に向かって駆け出したディアベルの後姿を見送りながら、二人は亜人の王へと並走しながら肉薄する。
モンスターの行動アルゴリズムを司るAIが学習しつつあるのか、敵は連携攻撃によって翻弄されつつも、厄介な投剣使いであるユノを先に潰そうとしている。

「悪い、待たせた!」
剣にライトエフェクトを纏わせながら、小柄な投剣使いの脇を抜き去る。
その際、チラリと横目で彼の姿を覗き見れば。あちらも同様にキリトの姿を認め、フードに大半を覆われた顔の、その口許が僅かに綻んだように見えた。

「いいよ!そのかわり、きっちり倒してよね!」
「了解!」
軽口を言い合いつつ、ユノが八本のナイフに青い光を纏わせ、敵の脚部目掛けて投擲。
踏み込みと同時の斬撃を繰り出そうと片足を浮かせていたコボルド王は、全体重のかかっていた軸足に投剣による連撃を受け、ソードスキルを発動させる前にバランスを崩す。
そこをシェイリの《バスターチャージ》によるタックル・回転斬りのコンビネーションで追撃され、轟音と共に壁へと叩き付けられた。

「ぐるうっ!」
そのまま床に巨体を横たわらせたコボルド王は、喚き、手足をばたつかせながら立ち上がろうともがいている。
人型モンスター特有のバッドステータス、転倒《タンブル》状態───

「「スイッチ!!」」

同時に二人分の声が重なり、ユノとシェイリの二人が飛び退いた。
代わりに現れたキリトとアスナが、中途半端に起き上がった体勢の亜人の王へ最大威力のソードスキルを叩き込む。

「せああっ!!」
「行っけえええぇぇぇっ!!」

細剣 単発刺突技《リニアー》
片手剣 ニ連撃技《バーチカル・アーク》

アスナの神速を誇る刺突が、コボルド王の脇腹を抉る。
それから僅かに遅れ、キリトの剣が右肩口から腹、そこから更に跳ね上げるようにして左肩口へと抜ける斬撃を見舞った。

「まだまだ~!」
「グ、ガアアアアッ───」
胴をV字に切り裂かれ、苦し紛れに野太刀を振り上げようとしたコボルド王の手首に、嬉々とした声と共に振り下ろされた両手斧の刃が深々と食い込む。
力任せに振り払おうとするコボルド王だったが、どういう筋力値をしているのか、自分より遥かに小柄であるはずの少女の身体はビクともしない。

武器を持った腕を封じられ、身動きが取れなくなった亜人の王。
その視界の奥に、黒髪の剣士が剣を構えて突進してくるのが映り───

「はああぁぁぁっ!!」

次の瞬間。
ざしゅっ!という効果音と共に、光を纏った幅広の刃がコボルド王の胴に深々と突き刺さり、そのHPゲージを空にした。
亜人の王は暫くの間、剣を突き立てるキリトを睨めつけていたが、やがてその首から力が抜け、一拍の間を置いてポリゴン片へと姿を変える。

同時、戦線復帰したディアベルらと交戦中だったセンチネルも姿を消し、広間が静寂に包まれた。
誰もがボスのいた方向へ向き直り、ついさっきまでボスと戦っていたはずの四人の姿を視界に収めた、その瞬間。


【Congratulation!!】


安っぽい効果音と共に空中に表示された、たった一言が。
初のボス攻略戦が無事に終わったことを、激戦を戦い抜いた戦士達に告げるのだった─── 
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