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魔法少女リリカルなのは~その者の行く末は…………~

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Chapter-1 First story~Various encounter~
  number-3 birth of magical girl lyrical NANOHA

 
前書き



誕生、魔法少女リリカルなのは。




この場合、高町なのは。

 

 



あの後、燐夜は校内放送で職員室に呼ばれた。
おそらく、燐夜を虐めていたあのグループの誰かが職員室まで行き、教師にチクったのだろう。
舌打ちを一つして、燐夜が蹴り飛ばした二人――――なんか最悪な神龍雅とガキ大将の手下その1を肩に担いで、アリサを一瞥してから職員室に向かった。


「大丈夫? なのは」


なのははすずかに心配されるも、迷惑をかけない様に目元に溜まって零れ落ちた涙を、制服の裾で拭いた。
まだ眼元が赤いが、気丈に笑って見せて、


「もう大丈夫。燐夜君は時々ああいうことを黙ってたりするから、見つけたら言って頂戴」
「……うん。本当に大丈夫なの?」
「……大丈夫、ほら」


そう言ってなのははまだ心配するすずかに笑って見せた。
無理して笑っているように見えるなのはに対して何もできないすずかとアリサは、ただなのはの言葉を信じるしかなかった。
無理しているのに何もできない自分たちが悔しい。
アリサは手を握りしめた。
すずかは胸に手を当てて、なのはの身を案じた。


なのはは燐夜のことが好きなのだ。
いや、好きというのは少し違うのかもしれない。
なのはは燐夜がいれば何でも出来ると依存しているのかもしれない。


依存。
これが依存関係――――互いに頼り合う間柄であれば全くとは言えないが、問題はなかっただろう。
だが、燐夜はほとんどのこと――――調理、洗濯、掃除――――が出来る。一人で生きていくこともできるのだ。余談だが、燐夜の作る料理は三ツ星シェフにも勝てるほどのおいしさというのが、高町桃子の話である。
なのははまだ親に頼っていかなければまだ生きていけない。一人で生きることなんて夢のまた夢なのだ。


      ◯


幼い頃にあったことを考えると仕方がないのかもしれない。
燐夜が高町士郎に拾われてすぐに士郎は意識不明の重体で病院に運ばれていった。
燐夜も病室で見ている。一命こそ取り留めたが、いつ目を覚ますか分からない植物状態であったことを。
時期を考えれば仕方がないが、高町恭也と高町美由希の兄弟は三桜燐夜という存在を疫病神として扱ったのだ。
最初は言葉で蔑むだけだったが、次第にエスカレートしていった。


「ほらっ! 立て! 立つんだ!!」
「早く立ちなさいよ」


体中がボロボロになって床に倒れ伏している燐夜を見下ろす高町恭也と高町美由希。
その眼は光がともっていない。
打撲傷をつけられ、青痣になり、血を流す燐夜。
その燐夜に早く立つように急かす二人。


腕を抑えながらゆっくりと立ち上がる燐夜に両手に持った木刀を叩きこむ恭也。
吹き飛ばされて道場の壁にぶつかる。
それでもまたゆっくりと立ち上がった燐夜。
恭也はその様子を見て舌打ちを隠すことなくした。
美由希はまた木刀を叩きこもうとすべく、一歩、また一歩と近づいていく。


「おい」
「…………」
「もう声も出せないか? まあいい、答えろ。お前はどうして本気を出さない。お前の心の奥にある燻っている力をどうして出さない」
「…………」
「だんまりか……やれ」


燐夜は恭也の問いかけに何も答えなかった。
口を開くこともなく、ただ恭也と美由希を睨んでいた。
口を開こうともしない燐夜に痺れを切らした恭也は美由希に促す。
美由希は頷き、恭也が燐夜に問いかけた時に止めていた足を再び動かした。


段々美由希が燐夜に近づいてきた。
何を思ったのか、燐夜も美由希に対して歩みを進め始めた。
疑問に思ったが、美由希は躊躇おうとはせず、木刀を振り上げた――――


そう恭也には見えたはずだった。
なのに美由希が持っていたはずの木刀を燐夜が持っていて、美由希は燐夜の足元で伏していた。
そして燐夜の体からは蒼い焔が噴き出ている。
道場内が蒼に染まる。


「な……何なんだ……一体」


恭也が驚きで目を見開いた。
人としてあり得ないことを燐夜は今しているのだ。
体から蒼い炎が噴き出すなんて有り得ない。しかもその炎は全く熱くないのだ。


世界には気を目に見えるようにして空気中に放出できる人がいるのは知っている。高町恭也の父である高町士郎もそうだった。
だが、ここまで明確に、それも色を付けて出せる奴なんて本当に人間であるのかさえ怪しい。
三桜燐夜とは一体何者なのか。


「――――ッ。グウッ……」


しかし、相当ダメージを受けていたようで、呻き声をあげて青い焔が霧散するのと同時に床に再び倒れた。
恭也は思う。
こいつを生かしておいていいのかと。
異常なまでの気の量、それと数十分にも亘って痛み付けたのに、一度も意識を失うことがない忍耐力。
相当な実力者。
なのはに近づく男、この家の疫病神などと言ったものは置いて、恭也は考える。


少しの時間。
目を瞑って考え込んでいた恭也は目を開いて、改めて木刀を握りしめて燐夜の方を向いた。
意を決して踏み込む。間も置かずに詰められた距離。
そして振り下ろされる木刀――――


「――――もうやめてっ!!」
「なっ、なのは!」


倒れ伏す燐夜と木刀を振り下ろそうとしている恭也との間に割り込んだなのは。
まだ、3歳であるのに兄から振り下ろされる木刀にも怯えずに立ちふさがった。
運動能力は引き継がれなかったが、こういう精神面で高町家の人間であることを思い知らされる。


珍しく狼狽する恭也と幼く小さく目に涙を溜めながら睨みつけているのだが、その行為さえ可愛いと思わせるなのは。
向き合う二人。


1分にも満たない時間であった。
恭也が先に折れ、木刀をしまい、美由希を担いで母屋の方へと戻っていく。
なのはは隅に置いておいた救急箱を持ってきて、燐夜の手当てを始める。


「……どうして…………来たんだ……」
「あれだけ眩しかったら分かるよ。それでね、ここに来てみたの。そしたら燐夜君が血だらけなんだもん。ビックリしたよ」



燐夜は黙って手当を受け入れる。
なのはは燐夜の傷を痛めないように慎重になりながら包帯を巻いていく。
なんだか妙に手馴れていた。
気になってなのはに聞いてみた。


「お母さんがお父さんの包帯を変えるのを手伝っていたの」


道理で手馴れていた。


      ◯


今、高町なのはは走っていた。
先ほどから頭に響く声。――――それは助けを求める声。
だからそれに答えるべく、夜の街を駆け抜ける。


《誰か、この声が聞こえていたら来てください!》


何処からか聞こえてくるわけでもなく、直接頭に語りかけてくるこの声。
この声が聞こえてくるのは何処からか。
なんとなくなのはは分かっていた。
今日の放課後、近道に使った公園の森の中で見つけたフェレットがおそらくなのはに語りかけていると思う。


なのははかけなしの体力を振り絞る。
足が痛い。息が出来ない。それでも走ってやってきたところは槇原動物病院。
だが、あたりに人の気配はなかった。
しかも病院のあちこちが崩れていた。
何が起こっているのだろうか。


――ドゴォ……


何処からか爆発音が聞こえてくる。
なのははそれに誘われるように音のする方へ向かった。


向かった先にはさっき助けたフェレットと何か黒い物体が浮いて向き合っていた。
黒いものはにやにや笑って動こうとしない。
その黒いものに向き合っていたフェレットはなのはを見ると駆けてなのはのもとへ向かい、黒いものから身を隠す様に陰に隠れた。


「よかった、来てくれた」
「……ふええ! フェレットが喋ったぁ!?」
「そんなことはどうでもいいから! これ持って!」


そう言って喋るフェレットはなのはに何か投げ渡した。
なのははそれを危うく落としそうになりながらも取った。
なのはが受け取ったものは赤い宝石のようなものだった。


「適合した……管理権限、新規利用者設定。よし、僕の後に続いて詠んで!」
「う、うん!」


なのははフェレットの言うことに従う。


「風は空に、星は天に」 《風は空に、星は天に》


「不屈の魂はこの胸に」 《不屈の魂はこの胸に》


「この手に魔法を!」 《この手に魔法を!》


「レイジングハート、セットアーップ!!」


大きく赤い宝石が鳴動した。
そして強く光りを放ってなのはを包み込む。


『stand by ready. set up』


光が消えるとどこか聖祥の制服に似た服を纏って、手には杖を持っている。
髪を二つにまとめていた薄緑色のリボンが真っ白になっている。


自分が纏っている服をひらひらとさせるが、黒い何かが攻撃してきた。
それに驚いたなのはは思わずジャンプする。
すると両足に桃色の羽が出てきて宙を飛んでいる。
それになのはは驚く。


その間に今度は体当たりを仕掛けてくる黒いもの。
咄嗟に杖を突きだしたら自動的に魔法陣が出てきた。


『protection』


黒いものとなのはが突き出した杖――――『レイジングハート』が作り出した魔法陣がせめぎ合う。
少しすると黒いものが離れて、この場から逃げ出そうとした。――――3つに分かれて。


なのははフェレットに言われて飛んでいくが、スピードが遅い。
そこでなのははビルに降り立って、杖――――一般的にはデバイスと言われるもの――――を突き出す。
するとデバイスが形状を変えた。


《カノンモード》


「シュート!!」


出されたトリガーに指をかけて一気に引いたなのは。
桜色の砲弾が3つ放たれて、3つに分かれていた黒いものに向かっていく。
発射の衝撃でなのはは後ろに飛ばされる。


レイジングハートから放たれた3つの砲撃は間違うことなく3つに分かれた黒いものに命中して、1つの宝石に戻した。
なのははそれに近づいていく。
そこにフェレットが声をかけた。


「それに素手で触らないで! 手に持っているレイジングハートで触れて!」


なのはは言われた通りにした。
すると青い宝石はレイジングハートの赤い宝石の部分に吸い込まれていった。
ようやく終わったことに安堵する。


だが、それもつかの間、道路に立っていたなのはのもとにフェレットが来て、こっちに人が来ていることを知らせる。
ワタワタと慌てているうちにその人がやって来てしまった。


「……何やってるんだ、なのは」


燐夜だった。
若干息を切らしていることから慌てて来てくれたんだろうとなのはは思った。
そう考えると心が温かくなってくる。


「嬉しそうにしているのもいいが、まず家に帰ってからな」


サイレンが段々大きく聞こえて来ていた。


      ◯


なのはと燐夜は並んで歩いている。
歩いているうちになのはの家が見えてくる。


「じゃあ、俺はここで」
「ちょ、ちょっと……」


なのはの言葉は続くことがなかった。
家から恭也が出てきたからだ。
なのはは恭也の顔を見ると表情を硬くし、燐夜がいる方を見るが。
そこには風が吹いているだけで誰もいなかった。


「こんな時間まで何やってたんだ」
「燐夜君がいたんだけど……」
「いや、もともといなかったぞ」


玄関先で恭也に怒られていると、後ろからまた誰かが来た。
父親である高町士郎だった。


「恭也。ちょっと向こうに行っててくれないか」
「……分かった」


士郎が恭也に席を外す様に言った。
そして、恭也の背中が無くなってから、士郎は話を切り出した。


「さっきそこで燐夜君にあったんだが……まだあの二人のことを避けてるみたいだな」
「……うん」
「早く仲良くなれるといいな」
「……うん」
「さあ、家に入ろう」


元気がすっかりなくなったなのはを家に入れ、士郎は家に入る前に後ろを振り向いた。
そこには誰もいるはずがないのだが、誰かいるような感じがしたのだ。
だが、それは気のせいだったようですぐに入っていった。


すぐになのはが戻ってきて、忘れていたフェレットの紹介をするべく家の中に入れる。
先ほど士郎が感じた気配はこのフェレットだったのだろう――――





 
 

 
後書き
ようやく更新っ!! 
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