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遊戯王GX-音速の機械戦士-

作者:蓮夜
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―ジェネックス―

 セブンスターズ関連の事件以降はずいぶんご無沙汰となっていたと思いながら、保健室のドアから新品のオベリスク・ブルーの制服を着て授業がある教室へと歩こうとする。
俺の使い慣れていたオベリスク・ブルーの制服は、光の結社の皆様方が念入りに漂白してくださったためにもう使えず、クロノス教諭に頼み込んで新しく制服を支給してもらっていた。

「遊矢様!」

「……様は止めろ」

 いつぞやの学園祭の時のように保健室のドアの前で待っていてくれて、ドアが開いた瞬間にぴょこぴょこと小動物を思わせる動きのレイに対し、久々にいつものやりとりが出来たことが嬉しい。

 俺が修学旅行で斎王に敗れた後に光の結社に洗脳されてしまい、レイや剣山、三沢と戦ったことや、バーチャル空間での斎王美寿知の兄である斎王琢磨のことについての話など、重要そうな話やどうしても思いだせない光の結社時の事の顛末は三沢から聞いたが……あまり、聞いていて気分の良くない話である。

 兄の斎王琢磨は元は心優しい占い師であったが、占いの客から一枚のカードを受け取ってしまってからは態度が豹変し、あのような性格になってしまったのだという。
だが元々の心優しい性格が邪魔して度を超した非道な事は出来ないらしく、元々の斎王琢磨が抵抗している間に、美寿知は兄を救える可能性のあるデュエリストを捜しており、そのお眼鏡にかなったのがデュエルした四人だったという話だ。

 あの後も美寿知はあのバーチャル空間へと残り続けており、斎王琢磨から身を隠している……ああ、デュエル・アカデミアに入学して以来、どうにもこういうオカルトに接する機会があるのは何故だろうと考えてみるが、俺に答えが解る筈もなかった。

 俺が光の結社になった後にも、万丈目がホワイト寮を正式な寮として認めてもらおうと、刺客を送り込んでオシリス・レッド寮を潰そうとしたり、剣山が斎王に『ストレングスの象徴』としてデュエルを申し込んだりと様々な出来事があったようだ……俺が『愚者』で剣山が『力』なのがやや納得いかないが。

「……様! 遊矢様聞いてる?」

「……あ、悪い。聞いてなかった」

 考え事に没頭してしまってレイの会話を聞き逃してしまったようで、目の前のレイは怒っていることが分かりやすく頬を膨らませていた。
よく見てみれば、もう目の前にデュエル・アカデミアの通い慣れた教室があった。

「わざわざありがとう、レイ」

「これぐらい当然だよ! 何ていったって」

 これ以降のレイの言葉はなんとなく予想出来たことなので、そのまま会話を打ち切って教室に入り、久々に座ることとなる自分の席へと腰を下ろすと、もうすでに隣の席で三沢が座っていた。

「……色々すまなかった。ありがとう」

「なに、気にするな」

 これだけの会話で、昨日までの光の結社の件についての話は終了したようだった。
……たとえ俺が覚えていなくとも、恨み言でも言われることは覚悟していたのだが、三沢からはこれ以降何の追及も無いことにまた感謝する。

 チャイムと共に授業の開始時間となり、教室のドアが開いて授業の担当の樺山先生が入ってくる……かと思ったが、教室に入って来たのはクロノス教諭にナポレオン教頭、そして世界を旅して回っている筈の鮫島校長だった。
クロノス教諭は校長代理からただの教諭に階級を落とされ、ナポレオン教頭は勝手にオシリス・レッド寮を廃止する計画などをたてていたので、双方とも鮫島校長の帰還に分かりやすくげんなりしていた。

「鮫島校長……帰ってきてたのか」

「ああ、なんでも生徒にお土産があるらしいが」

 横にいる三沢の話を聞くに、どうやら鮫島校長が帰還したとのニュースは今日の朝にはアカデミアに伝わっていたらしいが、その時俺は保健室にいたし生来の噂話に興味がない性格が災いして聞いていなかったようだ。

「私がいない間、知らない制服の者が増えたようだが……まあそれはいいでしょう」

 基本的にデュエル以外のことは放任主義である鮫島校長に、この光の結社騒動の解決を期待していた訳ではないが、鮫島校長は世界を旅してきても相変わらずのようだった。

「私が世界を旅してきて君たちに持ってきたお土産は、これになります」

 そう言いながら鮫島校長が胸ポケットから出したのは……銀色に輝き『GX』と彫られた小さなメダル。
その量産品のような輝きに、まさか宝石であるとは思わないが、あのメダルが一体何なのかと生徒たちがざわめき始める。

「これは『Generation neXt』を表す文字。それはすなわち次世代を意味する。諸君らはその次世代を担う若者たちです。そんな君たちの力が更なる輝きを放つように、私は一つの提案を各地で行ってきました」

 俺たちのざわめきには直接答えず、鮫島校長の演説会は続いていく。
自分たちが更なる輝きを放つように……というが、それとその銀色のメダルが何の関係があるのだろうか。

「このメダルを賭け、世界中の若きデュエリストたちがしのぎを削る。次世代を担う諸君らが切磋琢磨する環境を作り出してはどうだろうか、と。各国、各地で多くの人間が賛同してくれました。その中には既にプロとして活躍しているデュエリストも多くいます」

 続く鮫島校長の言葉に、俺や三沢を含む察しのよい者や勘の鋭い者はなんとなく鮫島校長の言わんとしていることを悟り、更に生徒たちのざわめきが多くなっていく。

「プロ・アマの括りに意味はない。ただ次世代を担う若者の中で、その最強を決める世界大会を行う。――すなわち、世界大会“ジェネックス”の開催を、ここに宣言する!」

 そんな狡い生徒たちの予想を遥かに超えていた世界大会《ジェネックス》。
その開催が、ただいま鮫島校長の手で宣言された。


 ジェネックスの開催地はこのデュエル・アカデミアであり、大会中は授業やテストは全て延期するという、思いきった鮫島校長らしい判断の大会だ。

 流石に、義務教育であるデュエル・アカデミア中等部はそういう訳にはいかないようだが、希望者は短縮授業による救済策と共に参加出来るそうだ……無論、レイは参加するらしい。

 最後まで残った優勝者には鮫島校長曰わく豪華商品があるそうだが、俺には……というか生徒たちにとって、そんな不明瞭な結果よりかは、確定的であるプロデュエリストとデュエル出来るという方が重要なことであった。

 まあしかし、流石に一日目ではプロデュエリストも学園には来ておらず、見知った学園の生徒たちとのデュエルとなっていた。

 そんな俺の初戦の相手は、元オベリスク・ブルーの学友であったが現在は光の結社となっている、元々は万丈目の仲間の一人であった取巻太陽。
今まで光の結社に洗脳されていた八つ当たりも含め、初戦は光の結社の構成員と決めていたのだ。

『デュエル!』

遊矢LP4000
取巻LP4000

「楽しんで勝たせてもらうぜ! 俺の先攻、ドロー!」

 光の結社に入っていた時のことは余り覚えていないので、変な感じではあるのだが……いつも通り初期手札に並べられた《機械戦士》を見ると、なんだか妙に懐かしい感覚が俺を支配した。
その感覚をあえて否定せずに、「また改めて頼む」と小声で言った後、デュエルディスクにモンスターをセットした。

「俺は《マックス・ウォリアー》を召喚!」

マックス・ウォリアー
ATK1800
DEF800

 防御の《ガントレット・ウォリアー》と並んで俺が初手に出す機会が多い、《機械戦士》たちのアタッカーである三つ叉の機械戦士、マックス・ウォリアーが登場して槍を振りかざす。

「カードを一枚伏せ、ターンエンド」

「俺のターン! ドロー!」

 取巻とは同学年で同じ寮ということもあり、幾度となくとは言わないがそれなりにデュエルしているし、月一テストなどの大舞台でデュエルしたこともあるために、どんなデッキかは大体解っているつもりだ。
光の結社に入った影響で俺のようにデッキが変わっていなければの話だが。

「俺は《ゴブリンエリート部隊》を召喚!」

ゴブリンエリート部隊
ATK2200
DEF1500

 キチンとゴブリンなりに整列した部隊の登場に、取巻の今のデッキは俺の知っている元々のデッキと大きく変わっていない【最終突撃命令】だと予想しておく。

「バトル! ゴブリンエリート部隊でマックス・ウォリアーに攻撃!」

「リバースカード《くず鉄のかかし》を発動し、バトルを無効にする!」

 マックス・ウォリアーを守るように飛びだした、くず鉄で作られたかかしにゴブリンエリート部隊は総攻撃し、疲れたのかそのまま帰っていって守備の態勢をとり、攻撃を防いだくず鉄のかかしはそのままセットされる。

「くっ……カードを二枚伏せてターンエンド!」

「俺のターン、ドロー!」

 恐らく取巻が伏せたカードのどちらかは、彼のデッキのキーカードである《最終突撃命令》。
このままマックス・ウォリアーで攻撃しては、マックス・ウォリアーの効果のおかげで一方的に破壊はされないものの、それでも同じ攻撃力のためお互いに破壊されてしまう。

「俺は《ニトロ・シンクロン》を召喚!」

ニトロ・シンクロン
ATK300
DEF100

 そんな状況を打ち破るべく召喚されたチューナーモンスター、ニトロ・シンクロン。
その頭についているメーターが急激に動き始め、遂には振り切れてしまうほどの速度となっていく。

「集いし拳が、道を阻む壁を打ち破る! 光指す道となれ! シンクロ召喚! 現れろ、《マイティ・ウォリアー》!」

マイティ・ウォリアー
ATK2200
DEF2000

 巨大な腕を持った腕自慢の機械戦士が、その腕で大地を砕きながら現れる。
このままでは攻撃力が《ゴブリンエリート部隊》と変わらず同じではあるが、《機械戦士》は元々【装備ビート】寄りのデッキ。
シンクロ召喚の投入によりその絶対数は減ったが、それでもまだこの手札の中に存在する。

「俺は《ファイティング・スピリッツ》をマイティ・ウォリアーに装備し、攻撃力が300ポイントアップする!」

 相手のフィールドのモンスターの数だけ攻撃力をアップさせる闘争心がマイティ・ウォリアーに装備され、ゴブリンエリート部隊の攻撃力を超える。

「バトル! マイティ・ウォリアーでゴブリンエリート部隊に攻撃! マイティ・ナックル!」

 攻撃表示のゴブリンエリート部隊に、マイティ・ウォリアーはその軽快なフットワークで接近し、それぞれにラッシュを叩き込んで空中に弾き飛ばした後、取巻に向かって腕を突き出した。

取巻LP4000→3700

「マイティ・ウォリアーが相手モンスターを戦闘破壊した時、そのモンスターの攻撃力の半分のダメージを与える! ロケット・ナックル!」

 突き出されたマイティ・ウォリアーの腕がそのまま飛んでいき、取巻にぶつかってダメージを与えた後にマイティ・ウォリアーの手に返ってくる。

取巻LP3700→2600

「このままターンエンド」

「俺のターン! ドロー!」

 いわゆるロケットパンチでダメージを与えられた取巻だったが、俺のマイティ・ウォリアーに怯まず新たなモンスターを召喚した。

「俺は《ライトロード・マジシャン ライラ》を召喚!」

ライトロード・マジシャン ライラ
ATK1700
DEF300

 三沢が新たに《妖怪》デッキに投入したらしいカテゴリー、《ライトロード》の女魔術師を取巻した。
確か《ライトロード》は、その効果により高速で墓地肥やしが出来るデッキだったと思うが、取巻のデッキに投入するようなカテゴリーであろうか……?

「俺はライトロード・マジシャン ライラの効果を発動! このカードを守備表示にすることで、相手の魔法・罠カードを破壊する! 俺はセットされている《くず鉄のかかし》を破壊するぜ!」

 ライトロード・マジシャン ライラが放った光弾に、セットされていた《くず鉄のかかし》が破壊されてしまい、取巻がどうしてあのモンスターを投入したかを悟った。

「リバースカード、《最終突撃命令》を発動! 守備表示のライラを攻撃表示にし、もう一度効果を使用するぜ! 《ファイティング・スピリッツ》を破壊だ!」

 リバースカードは読み通り《最終突撃命令》であったが、《ライトロード・マジシャン ライラ》とのお手軽に禁止カード《ハーピィの羽箒》級の効果のコンボを喰らったため、手放しに喜べる状況ではなくなった。

 更に言うと、《マイティ・ウォリアー》を前にして取巻がライトロード・マジシャン ライラを放置するわけがなく、もう一枚のリバースカードで守る気か、それとも――

「俺は《二重召喚》を発動し、ライラをリリースして《偉大魔獣 ガーゼット》をアドバンス召喚!」

偉大魔獣 ガーゼット
ATK?
DEF0

 ――手札に《マイティ・ウォリアー》を倒す術があるか、だ。

「《偉大魔獣 ガーゼット》の効果により、こいつの攻撃力はリリースしたライラの倍になる!」

 よって攻撃力は3400となり、ただでさえ低めの《マイティ・ウォリアー》の攻撃力を大幅に超える。

「バトルだ! 偉大魔獣 ガーゼットでマイティ・ウォリアーに攻撃!」

「くっ……!」

遊矢LP4000→2800

 《ライトロード・マジシャン ライラ》と《最終突撃命令》のコンボによって、《くず鉄のかかし》と《ファイティング・スピリッツ》という二段重ねの防御が破壊されてしまっているため、どうにもならずマイティ・ウォリアーは破壊された。

「ターンエンドだ!」

「俺のターン、ドロー!」

 流石デュエル・アカデミア中等部からいることは伊達ではないが、やられっぱなしでいるわけにはいかないのだ、手札から新たなシンクロ召喚の為に必要なチューナーを手札からデュエルディスクに置いた。

「俺のフィールドにモンスターがいないため、《アンノウン・シンクロン》を特殊召喚!」

アンノウン・シンクロン
ATK0
DEF0

 相手モンスターがいて俺のフィールドにモンスターがいない時、デュエル中に一度だけという制約はあるものの特殊召喚出来る黒い円盤のようなチューナーを特殊召喚し、更に新たなモンスターを召喚する。

「俺は《チューニング・サポーター》を召喚し、《機械複製術》を発動して更に二体特殊召喚する! 増殖せよ、チューニング・サポーター!」

チューニング・サポーター
ATK100
DEF300

 《機械複製術》によって三体展開される、中華鍋を被ったような姿の機械戦士の強化パーツのような存在の機械族を、アンノウン・シンクロンが光の球となって周囲を回る。

「《チューニング・サポーター》三体を自身の効果によってレベル2に変更し、レベル1の《アンノウン・シンクロン》とチューニング!」

 シンクロ召喚をするにはありがたい、まさにチューニング・サポーターと言える効果によって、俺の第二のラッキーカードを出す準備が整った。

「集いし願いが新たに輝く星となる。光さす道となれ!シンクロ召喚! 現れろ、《パワーツール・ドラゴン》!」

パワーツール・ドラゴン
ATK2300
DEF2500

 ラッキーカードである黄色い機械竜こと、パワーツール・ドラゴンがフィールドに降り立ち、その頼れる効果の前にシンクロ素材とした《チューニング・サポーター》三体の効果が発動する。

「《チューニング・サポーター》がシンクロ素材となった時、一枚ドローすることが出来る。よって三枚ドロー! 更に《パワーツール・ドラゴン》の効果発動! 俺が選ぶのは《団結の力》・《魔導師の力》・《デーモンの斧》。パワー・サーチ!」

「……右だ!」

 デッキから装備魔法カードを三枚選んで裏側で相手に見せ、相手が選んだカードを自身の手札に加えることが出来る。
不確定ながらも、装備魔法カードをノーコストで手札に加えることが出来る数少ない効果だ。

 取巻に選んでもらった装備魔法と、元々手札にあった《偉大魔獣 ガーゼット》を倒すことの出来る手段を遠慮なく《パワーツール・ドラゴン》へと装備する。

「パワーツール・ドラゴンに、《団結の力》と《ダブルツールD&C》を装備する!」

 パワーツール・ドラゴンの両手にドリルとカッター、更に団結の力までもが装備されることで、単純な攻撃力でも偉大魔獣 ガーゼットを上回る。

「バトル! パワーツール・ドラゴンで偉大魔獣 ガーゼットに攻撃! クラフティ・ブレイク! 更に、ダブルツールD&Cの効果発動! このカードを装備したモンスターが攻撃した時、相手モンスターの効果を無効にする!」

「なにっ!?」

 確かに偉大魔獣 ガーゼットはお手軽に高打点を叩きだすことが出来る良いカードでるが、あくまで効果によってその攻撃力を維持している以上弱点は多く、《収縮》や《禁じられた聖杯》なのが良い例だ。
そして、その天敵と行き合ってしまった偉大魔獣 ガーゼットの胸にドリルが突き刺さった……が、そのまま起きた衝撃が取巻に届くことはなかった。

「《ガード・ブロック》を発動した! 戦闘ダメージを0にしてカードを一枚ドロー!」

 パワーツール・ドラゴンの攻撃は残念ながら防がれてしまったが、《偉大魔獣 ガーゼット》を倒せただけでも良しとしよう。

「俺はターンエンド」

「俺のターン! ドロー! ……《マジック・プランター》を発動し、《最終突撃命令》を墓地に送って二枚ドロー!」

 取巻は自分のデッキのキーカードである《最終突撃命令》を捨てることを少しためらったようだったが、この状況で《最終突撃命令》がどうなるわけでもなし、結局は《マジック・プランター》によって二枚ドローに変換した。

「そして《手札抹殺》を発動! お互いに手札を全て捨ててその枚数だけドローする!」

 取巻の手札は四枚だった為に、俺が良く使う《手札断殺》の上位種であるカードにより四枚の手札交換を果たし、良いカードを引いたようで嬉々として手札のカードを使用した。

「まずは《大嵐》! お前の忌々しい装備魔法カードを破壊する!」

 取巻のカードから放たれた強烈な旋風により、パワーツール・ドラゴンに装備されていた《ダブルツールD&C》と《団結の力》が破壊されてしまい、パワーツール・ドラゴンは文字通りステータスの低い丸裸の状態となってしまう。

「更に《死者蘇生》を発動し、蘇れ《ポセイドン・オオカブト》!」

ポセイドン・オオカブト
ATK2500
DEF2300

 《手札抹殺》によって墓地に送っていたのだろう最上級モンスターを、万能蘇生カードによって特殊召喚するという昔ながらのお手軽強力コンボを見せてくる取巻だが、厄介なのは特殊召喚された《ポセイドン・オオカブト》だった。

「コレでトドメだ! 《ハーフ・シャット》発動!」

 予想はしていたが、来て欲しくなかったカード名を告げられてしまう。

 《ハーフ・シャット》は、偶然にも先程例に挙げた《収縮》と同じように、一ターン限り対象に取ったモンスターの攻撃力を半分にし、戦闘破壊耐性を与える効果を持ったカード。
そのまま使用してはただの《収縮》の下位互換だが、取巻のフィールドにいる《ポセイドン・オオカブト》のようなモンスターが存在するとなれば話は違う。

「もちろん《ハーフ・シャット》の対象は《パワーツール・ドラゴン》! そして、ポセイドン・オオカブトは相手の攻撃表示モンスターに三回まで攻撃することが出来るのだ!」

 相手モンスターが戦闘破壊耐性を持っているときに限り、相手をサンドバックにすることが出来る《ポセイドン・オオカブト》。
その効果と《ハーフ・シャット》の効果は相性抜群であることは否定出来ない。

「《大嵐》を使ったから伏せカードも怖くない! バト……え!?」

 だが、取巻がポセイドン・オオカブトに攻撃を命じるその前に、そのポセイドン・オオカブトのことを羽衣も着た少女が包んでいた。

 俺の第一のラッキーカード、《エフェクト・ヴェーラー》だ。

「《エフェクト・ヴェーラー》を手札から捨てることで、このターンに限りポセイドン・オオカブトの効果を無効にする!」

 エフェクト・ヴェーラーは効果をその羽衣で吸い取った後に消えていき、ポセイドン・オオカブトは持ち味の三連続攻撃を使えなくなってただの攻撃力2500のバニラとなる。

「チィ……バトルだ! ポセイドン・オオカブトでパワーツール・ドラゴンに攻撃! トライデント・スパイラル!」

「このくらいは必要経費だ……ってな」

遊矢LP2800→1350

 なんだかふと思いついてこの状況にもマッチしていたため言ってみたが、思いのほか元ネタの三沢ほど上手くいかなかったので、これからは馴れない人の真似は止めようと思う。

「……カードを一枚伏せ、ターンエンド」

「俺のターン、ドロー!」

 《ハーフ・シャット》の効果は一ターン限りということで、戦闘破壊耐性は失うが攻撃力は元の数値に戻ったものの、《大嵐》で装備魔法カードを全て破壊されてしまった影響でポセイドン・オオカブトへと攻撃力は届かない。

「パワーツール・ドラゴンの効果発動! 俺が選ぶのは《魔導師の力》・《デーモンの斧》・《魔界の足枷》、パワー・サーチ!」

「……真ん中のカードだ!」

 ならばパワーツール・ドラゴンの攻撃力をポセイドン・オオカブトの攻撃力より上にするまで、と思い発動したパワーツール・ドラゴンの効果は、皮肉にもパワーツール・ドラゴンの攻撃力を上げない装備魔法カードを引き寄せた。

「俺は《魔界の足枷》をポセイドン・オオカブトに装備する!」

 ポセイドン・オオカブトの足の部分に悪魔の顔が描かれた足枷がつき、この足枷に捕らわれた者は攻撃力・守備力は100になり攻撃宣言が行えなくなってしまうという、まさに《魔界の足枷》。

「更に《セカンド・ブースター》を召喚! リリースすることで、パワーツール・ドラゴンの攻撃力を1500ポイントアップさせる!」

セカンド・ブースター
ATK1500
DEF800

 装備魔法カードの代わりとは言っては何だが、パワーツール・ドラゴンの背中には巨大なブースターが付き、速度をアップさせる。

「バトル! パワーツール・ドラゴンでポセイドン・オオカブトに攻撃! ブースト・クラフティ・ブレイク!」

「まだだ! 速攻魔法《サイクロン》を発動し、《魔界の足枷》を破壊する!」

 《大嵐》よりかは小規模の嵐が魔界の足枷からポセイドン・オオカブトを解き放ったが、セカンド・ブースターで攻撃力が上がったパワーツール・ドラゴンには太刀打ち出来ることはなく、そのままパワーツール・ドラゴンに破壊された。

「ぐあっ……!」

取巻LP2600→300

 これで取巻の手札もフィールドも0になり、ライブポイントも300だけという数値。
もう勝ちだと判断しても良いような状況だが、取巻とて中等部から鍛えられてオベリスク・ブルーへと配属されている者であり、万丈目と同じようにまごうことなきエリートなのだ。

「カードを一枚伏せ、ターンエンド」

「俺のターン……ドロー!」

 気合いを込めてカードを引いた取巻が、引いたカードをそのままデュエルディスクにセットし、このギリギリの状況から取巻が引き寄せた彼の切り札がその全貌を見せた。

「墓地の機械族《可変機銃 ガンナードラゴン》と獣戦士族の《不屈闘士 レイレイ》を除外し、《獣神機王 バルバロスUr》を特殊召喚だ!」

獣神機王 バルバロスUr
ATK3800
DEF1200

 機械と獣戦士が合体した、デュエルモンスターズにおいて神に最も近いモンスターである従属神の名に相応しいステータスを持って召喚される。
もう一年前になるデュエルする機械、SULとデュエルした際にも現れたことがあったが、その時は《くず鉄のかかし》で防いで永続魔法《ドミノ》で突破したものだ。

「バトル! 獣神機王 バルバロスUrでパワーツール・ドラゴンを攻撃! 閃光烈破弾!」

 バルバロスUrのその緩い召喚条件の代償であるデメリット効果によって、俺へとダメージは通らないが、先のターンで自身に装備しても意味がない《魔界の足枷》をサーチした為、装備魔法カードを身代わりにすることが出来なかったパワーツール・ドラゴンは破壊されてしまった。

「どうだ! これで俺はターンエンド!」

「俺のターン、ドロー!」

 バルバロスUrは戦闘ダメージを与えられないとはいえ、取巻がそれを解っていないわけが無いのだから《禁じられた聖杯》や《愚鈍の斧》はもちろんデッキに投入していることだろう。

「俺は《貪欲な壷》を発動し、墓地からデッキに五枚戻して二枚ドロー!」

 ならば今度は俺が、俺の仲間で取巻の切り札を打ち破る番だ……!

「俺は《スピード・ウォリアー》を召喚!」

『トアアアアアッ!』

スピード・ウォリアー
ATK900
DEF400

 いつも通りの力強い雄叫びと共に、臆せずに獣神機王 バルバロスUrの前に我がマイフェイバリットカードは立ちはだかった。

「《魔界の足枷》も使っちまったんだから、もうスピード・ウォリアーじゃバルバロスUrは倒せないぜ!」

「悪いが、俺のスピード・ウォリアーはどんなモンスターだろうが打ち破る! バトルフェイズ、スピード・ウォリアーの効果を発動し、スピード・ウォリアーの攻撃力は倍になる!」

 攻撃力は倍になるとは言うものの、元々の攻撃力を参照するために、攻撃力は僅か1800止まりなので獣神機王 バルバロスUrにはとてもではないが適う相手ではない。

「リバースカード《モンスター・バトン》を発動! 手札の効果モンスターを墓地に送ることで、フィールドのモンスターはその効果を発動することが出来る! 俺が墓地に送る効果モンスターは、《スピード・ウォリアー》!」

 永続罠《モンスター・バトン》から現れた第二のスピード・ウォリアーが、先んじて獣神機王 バルバロスUrに向かって走っているスピード・ウォリアーにバトンを渡して消えていき、スピード・ウォリアーの攻撃力は更に倍、3600となる。

「……だが! 獣神機王 バルバロスUrには攻撃力が足りないぜ!」

「解ってるさ。《モンスター・バトン》の第二の効果! 一回目の効果で墓地に送ったモンスターと同じレベルのモンスターを墓地に送ることで、もう一度効果を使用することが出来る! 俺はもう一枚、レベル2の《スピード・ウォリアー》を墓地に送る!」

 第三のスピード・ウォリアーもバトンを託して消えていき、最後に残ったスピード・ウォリアーが獣神機王 バルバロスUrの前に着いた頃には、元々の攻撃力を何度も倍にしていったスピード・ウォリアーの攻撃力は7200……獣神機王 バルバロスUrとは比べものにならない攻撃力となっていた。

「バトル! スピード・ウォリアーで、獣神機王 バルバロスUrに攻撃! ソニック・エッジ!」

「なっ……うわああああっ!」

取巻LP300→0

 もはや獣神機王 バルバロスUrと言えども敵ではない、そんな攻撃力となった頼れるマイフェイバリットカードの攻撃により、取巻のライフポイントは0となった……少々、オーバーキルが過ぎた気もするが。

「取巻、楽しいデュエルだったぜ」

「くそっ! 初日で敗退かよ……」

 三沢みたくなにやら小難しい計算式を頭に叩き込んだ訳ではない為に取巻を光の結社から救うことは適わないが、大多数の構成員は俺や明日香のように人格まで洗脳されていることは無いので、悪いが救う方法が確立するまで待ってくれ。

 分かりやすく悔しがっている取巻からジェネックスのメダルを貰い、デュエルディスクに組み込まれている【機械戦士】デッキを見つめた。

 精霊だとかそういうことは全く関係なく、共に戦う仲間として、これからも一緒にデュエルしていくことを誓って。
 
 

 
後書き
ジェネックス、開始! ……まあ、肝心の初戦は「デュエルが無いと寂しいから入れた」レベルのデュエルになってしまいましたが……

それよりは、なんだかえらく普通に遊矢が復活しましたが、光の結社時のことを覚えていないし、その時の様子は又聞きなので、仕方ないということでここは一つ。

そろそろ二期も終盤ですね、感想・アドバイス待ってます! 
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