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リリカルなのは~優しき狂王~

作者:レスト
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外伝その三~海鳴市・後編~

 
前書き
文章に説得力を持たせるのは難しいな~、と思う今日この頃(^^;)
ここまで長くする気はなかったんですがね(-.-;)
では後編どうぞ
 

 


高町家・道場


 日が落ち、いつもより明るい月の光で照らされた道場内には4人の人影があった。
 その内の2人は手に木刀を持ち対峙している。そして残りの2人は対峙する2人を伺うように道場の端の方で立っていた。
 対峙する1人はそれぞれ普通の物よりも短めの木刀を両手に1本ずつ持ち、もう1人は普通の木刀を1本構えて持っていた。
 道場内は静かで誰も音を立てようとはしていない。だがその静粛は一瞬で破られる。対峙していた2人がほぼ同時に踏み込み斬撃を繰り出す。正確には斬撃ではなく打撃なのだが、そう錯覚するほど2人の繰り出した攻撃は鋭かった。
 2本の木刀を持つ方は片方で防御を片方で攻撃を行い安定した攻め方をする。
対して、1本の木刀を持つ方は器用に木刀を操り、流れるような動作で攻防一体の動きをしていた。
 何合か打ち合い一旦距離を取る2人。その内の1人、美由紀は対戦者であるライに言葉をかける。

美由紀「すごいね、ライ君。全然攻めれないや。」

 言葉とは裏腹に彼女の表情には喜悦が張り付いていた。ライはその表情に見覚えがある。それは強者と戦える戦士としての喜びの表情であった。

士郎「ふむ、まだ小手調べだがライ君はなかなかの腕だな。」

シグナム「……」

観戦していた2人、士郎とシグナムは端の方でそんなその攻防を見ていた。士郎はライの動きに感心していた。そしてライが褒められたことが嬉しいのか、何故かシグナムは誇らしげな笑顔を浮かべていた。

美由紀「じゃあ、本気で行くよ!」

 仕切り直しが終わり、再び美由紀がライに向かって踏み込んでいく。ライは美由紀の一撃を受け流し一撃を入れるために構える。そして予測通りの軌道を描く攻撃を美由紀が繰り出したのを見て、ライはその一撃を受け流そうとする。だがその瞬間、ほんの一瞬ではあるが美由紀の表情が笑みを浮かべたのをライは見た。

ライ「ッ!」

 放たれた一撃を受け止めた瞬間、木刀を通じて両手の芯に衝撃が走った。その為、繰り出そうと思っていた攻撃をできずにライは一歩後退する。
そこに追撃してきた美由紀の一撃を再び受けるが先ほどと同じで手に衝撃が走る。

ライ「チィッ!」

 受け止めることが悪手と悟ったライはすぐに攻撃を避け始める。
 いきなりライの動き方が変わったため、美由紀は一旦距離をとった。しかしそこに焦った表情はなくどこか自分の有利を確信している表情であった。

シグナム「彼女も相変わらず見事ですね。」

士郎「恭弥がいなくなってからも、一応は修行を続けていたからね。」

 外野が何か話していたがライには今その言葉を聞いているような余裕はなかった。

ライ(さっきのは寸勁?いや、浸透勁か。だがそれにしても洗練されすぎている。打撃を受け流せても衝撃を散らすことはこの腕では無理か。)

 今現在、ライの腕はまだしびれていて万全に動かすことは出来ないでいた。

ライ(接近戦は危険。回避はできるが彼女は基礎もできているから時間稼ぎにしかならない。取れる方法は彼女を瞬時に無力化すること、か。)

 自分の中で即座に答えを出したライは一旦、目を閉じ深呼吸する。そして再び目を開いた時にはライの纏う空気が変化した。

士郎「!」

シグナム「これは……」

 先ほどとは雰囲気が変わったライに驚く2人。しかしそれはライの気配がごく自然になったからだ。

ライ「歩法の一『花瓣』」

 ライは短く呟くと、早くもなく、遅くもなく、ただ普通にゆったりと美由紀に近づいていく。

美由紀「……ハッ!」

 最初はライの意図が読めずに渋い表情をする美由紀であったが、すぐに表情を引き締め一撃を放つ。

ライ「………」

その一撃が放たれてからライは動く。それはそれまでと同じくただゆったりとした動作。客観的に見てもそれは美由紀の方が早いと断言できるものである。
しかしライは美由紀の一撃を余裕を持って躱した。

美由紀「え?……クッ!」

 躱されたことに一瞬驚くがすぐに次の一撃を放つ。その一撃は先ほどよりも早い一撃。再びライは攻撃が放たれた後に動き出すが、それも余裕を持って躱す。
 美由紀は一旦不利と考えたのか自ら後退する。

ライ「奥の歩法『花王』」

 美由紀が距離を開けた瞬間ライが呟く。それを聞いた数秒後、美由紀は浮遊感を味わった後、道場の天井を見ていた。



 今の試合を観戦していた士郎とシグナムの2人は信じられないものを見たと言う表情をしていた。

シグナム「高町殿、………今のランペルージの動きを認識できましたか?」

士郎「……いや………もう“覚えて”いない。」

シグナム「……」

 それきりお互いは無言。その2人の視線はライを捉えていた。
 ライは仰向けになっている美由紀を立たせて試合後の一礼をする。それが終わると士郎が2人に声をかける。

士郎「2人共、お疲れ様。いい試合だったよ。」

ライ「ありがとうございます。」

 一礼してくるライからは、先ほどの雰囲気は綺麗さっぱりなくなっていた。

美由紀「ライ君、強いね!最後の方のあれってなんだったの?」

 少し興奮気味にそう言ってくる美由紀に苦笑しながらライは答える。

ライ「昔、僕に剣術を教えてくれた人がいてその人から教わった歩法です。」

美由紀「へぇ~、対峙してた時はよくわからなかったけど、どういう歩法なの?」

士郎「美由紀。他の流派の教えをそんなに気軽に聞くんじゃない。」

美由紀「はぁ~い。」

 少し不満げな表情をしながらもそう答えた彼女は「お風呂に入る」と言ってその後すぐに道場から出て行った。

士郎「………ライ君。」

美由紀の気配が遠のき、道場にライと士郎とシグナムしかいなくなってから士郎は口を開いた。

士郎「君は何者だい?」

ライ「……ただの人ですよ。この世界では。」

 ハッキリと士郎の目を見ながらそう答えるライの瞳に揺らぎはなかった。シグナムもそれに気付き何も言おうとはしなかった。

士郎「そうか。………お風呂が空いたら呼ぶよ。それまでは好きにしていていいよ。」

ライ「はい。」

 短い遣り取りを終え、士郎とシグナムも道場から出て行く。ひとり残されたライはポツリと呟く。

ライ「………今はそう思っていたい………そう願いたい……」

 その呟きは夜に闇に溶けるように消えていった。



士郎は家のリビングの椅子に座りライのことを考えていた。
 思い出されるのは美由紀が御神流の技『徹』を使ったあとに見せた2つの歩法。初めに見せた『花瓣』は純粋に驚いた。流れる水や舞い散る花びらのように掴みどころのない緩やかな動き。自然体でいて隙のないその動きは武術をしているものにとっては眼福と言って良いものであった。
 二つ目の歩法の『花王』は見ていて悲しくなった。自然に動くという意味では『花瓣』と変わりないが、その動きは人間が動く際に見せる際の不自然さを全て失くし、さらに自分を偽るように気配を消すことで自らの動きを認識させないというものであった。それを使えば自らが近づいたことに違和感を覚えない、もしくは認識できないのだ。それはまるで――――――――――――

士郎「暗殺者」

 士郎は静かに呟く。
 ライが使う歩法は決してスポーツとしての武術のものではなかった。相手の命を効率良く奪うために研磨され続けた技術。士郎にはそう映った。
 そのことに気づいたとき、士郎はライの正体が気になったが、それ以上にその技術を見た目十代の若者が身につけなければならない状況にあったことが悲しかった。
 士郎はライと後でもう一度話すことを心に決めた。



シグナムは現在、お風呂に入り終わり着替えていた。
 しかし服を着替える動作をしていても頭に浮かぶのはライの先ほどの試合であった。ライが初めて見せた技術を思い出し少し興奮している。それを自覚しながらも自分のすぐ身近にあれほどの使い手がいるのかと思うと嬉しくなっていた。
 再びライと手合わせできることを考えながらシグナムは脱衣所から出て行った。



 ライは試合の後、軽くクールダウンしてから高町家に戻った。タイミングが良かったのか士郎にお風呂が空いていることを伝えられ、そのまま入浴していた。
 体を洗い、湯船に浸かる。お湯の温度が少し高かったがライにはそれが心地よかった。

ライ「………」

 しかしそれとは逆にライの表情は少し沈んでいた。
 先ほどの試合いでライはいつも通りに戦った。状況を理解し、把握し、判断する。そして自分の中の最適解を導き出しそれを決行する。どのように相手を正確に“無力化”するか。その結果を掴むために一切の情を廃する。
 それが求められる環境にいたライは自然とそうしてしまう。それが今のライには悲しく感じたのだ。

 先ほどの試合で勝つ必要があったのか?

 あの技を使う必要があったのか?

 そして疑われるような行動をとる必要があったのか?

 ライは先の試合で自分がいつものように戦えたことがいやだったのだ。平和なこの世界で自分が異物であることをより顕著に感じてしまったために。
 自分の考えがネガティブなことばかり考え始めたことを自覚したライは湯船のお湯を両手で掬い、顔に叩きつけるようにかけた。

ライ「………よし!」

 今の自分を肯定するようにそう言うライの表情は、先ほどよりも明るかった。だがやはりライの頭のどこかでは先ほどのことを気にしていた。



 シグナムは今現在、脱衣所に向かっていた。それはある忘れ物をしたからである。
 シグナムは風呂から出たあと、興奮を覚ますために高町家の庭に出ていた。そして涼んでいた途中で自分の髪が結ばれていないことに気づいた。

シグナム「………しまった…」

 彼女は着替えに集中していなかったために服を着たあとに髪を結ぶことを忘れていたのだ。いつも使っている髪結いの紐を脱衣所においたことを思い出した彼女はその紐を取りに行く。
 脱衣所に到着した彼女は迷わずその扉を開ける。そこには―――――

ライ「え?」

シグナム「は?」

着替え中のライの姿があった。幸いなのはライがズボンを履いていたことであろう。
 シグナムは風呂に入ったあと、ライとは入れ違いになるように庭に出ていたためにライが入浴していたのを知らなかった。そのためこのようなことが起きるのは当然なことであった。

シグナム「すまん!」

 一言そう言うとシグナムは即座に扉を閉めた。すぐに目を背けた彼女であったが、ライの上半身をしっかりと見ていた。
 それから数秒後、着替えを終えたライは扉を開けて脱衣所から出てきた。

ライ「シグナムさん、どうかしましたか?」

シグナム「いや、その、髪を結うのを忘れてな。紐も中にある。」

 シグナムはそう言って脱衣所の中を指差す。いつものように話すシグナムの頬は若干朱に染まっていたが、ライはそれに気づかずにその紐を取りシグナムに手渡す。

シグナム「すまんな。」

ライ「いえ、そんな…」

シグナム「それにさっきは申し訳ないことをした。」

ライ「え?ああ、さっきのは事故のようなものですから気にしないでください。逆の立場ならまずかったのかもしれませんが。」

シグナム「しかし……」

ライ「それに髪を下ろした貴方を見れたのも役得でした。」

 無邪気な笑顔でそう言ったライに、今度こそシグナムは顔を真っ赤にした。

シグナム「な!お前は何を―――」

 言葉を続けようとしたシグナムだが、それは念話によって中断された。

エリオ『シグナム副隊長、ロストロギアの反応があったそうです!これから合流するようにと連絡がありました!』

ライと美由紀の試合中にお風呂を済ませていたエリオからの報告。それを聞いたシグナムは一瞬でいつもの表情に戻り、返事を返す。

シグナム『分かった、すぐに行く。お前たちは先に現場に向かえ。こちらもすぐに行く。』

エリオ『分かりました。』

シグナム「そういう訳だ。ランペルージ、お前はここにいろ。」

ライ「………シグナムさん、そのロストロギアが現れた場所はどこですか?」

シグナム「レヴァンティンに既にデータがあると思うが……お前は参加できんぞ?」

ライ「百も承知です。」

 そう言ったライはその後、レヴァンティンにロストロギアの位置情報を教えてもらってから、あるメモを書く。それをシグナムに渡してからライはシグナムを見送った。



翌日


 結局、高町家に泊まったライはミッドチルダに帰るため転送ポートに訪れていた。

ライ「おはようございます。」

なのは「ライ君、おはよう。」

ライより先にそこにいた機動六課一同はライに挨拶をする。そのあとは昨夜のロストロギアの話になった。

ティアナ「それにしてもシグナム副隊長、昨日のあのメモはいったいどうしたんですか?」

シグナム「ああ、あれはライが書いたものだ。」

一同「「「「「え?」」」」」

 皆が驚いたのは昨晩シグナムがライから受け取ったメモのことである。あのメモに簡単な地図と文章が書かれていたのだ。
 レヴァンティンから聞いた位置はライが昼間散策していた場所だった。そして事前に対象が自立移動することを知っていた為、その助言として対象をどのように追い詰められるかをメモしたものをライは渡したのだ。
 さらに言えば『対象が分裂した場合』『対象がレーダーから隠れられる場合』『対象が何かに擬態できる場合』『対象がこちらの思考を読める場合』等など様々な状況を想定した策を簡単且つ簡潔に書かれていたのだ。
 そのメモが功を奏し、昨晩の捕物は簡単に終わらせることができたのだ。
 その話題で盛り上がっていた時、何台かの車がこちらに近づいてきていた。車が停まり中から出てきたのは高町家の3人とアリサやすずか、それとハラオウン家の人々だった。
 彼らはなのは達の見送りに来たのだ。各々別れを済ませているのをライは少し離れた位置で見ていた。そんなライに士郎は1人で近づいてきた。

士郎「ライ君、また会えるのを楽しみにしているよ。」

ライ「こちらこそ、楽しみにしていますよ。」

笑顔で士郎はそう言った後、少し真面目な表情だが優しい目をしながらライに言う。

士郎「君にどんな過去があろうと僕は君を信じているよ。」

ライ「!…………はい…」

 士郎からの言葉に一瞬驚いた表情をしたライ。だがすぐに笑顔に戻り返事をする。この時、ライはこの街にこれて良かったと初めて心の底からそう思えた。
 その後別れを済ませた一同は笑顔でミッドチルダに戻っていくのだった。




 
 

 
後書き
はい、グダグダです。
スイマセンしたm(_ _)m

次回からR2編に戻ります。

あと前回と前々回の予告編についてだれからもツッコミがないので「とっととこっちを完結させろや」か「スイマセン、魅力を感じません」とか言う人が多かったみたいなので、狂王の方に力を入れて頑張らせていただきます。
だけど言い訳させてください。誰でも迷走するときってないですか?


ご意見・ご感想をお待ちしております。
 
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