戦国異伝
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第百十九話 一枚岩その五
「わしとはな。ではじゃ」
「茶ですな」
「うむ、飲もうぞ」
元親は笑顔で茶を飲む、それは彼が親しみを覚えだしているものだった。飲んでいると心が落ち着くことも感じていた。
織田家の統治は順調だった、それは都においてもだ。
都の荒れ果てた町並みが奇麗になっていく、碁盤の目を思わせる町が復活しているだけではなかった。
都の者達はその町並みを見て言う。
「道が増えたのう」
「うむ、それで割りを細かくしてじゃな」
「家や店を増やしたか」
「そうしたのじゃな」
「よく考えておられるわ」
「全くじゃ」
こう感心して言うのだった。
「これが信長様のお考えか」
「人が増えれば道を増やせばよい」
「そういうことじゃな」
「つまりはそうじゃな」
信長の考えもわかったのだった。そして。
これまで町に多くいた僧兵達もいなくなった、それは何故かというと。
「寺も検地で土地を奪われておるしな」
「その代わり檀家の布施で生きておるわ」
「もう僧兵は置かずともよい」
「置かせぬか」
その僧兵達は普通の僧になっていっている。
「あの荒くれ者達も減った」
「延暦寺は相変わらずじゃがな」
「その延暦寺も大人しくなったわ」
信長の勢力を気にしてである。
「都も穏やかになったのう」
「荒れていたのがもう昔のことじゃ」
「うむ、奇麗な町になっていっておるし」
「昔以上に栄えるぞ」
彼等は都がそうなってきていることも信長のお陰だと思っていた、彼等は都の主は信長だと思っていた。
だが実際はどうかというと。
ある者がここでこう周りに言ったのである。
「それで公方様じゃが」
「ああ、義昭様か」
「あの方じゃな」
「あの方は今どうしておられるのじゃ」
そのことも話されるのだった。
「一体」
「幕府はまだあるぞ」
「二条城におられる」
「お元気そうじゃぞ」
「特に何もないであろう」
「いや、しかしな」
いることはいてもそれでもだというのだ。
「随分と影が薄いのう」
「まあそうじゃな」
「どうもおられることを忘れるのう」
「義輝様の時まではまだおられると思ったがのう」
彼の時まではそうだった、例え衰えていても。
「しかし今はな」
「どうにもおられる実感がないわ」
「幕府も影が薄くなった」
「全くじゃな」
こう話されるのだった。そして。
その二条城を見てもこう言うだけだった。
「確かに立派じゃがな」
「あれも信長様が建てられたものじゃしな」
「何か幕府のものに思えぬわ」
「あれは飾りではないのか?」
「幕府自体がのう」
幕府がもうそれではないかという話にもなった。
「信長様が担いでおられる神輿じゃ」
「信長様がおられなければもう幕府はないわ」
「最早何もどうすることも出来ぬな」
「まさに神輿じゃ」
「それに他ならぬわ」
彼等は明らかに幕府を軽く見る様になっていた、二条城も半ば信長のものと思っていたのだ。だが義昭はその二条城の中でこう言うのだった。
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