八条学園怪異譚
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第二十三話 犬と猫その七
「いい送り犬と悪い送り犬がいてな」
「悪い送り犬はこけたら襲い掛かってくるのよね」
「いい送り犬は守っていて何もしないんだよ」
「それでここにいるのはいい送り犬なのね」
「そうだよ。まあ悪い送り犬に前でこけても一服するふりをすればそれで難を逃れられるけれどね」
それで大丈夫だというのだ。
「大体犬って人の後ろについていくけれどな」
「縄張りに入った相手への警戒でね」
「狼だってそうだしな」
「ニホンオオカミが縄張りに入った人を警戒して人の後ろについていくから」
それを夜道で見てだったのだ。
「送り犬っていう妖怪が生まれたのね」
「そうそう、そうなんだよ」
猫又もその通りだと聖花に話す。
「送り犬の中にはニホンオオカミも混ざってたんだよ」
「そうでしょうね」
「その辺りの見分けは難しいけれどさ」
「ニホンオオカミはもう絶滅したけれど」
「あれっ、奈良県と和歌山県の境で見た人いるみたいよ」
ここで愛実がこの話を出してきた。
「何かニホンオオカミの赤ちゃんを見つけたとか糞があったとか」
「そうしたお話もあるの」
「そうみたいよ」
「ニホンオオカミって絶滅してなかったの」
「あくまで噂だけれどね」
ニホンオオカミは森林狼であり山の中にいる狼としては非常に珍しい種類だ、だからその発見も中々難しいのだ。
「いたら面白いわよね」
「そうね、確かに」
「この動物園には狼はいても」
「ニホンオオカミはいないわね」
公には絶滅したとされていることは紛れもない事実だ、それd動物園にいる筈がない。
「というかいたらね」
「普通に凄いわよ」
「そうよね、やっぱり」
二人でそんな話をしているとここで猫又がまた後ろを振り向いてその二人に言ってきた。
「ああ、来たぜ」
「あっ、その送り犬さんが?」
「来たのね」
「ああ、来たよ」
その後ろを振り向きながらの言葉だ。
「あんた達も後ろを見てみなよ」
「ええ、それじゃあね」
「今から」
二人も猫又の言葉に頷きそのうえで振り向く、そこには一匹の大きな黒い犬がいた。
外見は何ともない感じだ、だがその犬が二人に人間の言葉でこう言ってきた。
「やっとここにも来てくれたんだね」
「あれっ、結構フレンドリーね」
「そうよね」
二人はその妖怪、送り犬の尻尾がぱたぱたと左右に振られているのを見てそこに友好的なものを感じて言った。
「意外と砕けてるし」
「堅苦しいかなって思ったけれど」
「僕が?」
「ええ、人を守るっていうからね」
「そうかなって思ったけれど」
「いや、真面目とかは関係ないから」
送り犬は二人に笑って話す。
「全然ね」
「まあ言われてみればそうだけれど」
「真面目じゃない正義のヒーローとかも最近いるしね」
ヒーローといっても色々なタイプが出て来ているのだ。
「だから送り犬さんも普通に」
「そうした口調なのね」
「そうだよ、それで君達がここに来た理由だけれど」
「ええ、泉を探しに来たけれど」
「あと怪談を観にね」
その為だった。
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