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形而下の神々

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過去と異世界
  レミングス

 
前書き
ココで登場するレミングスとは、実は僕が好きなアーティストさんのアルバムの名前から取りました。
意味を調べてみるとちょうど良かったのでパクッちゃいました(笑)

……本編とは全く関係ない小話でした。 

 
「君達は何者だい?」

とりあえず俺が喋りだす。

「私達はレミングス。この世の流動を司るバグよ」

「バグ?」

グランシェを見るが、グランシェも知らないらしい。
すると察したのか女性は質問を投げかけてきた。

「そ、バグ。公式は知ってる?」
「あぁ、一応は」

「じゃ、矛盾は?」
「あぁ、一応は」

そこまで知っているならと、彼女はにこやかに話しだした。

「その矛盾こそがバグよ。世界を作る様々な法則、その矛盾の正体は誰にも分からない。
でも、風は流れる度に矛盾を産み、波は打ち寄せるごとに矛盾を孕む」

「……意味が分からん」

すると笑みを崩さないままで更に続ける。

「この世は全て、公式で成り立ってるの。
その公式が高度だと、当然矛盾も高度になる。
余りに高度過ぎる矛盾はバグとなり、生命を持つ」

公式とは恐らく物理学であったり化学であったり、俗に言う科学理論というやつなのだろう。
と、考えているとレミントとやらが元気に声を上げた。

「俺達は矛盾から生まれた存在!!
存在そのものが神器みたいなもんなのさ!!」

「……まぁ、公式から生まれる神器とは真逆の存在だけどね」

彼女は苦笑いをする。

こうしてみると、普通に女の子だ。

そういえばレミングスって何処かで聞いたことあるな……。

「旅鼠。レミングの複数形か」

グランシェが言った。

そうだ、英語で旅鼠の事をレミングと言うんだった。

「ここの言語は英語か?」

グランシェが英語で問う。

「Englishって、何です?」

英語という単語は分からないらしい。

「日本語は分かるか?」

「ニホンゴ?分からないです」

言語は違う。しかし通訳される。というか何故か理解できている。
よく分からんが、便利だな。

「まぁ良いや。私達はナツキという女性に未来から送られてきた」

「まぁ!!未来から?」
「姉ちゃん、静かにっ!!」

レミントは弟なのか。ドヤ顔で彼女をたしなめる。
そのたしなめた声の方が大きかった事は指摘しないでおこう。

「未来って、どのくらい未来ですか?」

すんなり信じたと言うことは、やはりここは俺達が居た場所ではないのか。
やっぱり公式とやらがある、何でも有りな世界なのか。

「どのくらいかは分からないけど」

まさかこの世が滅びて……なんて言えないよな。
そんな事で敵対視でもされたらたまったもんじゃない。

「まぁ、とてつもなく未来から来た。というか、もはや別世界から来た感じだ。
この世の常識も分からない。良かったら詳しく説明してくれないか?」

「ん~、どの程度分からないのかが分からないので、もしこのまま私達に同行するならそのつど指摘しますよ」

どの程度というか、全てだろ。
何も知らねぇし。


「まぁ、とりあえずこちらに来て下さい。そこは神聖な場所。
基本的に立ち入りは禁止ですよ」

そんな基本的な事も、俺達は知らないのだよ。
と、案内されるままに神殿から出た俺達の目に映ったのは、これまで見たことの無いような広大な草原だった。

「ここはデリ高原地帯。今は高原の街、ティベを目指しているの」

見ればモンゴルの移動式のテント、ゲルの様なテントがそこら中に有る。
数はザッと50くらいで、一つの村みたいだ。

「レミングスはこうやって1つの大きな塊を作って世界中を旅しているのよ」
「目的は無いのか?」

「無いわ。私達は流動の矛盾。一所には留まれないの」
「同じ所に長く居るとその場所が天災に見舞われるんだ!!」

と、相変わらず元気なレミント。
神殿の外だからか、注意は受けなかった。

「よぉレベッカ、何だその拾い物は?」

少し会話していると、目の前を通った大柄な男が話し掛けてきた。

「旅の人よ。しばらく私達に同行するから神殿に挨拶してたの」

「えっ」「グランシェっ」

彼女の嘘にグランシェが驚きの声を上げたので、仕方なく小声で注意する。

どうやら彼女はレベッカという名前らしい。

レミングスの姉弟、レベッカとレミント。

名前が似ていてややこしいな。非常にややこしい。

「また拾い物か!!厄介事には巻き込まれるなよ!!」

そう言い残して、大柄な男は去って行った。
さっきから人の事を拾い物とか、失礼極まりないやろうだ。
少し眉間に皺を寄せていると、レベッカがなにやら説明を始めた。

「旅の途中の人がこの集落を見付けたら、途中まで同行する事が多いわ」

話によれば、旅人は快適な寝床を得て食料の補給も出来るし、代わりにレミングスが襲撃等に遭った際は旅人が率先して戦うらしい。

また、旅人が商品を購入する事で手に入る利潤は、性質上一つの街に留まらない為に定職に就けない彼等の貴重な収入源にもなっているそうだ。

「だから旅人さんは歓迎なんだけどね……」
「何かあるのか?」

気になったのでついつい続きを催促してしまう。

「いやぁ、ナツキさんがこの間まで居たんだ」
「はぁっ!?」

「ナツキさんは、とってもいろんな公式を使っててね、凄く素敵な人だった。
でも目的があるからってこの間消えちゃったの」

レミングスの性質上そういった類の別れは多いのだろうか。レベッカは別段悲しげな雰囲気もなく淡々と話した。

「で、別れ際に、未来から2人の男の人が来るからかくまってあげてって言われたの」

多分、その二人とは俺達の事だろう。
時間を操る彼女だから、こんな所業も可能なのだ。
と、その時になってすんなりと怪奇現象を受け入れ始めている自分に気付き、なんだか少し負けた気がした。

「まぁ、しばらくは厄介になるか」

グランシェが呟く。
確かに、ここで俺達が生き抜く為の最善の策は、今はそれしかないだろう。 
 

 
後書き
今回のお話も読んで下さってありがとうございます。
これを書いている時点ではまだ読者様は数少ないのですが、少ないだけに僕のとても大きな原動力になっています、
今後とも、末永くお楽しみ下さい。



--2013年04月20日、記。 
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