ファイアーエムブレム~ユグドラル動乱時代に転生~
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第三十七話
襲ってくるなら洋上というのがお決まりパターンだったようで、実際、海賊達がブラギの塔がある島にまで上陸してきたというケースはほとんど無いそうだ。
そこまでやってしまうとアグストリアから大規模な海賊討伐の軍が編成されてしまい徹底的に海賊狩りが行われてしまったという過去の教訓からなのだろう。
そんな禁忌を犯してまでこの蛮行が行われたのは、それだけブリギッドが彼らの怒りを買う何かをやってしまったのか、あるいはリスクを超える大きな利益があるからなのか、それとも、討伐の軍が派遣されないという保障なり密約なりを得ているのか……。
捕らえた海賊から詳しく尋問するのは後からにして、俺たちは港へと向かった。
港のジャコバン達と合流すると彼らも苦戦していたようだ。
彼らは島に駐留していた兵士らと共闘し海賊船3隻を退けはしたものの傷を負った者、武運がわずかばかり足りずに永遠の旅に出た者、疲れ果てその場に蹲る者……。
「姐さん、すみませんこっちは防戦で手一杯で」
「何言ってんだい、一人寄越してくれたんでこっちもなんとかなったんだ。それより早く治療してもらいな」
ジャコバンは片腕をぶらぶらさせ、歩けば跛行するほどの状態だったが強力な癒し手による治療の杖の恩恵を受けたので、しばらく安静にすれば元通りに動けるようになるだろう。
これが凡庸な癒し手による治療であるならば長い療養が必要になる、さすがはクロード神父と言ったところか。
レイミアは守備隊の主だった人達と話し合ったり書類のやりとりをしていたが、マディノへの引き上げの許可を受け、亡くなった人々の遺体を輸送することも請け負ったようだ。
本来ならこんな事態があったからには数日は足止めを受けてもおかしくは無いが、アグストリア本国への報告や増援、あるいは欠員補充の要請など急を要するということもあり、夕暮れ近くには再びマディノへと出港した。
俺も何か手伝いたかったが、船酔いのため何もしないですみっこでおとなしくしているほうがマシだろうと船べりで水を飲んでは吐いていた。
マディノへと戻った頃にはもう日が暮れて2時間以上が過ぎていた。
港にはわずかな明かりが見える程度だったので、まずは端艇で先触れの人員を送り、かがり火を盛大に焚いてもらい慎重に港へと接舷するのを目にすることになった。
地上の人になってからの俺は荷運びや遺体の搬送などを手伝い、船上での汚名を少しでも雪ごうとしたがどれほど役に立ったかは定かでは無い……。
レイミアはずっと大忙しで多くの人に指示を出し、港町の役場と港を何回も往復していた。
おそらくは島での出来ごとの報告、被害者の遺族への対応や明日以降になるであろう葬儀の手配、捕虜となった海賊への本格的な尋問など、やることは山積みなのだろう。
迎えに来た護衛に守られてクロード様、エーディンさん、シルヴィアは昨日と同じ宿屋へとすぐに戻って行ったが エーディンさんには特に女剣士の護衛が数名付けられていた。
しばらくの作業の後、俺のやることも無くなったのでレイミアの部下へ宿へ戻ることの言伝を頼み、そのまま帰路についた。
宿へ戻ると併設の食堂のテーブルには一同が待っていてくれた。
明日以降レイミアを交えていろいろと話し合おうという運びになった。
彼らは食事のほうは終えていたようだが俺の分を頼んでおいてはいてくれて、布巾のかかったそれをありがたくいただいた。
すっかり冷えてはいたものの、今日は一日何も食べて無いようなものだったのでこの上無いごちそうだった。
用意しておいてくれた皆の心遣いが、まさに心身ともに沁み入った。
宿の人にはお湯を頼んでおいたので、寝る前に体を清めて眠りにつこうと思ったが、気になったので宛がわれた部屋では無く女性陣の部屋の前で毛布にくるまり武器を抱えて廊下に座り、目を瞑った。
翌朝、それはただの取り越し苦労とはわかったものの……体の節々が痛む。
それでも柔軟やストレッチに加え、起きて行動している内に気にならなくなるものだ。
朝食を終えた後、レイミアはまだ来ないが時間を持て余すよりはと話し合いの時間を持った。
「昨日は皆さま、大変お疲れ様でした。まだ、その疲れも抜けぬ内に申し訳ありませんが、今後について相談したいと思います。よろしいでしょうか?」
「……さしあたってはエーディンさんの姉君についてですね?」
「その通りですクロード様。 昨日の騒ぎではブリギッド様を拉致しようとしたと海賊は申していました。 つまりは海賊達も彼女の所在を掴んでおらず、そして敵対していると思われます」
「ねぇ、海賊と争っているってことはブリギッド様は海賊じゃ無いってことなのかも?」
「うん。 レイミアの話にも非合法の商売から普通の仕事に方針変えて海賊のグループから孤立しているってあったし、それもあるかもしれないよね。海賊仲間から抜けるのは許さないって感じで制裁を受けているのかも知れない」
「もう海賊じゃ無いんだったら、協力して海賊をやっつけるっていうのはできないの?」
「それが出来れば一番だけど、まずはこちらも戦力っていうのは無いしね。レイミアの傭兵隊は彼女のものだしこっちの思い通りに動かせるとは限らないからなぁ、今は違ったとしても元々は敵対してた同士だもの。 なによりブリギッド様と連絡を取る手段が無いし……」
「あの……」
エーディンさんが提案した策に俺たちは乗ってみることにしたが、それはやはりレイミアの傭兵隊が必要なだけに彼女の到着を待つより他無かった。
「ところでミュアハ王子、昨日はお話を伺うタイミングで騒ぎが起きてしまったのでそれどころでは無かったのですが、あなたはあの凶事に対しどうしたいとかどうすればいいとお考えなのです?」
「……思いだしていただきありがとうございます。 わたしとしてはグランベルとイザークの戦を防ぎ、クルト王子とディアドラ様の身を守り、ナーガの使い手を絶やさなければ良いのではないかと思っています」
「ふぅむ。少し予想とは違いますが、そういう方針でしたら私も迷わずお力添え出来ると思います」
「……神父様が思った予想、もしかしたら」
「もしかしたら?」
「アルヴィス公とディアドラ様の持つロプトの血を絶やし、全ての禍根を断とう……というあたりではありませんか?」
「……考えるだけでも恐ろしいことですが否定はいたしますまい」
「あの……昨日のお話だけだとアルヴィスさまのロプトの血って言われてもよくわからないので教えてほしいです」
「ごめん!シルヴィにもエーディン様にもお知らせしていませんでしたね。 これからお知らせするね」
俺はヴェルトマー公ヴィクトルの話、その正妻でありロプトの一族であるマイラ家の血を継いだシギュンさんのこと、そしてシギュンさんとクルト王子の事を話した。
さらに、アルヴィスとディアドラが互いの母が同じとは知らず結ばれて、結果ロプトウスの復活が成ることも、虐げられ続けたロプト教徒の生きる支えがロプトウス復活であるということも……
「……なんだかとっても悲しいお話だね」
シルヴィアが元気なくそう言う姿に、俺も気持ちを同じくした。
「だからそれを起こしたくないんだ……」
「あたしには何が出来るかわからないけど、それでも、なんでも言ってね」
「ありがと、その言葉だけで全てがうまくいくようなそんな気になってきたよ」
シルヴィアが俺の手に自分のそれを重ねて、さらにその上に俺がもう片方の手を重ねて微笑むと、いつもの元気な彼女の姿に戻った。
「仮にお二人を幽閉するなりして血を絶やそうとしたところで、アルヴィス公には隠し子が居られるし、なにより……」
「なにより?」
「……ロプトの大司教ガレと同じ道を辿り、海を隔てた別の大陸で暗黒竜の祝福を受ける者がまた現れてはそれに何の意味も無くなりますからね」
昼も過ぎた頃に、ようやくレイミアがやってきた。
たぶんあまり寝て無いだろうにそんな様子は微塵も見せないあたり流石だ。
午前中に先に打ち合わせていたことを彼女にも余さず伝え、エーディンさんの立てた策も伝えると
危険すぎやしないかい? なんて逆に心配されるくらいではあった。
だが、ブリギッドとの仲介者のほうは未だ彼女との連絡が取れてはいなかった。
エーディンさん本人からの要望もあったので、彼女がブリギッドに化けて海賊をおびきよせる餌となり、そんな騒ぎがあったら本人もしくは関係者からのなんらかのリアクションもあるのでは無いかという行き当たりばったりな策を使うことになった。
もし本人からの反応が無くとも、有利な地形で海賊を待ち伏せて戦力を削ることができるだろうという打算もあった。
薄手の革鎧に身を包み、鉢巻きをきりりと締め、弓を持ち、変装したエーディンさんのその姿は凛々しく美しくもあった。
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