ファイアーエムブレム~ユグドラル動乱時代に転生~
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第三十六話
前書き
いつもご覧の皆さまありがとうございます、なかなか面白くならなくてすみません。
「こちらもヤツラの規模や戦力を知る為に密偵放ってますので、そういう面から割り出したという訳です。
……頼まれてからだいぶ時間かかっちまってすまないね、アタシもそれだけに関わっていられるわけじゃぁないもんだからさ」
レイミアはエーディンさんに前半を、俺に向かって後半をそう告げた。
いやいや、大変助かったよレイミア!
「……名前や容姿の特徴なんかを王子から伝えられていたからこそなんですけれどね。
んでまぁ、一口に海賊って言ってもいろんな雑多な集団があるんですが、そんな中の一つの組織が半年ほど前に頭目がおっ死んで、代替わりした新しい頭目がカタギの商売のほう専門に鞍替えしたってことで賊の中でも孤立しちまいましてね、情報が筒抜けってすんぽーですわ」
そこまで言うと飲み物に手を伸ばしてぐいっと呷った。
「ブリギッド、金髪、二十歳前後の美女。会って確かめた訳じゃぁ無いですがほぼ間違い無い」
口角をニッと吊りあげて自信たっぷりの彼女の笑みは昔より凄みが増していた。
エーディンさんはただただ驚いて、そのあとに感謝の言葉を述べてから神にも祈りを捧げた。
ブリギッドと直接連絡をつける手段が無いので、仲介者に頼んでいるのだとレイミアは説明してくれた。
そこからは聖地巡礼の打ち合わせになり、細かい打ち合わせが済んだ後は彼女が手配した宴の席となった。
意外にもクロード神父やエーディンさんも控えめながらそれに付き合ってくれて、頃合いを見て寝まれた。
その後になるとレイミアに煽られたシルヴィアが飲み比べの勝負を挑んだ。
…審判は俺だ
「…れったいに、むゎけない!…8杯目、おきゃーり!」
もうやめとけよ…と思うシルヴィアの様子に俺は少し胸が痛んだ。
レイミアと張り合ってなんでもいいから勝ちたかったんだろう…
「ふん。いい度胸さ~、10杯目作っておくれ~」
一方レイミアは少しだけ顔が赤らんでいるもののしっかりしたもんだ。
ぐいっと呷ったグラスをテーブルにドンと置くと彼女の手下達が口笛を吹いて喜んだ。
「もう二人ともやめましょう、特にシルヴィア、これ以上どころか既に体に良く無い」
「ぅるしゃーい! ろぉしても、くゎぁつ!」
「…こう言ってるんだ、止めるのも野暮ってもんさ」
結局シルヴィアは11杯目の途中でぐったりしてしまったのだが…
「んじゃ、あとはお前ら好きに楽しんでいきなー、この二人はアタシの賞品なんで持ってくからね」
手下達にそう告げ、金の入った袋をテーブルの上に置いたレイミアは軽々とシルヴィアを担ぐと空いた手で俺を引っ張って行った。
フロントから部屋鍵を受け取った彼女は途中で俺にシルヴィアを預けると洗面所で化粧を落としはじめた。
「ちょっと待ってておくれよ~………ふーさっぱり」
唇の鮮やかな紅が落ちたくらいでさしたる違いは無いように見えた。
「…なぁ、ズルしたんじゃないのか? レイミアはあんなに酒強くないだろ?」
「こちとらホームでの勝負だからな!お前も審判だったんだから共犯ってもんさ」
にやっと笑った彼女はそう言うと俺を引っ張って部屋に連れ込むと、まずはシルヴィアをベッドの上に寝かせてやったが、そのときに頭を撫でてやってたのが印象的だった。
「さーて、王子、アタシからの問題だ」
「ん?なんだい?」
「あの子を酔いつぶしたアタシの狙いはなーーんだ?」
「……俺へのあてつけ?」
「ふふん。違うよ、こうするためさ」
そういうと彼女は俺の手首を掴んでベッドのほうへ引っ張るので逆らわずに付いて行き、促されるまま俺はベッドに上がった。
「この子がさぁ、アタシとお前が寝てたなんて知ったらお前刺されちまいそうだし、でもアタシは久々にお前をぎゅーーっとして寝たいし、ということで酔っぱらって3人で寝ちゃったってすることにした」
「無茶苦茶だなぁ」
「ただし、アタシはズルしたし、お前はこんな子が居ること知らせてくれなかったってことの罰で、えっちなことは絶対ナシな」
「うん。それと…シルヴィアはまだ婚約者とかって訳じゃなくて、お互いもっと大人になってからそういうのは考えようって一緒に約束したから。……大事な子ではあるけど」
「……ふーん。まぁ、いいさ、もすこし側に来てくれよ…」
互いに眠りにつくまでの暫くの間とりとめもなくいろんな事を語り続けた。
………こんな安らかな眠りは何年ぶりだろう。
「ちょっと! コレってどーいうことよーー!」
まだ明け方のころ、シルヴィアの大声で目を覚ましたがレイミアも同じようだった。
「あー、飲み過ぎでアタマ痛いんだから静かにしてくれよぉ」
「あんだけ飲んでお前は二日酔いならんのかよ…」
思わずレイミアのリアクションに合わせてみた。
「びっくりしてそれどころじゃないわよ!」
「ハイハイ、いー子だからもすこし寝ようね…」
「勝負の結果はっ!」
「そんなのいいから布団に戻ってよ、さむい」
すこし逡巡したあとにごそごそと布団の中に戻ってきたシルヴィア…うん、いい子だ。
初めはぶつくさ文句を言っていたがどうやらこの雑魚寝が気にいったのか、すやすやと寝息を立てはじめた。
……その日、3時間ほどの船旅のあとブラギの塔へと辿りついた。
塔はあの世界遺産モン・サン=ミシェルのような小島の中の聖堂の代わりに佇立しているという趣だが……早く下船したかった俺には船から眺める姿を楽しむ余裕は無かった。
俺たちの他にも一般の巡礼者もいたが、まさか大司祭とも言うべきクロード神父が一緒とは知らず、後で知って驚いたそうだ。
船の護衛にはジャコバンと数人の傭兵、加えてレイミア自らという気合いの入れようだった。
街の方にももちろん人員は残してあり、もと騎士とその副官を残してきたので手持ちの兵の運用も問題無いということだ。
そういえば大剣使いだったレイミアが、今は普通より小ぶりの剣を二本左右に差していたので二刀流にでも転向したのか聞いたところ、船上での戦い用だそうだ。
一刀のみで戦うが、片手は空けてバランス取りに専念するそうで、まだまだ彼女から学ぶことは多いと身にしみた。
下船した俺たちだが、船を守る為ということでレイミア以外の傭兵は船の近くに留まり、バーハラから来た者と彼女を加えた一行だけで塔へと向かった。
参道にはみやげ物売りや軽食を売る者などが普通の業者に比べればおとなしく客引きをやっていた。
クロード神父はシルヴィアにシンプルな意匠の腕輪を買ってあげていて、その喜ぶ様子がほほえましかった。
途中の食堂でみんなは食事を行ったが、俺はどうせ帰りの船で具合が悪くなり、せっかく食べた料理が無駄になるからと断って、みんなとの会話や食事風景を楽しんだ。
クロード神父おすすめのオムレツは見てるだけなのが辛くなるほどの逸品で、そのふわとろ加減の絶妙さと香りの良さに俺も思わず頼みたくなったが…。
食事の後は塔への巡礼だ。
もっとも俺は付いて行くだけのようなものであるのだが……。
塔に入り係の人間はクロード神父の訪いを知ると恐れ行ったものだが、そこは内密にということで先へと進んだ。
塔の内壁には聖者マイラの絵物語が描かれており、エーディンさんが聞き手、クロード神父が語り手となりマイラの足跡を俺達に教えてくれた。
最上階へ辿りつきクロード神父が壁面の煉瓦を押したり引いたりすると中央の祭壇に1本の輝く杖が顕現し、彼はゆっくりとそれに近づき手に取り、目を瞑ると神経を集中し始めた。
様子を見ていると苦しそうに顔を歪めたり、したたる汗が、尋常では無いことを物語る。
やがて目を開き深呼吸した彼はいつになく厳しい表情で
「ミュアハ王子…以前あなたが仰ったこと……間違いありますまい、出来うることなら外れて欲しかったのですが……」
「申し訳ありません…ところでクロード様、杖が示したビジョンの中にクロード様の姿はございましたか?」
「王子が悪いわけでは無いでしょうに……そして私の姿はありませんでした。最後以外は……つまり私にはこの凶事に於ける役割というのが無いのかもしれませんね」
「これはあくまで、わたし個人の考えですが……クロード様の姿がそこに無いということは、クロード様の働きでそれが変わるということにもならないでしょうか?」
「いったい全体どういう話なんだい?アタシらには聞かせられないような話なら仕方ないけどさ」
思わずレイミアが口を挟むと他のみんなも彼女に同意した。
クロード神父が頷いてみせたので、俺はもう1年ほどの未来に差し迫ったことから話はじめた。
「もちろん皆さまから手放しで信じていただけるとは思っていません。でも信じていただきたい……」
「わたくしがヴェルダン王国に拉致されて、それを救援にシグルドが来てくれて……それがもとで反逆者に仕立て上げられ、そしてお父様がクルト王子殺害の冤罪を着せられるだなんて、にわかには信じられません……」
「ヴェルダンの国王って良く言ゃあ慈悲深い、悪く言ゃあお人よしって聞くからねぇ。闇司祭にころっと騙されちまうってのも無いことも無いと思うが……う~ん。話自体の信憑性ってよりはアタシは王子自体を信じてるからねぇ、そんなアタシが何か言っても仕方ないか」
「杖っていうのは、真実を教えてくれるのでしょ?ミュアハの言う事とおにぃ……神父さまの仰ることが同じなんだし、あたしは信じようと思います」
「ミュアハ王子、おそらくあなたは杖の示した未来を止めたい、あるいは変えたいとお思いなのでしょうけれど、果たしてそれが人の力で叶うのでしょうか?」
俺がそれに答えようとすると、この塔の職員が階段を駆け上がってきた。
「大変です!海賊が襲ってきました。クロード様はどうか地下の秘密の通路からお逃げください!」
「なんだって?」
「まずは、ここを降りましょう。 ここの人々を見捨てて逃げることなど考えにも及びません。みんなで入り口の門を守ればなんとかなるでしょう」
「そうは仰っても神父さん、武器は船に預けてきたんですよ、場合によっちゃあ…」
俺たちは階段を駆け下りながら前後策を相談していた。
俺は掃除用のモップを幾本か目の端に見つけたのでレイミアに1本渡し、
「神父様とエーディン様、それにシルヴィは地下に隠れてください、わたしとレイミアで正門を守れるかやってみます」
「そうだねぇ、やるしかないか」
一階まで降りると何人か怪我人が目に入った。
正門を見ると、厚い木の扉を押さえつけている職員が何人かいたので俺とレイミアは加勢した。
神父様たちは怪我人に癒しの杖で治療を行っている。
「このまま扉を押さえているだけじゃ事態は好転しないだろうし、打って出ようと思います。あなたの腰のものを貸してください」
怪我を負った者の中に、レイミアの部下が居た。
ここへの伝令として駆けて来たが身軽さを優先したのだろう、携えていたのは剣1本だけであった。
それをレイミアは受け取ると、彼女は幾度か振って具合を調べた。
俺はもう1本のモップを彼女から受け取った。
「ちょっと見てなよ…」
レイミアはそう言うとモップの先端部分を剣で斜めに切り捨て、即席の槍を2本作ってくれた。
「この剣で簡単に切れちまう材質だ。相手の攻撃は受けるより避けたほうがいいだろね」
俺と彼女は互いに頷くと、タイミングを見計らって外に飛び出した。
押し寄せてきた敵は50人も居ないだろう、だが、圧倒的に数が違いすぎる。
俺とレイミアは相手にトドメを刺すよりも浅手を負わせて戦闘力を削ぐように戦い続けた。
治療を受けて応援にきてくれた伝令兵に即席の槍を渡すと状況は少しずつ良くなり、何人かの呻いている海賊を残して引き上げていった。
捕らえた海賊を拘束し、治療を条件に口を割らせると、
裏切り者ブリギッドが巡礼者に成り済ましてこの塔に向かったというので捕らえに来たということだった。
エーディンさんを見間違えたのだろうけれど、それにしてもブリギッドの身に危機が迫っている……。
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