清教徒
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第二幕その二
第二幕その二
「そなた達も。よいか」
「はい」
従者達もであった。部屋の扉が開いた。そこからエルヴィーラが入って来た。その姿にはかつての陽気さは何処にもなかった。髪を振り乱し、視点は定まってはいなかった。まさしく狂気の顔であった。
「アルトゥーロ様、何処に行かれたのですか?」
彼女は辺りを見回して何かを探していた。
「私を置いて何処に行かれたのですか?」
「ジョルジョ様、これは」
リッカルドが問うてきた。だがジョルジョは顔を崩さなかった。
「驚かないと言った筈だが」
「ですが」
「ずっとあのままなのだ。時折ああして辺りを探して回るのだ。アルトゥーロ殿を探してな」
「そんな」
「何処に隠れておられるのですか?早く出て来て下さい」
「何故このようなことに」
「言う必要はないだろう」
「はい」
従者達も沈黙してしまった。そして皆エルヴィーラを見るだけであった。
「貴方はどなたですか?」
今度はジョルジョに尋ねてきた。
「そなたの叔父だ。わからないのか」
「御父様ですか?」
「・・・・・・・・・」
答えることができなかった。答えるにはあまりにも心が辛かったからだ。
「いえ、違いますね」
「うむ」
一言そう答えるのがやっとであった。
「アルトゥーロ様でしょうか」
「そうだ」
止むを得ずそう答えた。
「今ここに戻って来たぞ」
「よかった」
エルヴィーラはそれを聞いて顔を急に晴れやかにさせた。喜びの顔になった。
「戻って来られたのですね」
「うむ」
ジョルジョはアルトゥーロとなってそれに応えた。
「待たせて済まなかったな」
「いえ、構わないのです」
エルヴィーラは笑顔でそう答えた。
「戻って来られただけで私は満足ですから。では参りましょう。礼拝堂に」
そう言って誘う。
「そして共に祝いましょう。私達の幸せを。そして祈りましょう、私達の永遠の幸福を」
「何ということだ」
リッカルドはそれを見て悲嘆の声を漏らした。
「それ程までに彼を想っていたのか」
「そうなのだ」
ジョルジョがそれに言う。
「彼女はあの方しか見えないのだ。他には何も見えない」
「盲目となられたのですね」
「そう、盲目だ。今の彼女を救えるのは一人しかいない。だがその者は今」
「何ということだ」
リッカルドは呻いた。
「このようなことになるとは」
「アルトゥーロ様、では参りましょう」
「わかった」
ジョルジョが答えた。
「では先に部屋に行ってくれ。そして身支度を整えておいてくれ。よいな」
「わかりました。それでは」
頷きその場を後にした。ジョルジョはそれを見届けてから従者達に対して声をかけた。
「落ち着かせてやってくれ。葡萄酒でも渡してな」
「わかりました」
彼等はそれを受けて頷いた。そしてその場を後にした。後にはジョルジョとリッカルドだけが残った。
「アルトゥーロ様」
だがまだ部屋の方からエルヴィーラの声が聞こえてきた。
「さあ、私達の他には星と月だけです。是非おいで下さい。そして共に夜の空を楽しみましょう」
「また」
二人はそれを聞いて悲しい顔になった。
「何ということか。彼女の心は戻らないのか」
「戻す方法はあるのはわかっているだろう」
リッカルドに対してそう言う。
「君自身が」
「・・・・・・・・・」
答えなかった。だがそれでも言った。
「私は知っているのだ。だからあえて言おう」
「何を」
「今ここにいるのは君と私だけだ。それでも駄目か」
「それは・・・・・・」
「どうなのだ。彼女を救いたくはないのか」
「いえ」
「ではわかったな。君の助けが必要なのだ」
「わかりました」
リッカルドはようやく頷いた。
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