外伝 ドラゴンクエストⅢ 勇者ではないアーベルの冒険
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名探偵だよ?アーベル君
前書き
第61話で言及のあった、「嫌な事件」について掲載します。
この作品は、いわゆる「推理もの」では有りません。
あらかじめご了承願います。
あれは、嫌な事件だった。
「ねえ、何を探しているの?」
「笛だよ、笛」
「笛?」
「そうだ、精霊ルビスを開放するためには、妖精の笛と呼ばれるアイテムが必要だ。
一緒に探してくれ」
俺とテルルは、アレフガルドのマイラの村にいた。
精霊ルビスの助力を得るため、俺たちは精霊ルビスを助けるためのアイテム「ようせいの笛」を探していた。
ようせいの笛の所在についての情報は、事前にラダトームの城で聞き取っていたので問題はない。
「ねえ、アーベル。
どうして、ラダトームの城内ではあの老人しか会話しなかったの?
他の人にも聞いたら、もっと詳しい情報も入手できたかも知れないのに」
「・・・」
俺は、今、全神経を集中して笛の探索に取りかかっている。
テルルからの追及など、全く耳に入ることはなかった。
俺たちは、温泉の南にある繁みを探しているが、なかなか見つからない。
ひょっとして、地中に埋まっているのか。
俺は、視線をテルルに移す。
「レミラーマ」
テルルが、俺の意図を察して、探知呪文を唱える。
怪しいところが光り出す呪文である。
「あそこね」
テルルは、光っているところを、特技「あなほり」で調べると、地面から、木の箱が出てきた。
俺が、箱を取り出して土を取り除き、ふたを開ける。
「もう一つ箱がある」
「土が入らないためかな?」
箱の中に笛が入っているのなら、土が入らない工夫が必要だろう。
中の箱を開けると、布にくるまれた細長い棒状のものがあらわれた。
どうやら、当たりのようだ。
布を、はがすと笛が現れた。
これで、精霊ルビスの封印を解くことが出来る。
「その笛をどうするつもりだ?」
背後から、俺達を呼び止める声があった。
「そのふえ?」
この笛の名前は、ようせいの笛だったはずだが。
「この笛は、君のかい?」
俺は男の姿を眺めながら、質問した。
目の前で俺を睨み付けているその男は、低くうなるような声と、たくましい体躯、丸く大きな顔をしてまるでダースリカントを人間にしたような姿をしていた。
「残念ながら、僕の笛じゃない」
男は、俺ににらみをきかせながら、説明をはじめる。
「これは、あの子の笛だ」
男は、近くにいる少女に視線を移す。
俺が、男の向けた視線を眺めると、いつのまにか、周囲に人が集まっていた。
その中に男が示した少女がいた。
少女は、この世界では珍しいピンクのノースリーブを身につけ、髪の右側にリボンを付けていた。
顔は愛くるしい小動物のような感じで、まるで子猫のようだ。
猫耳があれば完璧だが、この世界にそんなアイテムは存在しない。
いや「うさみみバンド」なら存在しているので、世界中を旅すればひょっとしたら「ねこみみバンド」も存在するかもしれない。
どうでもいい話だが。
少女は、俺の姿をまるで、おぞましい変態を見るかのような表情で観察している。
俺は変態じゃない。
「あ、あなたが私の笛を盗んで、隠していたのね?」
「これはようせいの笛ではないのか?」
俺は、周囲の村人に問いかける。
「確かにその笛は、ようせいの笛と呼ばれている。
この子の家に伝わっている宝で、この笛が発する神秘的な音色は、魔王の呪いすら打ち砕くことができると言われている」
村人の1人が解説をしてくれた。
「そう、その笛が盗まれて、困っていたのだよ。
何故か、村人達が僕を犯人だと決めつけていてね。
本当に困っていたのだよ」
男は、獲物を狙う熊のような目つきで俺を睨むと、笑い声を上げる。
「これで、僕が無罪で有ることが証明されたよ。
ありがとう、名も知らない冒険者君」
男の周囲にいた村人達が俺を捕まえようと、俺の周囲を取り囲もうとする。
「アーベルは犯人じゃないわ!」
テルルの必死の反論も、村人達の心には届かなかったようだ。
ここからルーラかキメラの翼で逃げ出すこともできるが、逃げ出せば「自分が犯人である」と自白するようなものだ。
不名誉なえん罪は回避したい。
大魔王を倒すことが最優先だが、変質者として世界中に指名手配がかかれば、両親に合わせる顔がない。
男は、事件が解決したとばかりに、笑顔で俺に話しかける。
「やあ、本当に君には感謝しているよ。
地中に埋めて隠していれば、精霊ルビス様を助けようとする冒険者が、妖精の笛を探すだろうと思っていた。
そして、僕が笛を探す冒険者を草むらで待ちかまえていれば、計画は万全だ。
それにあそこの位置からならば、女湯も覗くことができて完璧だ。
僕はまさに天才だね。
あとは、犯人を捕まえたと感謝されて、お礼にもらった笛をなめ放題に・・・」
村人達は、俺に向けていた包囲網を、いつの間にか男に向けていた。
「また、あなたが犯人だったのね」
少女は、悲しそうな表情で男を眺めていた。
「僕もまた、ようせいの笛に踊らされただけの犠牲者の一人に過ぎないんだよ・・・。
笛だけに・・・」
男は、俺に向かってつぶやくと、満足した表情で、村人達に連れ去られていった。
上手いことを言ったつもりか。
「あなたに、お願いがあります」
無事に事件が解決し、ルビスの塔に向かおうとする俺たちを、少女が呼び止めた。
少女は、上目遣いで俺にお願いをする。
少女の愛くるしい、子猫のような表情は、男女問わず保護欲をかきたてられるだろう。
俺は、事件解決のお礼でも言われるかと、少しだけ期待しながら、少女の言葉を待った。
「その笛を、なめ回さないでもらえますか?」
少女の言葉は、あまりにも残酷だった。
「絶対しない!」
俺は、心の底から叫び声を上げた。
「大丈夫よ。
私が見張っているから、指一本触れさせないわ」
テルルは、悪戯っぽい微笑みで少女に約束した。
「よろしくお願いします」
少女とテルルは、堅い握手を交わしていた。
・・・。あれは嫌な事件だった。
後書き
「うさぎの少女は登場しないのか?」
ですか。
よくわからないご質問ですが、登場はしません。
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