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こうもり

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22部分:第三幕その五


第三幕その五

「それは」
「ですから良心に問うて下さい」
「やっぱりおかしいですね」 
 看守もここで気付いた。
「何か弁護士の言葉じゃないような」
「どっちかというと神父様だな」
 所長もそれに頷く。オーストリアはカトリックの国だ。だから神父なのである。
「この口調は」
「そうですね。弁護士のものじゃないです」
「やっぱりおかしいな。あの弁護士は無能極まるがこんなことは言わない」
「誰なんですかね」
「さてな」
 そこまでは酒のせいで頭が回らない。完全に酒に溺れていた。
「私は弁護士なのですよ」
 伯爵はそれをまたしても強調してきた。
「だから全てを知る権利があります」
「弁護士さん」
 いい加減奥方も切れてきた。
「貴方は主人の肩ばかり持っていませんか?」
「気のせいです」 
 しれっとしてとぼける。本人だから当然なのであるが。
「ですからそれは忘れて」
「いえ、では申し上げましょう」
 頭にきてきたのでここで彼女も言うことにした。
「私は夫はですね」
「はい」
(何を言い出すつもりだ?)
 妻の行動が読めなくなってきた。もっとも最初からそこまでは考えていないのであるが。
「とんでもない浮気者なのです。昨夜もオルロフスキー公爵のパーティーで異国の美女に声をかけて楽しくやっていたのです」
(なっ)
 これを聞いて流石に驚いた。
(どうしてそれを)
「家に帰ったら離婚です」
 カトリックでは離婚できないがそれでも言い出してきた。
「思い切り苦しめてやります」
(何故昨日のことを知っているんだ)
 彼はこのことに言葉もない。
(どういうことなんだ、これは)
「しかしですな」
 その思いを胸に秘め伯爵は言う。
「やはり」
「やはり?」
「あれです」
 彼はまたしても宗教家になった。弁護士ではなく。
「離婚はカトリックとしては」
「それでもです」
 奥方は強気だ。
「今度こそは」
「いい加減にするのだ」
 伯爵は本音を出してきた。
「いいかね」
「あれっ!?」
 アルフレートがその急変に目を丸くさせる。
「どうしたんだ、急に」
「いいかね」
「何がですか!?」
 奥方もそれに問い返す。
「言いたいことがあるのなら」
「では言おう」 
 伯爵は言ってきた。
「今から私は復讐をする」
「復讐!?」
「一体何を」
「全ては見た」
 彼は言う。
「そう、御前達の不貞をな」
「不貞!?」
「そう、ここで遂に髭も鬘も取ってきた。そこに姿を現わしたのは。
「私は。全てはお見通しだ」
「あらあら」
 アデーレはそんな彼を見て茶化したような声を出す。
「ようやく御本人のお出ましね」
「というか今まで気付かなかったのかしら」
 イーダがその横で言う。
「ばればれだったでしょう?」
「お酒のせいよ」
 アデーレは姉にそう説明する。
「お酒は全てを有耶無耶にするじゃない」
「まあね」
「だからよ。それに」
「それに?」
「奥様もアルフレートさんもやましいところがあって慌てていたから」
「成程ね。さて」
 あらためて注目する。
「どうなるかしら」
「見物ね」
「さて、妻よ」
 伯爵は勝ち誇った顔と声で奥方に声をかける。
「これでわかったな。正義は私にあるのは」
「あら、それはどうかしら」
 しかし奥方も負けてはいない。
「貴方だって」
「御前は私を裏切ったではないか」
 証拠を突きつける。
 
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