椿姫
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第二幕その一
第二幕その一
第二幕 田舎家にて
椿の花が教える時にアルフレードはヴィオレッタの元に行った。そしてそこでヴィオレッタは彼を受け入れた。そして二人の交際がはじまったのであった。
ヴィオレッタは娼婦を止めアルフレードと二人でパリを離れた。そしてパリの郊外にある森の中に小さな家を設けそこに二人で住むようになったのであった。
庭と窓のあるささやかながら綺麗な家であった。その中から赤と薄い茶色の狩猟服を着たアルフレードが出て来た。
「夢みたいだ、本当に」
その手に持つ猟銃を見詰めながら言った。
「彼女が僕と一緒に暮らしてくれるなんて。その夢の生活がここではじまってもう三ヶ月になる」
うっとりとした様子で言う。
「パリにいた時の彼女じゃない。この静かな場所に満足してくれている彼女が僕の側にいてくれる。パリでの優雅な生活や賛辞の声よりも僕を選んでくれたんだ」
彼は今自分の幸せを心の奥底から感謝していた。
「僕の若い情熱も穏やかな微笑みで包み込んでくれている。もう過去はいらない」
今度は過去を否定した。彼女の過去を。
「今と未来さえあれば。他には何にもいらないんだ」
もう彼女のこと意外は考えられなくなってしまっていた。だがそれこそが彼の望みであったのだ。他のことには思いが浮かびはしなかった。だがそういったことについても考えなければならない時が来るものである。
「おや」
見ればヴィオレッタの召使が屋敷にやって来ていた。身軽な旅行服であった。
「君は一体」
「旦那様」
「ここ暫く姿を見掛けなかったけれど。どうしたんだい?」
「パリに行っておりまして」
彼女はそう答えた。
「パリに」
アルフレードはそれを聞いて首を傾げた。
「どうしてまたそこに」
「奥様に言われまして」
「ヴィオレッタにかい」
「はい。お金を作るようにと言われまして」
「お金を。一体何の為に?」
「ここでの生活を送る為だそうです」
「ここでの」
アルフレードはそれを聞いて考え込んだ。
「そういえばここで暮らすようになってもう三ヶ月が経つけれど」
「はい」
「僕はプロヴァンスの実家から仕送りがある。けれどヴィオレッタはそれを受け取ってはいないね」
「そうですね」
「では彼女はどうやってお金を作っていたんだい?あの仕事はもう止めてしまったし」
「ものを売って」
召使はそう答えた。
「ものを」
「はい。馬や馬車を。その他にも多くのものをお売りになって」
「何だって。まさかそうやって」
「はい。御主人様はそうやってここでの暮らしの為のお金を作られていたのですよ」
「知らなかった。彼女がそうやってお金を作っていただなんて」
「御主人様に言われていまして」
「何と」
「旦那様には決して言わないようにと。そう言われていました」
「そうだったのか。それでどれだけのお金を」
「一〇〇〇程」
「それだけなんだね」
「はい」
召使はアルフレードの問いに頷いた。
「よし、それ位ならどうとでもなる」
彼はそう言って顔を引き締めさせた。
「今からパリに行ってくるよ。日が暮れるまでには戻る」
「わかりました」
「ただ内容はヴィオレッタには秘密でね。いいね」
「ええ」
「それじゃあすぐに行って来る。ヴィオレッタに宜しく言っておいてくれ」
彼はそう言い残して屋敷の中に戻ると正装になって何処かへと向かった。その行く先はもう言うまでもないことであった。
彼が出発して暫く経ってヴィオレッタが屋敷から出て来た。彼女は召使の姿を認めると家の前にある屋外用の椅子とテーブルに招き寄せた。樫の木で出来ていた。
「お金はどうなったかしら」
「今作って参りました」
「そう。御苦労様」
ヴィオレッタはそれを聞いて満足そうに頷いた。
「それでアルフレードは?急に姿が見えなくあったけれど」
「旦那様がパリに向かわれました」
「あら、パリに」
ヴィオレッタはそれを聞いて意外そうな声をあげた。
「また珍しいわね。どういう風の吹き回しかしら」
「そこまでは存じませんが」
彼女はアルフレードとの約束を守りそう言って誤魔化した。
「日が暮れる前には帰られるということですので。御安心下さい」
「そうなの」
「はい。後は」
「すいません」
そこで小奇麗な身なりの男が二人のところへやって来た。
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