| 携帯サイト  | 感想  | レビュー  | 縦書きで読む [PDF/明朝]版 / [PDF/ゴシック]版 | 全話表示 | 挿絵表示しない | 誤字脱字報告する | 誤字脱字報告一覧 | 

私は何処から来て、何処に向かうのでしょうか?

しおりを利用するにはログインしてください。会員登録がまだの場合はこちらから。 ページ下へ移動
< 前ページ 目次
 

第1話 召喚されたのは女の子ですよ?

 
前書き
 第1話を公開します。
 

 
 窓から差し込む月光が、初秋と言う季節に相応しい大気に支配された世界を蒼白く照らし出していた。
 そう。半分に欠けた紅き月は徐々に中天へと昇ろうかと言う雰囲気ですが、それでも、時刻としては未だ宵の口。

 ……いや、古き血の一族に覚醒したタバサに取っては、これからが彼女本来の体調の好調期へと差し掛かる時間帯で有り、
 彼女と同じ簡素なベッドの上に横に成った湖の乙女も、本来は眠りを必要としない精霊と言う種族で有るが故に、睡眠欲と言う物に支配される存在では有りませんでしたか。

 俺は、読んでいた和漢により綴られた書籍より僅かに視線を上げ、窓から覗く蒼と紅。二人の女神の花の容貌(かんばせ)を瞳に映す。
 そう。今宵は、誰に確かめる必要のない静かな夜で有った。

 深い夜の静寂(しじま)に沈んだ世界は、風も、そして、この季節に必要な虫の音も聞こえて来る事はなく、また、雲が二人の女神を隠す事もない。
 感じるのは月の明かりと星々の瞬き。まるで、森羅万象……生きとし生ける物すべてが寝入って居る。
 そんな、夜で有った。

 二人の少女の様子を確認した後、自らが読み続けていた書物に再び視線を戻した瞬間、其処に奇妙な違和感を覚える俺。
 そう、其処に存在していたのは、無機質な印刷された角ばった文字などではなく、明らかに人が書いた、しかし、意外に几帳面な文字。そして、その文字が書き記されて居る、この世界では未だ珍しい綺麗に製紙された紙で有った。

 そして、その和紙と思しき丁度、栞ぐらいの大きさの紙には、

『知り合いに頼まれたから、少し出張って来てね。by妖怪食っちゃ寝』

 ……と、日本語で記されていたのでした。

 俺は、少し訝しげな瞳で周囲を見渡し、それと同時に霊気を周囲に送る。

 そして、しばしの空白。
 ………………。
 …………。

 二人の女神()の放つ光は相変わらず世界を照らし出し、すべてのモノは、まるで、これからの世界の在り様を見定めるかのようにじっと息を潜めている。
 非常に静かな。とても静かな。そんな、夜に変わりは有りません。

 ……大丈夫、問題はない。俺の送った霊気に返って来た手ごたえからは、この部屋に施された結界に綻びはなし。と言う感触しか得られませんでした。まして、視線を自らの手元に存在している書籍から外した際にも、不審な魔力の動きは感じませんでしたから、この結果は半ば予想された物でも有ります。

 しかし、それならば、この栞は一体、何処から舞い込んで来たのでしょうか……。

 俺の不審な動きに気付いたのか、タバサのベッドの上で横に成った状態で、本を読んでいた湖の乙女が置き上がり、俺の傍まで歩み寄って来る。
 その表情は普段通り。しかし、雰囲気からは、少し、俺の不審な態度に対しての疑問のような物を発して居る湖の乙女。

「こんな紙切れがいきなり現れたんやけど、湖の乙女は、この妖怪食っちゃ寝に何か心当たりは有るか?」

 そんな湖の乙女(彼女)に対して、俺は、読んでいた小説のページに挟み込まれていた、そのまるで栞のような一枚の紙切れを指し示しながら、そう問い掛けた。
 そう。少なくとも、俺の知り合いに、こんな不思議な事を為せる存在は居ません。

 何故ならば、ここ、魔法学院女子寮のタバサの部屋は、現在、ハルファスの職能。霊的な城塞に因って守られている為に、侵入するには、最低でも俺の許可か、タバサの許可を必要として居ます。
 その許可を得ずに、魔法でメッセージを送り込む事が出来る存在と言うのは……。

 少なくとも、敵に回したくはない相手で有る事だけは間違いないでしょう。

 俺の手元を覗き込んで来ていた湖の乙女が、少し考える雰囲気を示した後、小さく首肯いた。これは、間違いなく肯定。
 そして、

「この手紙の主が、本当にこの名前の存在ならば、間違いなくあなたの関係者」

 ……と、彼女に相応しい属性の声で答えた。
 成るほど。現在の俺が知らないけど、彼女が俺の関係者だと言う事は、この妖怪食っちゃ寝と言う存在は、前世で俺と何らかの関係が有った相手だと言う事なのでしょう。

 しかし、俺と因果の糸を結んだ相手と言うのは……。

 湖の乙女を見つめながら、蒼き色に染まった夢の世界で繋がった自称、俺の親分。
 そして、魔法に対して鉄壁の護りを誇るこのタバサの魔法学院の部屋に、魔法で手紙を送り込める存在。

 一体、どんな生活を送っていたと言うのですか、前世の俺だったと言う存在は。

「それでその妖怪食っちゃ寝、と言うヤツは、危険な仕事を押し付けて来るタイプのヤツなのか?」

 まぁ、前世の俺の生活に関しての追及はどうでも良いですか。今の俺と直接関係がない相手ですし、まして、それよりも重要な事が存在していますから。

 そう。このメッセージの内容に、多少成らざる不穏当な部分を感じていますからね。
 確かに、このメッセージの内容からは其処まで危険な雰囲気を感じる事は有りません。しかし、どうも嫌な雰囲気が有るのも事実。
 そして、『出張る』と言う単語が、その感覚を強く発しているような気がするのですが。

 俺の問いに対して、湖の乙女は首を横に二度ゆっくりと振って答えた。これは否定。
 しかし、

「不明。わたしが直接知って居る相手ではない」

 ……と、そう答えて来る。
 そして、その答えの中に、彼女に相応しくない僅かな焦燥のような感情が発せられた。

 成るほど。これは、少し危険な事件に巻き込まれた、もしくは巻き込まれる可能性も有りと言う事ですか。
 それならば、

「何が起きるか判らないから、今晩から、寝る時にもそれぞれ物理反射や魔法反射などを施した上で、俺とタバサは、最低一体の式神を召喚して護衛と為す」

 俺は、それまで、俺と湖の乙女のやり取りをただ黙って見つめるだけで有ったタバサを見つめ、そして、次に再び湖の乙女に対して視線を戻した後に、そう提案を行う。
 その俺の提案に対して、双子の如き同期率で首肯く蒼き吸血姫と湖の乙女。

 取り敢えず、今の俺に為せる事はこの程度ですか。

 そう考えながら、視線を在らぬ方向へと彷徨わせて居た俺の視線と、少し不安の色の滲む(にじむ)瞳で俺を見つめて居たタバサの視線が二人のちょうど中間地点で絡み有った。
 その瞬間、俺は笑ってから後、大きく首肯いて見せる。

 まるで、危険な事などない、と安心させるような強い調子で。

 ただ……。
 ただ、それでも尚、俺自身が言い様のない不安感に苛まれているのは間違いなかったのですが……。


☆★☆★☆


 広間に、一際大きな柏手が打たれた瞬間、この広い屋敷自体が僅かに震えたように感じ、周囲を通常の空間から、異世界から何モノかを召喚しようとする雰囲気へと変えて行った。

 そう。柏手とは天地開闢(てんちかいびゃく)音霊(おとだま)そのもの。そしてそれは、天の岩戸を開ける音。
 この場を、神の訪れに相応しい清浄な場へと昇華させる始まりに相応しい。

「高天原に坐す天と地に御働きを現し給う龍王よ」

 周囲を包む気は、清浄そのもの。彼女からその祝詞(のりと)の一言が発音される度に、広間を包み込む気が一段階、更に清浄な気へと浄化される。
 朗々と、切々と、続けられる祝詞。

「胸の内に念じ申す大願を成就なさしめ給えと」

 その少女。長い金髪を頭の両端でシニオンの形に結い上げ、其処から下へと自然に流す。瞳は深い海の碧。一心に唱えるその表情からは、未だ美女への階層を昇り始めた段階。おそらくは十四、五歳と言う事が推測出来る少女。

 瞬間、世界に白が舞う。
 そう。それは白き紙。大体、三センチ四方に刻まれた紙吹雪。御幣(ごへい)で有った。
 まるで、雪のように宙に舞う白き紙吹雪は、それ自体に何か特殊な霊が宿っているかのような不自然な動きで宙を舞い、ゆらゆらと、ゆらゆらと、宙空を揺らめき続ける。

 その刹那、少女の周囲で、不可思議な霊気が渦を巻き始めた。そう、それは非常に濃密な霊気の渦。
 但し、その気の質は正。そして、陽。

恐み(かしこみ) 恐み(かしこみ) 白す(もうす)

 二拝、二拍手。
 そして、最後に深く一礼。

 刹那。

 しゃらん……。

 少女が深く礼を行った瞬間、何処かから聞こえて来る涼やかなる音色。
 そして、微かに漂う花の香り……。

 再び、少女が視線を上げたその瞬間、足先より舞い降りる白き影が一人。

 ふわり、と言う形容詞が最も相応しい、柔らかき羽根の仕草で地に降り立った瞬間に、その白い影が身に付けた小さな金属から、再び、微かな音色が聞こえる。

「やったな、美月。召喚は成功やで!」

 白い紙吹雪と、四方を盛り塩、注連縄(しめなわ)。そして、御幣に護らせた神道式結界術の中心に存在している、その召喚されたと思しき少女を見つめていた召喚士の巫女の足元に、一匹の白猫が近寄って来て、声を掛けた。
 そして、

「龍神の能力を持っているかどうかは判らへんけど、間違いなしにそれなりの神格(能力)は有して居るで、このネエちゃんは」

 更に、そう続けたのだった。
 ……四本足で歩く、食肉目ネコ科の生命体以外には見えない白い動物が。

審神者(さにわ)のアンタが言うのなら、やっぱり、成功したって言う事か」

 足元にじゃれ付く白猫を抱き上げる美月と呼ばれた少女。白衣と紅の袴。しかし、その上に流れる金の髪の毛が、妙な違和感のような物を造り上げ、其処に人語を話す白猫が加わる事に因って、この聖域の空気が、妙な喜劇めいた雰囲気を作り出している事は間違いない。
 そして少女は、明らかに大任を果たし終えた事に対する安堵のため息をひとつ洩らした後に、

「そしたらさぁ、召喚に応じてくれたって事はアンタも転生者で、招待状を受け取ったって言う事なのよね」

 ……と、召喚されたと思しき神道式結界の中心に立つ少女の方に視線を移して、そう聞いた。
 その態度、及び雰囲気は、どう考えても仲の良い友に対する態度。しかし、開けっぴろげで、他者に隔意を抱かせないその雰囲気は、その美月と呼ばれた少女には相応しい物なのかも知れない。
 少なくとも、嫌悪感を抱かせる類の態度では無かった。

 しかし……。

「すべからく生命は輪廻転生を繰り返すので、其処に存在している限り、間違いなく転生者で有る事に違いは有りませんが、招待状と言う物に関しては、(わたくし)は良く存じ上げては居りません。
 あるいは、佐伯の者の元には届いて居るやも知れませんが、それが私の元に確実に届くとは限りませんから」

 少し小首を傾げた後、鈴を転がすような声で、そう答える少女。

 髪は腰までも届く長い黒髪。西洋風の顔立ちの少女に召喚されたその黒髪の少女は、清楚で古風な雰囲気を漂わせた東洋風の佳人で有った。
 但し、彼女の容貌でもっとも奇異に感じさせるのは、その瞳。黒目がちの右の瞳は落ち着いた雰囲気を放つ理知的な色を浮かべているのに対して、紅の色に染まりし左の瞳は、その色から血を連想させる事により、見る者を悪戯に不安にさせる。そんな、非常に不安定な印象を美月に与えている少女で有った。

 そして、服装に関しては召喚者と同じ衣装。白衣に緋色の袴。更に、白の足袋。日本の神社に仕える巫女そのものの姿形。

 そしてその彼女が身体を動かす度に、……風に着物の裾が、袖が揺らされる度に奏でられる鈴の音色。
 そう。その白衣の袖に、緋色の袴の裾に飾られている小さな鈴が、彼女が軽く身体を動かす度に微かな音色を奏で、それが、まるで周囲に清浄なる空間を発生させるが如き雰囲気を感じさせていたのだ。
 いや、もしかすると、彼女が動く度に、何らかの形で、禍祓いが行われている可能性も有りましたか。

 何故ならば、古来より、鈴の音と言う物は鬼……悪しき気が嫌う物のひとつとされて居るのですから。

 しかし、成るほど。金髪碧眼の巫女と、黒髪、黒紅の瞳の巫女。期せずして、この召喚の儀式を執り行った聖域に相応しい二人の巫女の共演となったと言う事ですか。

「まぁ、審神者のタマちゃんが太鼓判を押したのだから問題はないか。それに、そもそも召喚状を貰っていない相手を召喚する事は出来ないはずなんだし」

 少し……いや、かなりお気楽な雰囲気でそう独り言を呟くように台詞を口にした美月。
 そして、

「それだったら、先ずは自己紹介からかな。アタシの名前は美月。ここ、白い光のリーダー。……と言っても、完全に名前負けで全員合わせても三百人もいない超零細コミュニティのリーダーなんだけどね」

 少し、恥ずかしげにそう言う美月。
 それから、自らの腕の中に存在する白猫を指し示し、

「この小さいのが白猫のタマ。特技は人語を解して、無駄口の海で溺れるぐらいかな」

 ……と言った。その瞬間、美月の腕の中で、何故か滑ってコケル真似をする白猫のタマ。
 いや、そもそも、人語を解する段階で化け猫に分類しても良い存在と言うべきでしょう。

「誰が、無駄口の海で溺れるぐらいしか能がないんや、美月。ウチには、レッキとしたこのコミュニティの倉庫を根津魅(ねずみ)から護ると言う重要な仕事が有るんやからな」

 そう、関西弁風の口調で話し出す白猫のタマ。確かに、ネコがネズミの番をするのは理に適っています。古来より、猫が農村で飼われて居たのは、蓄えられた穀物などをネズミの害から護るため。
 そして、タマと呼ばれた白猫がその職に就き、その上、人語を解すると言う事は、彼女はそれなりの神格を備えた猫神の眷属で有る可能性が高いと言う事でも有ります。

 そして、その二人……。いや、自己紹介の終わった一人と一匹が、この召喚の現場となった屋敷の広間に立つ少女を見つめた。
 そう。次なる行動を待つ為に。

 しかし……

 春の麗らかな表情で、そんな一人と彼女の腕の中に納まる一匹を見つめ続ける少女。
 そんな一同の間を、春に相応しい長閑な大気と、何処か遠くから聞こえて来る鳥の声のみがその支配領域を広げて行く。

 ……………………。
 ………………。

「え、え~と、そ、それで、貴女のお名前は、なんて言うのかな……」

 流石に、沈黙と言う微妙な雰囲気に耐えられなく成った美月が、その春の微笑みを見せ続ける少女に対して問い掛ける。そう、最初に転生者の事を話した時に、紹介状の事を佐伯の者がどうとか言っていた事を美月は思い出したのだ。
 その口振りからすると、この目の前の少女は良い所のお嬢様だった可能性も有ると言う事。但し、それにしては、服装が巫女服なのが不思議と言えば、不思議だとは思ったのですが。

「はい? 私の名前ですか?」

 少し、小首を傾げてから考える少女。しかし、微妙な反応。そして、自らの名前を名乗るにしては妙な空白の後、

「家ではお比女様(おひいさま)と呼ばれて居りました故、私は自分の名を知りません。ですので、私を御呼び頂く時は、ハクと御呼び下さい。私の家がハクと呼ばれて居りましたから」

 そう、少女は答えた。もっとも、その内容に反して、そのハクと名乗った少女の発して居る雰囲気は悲愴なものでも、そして、悲哀を湛えたものでも無かった。
 これは、この少女が向こうの世界での生活に不都合も、そして、不満も感じていなかったと言う事。

 但し、それでは何故、この少女が美月の召喚を受け入れたのか判らなくなるのだが。

 いや、そう言えば、このハクと名乗った少女は妙な事を言っていた。
 それは……。

「そう言えば、ハク。アンタって、転生者なのに、神様に転生させられた訳ではない、と言う事だったわよね」

 確か、この世界のゲームへの参加資格。それは、『転生者』や『憑依者』で有る事。
 ……のはずなのですが。
 確かに、この世界で生を受けた美月や、タマには関係有りませんが、この世界。神の都合で転生や憑依者となった者達に新たな能力や技能を付加させる目的で創られた世界だったはずなのですが……。

「はい。人は神に因り転生させられるのではなく、自らが望み、自らが進む道を決めてから転生を果たすのです。確かに、必ずその望み通りの生命を過ごせる訳で有りませんが、それが、世界の理です」

 平行世界とは無限に存在する。そして、おそらく、ハクが暮らして来た世界と言うのは、そう言う類の世界だったのでしょう。
 ただ、その場合、この目の前の長閑(のどか)な笑顔を見せて居る少女は、ただ転生者で有ると言うだけの一般人と言う可能性も……。

 しかし、審神者のタマが、このハクと名乗った少女を神格有りと表現していた。神様転生でもないただの人間が、神格を宿す事が可能なのだろうか。

「ところで、呼び出して(召喚して)置いてなんだけど、ここは危険な土地なのよね。それで、助っ人を頼みたくて召喚を行った訳なんだけど……」

 この目の前のハクと名乗った少女に、そう話し難そうに語る美月。もし、この召喚が失敗したのならば、彼女を返す方法を考えなければならない。
 この召喚は、この世界の特性。転生者たちのスキルアップの為に造り出された世界に生きる住人として、窮地に立たされた自分達への助っ人を依頼する為の物で有り、転生者とは言え無力な一般人の、更に良家のお嬢様を呼び寄せた所で意味はないのですから。

 ハクと名乗った少女が、笑って美月とタマを見つめた。そして、小さくひとつ首肯く。
 そして次の瞬間……。

「ふるえゆらゆらゆらゆらと」

 静かに、何事かを呟き出すハク。
 その瞬間、彼女の雰囲気が変わった。神道が示すのは絶対の清浄。この目の前の少女は一切の不浄を受け付けないその神道の禊の空間を、一瞬の内に作り上げたのだ。
 玉串(たまぐし)も。御幣も。そして、注連縄も。如何なる霊具の補助を受ける事なく、自らの精神のみによって。

「ふるえゆらゆらゆらゆらと」

 これは、自らの魂に神を降ろす、魂振り(たまふり)
 そして、美月の見ている目の前で、ハクと呼ばれる少女の周囲に十個の光りの珠が浮かぶ。

「ひ、ふ、み、よ、い、な、む、や、こともちろらね」

 その一瞬の後、彼女の周囲を光りの珠が、ゆっくりと回り始める。
 これは魂を鼓舞し、そして、異界から力を降ろす祝詞。

「しきる、ゆゐつわぬ、そをたはくめか」

 彼女の祝詞に合わせて、更に光輝を増す光珠。
 そして、その祝詞に合わせて、巨大になって行く威圧感。

 いや、それは最早物理的な圧迫感として感じられるレベルとなって居り、美月は訳も判らない内に、膝を付き物理的な圧迫感に対処せざる得ない体勢を取って居た。

「ちょ、ちょい待ち! ハクちゃんに能力が有るのは判ったから」

 これ以上、この祝詞を続けると、間違いなく『彼』が顕われる。
 この祝詞は、とある場所(天の岩戸)に御隠れに成った尊い御方を呼び出す際に唱えられたとされる祝詞。つまり、この目の前の少女は、彼の御方の神力を引き出せる巫女。
 つまり、日の巫女と言う事。
 いや、もしかすると姫巫女。もしくは皇女(ひめみこ)

「ハクちゃんを疑ったのは謝るから、この辺りで勘弁して!」

 完全に、物理的な威圧感に抗する為に片膝を付き、半身に成りながら、そして同時に、強烈な光を直視しないように片手で顔を覆いながら、そう叫ぶ美月。当然、もう片方の手は、胸の中で縮こまっている白猫を護っている。

「疑う? 私の何を疑っていらしたのですか?」

 心の底から不思議そうな雰囲気で、小首を傾げて聞き返して来るハク。
 尚、その言葉が発せられた瞬間に、美月とタマに掛けられていた圧力は解除され、最初と同じ、通常の理が支配する世界が戻って来ていた。

 この反応から察すると、このハクと言う名前の少女は美月に自らの能力を示す為に、初歩の魂振りを行って見せたと言う事なのでしょう。
 ただ、美月の側の反応から推測すると、多少、加減に欠けていたような気がしないでも有りませんでしたが。

「ま、まぁ、ハクちゃんの実力も判った事だし、ハクちゃんに手伝って貰いたい仕事の説明をしたいんだけど、聞いて貰えるかな?」

 
 

 
後書き
 初めての方は初めまして。私は、ゼロ魔二次『蒼き夢の果てに』と、ハルヒ二次『ヴァレンタインから一週間』と言う物語を書いて居る黒猫大ちゃんと申します。以後、御見知り置き下さい。

 それで、この問題児たちが三次小説『私は何処から来て、何処へ向かうのでしょうか?』は、三次小説の言葉が示す通り、この暁にて連載されている、スラッシュさんの『転生者達が異世界でギフトゲームをするそうですよ?』の世界の片隅で綴られる小さな物語を描く物と成ります。
 ただ、元のスラッシュさんが書く物語が読者参加型小説で有る以上、私の物語も、それと同じ側面は持って居ります。

 但し、この物語は短編。おそらく、最短の場合は七話で終了する物語ですから、エンディングまでに間に合わなければ、残念ながら、キャラを物語内で登場させる事は出来なく成ります。
 それでも構わない。登場させて欲しいと言う奇特な方が居られましたら、私の方にメッセージをお願い致します。

 それでは、多少のネタバレを。
 主人公ハクは、蒼き夢の果てにの主人公、武神忍の前世の姿です。
 彼女に名前は有りません。ハクとは、伯。人の姿をした形代の事。
 つまり、彼女は、日本や、帝に対する呪詛除けの人の形をした形代として育てられた存在だと言う事です。

 主人公が何時だったか言った記憶が有りますよね。
 俺は、天寿を全うした記憶がない。人柱にも何度か成った記憶が有ると。
 もっとも、その台詞を発したのは、今の武神忍では有りませんが。

 何故、水の中に落とさなかったのか。
 お約束のシーンですが、主人公は重力を操るので、派手に水柱を上げる事は有りません。
 まして、彼は、大地に足を付いた瞬間、前世の肉体を与えられ、受肉した存在です。

 仙人とは、雲に乗っている間は魂魄のみの存在で、大地に足を付いた瞬間、受肉して現世で体重を得る存在と成る、と言う伝承をそのまま採用したのです。

 それに、武神忍をそのまま登場させるよりは、女性キャラを登場させた方が、他のキャラを立て易く成りますから。

 それでは、次回タイトルは、『東の蛇神とギフトゲームをするそうですよ?』です。 
< 前ページ 目次
ページ上へ戻る
ツイートする
 

全て感想を見る:感想一覧