ルサールカ
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第二幕その六
第二幕その六
「会えばそれで全部はじまるんだから」
「何があってもね。暗いものなら振り払う」
「振り払う・・・・・・」
「そうさ、それでいいんだ」
「変えられないものなんてないんだから」
「ないのかしら、本当に」
「ないよ」
彼等はまた言う。
「絶対にね」
「だからルサールカも」
彼女を急かそうとする。
「元気を出して」
「胸を張って。暗いものなら明るくする」
「愛は何よりも強いんだから」
「愛は何よりも強い・・・・・・」
「そうだ、だって僕達は誰かを愛する為に生きているんだよ」
人間も精霊もそれは同じであった。
「その前には何だって恐くはないさ」
「死ぬことだってね。それを生きることに変えられるんだ」
「それは・・・・・・」
そのものをはっきりと言った言葉であった。何も知らない彼等だからこその言葉だった。全てはルサールカを励ます為だったがそれは湖の水の様に彼女を包み込んだ。
「わかったよね」
彼等はもう一度問う。
「じゃあ僕達行くから」
「待っていてね」
「あっ・・・・・・」
木の精達はもう去って行った。後にはルサールカだけが残った。
「死ぬことだって」
残された彼女は先程の言葉を反芻する。
「生きることに。そんなことが・・・・・・」
出来る筈がない。そうわかっている。だが。その言葉が彼女の心を包み込んだのもまた事実であった。
「けれど出来たら」
ふとそう思う。
「そうすれば私は」
何かそれに賭けてみようとさえ思った。愛が本当に何よりも強いのならば。それを信じてみようと思った。
意を決して顔を上げる。湖に戻って来てからはじめて。すると目の前にあの王子がもう立っていた。
「やはりここにいたか」
王子はルサールカを見るとまずこう言った。
「あの子供達に言われた時はまさかと思ったが」
「どうしてこちらへ?」
ルサールカは彼に問う。
「ここは。人の場所ではないのに」
「そなたに会いに」
彼は言った。
「あれから考えたのだ、私も」
「何を」
「自分が何を思っているのか。そなたをどう思っているのかな」
ルサールカの目をじっと見て言う。その目は青い瞳と合わさり離れることはない。
「それでわかったのだ」
そのうえで言う。
「精霊でもいいのだ」
「精霊でも」
「そうだ、そなたが人であっても精霊であっても」
目はルサールカの青い目からずっと離れない。
「そんなことはどうでもいい。やはり私は」
「けれど」
ルサールカは目を逸らそうとする。だがそれは適わなかった。どういうわけか顔が動かなかったのだ。動かすことが出来なかったのだ。それは自分でもどうしてかわからなかった。
「私はもう」
「話は聞いた」
王子は言う。
「精霊を裏切った場合の罪は。それは死だな」
「はい・・・・・・」
その言葉にこくりと頷く。
「御存知なのですね」
「司祭からな。彼には止められた」
「ここへ来るのを」
「だが私は構わないのだ」
まだルサールカを見ている。
「そなたを愛していることに変わりはないから。罪なら受けよう」
そこまで言う。
「だからそなたを」
「お帰り下さい」
ルサールカはそんな彼を拒絶した。
「私と一緒になることはこの世ではできないのですから」
「ならそれで構わない」
彼はまた言う。
「そなたと少しでも一緒にいられるのなら」
「そこまで・・・・・・」
「だからここまで来たのだ」
「私の為に・・・・・・」
「そなたと共に」
目を見るその目の光がさらに強くなる。
「少しでも一緒に」
「私は永遠にいたい」
ルサールカのその目から涙が零れ落ちた。
「一瞬などではなく永遠に。貴方といたい」
「ルサールカ・・・・・・」
「だから少しなどと言わないで下さい」
王子を見据えて言う。
「わかった」
王子はその言葉に頷いた。
「では。永遠をそなたと共に」
「はい・・・・・・」
ルサールカの手が自然に動く。そっと前に出た。
「永遠に私と」
「永遠にそなたと」
王子も手を前に出す。
「一緒に・・・・・・」
二人の手が触れ合った。その時だった。
奇跡が起こった。何とルサールカの髪が再びあの黄金色になったのだ。
それだけではなかった。奇跡はまだあった。
「これは・・・・・・」
顔の横から見えるその豊かな黄金の髪に気付いて声をあげた。そう、声が出たのだ。
「どういうことなの!?」
自分でも何が起こったのか掴めていない。
「何故声は・・・・・・」
「奇跡なのか!?まさか」
「そう、奇跡じゃ」
王子も驚いていると湖の中からお爺さんが姿を現わしてきた。
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