ルサールカ
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第二幕その五
第二幕その五
「もう私には・・・・・・・」
「今じゃなくてもいいんだよ」
その言葉で優しくルサールカを包もうとする。
「いいね、それで」
「それは・・・・・・」
ルサールカは答えられない。どうしてもそれを言うことは出来なかった。
「さあ湖の中に帰ろう」
お爺さんはまた優しい言葉をかける。
「皆のいる湖に。いいね」
「いえ、今は」
だがルサールカはそれを断った。
「まだここにいたいから」
「そうなのかい。じゃあ何時でもいいから」
ここは彼女をそっとしておくことにした。
「気が向いたら戻っておいで。いいね」
「はい」
こくりと頷く。お爺さんは静かに湖の中に入って行く。その後にはルサールカだけが残る。彼女は悲しい顔のまま項垂れていた。
湖にあの月が映る。あの銀色の月が。彼女の目にもそれは入っていた。
「あの時の月ね」
ルサールカはその月を見て呟いた。
「あの時の月へのお祈りはもう」
届きはしない。誰にも。それを思うとまた悲しくなる。
「どうにもなりはしないのね。私も」
「あっ、いたいた」
そんな彼女を見て声があがる。
「ルサールカだ、やっぱりここにいたよ」
「よかった、何処に行ったかと思ったよ」
「誰!?」
声の方に振り向くとそこには木の精達がいた。彼等は明るい顔をルサールカに向けていた。
「貴方達」
「探したんだよ、ルサールカ」
彼等はルサールカに対して言う。
「何処に行ったのかって」
「けれどここにいたんだね。よかったよかった」
「私を探してたの」
「うん」
彼等は答える。
「そうだよ」
「どうしてなの?」
「君を探している人がいるから」
「私を探している人?」
ルサールカはそれを聞いて首を傾げさせる。
「風の精のお兄さん?」
「違うよ」
「じゃあ花の精の小さな男の子かしら」
「あの子でもないよ」
小さいがルサールカに首ったけの可愛い子である。
「それじゃあ誰かしら」
「とても奇麗な顔の人だよ」
「奇麗な」
そう言われても今一つわからない。首は傾げたままだ。
「ええと」
「金色の髪のね」
「金色」
「白い顔をしたとても奇麗な人だよ」
「まさか」
ルサールカは彼等の言葉を聞いてハッとした。
「それってまさか」
「そうだよ、人間だよ」
「王子様。何でもルサールカに用があるんだってさ」
「何でここまで」
「それでどうするの?」
木の精達はルサールカに尋ねる。
「えっ」
「会うの?会わないの?」
「それは・・・・・・」
ルサールカにはその先はとても言えなかった。口篭もってしまう。
「会いたいんでしょ?」
「けれど・・・・・・」
「会いたいなら会えばいいじゃないか」
「そうそう」
事情を知らないからこそ言える言葉である。だが彼女の心に届く。
「じゃあ呼ぶよ」
「会いたいみたいだし」
「ちょっと待って」
そんな彼等を呼び止めようとする。
「それは」
「いいんだって」
何もわからないまま言う。だがそれがルサールカを動かす。
「ルサールカはここにいればいいから」
「僕達に任せて」
「けれど」
「けれども何もないんだよ」
「会いたければ会えばいいのさ」
「会ったら・・・・・・」
王子は死んでしまう。それを言おうとするが木の精達はそれより先に言う。どうしても彼等の方が早い。
「会わないで後悔するより会って後悔するだよ」
彼等は戸惑い続けるルサールカにはっきりと言い切った。
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