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八条学園怪異譚

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第二十二話 雪男の一家その八

「海軍でもずっとそれですか」
「海上自衛隊はあのスーツで」
「スーツは好きではない」
 ここで日下部の言うことと表情が変わった。
「海自のあれはな」
「あっ、好きじゃないんですか」
「詰襟の方がいいんですか」
「デザイン的にこちらの方がいい」
 今着ているその詰襟を見せながらの言葉だ。
「もっともこの礼服は海自でも着るがな」
「それでも冬は、ですよね」
「あのスーツで」
「あれは最後まで好きになれなかった」
 海自を定年退職するまでそうだったというのだ。
「やはり詰襟に馴染みがあった」
「それで今私達に貸してくれたのもですか」
「海軍の冬服なんですね」
「そうだ、それにだ」
 日下部はさらに言う。
「何故冬服にしたかというと」
「冷凍庫の中が寒いからですか」
「それでなんですね」
「サイズも大きめにした」
 二人が着るにはというのだ。
「そうした」
「あっ、このまま上か着てですね」
「それで冷凍庫の中にですね」
「冷凍庫の中は寒い」
 言うまでもないことである。
「だからそれも着て寒さを凌ぐのだ。
「下はタイツの上からズボンをはいて」
「上は制服の上から着てですか」
「コートは軍服の上から着るのだな」
 制服の上から着た軍服のさらに上にだというのだ。
「そうすればいいだろう」
「それで日下部さんはそのままですか」
「夏の礼服のままですね
「霊は暑さも寒さも感じない」
 この場合は有難いことにだ。
「だからこのままで大丈夫だ」
「じゃあ私達は冷凍庫の前で着替えて」
「日下部さんはそのままで」
「着替える時は部屋も用意する」
 これも日下部の気遣いである。
「そこでするといい」
「わかりました。それじゃあ」
「そこで着替えさせてもらいますね」
「女の子、男子もだが着替える時は見られない様にすることだ」
 このことは厳しく言う日下部だった。
「それも礼儀だ」
「そうですよね。着替えの場面はどうしても」
「見られたら駄目ですよね」
「見られて恥ずかしいだけではなくはしたない」
 これも男女共にだというのだ。
「わかったな。それではな」
「はい、じゃあ着替えて」
「それでいきます」
 二人も日下部の言葉に頷いてそれからだった。
 日下部と共に食堂の地下にある冷凍庫に向かう、その前で海軍の軍服に着替えてそのうえで冷凍庫に入った。
 冷凍庫の中には巨大な肉が吊り下げられそして様々な袋が置かれていた、ソーセージなりベーコンなりも集められて吊られている。
 愛実は牛の巨大な肉が吊るされているのを見て聖花に言った。
「ねえ、このお肉ね」
「お料理に使えばいいわよね」
「どれがいいかしらね」
「ステーキはどう?」
 聖花もその吊るされ凍っている肉を見て応える。
「一枚一枚切ってね」
「ステーキね」
「そう、どうかしら」
「ステーキはね」
 だが愛実は聖花の言葉に首を捻ってこう返した。
「ちょっとね」
「嫌いとか?ステーキ」
「メニューにないから」
 愛実の家の食堂にだというのだ。 
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